毒の貴公子と呼ばないで!   作:百合の戦士

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「お腹減ったね〜」

「…そういえば、ご飯、どうする?」

「うーん」

アカリは考える。
自分とリグナが料理できる可能性を。
結果…

「あの子探そっかー」

「…やっぱり、そうなる」

2人は全くと言っていいほど料理ができなかった。
得意料理をカップラーメンと言うぐらいにはできなかった。

「ほら、早く探しに行くよー、伝説のカレーマスターを!」

「辛口、あるかな」

「私は甘いのがいいなぁ…」

こうして、2人はリグナのアーマーガアに乗りワイルドエリアの奥へと進んでゆく。
目指すは奥地に住み着いているカレーマスター。

目印は、空高く上がる煙だ。


幕間 カレー探求者は家出娘

ワイルドエリアの朝は早い。

 

我はアニス、ごく普通のカレー探求者だ。

 

まず、カレー作りに欠かせないのは何よりも火だ。

ただのマッチは愚か、そんじょそこらの炎技などではいけない。

「ウル、頼んだぞ」

『ギ』

我が同胞、ウルガモスのウルの炎はその点最高峰である。

温度、火力、柔軟性と全てにおいて優れたこれ以上ないと断言できる炎を作り出してくれる。

「ククク…更にこの炎に…!」

 

齢40年のヨクバリスが住む木の下に落ちていた枯葉をくべる。

ただの落ち葉と侮るなかれ、長く生きるヨクバリスは落ちた木の葉、アイアントの1匹に至るまで独占し、熟成させる。

その為木の葉や木の枝など落ちた物全てが最高級品であるのだ。

 

…獲得する為にヨクバリスとの死闘を繰り広げたのはいい思い出だ、うん。

 

さあ!この炎であらかじめ用意していたこだわりの材料で作ったカレーを煮込めば…!

 

「ああ…!いい、いい匂いである…!」

『ギギギ』

ククク…今日も我のカレーは最高級のなんか…あれだ、凄い!

オボンをベースにフィラとネコブを隠し味としたルーは朝カレーに非常に合う!多分!

「ククク…この匂い、非常に食欲をそそられる…!」

「本当にいい香りだねー」

「…お腹すいた」

「ひぁっ!?」

!!!!!!!!???フ???!??????!?

「ありゃ〜?混乱してるね〜?」

「大丈夫?」

「あば、あばばばば?!」

『ギギギーギギーギ!?』

「おーい」

「へいへいー?アニスちゃんー?」

「ひやぁあ!?や、や!つ、つつかないで、ください!リグナちゃんもお腹ぷにぷにしないでー!」

「相変わらず愉快だねー」

「…うむ、いいお腹である」

「おおー、太鼓判だねー」

「嬉しくないです!」

 

なんという事か、まさかこの者たちに見つかるとは…!

ここ最近はこの邪智暴虐なる姉妹の魔の手から逃れていたというのに…!

まさかこの平穏があっさりと

「ん、前よりお腹ぷにぷに、いいね」

「ひあぁぁぁぁ!!!」

ダメ!もうダメですコレ!冷静な思考取れません!

カッコイイカレー探求者崩壊です!

「元から崩壊気味だと思うけどね〜」

「ほ、崩壊してませんから!ちょっと人の前だと上手く喋れないだけですから!」

「致命的」

「まあでも、そんななのに私とリグナとは普通に喋れるんだし大丈夫大丈夫」

「アカリさんとリグナちゃんとはわりと長い付き合いですし!慣れの方が大きいんです!」

って、そんな事より!

「ど、どうしたんです?確かリーグ戦の最中の筈じゃ…?」

「もう終わったよー」

なんてことだ。

…まあリーグ戦があったって言うのもついこの前に聞いたばかりですけど。

「相変わらず、カレー以外の情報は遅い」

「まあアニスちゃんらしいよねー」

「し、仕方ないじゃないですか!あんな陽の者が好んで集まるようなイベントは苦手なんです!興味もないですし!」

「本音は?」

「一緒に行ってくれるトレーナーの友達がいません…お二人共ジムリーダー側ですし…」

「…よしよし」

「なでなで〜」

「だから撫でないでくださ…んにゅ…」

「相変わらず撫でられるの好きだよね〜、ほれほれ〜」

「好きじゃないです…2人共撫でるのが上手すぎるんです…」

あーもう…悔しいけど本当に撫でるの上手いなぁこの人達…

「もういいや…今日は諦めてこの2人とカレーを探求しよっと…」

(カレー探求するのは変わらないんだ…)

(アニスらしい)

 

 

 

「…ご馳走様」

「ごちそうさまでした〜」

「お粗末さまです、それにしても…珍しいですね、アカリさんはともかくリグナさんまでキャンプしに来るだなんて」

「自然でも感じてゆっくりしようかなって思ってねー」

「アカリの付き添い」

「またまたー、なんだかんだで楽しみにしてたでしょ〜?」

「うるさい」

「ゴミェン」

「…ふふっ」

相変わらず仲がいいなぁ。

昔と変わらないな、この2人も。

 

…そういえば。

元気かな、あの子。

なんだか、会いたくなってきちゃった。

我が愛しの妹よ…

 

 

 

『お姉ちゃん、カレーだけだと流石に身体に悪いよ』

『で、でも…』

『でも、じゃない!』

『ほ、ほら!具材をキチンと考えれば栄養だって』

『食べに行くよ』

『はい…』

 

…うーん、そんな事ないかも。

いやいや!でもいい思い出だって

 

 

『お姉ちゃん、稽古はどうしたの?』

『…行ったもん、行ったけど転んで腰を打っちゃって動けないんだもん』

『………』

『………』

『…なら私がマッサージをしてあげる、よく効くよ』

『嘘ですごめんなさいそれだけはどうかご勘弁を』

 

あの後悲鳴が響き渡ったっけ。

「あれ、もしかしてろくな思い出無い?」

「どうしたのー?」

「ああいえ、今あの子どうしてるのかなーって」

「あの子…サイトウ?」

「ええ、私が居なくなってからどれくらい立ってるか知りませんけど、あの子は今どうしてるのかな、と」

「「………」」

「…ふ、2人とも?」

「もしかして、あの日から帰ってない感じかなー?」

「そ、そうですが…」

「……何年ぐらい立ってると思う?」

「えーと…1年?」

「「…………」」

「…もしかして、私何かやっちゃいました?」

「人としてやっちゃいけない事をやってるねー」

「そ、そこまで…?」

「予定変更だねー、リグナー?」

「ん」

「え、ちょ、まっ」

「ちなみに6年たってるよー」

「へっ?」

 

 

 

 

そんな訳で数年ぶりのラテラルタウンです。

…我が故郷よ、我は帰ってきた。

「ってそれより、本当にあの子に会うんです…?」

「当たり前」

「てっきり連絡の1つでも入れてたと思ってたけどー…まさか何も入れずに音信不通のままだったなんてねー」

「だって…すまほろとむ?ってやつ持っていなくて…」

「古代人?」

「そこまで言います?」

文明利器の申し子のリグナちゃんに信じられない物を見る目で見られました、解せません。

「でも本当に連絡手段の1つもないのー?」

「流石に伝書アーマーガアぐらいは持ってますよ…紙と筆が無くてそもそも手紙が書けませんでしたが」

「うん、文句なしの古代人だねー」

「なんで!?」

「………」

「リグナちゃん!?そんなに引かれると傷つくんですが!?」

信じられない物を見る目でドン引くリグナちゃんを引き止めながら、アカリさんに引っ張られるようにして我が家へと帰る事に。

 

 

 

「うーん…やっぱり外観変わってますね…」

「6年も立ってたら、変わる」

「むしろ6年もあんな所にこもりっきりなアニスちゃんがおかしいんだよー?」

「違いますよ!たまに街におりてます!」

「カレー食べに?」

「はい!」

「…カレー馬鹿」

「褒め言葉として受け取っておきます」

「それよりー、さっさとチャイムをー…」

…?

アカリさん、急に固まってどうしたんだろ、う?

 

「……」

「……ぁ」

 

視線の先には、我が妹サイトウが立っていた。

 

「……姉さん」

「…ぁ、ぇ、ぅ…」

ダメだ、言葉がでない。

頭が真っ白になる。

というか冷静に考えたら服もボロボロだしお世辞にも綺麗な身だしなみじゃないし、妹との6年ぶりの再開なのにこれじゃあ…

 

「えっと、その〜サイトウちゃん、これはねー…」

「…アカリ、私達が言う事じゃない」

「うん、まあそうなるよねー…」

うう…当然とはいえ2人からの助けも無い、完全に絶望だコレ…

「姉さん…」

「ぅぁ…ぅ…」

ヤバい、サイトウが悲しそうな目で私を見てる、そりゃそうですけども、こんな状態で姉が帰ってくるとか私でも同じような哀れみの視線向けますよ。

ともかく!どうにかしなきゃ…なにか方法は…

 

…あ、そうだ。

「…さい、とう」

「…!」

「ただ…いま、ごめん、ね」

「…姉さん」

「しんぱい、かけた、ね」

「…本当に…そうですよ…!」

「………」

「今までどこに行っていたの!?どうしてそんなになるまで…帰ってこなかったの!?」

「…うまく、せつめいできない、から」

 

さて、私が考えついた最善策、それは。

「……来て」

拳で語り合う。

非常にシンプル、非常に単純、話さなくて済むパーフェクトコミュニケーション!

「…混乱してるね〜」

「暴走癖、相変わらず」

 

「……分かりました」

サイトウも拳を構える。

私の形だけの構えとは違う、お手本のような構え。

でも、経験では…私が上!のはず。

 

 

「…いくよ」

 

 

久しぶりの、姉妹の手合わせだ。

 

 

「…帰ろっかー」

「うん」




伝説のカレーマスターと呼ばれる人物がワイルドエリアの奥に居るらしい。
滅多に人前にでないそのカレーマスターはただひたすらにカレーを追い求める為にカレーを作り続けているみたいでな。
活動している場所柄か実力もかなり高いようだ。
噂によればジムリーダークラスだとか。

ある噂好きなおじさんの話より

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