当初の予定であったサーヴァントオフ会に行こうとすると、フェルメールの様子がおかしくなって…?
そして、霜ノ坂の地に降り立った魔術師とは…?
霜ノ坂の街並みは静かなものだ。
至って普通の地方都市で、特に突出した建物は見当たらず、帰ってそこがいいのだと精神療養に使われたりもする。
最近三好の住む区画では緑化と子育てに優しい町をスローガンにしていて、何も無い空き地が公園に変わったり、移住してくる家族が増えた印象を受ける。
加えて今はお昼時を少しすぎたところで、保育園の散歩風景がしばしば見られたりと非常に静かでハートフルな光景を醸し出しているのだが…
「な、な、何だってぇえええええええ!?」
とても大きい女の叫び声によって、静かな部分が少し掠れた。
「な、な、な…!君は私を馬鹿にしているんだな?聖杯戦争を知らないって…!」
「落ち着けって!」
聖杯戦争、そんなもの知らない。
サーヴァント召喚の方法しか知らされていないんだ。
もしや、見落としがあったのではないかとチャットを遡ってみるが、やはりサーヴァントについてしか書かれていない。
そんなに重要なものなのか、フェルメールはそれを知らない僕に対しベットから立ち上がって憤慨するのを通り越して、ちょっと慌てている。
「聖杯戦争を知らないなんて、他人が呼び出したならまだしも、自分が呼び出しておいてそんな馬鹿なことが有り得るか…!君の手の甲にある令呪は飾りなのか?現代のタトゥーとかいうオシャレなのか?」
「れ、令呪?いつの間に…」
「まさか君、令呪まで知らないなんてことは!」
「令呪は知ってるから!」
令呪は知っていると知り、フェルメールはとりあえずといった感じでベットに座り直す。
その顔はやれやれと直接書かれているほど呆れていた。
「サーヴァントにどうしても言うことを聞かせたい時に使う、三画の紋章だろう?」
「それと同時に、サーヴァントのマスターであるっていう証にもなるけどね。逆に全て使い切ってしまったなら…サーヴァントはただの一般人のマスターに何をするか分からないねぇ?」
「だ、だから落ち着けってば!」
***
「…これで、聖杯戦争が何なのか、聖杯が何なのか、分かったかな?」
「一応…」
フェルメールは僕に向かってパレットナイフを振りかぶったところでなんとか思いとどまり、落ち着きを取り戻した。
その後フェルメールから説明を受け、こっちもとってつけたような簡易的な聖杯と聖杯戦争の概要が分かったところだ。
「しっかしなんで、目的も特になくサーヴァントを召喚しようとして、出来ちゃったんだろうかねぇ…マスター一般人でしょ?魔力も…一応流れてるっぽいけど、こんなんでサーヴァント召喚できるわけがないと思うんだよね〜…」
「さあ…やれって言われたことやっただけだし僕はよく分からないけど。」
「む、誰にやれと言われたのかい?」
「こいつなんだけど…」
フェルメールをパソコンの前に連れてきて、遡ったチャット画面を見せる。
フェルメールの時代には当然そんなものは無いので、興味津々だ。
一応聖杯から知識を与えられるらしいが、彼女曰く「こういうのは実際に使ってみないと分からないからね」だそうで、しきりにマウスの右クリック、左クリック、スクロールを繰り返している。
「ふむふむ、確かにこいつが説明している召喚方法は正規のものだね。アサシンやバーサーカー用の追加の呪文も無しか。しかし七騎召喚できるとは言っているものの、クラスには全く言及してないな…」
「クラス?そういえば、あんたはキャスターとか言ってたよな。」
「クラスは知らなかったのか…そうだよ、私のクラスはキャスターだ。分かりやすくいえば、魔法使いのイメージかな?工房、陣地を作成したり、魔術を使ったり、自分はあまり戦わないクラスかな。」
ポコン♪
「む?」
「ああ、誰かがこのチャットに打ち込んだんだ。ちょっと一旦返してもらうよ。」
フェルメールからマウスを一度返してもらって、一気に最下部までスクロールバーを下ろす。
『サーヴァント見せ合おうのオフ会〜』
「こいつ、召喚法を教えてたやつだね。」
「ファミレスでやるのか、住所は…結構遠いな。」
「おい待てマスター。まさか行くつもりではないだろうね?」
僕がスマホを操作しようとした手を握りながら、じっと顔を見つめてきたフェルメールの表情は険しかった。
「行くかってそりゃまあ…」
最初はフェイク動画を送り付けてやろうとは思っていたが、何故か撮ってた映像はダメになってしまっていたし、本物だったわけだし。
それに他のサーヴァントや今まで話してきた人間がどんなものか、純粋に興味がある。
聖杯戦争は、サーヴァント七騎を最後の一人になるまで争わせるものだとフェルメールから聞いたが、僕にはそこまでの強い願いは無い。
むしろ、願いはサーヴァントを召喚する行為そのものだったため、僕の願いはもう叶ったとすら言える。
面白いものを見たい体験したいとは思うが、僕は無駄な争いで悦に浸れる程の、コロシアムを嗜む貴族風な精神は生憎と持ち合わせちゃいない。
だがそれといって聖人的な欲を抑える力なんてものはなく、遠いファミレスでちょっと特殊なオフ会は参加したい。
「行くけど…」
「ダメだ。」
僕の楽観的な思考が読まれているようだ。
「君は私の話を聞いていたのか?私はサーヴァントだ、ここ霜ノ坂は第六次聖杯戦争の地だ、そして君は私のマスターだ。そんな無遠慮な真似は許されないから。第一危険だろう。」
「危険って…どうして?」
「サーヴァントは人知を超える力を持つことは知ってるだろ、そんな奴に何も対策せずホイホイ会いに行くなんてどうかしている。」
「あんたがいるじゃないか。」
「私はキャスタークラスで、君が卑下したように画家なんだぞ?バーサーカーなんていう戦闘狂の、危険なクラスだってあるんだ。そんな奴に接近戦を挑まれちゃ、十中八九、9代生まれ変わったって私諸共君は死ぬ。」
「争い合う他にも解決方法はあるだろう?」
急に、今まで僕の意見を非難していたフェルメールの怒号が止んだ。
代わりに口をキュッと結び、目をカッと見開いて、僕を見つめている。
その表情は驚いているように見えて、信じられないもの見ているようにも見えて。
その目の奥は僕以外の何かを写しているように見えた。
「…そんなものがあったならば、私は今ここにいない。」
「今からでも考えれば…」
「マスター、これは聖杯戦争なんだ。」
フェルメールの眼光が、僕の目を射抜く。
何かを見つめていた彼女の目は、今は僕をしっかと捉えているが、僕の本質を今度は見ているように感じた。
彼女の目は電気を使わずとも、僕の体を透かして中身の僕の性質を見ている気がしてならない。
「私達サーヴァントは聖杯戦争に参加したんだ。君とは友好的に接しているが、君の馴れ合い相手や小間使いにされるために召喚されたんじゃない。無論、君が望むならやってあげなくはないが、それは君がちゃんと聖杯戦争に参加してくれることが前提になる。」
「何も知らずに召喚しちゃって、戦争に巻き込まれて、可哀想だとは感じるが、私には聖杯が必要なんだ。それでもだ、もしも君が私のマスターという役割を放棄するのなら…手伝ってあげよう。」
そこでマリオネットの糸がブツンと切られたように、フェルメールは首をがくんと下げて俯いた。
「君の腕を報酬に頂くけどね。」
***
「こんなの絶対におかしいわ…」
初めて来た異国の地、日本の霜ノ坂。
どこを見渡しても木、公園、住宅街の繰り返し。
急いで来ちゃったから地方都市ってことしか知らないけれど、確かに地方も地方。大地方ね。
今はお昼近くで公園で遊ぶ親子もちらほらいる感じ。
お日様も程よく当たって、側をサララと風が通り過ぎて。
本当、静かで何事もなく平和なのね…
「って、そうじゃなくてそうじゃなくて。」
いけない、つい脱線してしまうのよね。
そうよ、この何事も起こってない感じがおかしいのよ。
本当にここが第六次聖杯戦争の地であってるのよね?
「こんなにも人間の魔力の気配が微々たるものだなんて…本当にここにマスターとサーヴァントはいるのかしら…」
聖杯らしき魔力の感知は出来ているけど、ただそれだけ。
聖杯は少しこの地からズレたところにあって、マスターとサーヴァントは勢揃いでもう聖杯戦争始まっちゃってるとか…?
そうなってたらどうしよう…
「っ、だめだめ!ネガティブなことは考えない!」
そうならそうで、ちゃっちゃとそこに行って令呪奪って参加すればいいのよ!
せっかく魔力探知の魔術が秀でているんだから、フルに使わないと。
それで聖杯戦争で勝ち抜いて…
必ず、ティーバティルン家の汚名を払拭するのよ。
「…よし!」
そうと決まれば、まずは探索あるのみ。
この異国の地にも体を慣らして、戦いに引けを取らないようにしないとね。
魔力の方だって、流石に宝具や令呪を使えば分かるだろうし。
分かった時にそこへ飛んでいけるように、脚の強化魔術もかけておかないと…
***
腕を報酬に貰う。
嘯いたフェルメールはゆらりと体を前に倒したかと思いきや、その倒れる勢いを利用して僕に突進をしかけてきた。
「うわぁあぁっ!」
咄嗟に身をひねったので避けられはしたが、代わりに部屋の隅に置いてあるダンボール箱の山の中に体を突っ込んでしまう。
僕がいたところの壁には、フェルメールがいつの間にか持ったナイフが突き刺さっていた。
彼女はその突き刺さったナイフを抜こうとしている間に逃げないと。
僕は年単位で外に出ていない体がちぎれるほど全力で走る。
早く彼女から逃げなければ、腕が、僕の腕が
「逃げないでおくれよ。」
首元に手が触れた感覚、激痛が走った。
僕の足の10倍は早く全身に迸った。
僕はその激痛の100倍早く走ろうと体に力を入れようとするが、それは叶わない。
体の自由がきかずに、今度こそ床に倒れた。
「ナイフは柄まで刺さっちゃったし、他に君の部屋には細長いものがないから…ごめんね。ねじ切るか引きちぎるしかないかもしれない。」
何をと聞いてみる前に、フェルメールはうつ伏せになった僕の体に跨っり、そして容赦なく、右肩の関節を外した。
「が、ぁ、っああぁ…」
ゴキンという痛々しい音と、それに相応しい激しい痛み。
そんな僕の辛さを無視してフェルメールは右腕にありえない方向に力を加える。
ゴリュ…ゴリュ…ゴキ。
「ぐ、ううううぅ!」
「ごめんね。マスターを辞めるには、令呪を無くさなければならないんだ。でも令呪を使い切られると、私には次のマスターが選べなくて振り出しに戻っちゃう。」
「そうしたら、また君みたいに腕を奪って…そんなのごめんだよ。」
ゴキ…ゴキ…ゴキン。
「あ、ああ、あぁあああ!」
痛い、とても痛い。
僕の右腕が、僕の体と離れ離れになって、別の物になってしまう。
涙がさっきから勝手に溢れて止まらなかった。
鼻水と鼻血が混ざりあって、涙と僕の顔面の汚さに拍車をかけた。
口はフェルメールに腕を痛めつけられると連動する、音のなるおもちゃのようなものと化した。
それに合わせて体も彼女を乗せたまま海老反りになり、バタンバタンと暴れるも、フェルメールは一向にやめてくれない。
「痛みを長引かせてごめんね…そろそろ終わりにしようか。」
ゴキュッ…ブチ、ブチブチブチッ。
フェルメールが一気に力を込め、右肩と右腕を繋ぐ筋繊維が何本もちぎれたところで、意識がフッと地に落ちた。
いきなりグロくなりましたし、フェルメールが怖くなった気がしますよ。
グロいし展開の広げ方にどん詰まりだし、二重の意味で怖いですねハハ