しかし、気を失っている最中に令呪が…?
さらに魔力の異変に気づいたルルシエはその場に駆けつけると…
「おはよう、よく眠れた?」
ここは…?
僕はさっきまで、フェルメールに腕を引きちぎられかけていたはずだが…
僕は今、どうして古びたベットから半身を起こしていて、見覚えのない女性から親しげに声をかけられているのだろう。
「随分とうなされていたけれど、もしかして腎臓が逝ったのかね…」
僕の気持ちなんて露ほども知らずに、勝手に頭を悩ます目の前の女性は、やっぱり知らない人間だ。
首を動かして辺りを見渡そうとするも、体が動かない。
「あんたは誰?」と聞こうとしたが、やはり口は動かなかった。
そもそも動かないのではなく、方向性としては力が入らない方に近い。
近く親しいものをあげるとすると、ゲームのオートプレイモードを体に使われているような、奇妙な感覚だ。
走馬灯、だろうか。
気を失って、フェルメールに結局腕を取られて、出血多量で瀕死になりながら見ている、とか。
走馬灯といえば、自分の幼少期から今までの思い出が瞬間瞬間、見えては消えてまた見えると聞く。
これが走馬灯だとすればかなり話が違うのだが…
「心配はいらないよ、それより早く商品作りに取り掛からなければ。」
「そう?そうならいいんだ。」
今度は僕の意思とは関係なく口が動く。
商品作り?僕はそんなこと、一度もしたことない。
僕が返したことになっている言葉に女性は安堵した様子で、心配はいらないと部屋を去るようだった。
「それじゃ、私はもう行くよ。私もアトリエに作品を残してあるんだ。もうこんなことになるまで酒は飲むなよ?ファン」
「君もそうなんだけどね…それでも、私をそうやって呼んでくれるのかい…いいか、君はまだ引けるとこにいるんだからな。君は…」
「私のところまで、堕ちてはくれるなよ、テオ。」
***
彼は、壊れてしまったのかな。
白目を剥いて気を失ってるようだけど、口からうわ言が聞こえてくる。
そんなつもりじゃなかったんだけれどな。
ただ、無駄に人を殺すのが嫌だから、令呪のある右腕だけ取ってしまおうと思っただけなんだけれど。
…嫌だなあ、とか思っちゃダメかな。
いや、そうに決まってるよね。ダメだよね。
自分から聖杯戦争がどんなものか、それに自分がどれだけ本気で参加をしているのか話してしまったし。
覚悟してるみたいなこと言っちゃったし、実際に覚悟してるし。
でも、少しでもそんなこと思っちゃうとか、マスターに自分から呼び出しておいてって説教しておいて、何様なんだろう。
「…ぉ」
あ、やば、起きかけちゃってる。
起きたらまだ激痛が続いてるとか、可哀想だよね。
早く、終わらせてあげないとなぁ。
じゃあね、マスター。
…そういえば名前、聞いてなかったなあ…
ブチッ、ブチブチブチッ
「…ぇお」
ブチブチ、ブチッ
「…テオ」
…え。
「どう…して?」
どうして君が、その名前を知ってるの?
キィン、という音が耳を刺す。
手元から聞こえたのでまさか、と思いすぐ彼の手の甲を見る。
刻まれた、三画の令呪。
その全てが赤く光り輝き、まるでそこが心臓だと錯覚させるほど、強く脈打っていた。
令呪が、呼応しているんだ。
***
ここの住宅街は、みんなほとんど似たような作りで助かっちゃう。
極東のあんなに小さい地なのだから、家と家の間がほとんど無くって。
しかし屋根瓦ってのはどうにもダメ、気を抜いたらすぐつまづいて転んじゃいそう。
一歩から一歩までの距離をできるだけ強化魔術で大きく、走ると捉えるなら靴底が屋根瓦に着くのがあまりにも遅すぎて、スキップと捉えるなら飛躍距離が大きすぎる。
そうやって屋根から屋根へ、飛び移るようにして移動する。
でも、昼間も感じたけれど、こんなのおかしいわよ…
この地のどこかで魔力が揺らいだっていうのに、誰も行かないっていうの…?
そりゃ時計塔で探知系の魔術を得意としていたから、揺らぎに気づいたってこともあるけど、そんなの事前に下準備とかしてたら魔道具でどうにか出来ちゃったりするじゃない。
もしかして、今は様子見であたしみたいな魔術師を見つけるためってこと?
それか、この揺らぎはわざと出されたものでほかの魔術師をおびき寄せる罠?
可能性としては、大いにあるわ。
…それでも行くしかないのよ、あたしは飛び入り参加みたいなものだし。
だんだん揺らいでいた波紋の中心が近づくのを感じる。
中心と思わしき位置には、分かりやすく一軒だけ家があった。
「…そこね。」
移動のためだけに使っていた脚に、移動だけでは有り余るほど力を込める。
液体で足を浸すように、特にカカトの一点だけは入念にコーティングするようなイメージを浮かばせる。
これまで行使してきた脚の強化魔術は、魔力を練るウォーミングアップには充分ってね。
「
足が魔力の層で覆われるのを感じる、イメージ通りで大変結構よ。
これだけ覆えば…
あの民家の窓ぐらいは壊せるわ。
「
刹那、私は一陣の風を残して姿を消した。
誰かがもし見ていたなら、そう感じただろう。
実際には、いつもよりちょっとだけ魔力のリミッターを外して、前方に爆進したのだけど。
難なく空中で体制の変更、利き足を伸ばしてもう片っぽは曲げて。
カカトに力を入れて、顔に傷がつかないように両腕を前でクロスするのもお忘れなく。
誰がどう見たって完璧なキックの体勢だった。
沢山の強風と、窓をかち割って分散した魔力の残滓にガラスの破片を乗せて、豪快に屋内へ。
ガラスの砕け散る音と共に転がり込んだ。
迎撃は無し、ひとまずおびき出されたという線は消えたわね。
迎撃が無いならこっちが行くまでの話。
床で受身をとって低く屈んだ姿勢のまま、部屋内にいた二人の男女に向けて指差しのポーズをとる。
人差し指の第1関節まで液体に浸すイメージを練って、指先に目視可能なまでに圧縮されたビー玉程度の魔力の球体を灯す。
「ヘタな動きしたら、打つわよ」ってこと。
「…何の用で来たのかな。」
「決まってるじゃない、令呪をかっさらいにきたの。」
高尚に話しながらも、魔力の練り上げは怠らない。
なんたって向こうはサーヴァントだ。
返り討ちにされる可能性は、無くはない。
今話してる女は茶髪のポニーテール、服装はワンピース、よく見るとピアスが付いてる。
倒れてる男は髪が肩まで伸びてて目隠れ、服装はこっちもラフね…って右手の甲に令呪、こっちがマスターか。
というか右腕ちぎれかけてるじゃないの、仲間割れ?それともあたしが霜ノ坂に到着する前にもう襲撃を受けてて、治療中?
ああもう、そういう判断に大事な表情が女が髪を結んでるターバンが邪魔で見えないってば!
「ならばまずは問おうかな、君がお察しの通りにこっちはサーヴァントとマスターだよ。」
「君は令呪を奪いに来た、と言ったよな?」
「…そうよ、それが何か?」
サーヴァントの女は相変わらずこっちを見ないで話してくる。
顔が俯いているから、何かを見つめているのかしら。
それもそいつのターバンのせいで見えないけどね。
「もし、私が君に令呪をあげると言ったら?」
「…何よそれ。」
表情も分からない、声色も至って普通。
狂言妄言の類でもないみたいで。
一体何を考えているのか、分からないじゃない。
どうにか軌道修正出来そうです。
フェルメールのビジュアルの詳細もちょっとだけ考えました。
ルルシエちゃんどうしようかな。
第五次聖杯戦争というのは、この世界線では無印staynight、いわゆるセイバールートの方です。
だってHeaven's_Feel見てないんだもん、見に行くんですよ楽しみだなあ。