Fate/Genuine fake   作:喫茶院

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令呪を手に入れるために、フェルメールの出した条件を飲んだルルシエ。
三好の手から紋章が消え、代わりにルルシエの手に紋章が浮かぶ。
そして意識を取り戻してルルシエと対面した三好。
令呪をなくし、サーヴァントをなくした三好を待っていたフェルメールの意図とは…?


そして奇妙な成り行き 後

女が魔力をその手の甲に流すと同時に、令呪がキィンと音を立て、赤く光を放ち始める。

女の指の間から漏れ出る赤い光は、もう既にほの暗くなっていた室内を赤らめた。

あたしが破壊した窓から入ってくる月光と、令呪の光が混じりあって、部屋の中は一種の神秘的な空気で満ち溢れるように思えてしまう。

だが、女が重ねていた手を横にずり動かすと、令呪の光は徐々に弱まっていく。

ゆっくり、しかし確実に。

女はマスターの令呪を手で拭うように、奪っているようだった。

やがて数刻が経ち、女の手がマスターの手の甲から完全に離れた後、赤い光は完全に無くなった。

そして、そのマスターの手の甲には何も残っていない。

 

「さあ、手を出して。」

 

女はマスターから令呪を拭い去った手を握りこぶしの形にしたまま、もう片方の手を催促するようにあたしに向ける。

あたしは向けられた手のひらにそっと右手を乗せる。

まるで、レディをエスコートする紳士みたいな手の出し方ね…とでも、思いながら。

女があたしの右手の甲の上で握りこぶしを解くと、今度はあたしの手の甲に赤い光が宿り始めた。

さっきよりも近くで魅せられたその光はゆらゆら揺らめいて、それは赤くライトアップされた水槽から出る光を見させられてるようだ。

さっきとは違って、女が手をずり動かすほどに光は強くなっていく。

 

無辜の英雄(ベドリエグヘットランド)。」

 

もう一度唱えられた呪文をトリガーに一際大きい光が放たれると、それを最後に光はどんどん弱まっていった。

魔力の収束が感じられる。

目的地はあたしの手の甲。

令呪の移植が成功したと見て、間違いはないようだった。

押し付けられていた女の手が、パッと外される。

あたしの手の甲に宿る三画の赤い紋章は、見間違えるはずがない。

確実に令呪だ。

 

「令呪の譲渡はここに完了した。…決まりなんだ、一応問うよ。」

 

「あなたが、私のマスターか。」

「当然。あたしがあなたのマスターよ。」

 

かくして、あたしはようやくスタートラインに立ったんだ。

 

***

 

はね起きるようにして、目が覚めた。

右肩に走る激痛。

あの時僕は、フェルメールに右腕を千切られかけて気を失ったんだっけ。

はね起きる時に聞こえた、ばしゃりという音。

右腕からかけて広がる、濡れて湿った感触。

…夢でも何でもなかったんだ。

僕の右腕は今、確実にちぎれて…

 

「…ない。」

 

腕が無いわけじゃない。

それどころか、完全に右肩とくっついている。

痛みと血溜まりはあるものの、腕を動かそうとすれば思う通りに動く。

 

「そんな…どうしてだ。」

 

周りを見渡すと、僕の部屋がぐちゃぐちゃになっている。

窓は大破しガラス片と窓枠が散らばって、壁にはクレーター、そして僕が作ったカーペットを浸す血溜まり。

血溜まりは僕が気を失って何時間か経過したのか、端っこがカピカピに乾いていて、全体的に変色しどす黒くなっていた。

大破した窓から冷たい風が吹き込んでくる。

その風は血溜まりの表面を撫でて、波紋を形作って去った。

去った先にあったのか、クレーターが出来た壁の破片が遅れてパラパラと床に落ちる音が聞こえる。

元窓の先にはまばらに星が輝く夜空が広がっていた。

 

「お目覚めかしら、元マスター。」

 

知らない声で呼ばれ、振り返る。

いつの間にか、自室のドアに同年代くらいの少女が立っていた。

ボブカットで金髪碧眼のトレンチコートに身を包んだ少女というのは、よく言えば浮世離れした二次元的な存在で、悪く言えば面識もなく自宅に侵入している不審者だ。

 

「あんた、誰なんだ?…不法侵入だぞ。」

「あたしはルルシエ。不法侵入についてはとやかく言わないこと。」

「とやかく言わないことって、あんたなあ…!」

「その右腕は、誰が治してあげたと思う?予想でいいわ、言ってごらんなさい。」

 

僕が咎める声に重ねて、ルルシエと名乗った少女は僕を指さす。

傲慢なその口調で、僕にクイズを出しているらしい。

 

「…警察を呼ぶぞ。」

「ったく、話が通じないわね。それならあたしは、サーヴァントを呼び出してやってもいいのだけれど?」

「サーヴァントって、あんた…」

 

僕が動揺するやいなや、少女はこれみよがしに付けていた手袋を脱ぐ。

そうして少女が見せつけた手の甲には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が刻まれていた。

そいつはあんなにも強かったサーヴァントをこの場に呼び出すつもりらしい。

サーヴァントと敵対したらどうなるか、それはつい何時間前に身をもって分かっていた。

目には目を、歯には歯を、サーヴァントにはサーヴァントを。

僕は目の前の少女と同じポーズを取り、ブラフでもいいからフェルメールをこの場に呼び出す体勢を取ろうとした。

しかし、それはどうしても不可能だとすぐに分かる。

 

「令呪が、消えてる…!?」

「当たり前よ、あなたの令呪はあたしに移植されました。だから言ったでしょう?()()()()()って。」

 

フェルメールは、令呪を自分が選んだ人間に与えるために、僕の腕を引きちぎると言っていた。

ならば、その令呪の移植先がこいつなのか。

そうなら、僕の腕はちぎれているはずだ。

…それが、こいつが出したクイズの意図に繋がるのか。

 

「僕のサーヴァントの新しいマスターがあんたで、僕に恩を売ろうとあんたは右腕を繋げたってことか。」

「あんたに恩を売ったところでどうにもならないと思わないかしら?正確には、あたしのキャスター、あんたの元サーヴァントに頼まれて治してやったのよ。」

 

…いちいち鼻につく物言いをしてくれるな。

 

「…目的は?」

「そんなの、あたしの知ることではないわ。キャスターに聞いて。あたしはあいつが戻ってくるまで待っているだけだから。」

 

下から、誰かが階段をかけ登ってくる音が聞こえる。

そして僕の自室のドアを開け放ったのは、フェルメールだ。

 

「お待たせ諸君。だいぶ手遅れだとは思うけど、人払いの術式を張ってきた。深夜だとはいえ、窓がこんなにも大破していると目立つだろうから。」

「おかえり、早く次の用事を済ませてちょうだい。あたしは早くホテルに戻って寝たいから…」

 

少女は目を半開きにし擦って、年相応の仕草をしてみせた。

 

「おやおや、おねむのようじゃないか。先に帰ってくれてもいいのだけれど…そうはいかないらしいね。それじゃあ、マスターは部屋の外へ出ておいておくれ。」

「ホントに早くして、じゃないとここの廊下で寝ることになるから…」

 

フェルメールは少女が部屋を出たのを見送ると、後ろ手にドアを閉めた。

ドアは塞がれ、大破した窓はガラス片と地上までの高さが危険。

とうとう僕の逃げる場所は塞がれてしまったわけだ。

フェルメールは僕を一瞥すると、こんなぐちゃぐちゃな部屋の中でも健在なパソコンの前に立ち、何かを打ち込んだ。

それから僕を手招きして、椅子を差し出してくる。

僕はもう半分ほど何かを諦めて、フェルメールに従いパソコンのモニターを見た。

 

『ここでの会話はルルシエ・ティーバティルンに聞かれている。』

『これから私は口頭で何か君に喋りかけるが、それはフェイクだ。適当に返してくれ。』

 

『命が惜しいのならね。』

 

「…」

「さて君、右腕の調子はどうかな?」

 

いつの間にかパソコンを使いこなしていたフェルメールは、文章作成ツールを使って僕に対話を試みていた。

僕が文を見終えたのを確認すると、フェルメールはフェイクである会話を僕に仕向けてくる。

それと平行に、パソコンに次の文章を叩き込んでいく。

 

「あ、あぁ。良好だよ。」

「それは良かった。」

『端的に言うと、私はあの金髪の少女、ルルシエ・ティーバティルンを騙しているんだ。』

 

「動かすと、痛んだりはしないのかい。」

『彼女は君の令呪をかっさらいにここへ来た。そして君を殺さない代わりに令呪を手に入れる。そういうウソの口約束を交わした。』

『彼女は自分のことをマスターだと思っている。手の甲に令呪らしき紋章を浮き立たせてはあるが、実際には君に令呪がまだ宿っている。方法は秘密だよ。』

「痛まない。」

 

「マスターがかけてくれた治癒魔法が効いているな。」

『私は表向きにはルルシエが、裏では君が私のマスターということにしてほしいのさ。』

「…」

 

フェルメールを手で制し、キーボードを譲れとジェスチャーをする。

怪訝な顔をするも、仕方ないといった顔でフェルメールはキーボードを渡した。

 

「やっぱり、少し痛むよ。」

『どうして?あんたは僕がマスターでは駄目なのではなかったか?』

「…そうかい?」

 

フェイクの会話にか、パソコン上の本当の会話にか、どちらに応答したとも取れる呟きをフェルメールは零す。

 

『私がやるべきことが増えてしまったのでね。君には生きてもらってなおかつ私のマスターではないと不利益が生じるようになってしまったんだ。』

「では、私が魔法をかけてあげようか。」

 

『それでも君がマスターとなると、あまりにも貧弱だから。ルルシエには影武者兼マスター代理をしてもらおうと思った次第だよ。といっても、彼女は能力が高くプライドも目的も崇高だから当然承諾しないだろうし。』

『 だから、騙した。』

「いいよ。どうせ時間が経てば引く痛みなんだろうし。』

 

『自分勝手ですまないね、でも私には理念がある。貫くべきであり、聖杯の力を持ってでないと貫けない程の、固く険しい理念が。』

『君を私のワガママにつきあわせる以上、君のことは守ると誓うよ。君は、最強であるからアーサー王を呼ぼうとしたんだよな? 』

 

『ならば、私が君の最強になってみせようじゃないか。 』

 

『随分と都合がいいんだな。』

『これを言われるのは2度目だよ。』

「キャスター、もういいでしょう?話が終わったんならさっさと戻ってきて。」

「ごめん、あと数分だけ。」

「キャスター…」

 

『ルルシエには、君は現地情報提供者と食料提供者、パシリみたいな役割にして同行を許可してもらった。』

『だから、君はこれから当初より本格的に聖杯戦争に参加することになる。攻める方の役回りだ。』

『これからよろしく、と言いたいところだが。』

 

「君の名前を、教えておくれ。」

 

サーヴァント、というのは、皆一様にこんなものなのだろうか。

僕の腕を取ろうまでとしたのに、僕をマスターにしたままで、これからよろしくという。

無茶苦茶で、しっちゃかめっちゃかで、僕には理解できない。

それでも、あの痛みを思い出すと、従わざるを得なくなる。

 

どっちが、マスターなんだか。

 

「三好。三好大希。」

 

僕を理念とやらの為に振り回す。

後先が分からず奇妙に噛み合わないフェルメールという女は確かに最強で、

 

「これからよろしく、ダイキ。」

 

最恐でもあった。

 




何とかねじ曲げました。
色々無理が生じてる部分も充分あるのでは…
これ4000文字超えてますね。
大体3000文字目安で書いているんですけど…うん。
フェルメールちゃんは、友好的に接してくれるけど目的のためなら滅茶苦茶にもなってしまえる怖い女性になっていますね。
頑張れ三好くん。
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