Fate/Genuine fake   作:喫茶院

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霜ノ坂の地方番組に映る「奇妙な子供の影法師」を見てしまった三好。
その事をルルシエとフェルメールに伝えるも、二人は影を見ていないらしい。
そしてとうとう影の様子がおかしくなり…



捜索の先

その影法師は、極めて奇妙だった。

風に身をはためかす旗のようだと思えば一転、焼きたての餅みたく伸びる。

形取るモチーフは子どもから変わらずとも、厚さ、硬度は留まるところを知らず、瞬き一回のうちに二回は体をうねらせていると思われた。

そして自由に蠢いたあと、一定の間隔で体にノイズが入る。

蠢いて、ノイズが入る。

これをを何回も何回も繰り返していた。

 

「なんだ?、あの影…」

「ちょっとアンタ、早く加勢に来なさいよ!キャスターにマスターの何たるかを分からせてやるんだからっ…!」

 

まだキャットファイトしてる。

 

「ふっふーん?この程度かなマスター?私がちょいとでも力を増やせば君をベッドに押し倒してあんなことやこんなことだって出来ちゃうぜ〜?」

 

フェルメールだって本気を出せばすぐにどうとでもなるだろうに。

 

「くっ…お断りよバカ!令呪使えないからって知っててやってるのねこのゲス!」

 

あれか、女子だからって手加減しているのか。

ベッド上で手を組んで向き合う女子2人、二人ともよく見れば顔は悪くない。

この絵面、ネットで見たことある。

 

「って、そうじゃなくて、お前らテレビ!」

 

睨み合いは一旦やめて、二人は不思議そうにテレビを見やった。

依然影法師は影の発生源を伴わず、奇妙な動きも止まってなかった。

二人はまじまじとテレビを見つめ続けている。

この現象が何か、思い出しているのだろうか。

それにしても、なんだかテレビを見る目がじとっとしているような、怪訝というような。

 

「あれは一体なん…」

「はぁ?何よ地元愛?」

 

地元愛?

 

「なんだよ地元愛って、僕が聞きたいのは影のことで…」

 

いきなり地元愛と言い放ったルルシエに言及しようとすると、頭を振られ揺れる金髪と少し昇ってくる湯気に言葉が振り払われる。

 

「そっちこそなによ。こんな何の変哲もない地方番組に用って、それこそ地元愛以外に何があんのよ?」

 

僕が放ち、着弾する予定だった言葉の代わりに返されたものは、またしても地元愛に関するようなものだった。

その顔は僕のことを軽くあしらいたがっていて、これだから田舎者はとでも言いたげな目をしている。

 

「なっ…今はそんなことどうでもいい!だからあの影は…」

「まあまあ、落ち着きたまえよ。」

「キャスター…」

 

どうも話が噛み合わないことに、僕は苛立ちを覚えていた。

何の変哲もない地方番組だと彼女は言ったが、それは通常時の、画面に何も奇妙なことが起きていない時のことを言っているのだろう。

僕もそう思うが、異物が映ってしまっている今、反対せざるを得ない。

地方番組ではあるが、変哲はあるのだ。

 

「キャスターは、あのテレビに映っている影について何か心当たりはあるか?」

 

フェルメールは、少なくとも僕よりは魔術に精通しているはず。

すぐに正体が分かるとまでは思わないが、ルルシエのように「地元愛を急に示しだす田舎者」のレッテルを押し付けることはしないはずだ。

僕のプライドを保護したいというよりかは、話の噛み合わない苛立ちを抑えたかった。

 

「ふぅん?影、ねぇ…」

 

彼女は腕と脚を組み、またしばらくテレビを見た。

依然絶え間なく影法師は蠢き続けている。

リポーターの食レポもそろそろ佳境に差し掛かったころ、彼女は彼女なりの影法師についての見解を、

 

「そんなものは見当たらないのだが…」

 

出しては、くれなかった。

 

***

 

「だから本当に影はあったんだって!」

 

ホテルを飛び出し市街地を走る人影三人。

僕、ルルシエ、それにキャスター。

ルルシエだけではなくフェルメールでさえ認知出来なかった影を追おうと、周りの人に配慮しながら目的地へ駆け抜けている最中だ。

 

「じゃあ仮にあるとして、なんであんただけにしか見えないって言うのよ、私とキャスターの方が魔術に長けているというのに。」

「わざと一般人にだけ見えるようにしたというのなら、目的はなんだというのか…過去には子供をさらってた陣営もあったと聞くが、誘拐目的ならばこんな白けるやり方をするかな?」

 

走りながらも器用に考えている二人。

影のことについて考えてくれているようではあるが、今すぐにでも結論が出せそうには見えない。

かくいう自分も、当然結論なんか出せないからただひたすらに影に向かって走り続けるのみだ。

 

「ダイキ、次の角はどっちに曲がるんだい?」

「この角は3つ目だから…左だ!」

 

手元のスマホに表示されている地図を頼りに2人に指示を出す。

ルルシエは機械が不得手、キャスターは僕の脚への魔力的な支援。

それに、第一僕しか影を見てない。

僕が影捜索のために出来る事といったら道案内しか適任がないのだ。

体にあたって逸れていく風、その風が揺らす髪。

力の限り脚を前に。

こんな状況だが、つい幼い頃を思い出す。

あの頃は、こんな風に公園で走り回ったっけか。

 

「あ、見えた!あの建物ね!」

 

テレビに映っていた店の姿が現れる。

リポーター達は既におらず、店の前にはテレビを見たであろう主婦達がわらわら集まっていた。

その主婦達の持つ影の一部分に、一瞬ノイズが走る。

そこだけ不自然に出っ張り、主婦達の中にその影の持ち主がいないことは明白だ。

 

「ダイキ!影は見えるかい?」

「ああ、見える…うッ!?」

 

心が早まったか。

いや、それ以前に、走り回ることが最近なかった引きこもりがいきなり全力疾走するのは無理がありすぎた。

脚に強い衝撃、大きく背中が反り、目が落としてしまったカメラのようにバウンドした景色を見せる。

彼女に一時的とはいえ、脚を強くしてしまったのが裏目に出たようで、それら一連の動作はまさに一瞬だった。

脚がもつれて地面に体、特に頭を強く打ったのだと認識したのは、その動作が全て終わってからだ。

 

「うわっ!?アンタ大丈夫!?」

 

鼻血が唇を経由して顎まで滴る。

なんせコンクリートだから口に砂利つく上になお痛い。

全身に痛みが波のように寄せては返す。

肘をついてなんとか上半身を起こすも、それだけでいっぱいいっぱいになってしまっている。

そして上半身を起こしてやっと気がついた。

 

「あの…大丈夫ですか?」

 

僕の目の前にしゃがんでハンカチを差し出している女の子がいた事に。

 

「あ…ああ、うん。ありがとね。」

 

少し情けないがここは甘えて、僕は女の子からハンカチを受け取った。

ハンカチは白くてまだまだ新しかった。

…とても気が引けて使えない。

 

「こんなハンカチを使わせてもらうなんて悪いよ、気持ちだけ貰うね。」

「ううん、平気ですから…」

 

そう言って、女の子はハンカチを顔面に擦り付けた。

パリッとしていたハンカチの中心部にみるみる赤いシミがつき、そこが少し湿ってよれてしまっている。

ちょっと血を拭っただけでは飽き足らず、とうとう女の子は僕の顔面が元通りになるほど、汚れをハンカチでぬぐいきってしまった。

 

「あ、ありがとう。でも、本当に良かったのかな…?」

「いいんです、それでは…」

 

僕の血で随分酷いことになってしまったハンカチを持って、女の子は花柄のワンピースを翻し、何事も無かったかのように歩いていった。

 

「…知り合い?」

 

しばらく唖然としている中で、1番に口を開いたのはルルシエだ。

女の子の背中を見つめて言葉を発した彼女は、明らかに困惑している。

 

「いや、違うけど…」

「たしかに今のはいささかびっくりしたが…ところで、影は今もここにいるのかな?」

 

そうだ、影だ。

慌てて店に目を向ける。

影は性懲りも無くまだそこに居座っている、が。

 

「様子が、おかしい…?」

 

影は確かに動いているが、それは小刻みな振動に変わっていた。

発するノイズに規則性が消えて、影自体の境界線が曖昧になっていく気すらするほどのノイズの発生頻度の増加。

そして、

 

パン生地を分けるがごとく自然に、影は分裂した。

 

二つに分裂したからといってその行為は止まらず、二つから四つに数を増やす。

8つになったところで分裂を泊めたかと思うと、

 

蜘蛛の子を散らすようにめいめい一目散に散っていった。

 

驚いて「あっ」と声を上げるより先に影たちは散りゆき拡散し、行き先が決まってるようにそれぞれ真っ直ぐに進む。

影たちは民家に向かって進む物もあれば、人間に向かって進む物、道端に寝転ぶ猫に向かう物までいる。

だがしかし一様に、影はその物の影とぬるりと溶け合った。

 

それは花柄のワンピースの女の子も、例外ではない。

 

 




前回との間約半月。穏やかではありません。
おまたせして申し訳ございませんでした。
新学期のワチャワチャに追われていました。
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