メガテン新作ゲーム……?   作:せとり

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支配 後

「そしてお金の話ですが……掲示板上でも説明したように、皆さんの生活費にかかった費用は借金として計上いたします。とはいえ実費で計算しようとすると大変なので、申し訳ありませんが一律決まった額で計算させてください。色々と買い揃える物が多い今月は10万円、来月以降は月々5万円。その中からお小遣いとして週に1度5000円を支給する予定です」

 

 多分足が出るだろうが、気前の良さで恩を売るのも大事だ。

 ケチくさいだけのリーダーに人はついてこない。もちろん単に銭勘定に疎くて気前が良いだけのリーダーも駄目だが。

 単にお金を得る事だけが目的なら、もっと欲張ってもいいだろう。しかしその場合は住民たちからの好感度は間違いなく低下する。

 私は彼らを味方につけて、将来的には自分の手駒にするつもりでもある。これは必要な投資と言えた。

 何ならもっと持ち出しを多くしてもいいぐらいだが、いきなり甘やかしすぎると効果は薄いか逆効果になる場合もある。こういうことは段階を踏まなくてはいけない。

 

「おー、小遣いくれるんだ」

「ウィークリーボーナスだ」

「その金額で家賃や食費、水道光熱費とか全部込々なら安いような」

「経費の範囲は具体的にはどれぐらいなんでしょう?」

 

 感想を呟いたり、周囲と意見を交わしたりしている面々。その中から上がってきた質問に私は答える。

 

「最低限の衣食住はこちらで面倒を見ます。食費はもちろん、今日買ってきた敷布団などの寝具、着替えの衣類などは全て経費ですね。他に生活に必要そうなものがあれば相談してください。全ては無理ですができるだけ対応したいと思っています。その他の個人が必要とする細々とした物は、支給するお小遣いでそれぞれが用立ててください」

「はーい」

「わかりました!」

「あの、それで借金の利子とか返済についてはどうすればいいんでしょうか……?」

 

 おっと、その話を忘れていた。

 

「利子はそうですね。単利で年率2%でいいですよ。この借金も生活が安定してから徐々に返済してくれれば結構です。まずは皆さんの自立が先なので、とりあえず借金の事は気にしなくて大丈夫です。このタコ部屋同然の集団生活を続けながら、働いて返せなどという鬼畜な事は言わないのでご安心を」

「年利2%? 安っ」

「さすが三千桂さん、太っ腹だ!」

 

 正直言って金銭面で儲けるつもりは殆ど無い。これで返ってきたお金も再投資に充てるつもりだし。

 

「まずはこの暮らしを改善していくべく、皆で力を合わせて頑張っていきましょうね」

 

 “皆で”“力を合わせて”そう言ったワードを強調することで、全体主義的な意識を持たせて集団の輪から外れることを厭わせる雰囲気を作り出す。

 一回だけでは効果は無くとも、何度も繰り返すことで、そうした意識は確実に刷り込まれていくだろう。

 

「では次に部屋割りを決めます。この家の間取りは3部屋とリビングですが……自分だけ楽をするようで心苦しいのですが、鍵の掛けられる書斎の部屋は私に使わせてください」

「まあ家主だしね……当然でしょ」

「うん、むしろ追いやるような形になって申し訳ないかな……」

 

 部屋の中をざっと見渡すが、不満そうな表情を浮かべた人は、少なくとも表面上は見当たらない。

 

「ありがとうございます。貴重品などはこの部屋で管理するので、皆さんも自分で持っているのが不安な貴重品などありましたら私に預けてください。責任を持ってお預かりします。皆さんを信用していない訳ではありませんが、どうしても人である以上、魔が差すこともあるでしょう。誘惑の対象がすぐ近くにあるのは良くありません。不和の種を事前に取り除く意味でも、私に預けるなり、ご自身で肌身離さず持っているなり、貴重品の管理は厳重にお願いしますね」

 

 はーい、とそれぞれの返事が返ってくる。

 身近な隣人に盗人が混じっているかもしれないと伝えて各々の防犯意識を高めることで、さりげなく分断を煽っていく。

 

「残り2部屋とリビングを、それぞれの性別毎に分けようと思います。男性、女性、女性(元男)といった具合に」

「性別で……ですか?」

 

 茶髪の少女が不安そうに声を上げた。

 彼女の名前は、不二咲(ふじさき)千尋(ちひろ)

 顔立ちから体格から声質まで、華奢で可愛らしい女の子にしか見えないのだが、その実は男。

 女→男のTSで男の娘という、複雑な性別の持ち主だった。

 

「ああ、千尋さんは……千尋さんさえ良ければ私と同室しましょうか? もしくは女性陣の同意を得られれば彼女たちと。あるいは男性陣と、という選択も……」

「え、えっと……男部屋はちょっと……」

「ふむ。では私の部屋に来ますか?」

「え、えっと、そのぉ……」

 

 歯切れが悪そうに千尋は女性たちの方をチラチラと見ていた。

 なるほど、できればそっち側に行きたいらしい。

 

 住民同士ではまだ詳細なプロフィールを共有できていない状況だ。

 何人か察している人もいたが、大半の人は私たちの不思議なやり取りを見て首を傾げていた。

 

「千尋さん。皆さんに説明してもよろしいですか?」

「あ、はい……。黙っていてもいずれバレる事ですし……」

「わかりました。……実は彼女はこう見えて生物学的には男性です。しかし元の性別は女性であり、色々と複雑な事情があるのです」

「その……黙っていてすいません。話すタイミングが見つからなくって……。できれば同性だった方達と同じ部屋になれればなって、思っているんですけど……」

「そこの所はどうでしょうか、お二方?」

 

 そう言って私は、元から女性で性別の変わっていない二人へと話を振る。

 

「わ、私は全然気にしませんよ! 歓迎します」

「えっと……私も大丈夫です」

 

 真っ先に翡翠が声を上げ、続くようにもう一人の女性も受け入れる姿勢を示した。

 

「あ、ありがとうございます!」

「では千尋さんは元々女性だった組に入るという事で。これで男4:女3:TS3となりましたので、一番大きなリビングを男性陣が、残り二部屋をそれぞれの女性陣が使うということにしましょうか。タコ部屋みたいな状況ですが、ほんの1~2か月の辛抱です。働いて給料が出て、気の合う者同士でカンパを出し合えば、アパートの1つぐらいは借りて移り住むこともできるでしょう。個人で貯める場合でも、2~3か月あれば20万程は貯まるでしょうし、そうすれば1人暮らしも可能になる筈です」

 

 先の展望を示し、どれだけの期間を我慢すればいいのか明確化する。

 このままずっとこの暮らしとなれば暴動も起きるだろうが、はっきりとした指針を定めておけばそれに向かって努力してくれるだろう。

 

「まだ先の話ですが、別のアパートに移り住む人がいればこちらの部屋も広く使うことができます。お金を出してここを出ていく人が損をして、残った人が得をするという不公平な構図にならないように、自分から引っ越していく人には、残る側がお祝い金を出すことにしましょうか。具体的な金額は……そうですね、1人1万円ほどでしょうか?」

「いいと思います!」

「色々考えてるなぁ……すごい」

 

 矢継ぎ早に方針を決めていくことで、頼りになる指導者としてアピールしていく。

 こうして権威を高めていくことで、そのうち彼らは思考停止で私の言葉に従うようになり、私に逆らうものはいなくなるだろう。

 

「それと、各部屋にはそれぞれの班を纏めるリーダー、つまりは班長を決めたいと思います。――翡翠さん、ルーシーさん、次郎さん。お願いできますか?」

 

 黒髪美少女の翡翠。桃髪巨乳のルーシー。中年男性の次郎。これはと思っていた人達の名前を挙げる。

 

「え!?」

「わ、私がですか?」

 

 いきなりの話で、指名された面々は驚いた様子だった。

 

「その、班長とは何をすればいいんでしょうか?」

 

 社会人歴の長い年長者らしく、冷静に次郎がそう尋ねてくる。

 

「私もやりたいことがあるので、常に皆さんに目を配って監督できる訳ではありません。なのでお三方にはその代わりをして頂きたいと思っています。それとお金の管理ですね。それぞれに収入ができるまで、自由になるお金は私からのお小遣いだけでしょう。無駄遣いを無くすように使い道をチェックしたり、もしも窃盗が発生した場合に誰が盗んだのか明確になるように、それぞれの班長に一元管理をして貰いたいのです」

 

 分断して統治せよ。

 少数が多数を支配する際に、最も有効だと思われる統治法だ。

 1人で10人を支配することは、可能と言えば可能だ。

 しかし私もメガテンらしいことがしたいので、彼らを統治する事だけにかまけている訳にはいかない。

 それ故の班長だ。

 各班の統率をそれぞれの班長に任せることで、私はある程度のフリーハンドを得ることができる。

 

「え、えっと……そんな責任重大な事、私に務まるでしょうか……?」

「そ、そうだね。あんまり自信がないかもです……」

 

 責任の重さに怖気づいたのか、翡翠とルーシーは及び腰な態度を見せる。

 

「もちろんその責任と負担は他の方よりも大きなものになるでしょう。ですので班長を引き受けていただけた場合は対価をお支払いします。もちろんこれは借金として計上しない、私からの純粋な報酬です」

「具体的な金額をお聞きしても?」

 

 そう次郎が聞いてくる。

 

「支給するお小遣いを倍にします。つまり合計すると週1万円、月だと4万円になりますね」

 

 周囲から「おー」と、小さなどよめきが上がる。

 元の金額が小さくとも、倍になるというのは結構なインパクトだ。

 指名された3人の反応も悪くない。引き受けるかどうか、迷いが生じた顔になっている。

 

「選考基準はどうなっているんでしょうか? その、指名した理由を聞かせてくれませんと、他の人も納得できないのではないかと……」

 

 次郎は他二人と比べたら前向きのようで、そんなことを質問してくる。

 条件には惹かれているけど、このままでは周囲からのやっかみが怖いとかそんなところだろう。

 私も適当に選んだわけではない。1人1人理由を説明していく。

 

「翡翠さんはまだ大学生だったそうですが、一番最初に合流して様々な事を手伝ってくれました。しっかり者という印象なので任せても問題ないでしょう」

 

 それに私と接していた時間が最も長いので、人となりもよく分かっている。

 かなり私の事を信頼してくれているようなので、仕事を振れば期待を裏切るまいと頑張ってくれるだろう。

 

「ルーシーさんも早めに合流して手伝いを積極的にしてくれて、頼りがいのある方という印象でした。社会人経験もあるそうなので安心してお任せできます」

 

 正直ここは消去法だ。

 他の元男組は合流が遅かったのもあり、人柄がいまいち把握できていない。

 

「次郎さんは社会人経験が長いようですし、管理職経験もあるそうなので最も適任だと思っています」

 

 見た目こそ冴えないが、仕事が出来そうな雰囲気は漂っている。

 先ほどから質問の半分以上はこの人がしているぐらいだし、ここは鉄板だろう。

 

 それぞれの指名理由を聞いた周囲の反応は、特に異論を唱える者もなく、納得したようなムードだった。

 

「どうでしょうお三方。引き受けていただけませんか?」

「そういうことでしたら、わかりました。班長の役目、僭越ながらお引き受けいたします」

 

 まず初めに、やはりというべきが次郎が承諾した。そしてその後に二人も続く。

 

「なら自分も……ぜひお引き受けさせてください」

「わ、私も……三千桂さんがそこまで推してくれるなら頑張りたいです」

「ありがとうございます! ではお三方がそれぞれの班の班長ということで。詳しい話は後程、私の部屋で話しましょう」

 

 殆どが計画通りに進んでいる。私は黒い内心を隠しながらほくそ笑んだ。

 

 班長と班員。それぞれの扱いに差をつけることで、不満の矛先を双方に向けさせる仕組みだ。

 班長にある程度の権力を持たせることで、班のメンバーを管理させる。

 そして不慣れな集団生活で生じる不満を、直接の支配者である私ではなく、身近な支配者である班長へと向けさせるのだ。

 班長としても、班員の管理に煩わされてストレスを感じることになる。その苛立ちが向かう先も私ではなくより身近な班員になるだろう。

 

 更に報酬を与えて特権を付与することで、その地位を守りたいと思わせる。

 客観的に見れば固執するほどのではない地位とはいえ、閉鎖的な環境、余裕のない状況では視野も狭くなる。自らを客観視するのは意外と難しい。切羽詰まった状況なら尚更だ。

 自分の班から問題が起これば、それは班長の責任にもなる。

 立場の喪失を恐れて、張り切って統率してくれるだろう。

 

 何の訓練も積んでいない一般人がこんな状況に置かれたら、絶対に諍いが起きるはずだ。

 私はその兆候を見逃さず、誰に対しても味方面をして仲裁すればいい。そのための余剰リソースも確保してある。

 『頼りになるリーダー』を演出する。そうする事でますます私の権威を高めることができる。

 ちょっとしたマッチポンプだ。

 

(はあ、いつから私の心はこんなにも黒く染まってしまったんだろう……)

 

 たまに自分が分からなくなる。

 多少演技は混じっているが、善人面した部分が私の素のはずである。

 

 子供の頃はもっと純粋で真っ白だった。けれど、いつの間にか社会の闇に揉まれて自分も黒く染まっていた。

 綺麗ごとだけでは世の中やっていけない。

 どんなに崇高な理想を語っても、実現できる力が伴わなければ意味がない。

 そう。人を従わせるには力が必要なのだ。

 

 見知らぬ10人の人間を自宅へと招き入れる。

 ここまで大胆な行動ができたのも、今の自分に力があるからだ。

 ゲームで言えばまだ序盤も序盤。しかしあの7日間は確かに私を強くしていた。

 7日前の私であれば、ここまで思い切った行動はできていなかっただろう。

 大きすぎるリスクに躊躇して、色んな物を切り捨てて、小さく纏まって少しの満足と後悔を抱えて生きていたはずだ。

 

 もっと大きなことがしてみたかった。

 でも自分には無理だと諦めていた。私は特別なんかじゃない。努力をしたところでどうにもならないことは沢山あると、今までの人生において散々実感してきた。

 

 しかし強くなれば選択肢は増える。

 金、権力、知性、暴力。強さの質は何でもいい。

 世界は力あるものが動かしている。

 力さえあれば……世の中は変えられるのだ。

 

(今日は楽しかったな……。それなりに予想外もあったけど、大筋は予定通りにできた)

 

 小さいながらも確実に、この界隈に影響を及ぼしたという実感がある。

 

 今の世の中の、利己的な行動を是とするような風潮は、正直言って嫌いだ。

 利他主義に振り切って生きろとまでは言わない。だがもう少し、人は助け合いの精神を持つべきだ。

 行き過ぎた利己主義・自己責任論は格差を生み、階級を固定化し、不平不満によって共同体を破壊してしまう。

 そんな世界を正したい、と思わないと言えば嘘になる。だが流石に世界に革命を起こしたいと思うほど、大それた野望は抱えていない。

 

 私の手の届く範囲だけでもいい。せめてそれぐらいには、理想とする社会を実現したい。

 その為には、もっと強くなる必要がある。

 

 以前の世界なら、いくら個人戦力を鍛えたところで意味はなかった。

 しかし、この世界でなら……。

 

(もっともっと……強くなりたい)

 

 胸の内から沸々と湧き上がる、力への渇望を感じる。

 

 現金なものだ。チュートリアルではあれだけ戦いを渋っていたというのに。変わり身の早さに我ながら笑ってしまう。

 私もまた、自身が嫌う欲深な人間に過ぎない。それをよくよく忘れないようにしなければ。

 

 




という訳で、主人公もかなりやべー奴というオチでした


他のルートの構想はこんな感じでした


C+ルート
今よりもっと冷たい性格に。
ランカー達と積極的に関わりに行って下は放置。
自分と身内さえ良ければ他はどうでもいいというスタンス。
上級国民ルート。

C+++ルート
基本は↑と同じだけど、更なる力を求める。
人助けをする振りをして人を文字通り食い物にする。
似たような人外系や悪人系の特典を得たプレイヤーとつるんではっちゃけたり。
兄上完全ロールプレイルート。

L+++ルート
もっと大規模に人助けを行おうとする。
賛同者や支援者を募ったり説得したり。ルートの中では一番行動的かもしれない。
とんでもない苦労をすることになり、今よりもっと独善的になって目がイってる。
頭メシアンルート。




執筆が追い付かないので以降は更新が不定期になります
毎日更新はやめて、纏まった分量を投下できればなと思います
週2で1話8000文字ぐらいの更新ペースを維持したいところ(できるかなぁ?)





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