メガテン新作ゲーム……?   作:せとり

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試験

 前橋駅からバスに揺られること1時間ほど。

 都市部から大分離れた山の方。赤城山の麓にある悪魔討伐隊 柏倉駐屯地へとやってきた。

 

 討伐隊で即戦力としてやっていけるかどうかのテストを受ける為だ。

 基地前にはバス停があったので、移動手段に悩む必要は無かった。

 

 周囲には畑と森と、僅かな民家が点在するような辺鄙な土地だ。

 敷地は鉄柵で囲まれており、入り口の門の前には、銃を肩から提げた守衛が数人立っていた。

 

 守衛に要件を伝えて、事前に貰っていた書類や入場許可証、異能者登録証を見せると、守衛は通信を行い、迎えが来るので暫く待つようにと伝えられた。

 言われた通りに待つこと数分、基地内から駆け足で討伐隊員がやってきた。

 戦闘服を着ているが、防具も銃も装備しておらず、隣に立つ守衛と比べたらかなりラフな格好だ。

 私と歳はそう離れていないだろう。黒髪を後ろで纏めた、愛嬌のある顔立ちをした若い女性だった。

 左の胸元に付けられた名札と思われるワッペンには、『桜田(SAKURADA)』と書かれていた。

 

「おはようございます!」

「おはようございます」

「ごめんなさい、お待たせしました!」

 

 私の姿を見つけて更に足を速めてやってきた女性は、初めに元気よく挨拶をすると、走ってきた勢いのままに頭を下げた。

 唐突な謝罪に驚く。かなり責任感のある人のようだ。

 

「いえ、全然待ってないですよ。そもそも予定より早く来てしまった私が悪いんですし……」

 

 バスの都合上、遅れるよりは早い方がいいだろうと予定よりかなり早く来てしまっていた。

 時間を潰すような場所が近くになかったとはいえ、スマホでも眺めて遅らせればよかったか。少し反省する。

 

 平謝りする女性をどうにか宥めて、駐屯地内へと案内して貰う。

 連れて行かれたのは隊員たちが寝泊まりする寮と思われる建物で、ホテルのラウンジのような場所だった。

 全体的に高級感のある内装だ。無数のソファやテーブルが置かれ、非番や休憩中と思われる私服の人達が、寛いだり談笑したり、作業でもしているのかノートパソコンに向かっている人もいた。

 

 ここだけ見ると、まるで普通の寮のラウンジのようだった。

 集団生活で大半が顔見知りなのか、見知らぬ顔を見つけたとばかりに周囲から物珍し気な視線を感じる。

 

「あそこにしましょうか」

 

 ざっと室内を見渡して、周囲に人が少ない隅のテーブルを見つけた女性はそちらへと歩き出した。

 そして私たちは向かい合って席に着いた。

 

「予定にはまだ時間があるので、ここで少し時間を潰しましょう。何か飲みたい物はありますか?」

「いえ、お構いなく」

 

 これは遠慮ではなく本心だ。飲み物は持参して来ているので、あまり必要ではなかった。

 

「遠慮しないでください。何でもいいならカフェラテでも買ってきますけど、それでいいでしょうか?」

 

 ここまで言われたら断るのも失礼だろうか。

 

「そうですね、なら普通のお茶でお願いします」

「了解です。お腹は空いてますか?」

「いえ。出る前に食べてきたので大丈夫です」

「分かりました。すぐに買ってきますね」

 

 彼女は席を立って、自販機の並ぶスペースに向かう。そして二つの容器を持って帰ってきた。

 

「どうぞ」

「ありがとうございます」

 

 渡されたのは普通のペットボトルのお茶だ。礼を言って受け取り、キャップを空けて軽く一口飲んだ。

 

「この後の詳しい予定を聞いてもいいですか? テストを受けるとは聞いたのですが、具体的に何をするのかは知らないんです」

「そうだったんですか? ……えっと、この後15時から基地にある異界で素材採取と間引きの任務があります。継国さんにはその任務を行う小隊に同行していただくことになりますね」

「あれ? 結構時間が空くんですね」

 

 15時と言えば午後3時だ。今から2時間近く先だった。というか指定時間よりも1時間遅い。

 

「その前に継国さんがどれだけ戦えるのかを確認したり、ブリーフィングで色々と説明させていただく予定なので」

「なるほど、そういうことでしたか」

 

 得心したと私は小さく頷いた。

 

「あっ! 申し遅れました。私はC級の桜田 綾と申します。本日は継国さんの案内を頼まれました。よろしくお願いします」

 

 自分が名乗っていないことに気づいたのか、慌てた様子で自己紹介する女性隊員――桜田。

 

「ご丁寧にありがとうございます。継国 三千桂です。こちらこそ今日はお世話になります」

 

 無難な挨拶を交わす。

 ところでさっき、気になる単語があったな。“しーきゅう”って何のことだろう。C級? 階級みたいなものなんだろうか。

 

「すみません、C級ってどういう意味でしょうか」

 

 分からない事は直球で聞いてみる。

 

「ああ、それはですね――」

 

 桜田の説明によると、討伐隊の隊員は強さによってランク分けされているのだという。

 基本的にはこのランクが高いほど強く、昇進も早いし多くの給料を貰っているのだとか。

 

 D級:新隊員教育隊に所属する訓練生。

 C級:LV13前後。約6万名。実力的には中堅と言われるが、数の上での主力はこの層らしい。

 B級:LV20前後。約400名。精鋭。中隊や大隊の隊長格。

 A級:LV26前後。約30名。最精鋭。一般兵(C級)からしたら雲の上の存在だとか。

 S級:LV32前後。現在2名。切り札的存在。

 

 という感じらしい。

 

「なんだか……C級とそれ以上の人の数が随分と違いますね?」

 

 思った事を尋ねると、桜田は少しだけ表情を曇らせて答えた。

 

「はい。それが……才能の差ですね。レベルが同じでも、スキルと異能の有無で実際の戦闘力には大きな差が生じてくるんです。“持っていない”私達みたいな凡人では同レベル帯の悪魔ですら強敵で、それを打倒するには装備の質と仲間の数に頼るしかないんです」

 

 なんでも討伐隊は基本、小隊(30名)か分隊(10名)単位で運用されて、集団戦で少数の悪魔を圧倒することを旨とするらしい。

 兵数が多い方が有利という当たり前の法則だ。基本を忠実に守り、安全マージンを取って消耗を抑制しているという。

 

 しかし安全の代償として、経験値効率は極度に低下するようだ。

 レベルアップとは苦難によって齎される、魂の研鑽だ。

 現代技術の粋を集めた最新装備で武装して、頼りになる大勢の仲間と共に悪魔を狩る。

 それは大して刺激のない作業で、続けていれば成長は鈍化していくことになる。

 

 かといって、敢えて身を危険に晒すのはリスクが大きく。またリターンも釣り合わない。

 レベルが上がったところでステータスが若干増加するだけで、ゲームのようにスキルを覚えるわけではない。

 レベルアップは確かに人を強くする。しかし劇的な成長を約束するモノではなかった。

 

 より上を目指すのなら強力な異能の習得が不可欠だが、そう簡単に身につくものではないようで、中々難しい問題のようだ。

 有用な異能を初めから持っていたり、スキルを覚えるのが早い才能ある人は、個人戦力でも同レベル帯の悪魔に引けを取らず、少数でも戦える。エース級の存在だ。

 戦場において非常に頼りになる存在で、活躍度合いも他の隊員と比べて抜きん出ている為、自然とレベルアップ速度も早まるらしい。

 そういった人材が、将来B級やA級になれる逸材だという。

 そうした才覚を持った人物であると、私は期待されているようだ。

 

 ちなみにA級とS級の大半は例の石巻異界に張り付いているらしい。

 10年前はもう少し上位の層が厚かったようだが……。

 

「それだけの戦力があっても攻略できなかったんですか。石巻異界の悪魔はそんなに強いんですか?」

「出現悪魔の平均レベルは20ぐらい、異界の主のレベルは30以上だったようです。C級以下は戦力外ですし、異界内部は広く、ボスの取り巻きにも苦労したそうで……。私は直接行った事はありませんが、伝え聞く話ではかなり大変みたいです」

 

 平均レベル20って結構やばいな。

 今の私が行っても普通に死にそうなレベルだ。

 

「……来年には攻略が予定されているんですよね? 大丈夫なんですか?」

「もちろんです。10年前の失敗であれやこれやと言われる事はありますけど、我々も無能ではありませんから」

 

 精鋭戦力は10年前の水準に回復しつつあり、異界のマッピングや出現悪魔の耐性、スキル構成など、相手の情報を事細かに調べ上げて入念に対策と準備をしているそうで、討伐隊としては確かな成算の下、実行される作戦のようだ。

 

「そうなんですか。安心しました」

 

 ちゃんと成功しそうで良かった。

 失敗を払拭する為に無理攻めを強行することなく、戦力を立て直す為に10年もの間、耐え忍ぶという選択を取れるだけの理性もあったわけだし、これは期待できそうだ。

 

 そんなことを話していると、私たちに近づいてくる人がいた。

 討伐隊の戦闘服を着た壮年の男だ。

 服の上からでもはっきりと見て取れる、鍛え抜かれた筋肉の厚み。

 重心にブレのない綺麗な歩き方は、何らかの武術を修めていることを感じ取れた。

 歴戦の猛者を思わせる風格だ。

 カミソリのように鋭い眼差しを向けられて、私は思わずソファから腰を浮かせた。

 

「中隊長!? どうしてこちらに?」

 

 私の向かいにいた桜田は、その人物を視界に入れるなり慌てて立ち上がると、直立の姿勢を取って困惑したように声を上げた。

 

 中隊長というと、この人が討伐隊でも数少ないB級隊員の精鋭か。

 確かに、その辺にいる隊員よりも強い圧を感じる。

 胸元の名札には『武槍(TAKEYARI)』と書かれていた。よく見ると階級章とか徽章も他の人と違うし、なんか多い気がする。

 

「ああ、急に来てすまんな。楽にしてくれ」

「は、はあ……」

 

 そう言われても、という困った顔を桜田は浮かべた。

 武槍がソファに腰を下ろす様子は無く、立ったままの上司の手前座り直すこともできず、桜田はぎこちないながらも休めの姿勢になった。

 

「彼女が噂の逸材か?」

「はい、その通りです。名前は継国 三千桂さん。日本生まれの日本育ちで、今年19歳になるそうです」

「ご紹介に預かりました、継国 三千桂です。よろしくお願いします」

 

 もしかしたらこれから私の上司になるかもしれない人だ。失礼がない方がいいだろう。

 流れに乗って自己紹介して頭を下げる。

 

「ほう、中々可愛らしいお嬢さんだな。だが……」

 

 突然、武槍の体から闘気が膨れ上がった。こちらに仕掛けてくるような動きを見せられて、私は咄嗟に反応して応戦の構えを取る。

 予想した通りそれはただのフェイントで、それ以上何かをしてくる事はなかった。

 武鎗は私の動きを見てニヤリと口角を上げると、ふっと圧を霧散させた。

 

「いい反応だ。なるほど、前情報に偽りはなさそうだ」

 

 嬉しそうな様子で厳めしい顔を緩めて、武槍は右手を差し出してくる。

 私もその手を握り返して軽く握手した。武人を思わせるゴツゴツした掌だった。

 

「突然失礼した。驚かせてすまんな。俺は武槍(たけやり) 忠嗣(ただつぐ)だ。B級で中隊長をしている。期待しているぞ。よろしく頼む」

「ありがとうございます。ご期待に添えるよう努力いたします」

 

 ひとしきり挨拶を交わすと、武槍は桜田の方に向き直った。

 

「彼女の実力テストはまだ終えていないよな?」

「はい、予定ではこの後……」

「では俺が相手をしよう。グラウンドで待つ。準備を済ませたら連れて来てくれ」

「え! 中隊長!?」

 

 それだけを告げると武槍はラウンジを後にしていった。桜田の困惑の声にも振り返ることすらしなかった。

 

「えっと……私はどうすれば?」

 

 このままあの人の後をついていけばいいんだろうか。それとも何かしら準備が必要なのか?

 そうした疑問を籠めて桜田に問いかけると、彼女は口元に手を当てて少し考え込んでから言葉を発した。

 

「……まずは戦闘服に着替えましょうか。付いて来てください」

「了解です」

 

 上官を待たせることになった焦りからか、足早に動き出した桜田の背を私は追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 BDU(戦闘服)の上から各種防具を身に着けて、今からでも異界に行けるような完全装備の状態で、私は駐屯地のグラウンドに立っていた。

 

 完全装備なのは防具だけ。武装は木刀で、これから行われるのが模擬戦である事を示していた。

 

 なにが始まるのかと、遠巻きに眺める観客もちらほらといる。

 その中には、落ち着かない様子でこちらを眺める桜田の姿もあった。

 

 正面。数メートルの距離を開いて対峙するのは、こちらもまた討伐隊の防具を身に纏い、先端にクッションが巻かれた訓練用の槍を持った武槍だ。

 少し腰を落として槍を構える姿は隙が無い。

 レベルアップによって手にした単純な力だけではなく、優れた武術の使い手であることが伝わってくる。

 

「いつでもいいぞ。好きなタイミングで仕掛けてくれ」

 

 くぐもった声で武槍が言う。

 両者共に、面頬のようなフェイスガードに厳つい防弾ゴーグルを装着しているので、表情は窺えない。

 先手は譲ってくれるようだ。

 

「……行きます」

 

 一応宣言してから動き出す。

 まずは様子見から始めよう。

 大丈夫だと思うが、いきなり全力でやって、万が一にも反応できずに怪我でもさせたら大変だ。

 相手の力量を確かめてからでないと、こちらとしても安心して本気は出せない。

 

 呼吸の型は使わず、素の状態で出せる全力で踏み込んだ。

 一息の内に距離を詰める。常人ではまともに反応することは不可能な素早い突撃だ。

 しかし武槍は、私の動きに遅れることなく対応していた。

 

 剣と槍では、槍の方がリーチは長い。

 中段に構えられ、突き出された穂先は前に進むのに邪魔だった。

 強引に道を開かせるべく、穂先に向かって横から木刀を木槍に叩きつける。

 

 硬い木と木がぶつかり合う甲高い音が、広々としたグラウンドに響き渡る。

 跳ね上がる槍だが、しかし手応えは薄かった。恐らくは力に逆らわず、わざと槍を振り上げたのだろう。

 ゴーグル越しに一瞬視線が交わり、その予想は確信へと変わった。

 

「ぬうん!」

「っ!」

 

 間髪をいれずに振り下ろされる槍を、横に飛び退いて回避する。

 距離を開けて仕切り直しとはいかず、瞬く間に追撃が繰り出される。

 どうやら譲るのは先手だけだったらしい。

 地面から掬い上げるように高速で迫りくる穂先。私は冷静に軌道を見切り、半身になって避けた。

 

「やるな! ならば速度を上げるぞ!」

 

 どこか楽し気に武槍は叫ぶ。言葉の通り、攻撃の手は激しさを増した。

 

 息つく間もなく繰り出される連続突き。

 強化された私の動体視力をもってしても霞む速度のそれを、勘を頼りに木刀を振るって穂先を弾き、軌道を逸らして対処する。

 隙を見て前進したいところだが、槍を突いて引くという動作がとんでもなく素早く精練されており、まるで付け入る隙が無い。

 無理やり突っ込んでいけば痛手を負うことは明白だった。

 

 こうなると先手を譲られたにもかかわらず、それを活かしきれずに間合いから追い出されてしまった事が悔やまれる。

 完全に攻撃のターンがあちらに移ってしまった。

 模擬戦とはいえ、負けるのは悔しい。

 どうにかここから反撃したいところだが……。

 

 猛攻を凌ぎながら逆襲の糸口を探す私をよそに、このまま決め切ろうという心算だろうか、武槍の身体に更なる闘気が満ちる。まるで相手が一回り大きくなったかのようなプレッシャーを感じた。

 

「おおおおッ!」

「ッ!?」

 

 裂帛の気合が武槍の口から洩れる。

 何か大技が来る。考える間もなく本能的に飛び退り、とにかく距離を取ろうとした。

 果たしてその判断は正しかった。

 

 地を震わすような踏みつけからの、前方範囲全てを打ち払うが如く大振りの一閃。

 空間が薙ぎ払われる。そう錯覚するほどの一撃だった。

 

 振るわれた槍を完全に躱せる位置にいたにも拘わらず身の危険を感じた私は、咄嗟に木刀を正面に翳して防御の体勢をとった。

 その後起きた出来事に、私は目を見開いて驚いた。

 指向性のある衝撃波が木刀を叩き、私の体を大きく弾き飛ばす。

 飛ぶ斬撃。そう形容するしかない現象だった。

 

「くっ」

 

 衝撃に押されて大地から足が離れ、宙に浮いた体だが、しっかりと地面を踏みしめて着地する。

 少しばかり押し流されたが、びっくりしただけで負傷はない。それ以上の追撃もなく、距離を開けて仕切り直す形になった。状況的には悪くない。

 

(今のは一体……)

 

 明らかに物理法則を逸脱した超常的な現象だった。

 何かの異能か、それとも修練によって身に着けたスキルによるものか。

 どちらにせよ驚いた。どうやら私は相手を過小評価していたらしい。

 

 身体能力はほぼ同等。槍を操る技量は達人の域に達しているだろう。その上で何らかの力を持っている。

 なるほど、これが討伐隊の精鋭。B級の実力か。数が少ない理由も分かる。

 こんな熟練者、育てようと思って育てられるようなものでは無いのだろう。むしろこの領域に至っている現役の人間が、日本に400人以上いることの方が驚きだった。

 

「いい動きだ。目が良くて勘も鋭い。A級……ともすればS級の器かもしれん。今のでも十分合格だが……全力の動きが見たくもある。継国、次は本気で向かってこい。手加減は不要だ」

「……はい」

 

 どうやら初めに手を抜いた事は見抜かれていたらしい。

 なら、希望通り見せてやろう。

 私が今できる全力の動きを。

 

「ほおおぉ……」

 

 深く深く呼吸する。

 取り込んだ酸素を血流に乗せて、体の隅々にまで行き渡らせる。

 筋肉の筋から血管の1本1本に至るまで意識を巡らせて、肉体を掌握する。

 

 私から只ならぬ気配を感じ取ったのか、相対する武槍に緊張が走ったのを感じた。

 受けの姿勢は万全のようだ。生半可な攻撃では防がれ、カウンターを食らうだろう。

 だが小細工は必要ない。正面から食い破ってやるという強い気持ちを持って、相手を見据えた。

 

 ――(いち)の型 闇月(やみづき)宵の宮(よいのみや)

 

 足元が爆発したかのようなロケットスタート。

 瞬きよりも速く、数メートルの距離を0にする。

 私が仕掛け、相手が受ける。

 最初の構図と同じだが、その速さは前回を大きく上回っていた。

 

「ぬッ!?」

 

 身構えていても意表を突かれたのか、武槍の反応は僅かに遅い。

 前回と同じように、突き出された槍をへし折る勢いで横合いから木刀を振りぬいた。

 今回は手応えがあった。受けきれなかったのか、槍が跳ね飛ばされて体が泳ぐ。

 相手は後ずさりながら急いで槍を引き戻そうとしている。だが私の方が一手早い。

 

 ――(さん)ノ型 厭忌月(えんきづき)(つが)

 

 三日月が煌めく様が幻視されるような、目にも止まらぬ速さで繰り出される2連撃。

 一撃目で槍を保持する腕を叩こうとして、直前で察知したのか武槍は槍から手を放して引っ込めた。

 手傷は避けたが、しかし無手になってしまった武槍。

 空いた胴目掛けて木刀を振るい――急制動をかけて、打つ直前に寸止めする。

 

「ぐっ……」

 

 勢いを完全に止める事は出来なかったが、攻撃を受けた武槍は軽く呻いただけで、痛手を受けた様子には見えなかった。怪我はないだろう。

 

 カランと地面に槍が落ちる。

 私が勝つとは思っていなかったのか、周囲のギャラリーがざわめているのが聞こえてきた。

 しばしの沈黙の後、フェイスマスクを外した武槍は潔く負けを認めて礼をした。

 

「まいった」

「ありがとうございました」

 

 内心でよし! とガッツポーズしたくなる達成感があるが、そんな喜びの感情を表に出さないようにしながら、私は礼を返した。

 

「素晴らしい腕前だ。感服したよ」

「ありがとうございます。武鎗さんこそ見事な技前でした。特にあの薙ぎ払いは本当にびっくりしました。あれはスキルですか?」

「そうだな。そのまま『なぎ払い』と呼ばれているスキルだ」

「なるほど……」

 

 ああいう分かりやすい物理系のスキルは初めて見た。九十九針とかの射撃系スキルは例外として。

 多分ひっかきとか突撃とかも使われた事があるんだけど、近接スキルだと普通の攻撃といまいち見分けがつかないんだよな。

 

「お前も何か使っていたのか? 最後の動きのキレは凄まじかったが」

「はい。スキルというか、技みたいなものを」

「なるほどな……。素の技量も非常に優れていた。剣はどこで学んだ? 流派を聞いてもいいか?」

「あー、えっとそれは……我流、のようなものです」

「我流だと?」

 

 語気が強めの問い返しに若干心が揺さぶられるが、堂々と真実と嘘を織り交ぜた作り話を口にする。

 

「色々と参考になる動画を見たりしましたが、直接誰かに師事したという事はありません。強いて師匠を上げるなら架空の人物になるかもしれません」

「……架空の人物?」

「はい、鬼滅の刃って知ってますか? 私、あれに凄いはまっちゃって。全集中の呼吸とかできないかなーって試してたらなんかできちゃって! 特に黒死牟ってキャラが強くて好きでマジリスペクトで。月の呼吸って型を使うんですけどそれを頑張って再現して――」

「そ、そうか。なるほどな。わかったからもういい」

「――はい、好きな事の話になるとつい口が軽くなって。失礼しました」

 

 若干引き気味に話しを止められる。

 つまり天才タイプか。そう武槍がぼそりと呟いたのが小さく聞こえてきた。勢いで誤魔化す作戦は成功したようだ。

 

「君は実戦に耐えうるかどうかを測るためにここに来ていたんだったか?」

「はい、そのように聞いています」

「そうか。予定ではこの後、異界探索に向かう小隊に君を伴わせて適性を見る手筈だったそうだが、そんなことをするまでもなく合格を言い渡させる強さだ。どうする? このまま帰るか?」

「え? それでいいんですか?」

「ああ。これでも一応中隊長だからな。君からしたら頼りないかもしれんが、俺も討伐隊ではそれなりの実力者でな。それぐらいの権限はある」

「いえ、頼りないだなんて、そんな事は……」

 

 冗談のような物言いだったが、どう反応したものかと困っていると、唐突に武槍は厳めしい顔をほころばせて笑った。

 

「ははは、冗談だ。そう畏まらんでいい。悪魔との最前線に立つ討伐隊では強さこそが尊ばれる。実力的にも階級的にも、君はすぐに俺より上に行くだろう。もっと堂々とするといい」

「は、はあ……」

「それでどうする? 今日はこのまま帰るか?」

 

 そう問われて、虚空を見上げて私は思案する。

 さっさと帰ってもいいが、討伐隊の仕事を体験したくもある。比重で言えば圧倒的に後者が上だ。

 あまり迷う事もなくお願いする。

 

「ご迷惑でなければ、ぜひ任務に同行したいです」

 

 

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