メガテン新作ゲーム……?   作:せとり

25 / 27
体験入隊

深く暗い森の中。

 静寂を切り裂くように、腹に響くようなエンジン音を轟かせて、装輪装甲車が列を成して走っている。

 まるで軍隊の行軍だ。

 

 周りにいるのは私を含め、ガチガチの戦闘装備に身を包んだ兵士たち。

 私は装甲車の中、小さくも分厚い車窓からぼんやりと外の様子を眺めていた。

 

 ここは基地内にある異界の中だ。

 夜のように暗いが、実際に夜になるまで時間が経過した訳ではない。

 辺りが暗いのは異界の特異な環境によるものだ。この異界内の時間は常に夜で固定されているという。

 異界の外はまだまだ明るい時間帯だった。異界内に一歩足を踏み入れた瞬間、辺りが暗くなった時は大層驚いたものだ。

 

 しかし意外に夜目が利いたので、その環境にあまり不都合は感じなかった。

 異能者はレベルが上がると単純なステータスだけではなく、生物的なあれこれも強化されるらしい。目が良くなり夜目が利くようになるのもその恩恵だとか。

 

 とはいえ流石に昼間のように暗闇を見通すとまではいかないので、車両や個人装備の強力なライトが複数存在して辺りを照らしているし、あまり前に出ることが無いという狙撃手の人は暗視装置を装備している。

 複眼タイプで暗視スコープが扇状についており、どことなくロボっぽさがあってカッコいい。

 1度試しに付けさせてもらったけど、かなり遠くすら細部まで見通せてすごかった。

 ただ身に着けるとどうしても邪魔になるので、前衛が付ける装備ではなそうだった。

 

 もはや国内には残っていないだろう、原始を思わせる太く巨大な木々で構成された鬱蒼とした深い森。夜空には巨大な月が浮かび、自己主張の激しい無数の星々が好き勝手に煌めいていた。

 現実から切り離された別世界。まさに異界という表現が相応しい場所だったが、幻想的なのは景色だけで、入ってみれば案外ただの普通の森だった。

 

 未開の森を切り開く作業は先人たちがやってくれていた。

 既に異界内はマッピング済みで、その地形は隅々に至るまで把握している。

 さらには車が通れる道まで整備済みだ。流石に舗装はされてないが、不整地に比べれば砂利道でも十分快適だった。

 聞けば異界の主も封印して管理下に置いているという。この異界は完全に討伐隊によって実効支配されているようだ。

 

 なんか思っていたのと違う。

 実質的に領土化してないかこれ。異界植民地だ。

 

 異界のランクはそれなりに高く、出現する悪魔の平均レベルは10前後。

 このレベルだと一般に開放するには危険すぎるので、駐屯地を併設して厳重に管理しているらしい。

 潰さないのには理由がある。

 異界は悪魔が湧いて危険だが、リスクだけの存在ではなく、リターンもまた存在するのだ。

 

 異界は霊的存在に満ちている。魂を磨く修行の場として最適だし、魔界化が進行した異界では、環境の変化によって魔化された産物を得られるようになり、人間にとっても有益な物質があちこちに転がる宝の山でもあった。

 

 この暗い森の異界では、主に医薬品、傷薬や痛み止めなどの原料である薬草が豊富に入手できるらしい。

 

 装甲車が群を成して移動していればさすがの悪魔も手を出してこないようで、殆ど戦闘は無かった。

 たまに近くに見えた悪魔も、銃座の機関銃や擲弾銃をぶっ放したり、装甲車の銃眼から発砲することで追い散らされている。

 

 銃を持たない近接装備の自分では、今のところ何かする必要はない。

 降車するまで出番はなさそうだし、降車してからも活躍する機会があるかは疑問だった。

 

 ブリーフィングでの説明によると、異界内にある有望な採取地を巡り、その後は森に逃げた悪魔を追いかけて、ある程度間引いてから帰還するそうだ。

 私の仕事は、素材採取を行う隊員の護衛と、間引きの際の前衛役だ。

 

 ちなみに戦力としては、1個小隊約30名が、乗員10名の装甲車6両にそれぞれ分乗している。

 車両は大型サイズの上に定員を大きく割っている為、車内はかなり広々としていた。

 

 装甲車は、まるで砲塔のない戦車に装輪が付いたようなゴツい見た目をしている。

 車体を覆う分厚い複合装甲によって、全周に渡って20ミリ徹甲弾に対して抗堪性を持つという頼もしさ。

 悪魔が跋扈する異界内部でここまで安心できるのも、装甲車に守られているお陰だった。

 

 そこまでするならもういっそ戦車で戦えばいいじゃんと思うのだが、どうもそうは問屋が卸さないらしい。

 

 霊力の籠っていない攻撃は悪魔に対して有効打にならない為、高度に機械化された砲や機銃、ロケット弾や大量破壊兵器では悪魔を倒せないのだ

 

 異能者が直接、手動で装填、照準して発砲することで戦力化できる兵器もあるが、そういった大型兵器は小回りが利きづらい。攻撃目標の小ささと機動性、そして費用対効果が問題になってくる。

 

 討伐隊の機械化を進めて部隊の戦闘力を高め、隊員の損耗を減らすという計画もあるようだが、実現には様々な技術的問題があり、結局は歩兵戦力が一番効率的という結論になるらしい。

 とはいえ異界ごと悪魔を消し飛ばすような大火力兵器の需要は当然ある。政府は多額の予算を付けて、そうした兵器の開発も継続しているそうだ。

 

『そろそろ採取ポイントAに到着する。降車の用意を』

 

 ヘッドセット越しに小隊長から無線による指示が聞こえてきた。

 

「聞いたな? 総員降車準備。止まったら降りるぞ」

「了解」

 

 班長が指示を出し、車内が若干慌ただしくなる。

 

「継国は……そうだな。前衛に出番はないだろうから桜田と一緒に後ろからついてこい。任せたぞ桜田」

「はっ、了解しました」

 

 隣に座っていた桜田が頷く。

 正規部隊だけでもこの異界内で活動する十分な戦力があるので、私の事は完全にお客様扱いだった。

 桜田の手引きに従って、討伐隊のキビキビとした動きを特等席から見学する。

 

 居残り組と採取組、隊を2つに分けると、道から外れて森の中へと入っていく。

 少し進むと、足元に黄色の花や、白い花がまばらに咲いているのが見えた。

 あれが目的の薬草だと、隣を歩く桜田が小声で教えてくれた。

 

 黄色の花が傷薬となり、白い花が痛み止めの原料となるようだ。

 黄色の方は葉物野菜のように葉っぱが大きいが、白い方は葉っぱは鋭くギザギザしていてどことなく大麻っぽさを感じる。

 処理をしないと危険だから白い花の植物は絶対に口にしないようにと注意されているので、多分その想像は間違っていない。麻薬みたいな成分があるんだろう。

 

 さらに進むと、巨大な木々の根元で咲き誇る小規模な花畑が現れた。薬草の群生地だ。

 花の匂いなのか、どこか甘い香りが漂ってくる。

 

「C班は薬草の採取を。A班とB班はその護衛だ」

「了解」

 

 小隊長の指示によって、花畑を囲むようにA班B班の面々が分散して陣形を組んで警戒にあたる。

 私たちの班は薬草採取が命じられた。

 採取道具が入っていたのだろう、一人だけ違う荷物を持っていた隊員がバッグを広げて中身を配り始めた。

 渡されたのは、草刈り用の手鎌と半透明のポリ袋。

 

「これでどうすればいいんですか?」

 

 具体的な採取の仕方を教わるために横にいた桜田に尋ねると、彼女はさっそく実演を交えて説明してくれた。

 花畑の端でしゃがみ込むと、地面から生えた薬草を無造作に束ね持ち、手にした鎌で収穫する。

 

「こういう風に根元から少し上の所を刈って、根っこは残してください。土はできるだけ払ってあまり地面に触れさせないように。後は種類別に分けて袋に入れてください」

「わかりました。見えてる花は全部収穫していいんでしょうか?」

「そうですね。こうして根を残しておけばまた生えてくるので。手当たり次第に刈ってしまって大丈夫です」

「了解です」

 

 大して気を付けるべき点もない単純作業のようだった。

 まるで庭の草刈りのように、黙々と手を動かして薬草を回収していく。

 同じ花同士で密生しているので、いちいち選別する必要もなくて楽な作業だった。本当に草を刈ってポリ袋にしまうだけ。

 

 周囲に護衛がいるので、悪魔の邪魔も入らない。

 遠目に悪魔を見つけて威嚇でもしているのか、散発的に射撃の音が聞こえてくるだけで本格的な戦闘は起きていないようだ。

 

 数人の大人の手にかかれば、小規模な花畑はほんの10分程度で狩りつくされた。

 

「よし、こんなものでいい。撤収するぞ。袋を閉じろ」

「了解」

 

 密集して生えていた薬草はあらかた収穫し終え、残りは疎らに生えた花だけとなった。青臭い匂いが鼻孔を抜けていく。

 これ以上は効率が悪いのか、次の収穫地に向かう為にもさっさと撤収するようだ。

 草刈り鎌を返還し、たんまりと薬草が入った袋の口を閉じ、2つの袋を両手に持つ。

 

 全ての班員が撤収準備を完了させたのを見た班長が、周囲の警戒に当たる小隊長へと報告する。

 

「小隊長! 薬草の収穫完了しました!」

「了解。装甲車に帰還する! 警戒組は荷物を持ったA班を陣形の内側に入れて援護しろ」

「了解!」

 

 荷物と言ってもただの草の塊だ。大した重量はなく、鍛えられた異能者にとっては重さすら感じない。

 その後も大したトラブルは無く、あっさりと装甲車へと帰還する。

 

 そして次の収穫地へと移動して、3回ほど同じことを繰り返す。

 薬草の詰まった袋の荷物で何台かの車内が狭苦しくなった頃、ようやく採取が終わった。

 一度基地に帰還して荷物を降ろした後、再び暗い異界にとんぼ返りする。

 そして異界内の悪魔の間引きが始まった。

 

 自然湧きする悪魔を適度に間引かないと、数が増えて単純に危険だし、GPが上昇して異界がさらに拡張されてしまうことも起こりかねない。

 経験値稼ぎとマグネタイト回収も兼ねて、それなりの頻度で定期的に行っているらしい。

 

 異界内のマグネタイト量を調整する事で、悪魔の出現をある程度コントロールすることも可能なようだが、マグを減らせば異界が縮小していってしまうし、外部からマグを加えて湧きを早めても、悪魔を倒して回収できるマグにはロスが発生するので養殖も成り立たない。

 異界管理もなかなか大変なようだ。

 

 あまり人数が多いと悪魔が逃げてしまうとのことで、10人の分隊ごとに分かれてそれぞれの担当のエリアへと向かう。

 

 そこでもまた隊を分けるようだ。

 森に入る班と、道に停めた装甲車で待機する班。

 森侵入組が悪魔を探して戦闘に入り、倒せるようならそのまま倒す、厳しそうなら無理せず装甲車の元へと下がり、待機組に加勢してもらうという戦法のようだ。

 

 戦闘の機会が多いのは、断然森へと入る班だろう。

 できればそちらに加わりたいと私が志願すると、希望通り森侵入組へと振り分けてもらえた。

 ようやくまともな戦闘を経験できそうだ。気を引き締めよう。

 

 少数のメンバーと共に森に入っていく。

 道からそれなりに離れると、後ろを振り返っても同じような木々が立ち並ぶ光景しか見えなくなる。

 レーダーマップや通信などの電子機器が無ければ方向を見失いそうなほど深い森だった。

 

 ヘッドライトや、銃に取り付けられたフラッシュライトで周囲を照らしながら先に進む。

 それなりに夜目が利くとは言え、光源があった方が見やすいからだ。

 強力な光で周囲を照らす様は遠くからでもよく目立ち、悪魔を引き寄せる事にもなるが、交戦が目的のこちらとしても、それは望むところだった。

 

 横から悪魔の気配を感じて視線を向けるのと同時、同じ方向を向いていた班員の一人が叫んだ。

 

「右手に悪魔を確認! 警戒を!」

 

 声に従い、班員が一斉に右手側を警戒する。

 複数のフラッシュライトに照らされて、遠くの茂みから複数の悪魔の影が見えた。

 獲物目掛けて走り出す獣のような速さで、立ち並ぶ木々の間をすり抜けるようにしてこちらへと近づいて来ている。

 

「敵悪魔は5体のようです!」

「応戦しながら退くぞ! フォーカス合わせ、手前からだ!」

「了解!」

 

 一斉にアサルトライフルを構えた4人の隊員。4つの銃口が火を噴き、先頭を走る一体の悪魔に無数の弾丸が雨霰と降り注ぐ。

 5-6発に1発の割合で曳光弾が混じっているのか、夜闇に赤い線が浮かび上がって銃弾の軌道が分かりやすい。それぞれの狙っている対象を軌跡によって示すことで、隊員同士の連携を取りやすくしているようだ。

 4人のフォーカスを一身に受け、銃撃の嵐に晒されて無数の手傷を負った先頭の悪魔は、堪らず身を翻して後方へと逃れていった。

 銃撃も追いすがるが、悪魔はジグザグに走って木の裏へと隠れてしまい、仕留めきる事ができなかったようだ。

 

「次! 同じく手前から!」

 

 逃げた悪魔に拘泥することなく、班長は即座にターゲット変更の指示を下す。

 乱れることなく班員たちも追従し、狙いは即座に別の対象へと移される。

 

(すごい。良い連携だ)

 

 よく訓練された兵士たちだと、私は感心して彼らの戦いぶりを眺めていた。

 自分も戦いに加わりたいところだったが、不用意に切り込んでも邪魔になるだけだ。

 近接装備の前衛がやるべきことは、事前にレクチャーを受けていた。

 

 前衛が正面から悪魔を受け止めフロントラインを形成。そして左右に展開した後衛が十字砲火を浴びせる。

 それが討伐隊の基本戦法だ。

 

 突撃してくる悪魔達を受け止めて、自分にフォーカスを集めて後衛たちをフリーにする。

 それが私に期待される役割だろう。

 前衛が自分1人という訳ではなく、銃剣装備の班員が他に2人いる。彼らと共に前線を構築する感じだ。

 

「敵魔法攻撃来ます!」

「散開! 遮蔽に隠れろ!」

 

 相手もやられるばかりではなく、銃撃に負けじと魔法を放って牽制してくる。

 強力な衝撃を伴う突風に、稲妻の如き電撃が、咄嗟に大木の裏に隠れた隊員たちを襲う。

 木々が薙ぎ倒され、地面が焦げ付くが、隊員に大きな被害はなさそうだ。

 

 魔法と銃弾が交わされる中、果敢にも2体の悪魔が突撃してくる。

 一見すると毛むくじゃらの黒い犬だ。しかしその体躯は雄ライオンをも上回る巨大さだ。

 まさに魔獣と呼ぶにふさわしい外見。それはヘアリージャックだった。

 

(物理型の悪魔で素早さが高い。物理・氷結耐性。電撃弱点。……だったかな)

 

 この異界で出現する悪魔の情報は、ブリーフィングで教えられていた。

 物理耐性持ちだが、その為の対処法も勿論用意されていた。

 

 腰のベルトに固定されたホルダーには、3本の刀が吊るされている。

 それぞれ物理、電撃、火炎の属性を持つ。弱点攻撃用にと渡された魔晶武器だ。

 

 その他にも、精神耐性を付与するアミュレットや、呪殺や破魔などを防いでくれる護符、傷薬やペインキラーの入った救急キットなど、様々な装備が与えられている。

 それは私だけではなく、隊員全員に等しく与えられた物だ。

 潤沢な物資に、丸裸な敵情報。頼りになる大勢の味方。これだけの好条件が揃っていて負ける気がしなかった。

 

 ちなみに銃にエンチャントを施さないのは、銃に属性を付与しても直接殴ることでしか効果は発揮されず、銃撃した弾には効果が及ばないからだという。

 射撃に属性を付与したいのなら、弾丸自体に貴重な魔晶を使って加工する必要がある。

 しかし1つの魔晶で加工できるのは、精々マガジン1つ分で、しかも飛んでいった弾を回収することはできないので使い捨てることになる。

 

 それでも属性弾は有用であるため、それなりに生産されていて備蓄もそこそこあるようだ。

 しかしそれはいざという時の為に用意しているとっておきの物資であるので、こうした平凡な任務では絶対に使用しないらしい。

 

「継国! 一体を任せていいか!?」

「はい、任せてください」

「無理はするなよ! こっちを終わらせたらすぐ加勢する!」

 

 近くにやってきていた前衛の2人は、急いで突撃銃の先端に電撃属性の銃剣を取り付けていた。

 私が1体を受け持ち、他2人がもう1体を相手にする形のようだ。

 無理をするなと言われたが、別にささっと倒して私があちらに加勢しても構わないだろう。

 電属性の刀を抜いて、ヘアリージャックを迎え撃つ。

 

 人の身の丈程の体高がある獣が牙を剥いて猛スピードで迫ってくる様は、中々迫力がある。

 しかしどんなに体が大きくとも、それは私よりも弱い。

 何も考えず、全速力で飛び掛かってくる巨大な獣はいい的だった。

 

 ――()ノ型 珠華ノ弄月(しゅかのろうげつ)

 

『■■■ッ!?』

 

 逆袈裟による3連撃。闇夜の中で三日月が踊る。

 雷光を纏う刀で深々と体を切り裂かれ、弱点を突かれたのも相まってヘアリージャックは断末魔の悲鳴を上げて消えていく。

 返す刀で、他の隊員が相手をしていたもう1体のヘアリージャックの背後を襲う。

 後ろに振り向かせる間もなく刀を振るい、突撃してきた2体の悪魔は何もできずに消滅していった。

 

 残りは、後衛と魔法を撃ち合っている2体と、負傷した悪魔が1体。

 いや、負傷していたはずの悪魔の傷が癒えている。どうやら自身か仲間の魔法によって治癒したようだ。

 

(キキーモラにハイピクシー、イナバシロウサギか。それぞれ衝撃、銃撃、火炎が弱点だったな)

 

 自分が有利に戦えるのは火弱点のイナバシロウサギだろう。

 銃弱点のハイピクシーは他の隊員に任せればいいし、キキーモラも後で囲んで叩けばいい。

 瞬間的にこの戦闘の畳み方を考えて、私は味方に向けて声をかけた。

 

「班長! 兎は私に任せてください!」

「……いいだろう! ただしあまり前に出過ぎるなよ!」

「はい!」

「各員は兎以外の悪魔に向けて制圧射撃! その場に釘付けにしろ!」

「了解!」

 

 班員たちの援護によって、2体の悪魔は木の影から出てこれないようだ。

 意図的に作り出された1対1の状況を活かすため、私はイナバシロウサギの下に走り出した。

 相手もそれなりに反応が良い。私が駆け出した次の瞬間には、奴もまた背を向けて逃げ出していた。

 だが追いつけない速さではなかった。

 

 ――(いち)の型 闇月(やみづき)宵の宮(よいのみや)

 

 爆発的な脚力で距離を縮め、追いつきざまに一閃。

 もちろん使用したのはイナバシロウサギの弱点である火属性の刀だ。

 イナバシロウサギの体は両断されると共に燃え上がり、マグネタイト結晶を残して消滅した。

 

 何の被害もなく3体の悪魔を殺して、戦闘の趨勢は決した。その後はもう作業だ。

 班員の援護を受けながらキキーモラを倒し、逃げ出そうとしたのか木の影から飛び出たハイピクシーを班長が撃ち抜いて、墜落したそいつは銃撃の雨を浴びて消滅していった。

 

「継国、よくやった。流石だな。中隊長から一本取った実力は本物のようだな」

「ありがとうございます。しかしあれは模擬戦でしたし、あちらも手加減していましたから……」

「はは、そういう事にしておくか。怪我や疲労はしていないか?」

「はい、何の問題もありません」

「よし、ではその調子で次も頼んだぞ」

 

 話の終わりに、班長は優しく私の肩を叩いて離れていった。

 べた褒めをされて面映ゆい気持ちになる。

 

「お前のお陰で今日は楽が出来そうだ。頼りにしているぞ」

「任せてください」

 

 隊員の練度が高く、援護が的確で楽ができたのは私も同じだった。

 仮に先の集団を一人で相手にしていたら大変苦労していた事だろう。やっぱり仲間って大切だ。

 

 その後も続けて悪魔の集団を狩り、何度か繰り返したところ、携行していた弾薬が心もとないとの事で、装甲車の下に帰還した。

 補給を済ませ、班の役割を入れ替えて再出撃。

 怪我はしていないし疲れてもいなかったので、私は再度出撃組に同伴させてもらった。

 

 その後も獅子奮迅の働きを見せて、結局全ての出撃に参加した。

 分隊での合計討伐数は100の大台を超えて、うち私が止めを刺したのはその半数以上にも上る。

 

 普段では考えられないペースだそうで、実際合流した他の分隊の記録はそれよりも大分低かった。

 目立った怪我人もいなかった。他の隊ではそれなりに回復薬を消費、装備の破損もあったそうなので、そういった面でも優れた成果だ。

 飛びぬけた実力の者がいれば効率が段違いになるというのは確かなようだった。

 

 私も今日だけでレベルが2つ上がり、ようやく二桁レベルに達することができた。

 危険は少なく足も用意されて、私としても美味しい狩りだった。

 

 

 

 

 

 

 夜の森で戦闘を続けていたので時間感覚が狂いかけていたが、外に出るとまだ夕方だった。

 借りた装備を返して私服に着替え、帰路につく。

 

 世間的にもそろそろ帰宅時間だろう。どうやら基地も同じようだ。

 町から通っている人が多いのか、駐屯地から車が出て行ったり、私と同じようにバス停で待つ人もそこそこいた。

 

 バス停で待っている間、何とはなしにバッグのある部分に手が伸びた。

 そこには長方形のブロック状の、確かな膨らみが存在した。

 

「ふふ……」

 

 帰り際に基地の偉そうな人から、『手間賃』として渡された物が入っていた。

 滅多に経験できない札束の厚みに、自然と顔がにやけてしまう。

 

 後日、詳細な契約条件を決めて本格的に討伐隊に入ることになる。

 先ほどざっくりと条件を提示されたが、驚くほどの好条件だった。

 

 実力的には十分討伐隊でやっていけそうだし、金払いもいい。

 レベルを上げつつ大金も稼げる。今の私にとっての天職だ。定職に就くこともできて一安心だった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。