狂気の螺旋吸盤 作:ねっく。くらっしゃー
プロット10分。
そして、エタるまで一日……かもしれない。
運命の夜
聖杯戦争。
願いを叶える万能の器を巡って、英霊が魔術師と陣営を組んで戦う60年に一度の争い。
「みったせーみったせー、みたしてみたせー……」
今まで3度行われて、一人の勝者もなし。
だが、景品となる聖杯が内蔵する純粋で莫大な量の魔力と、願いを叶えるという特性。
それはあの錬金術の大家、アインツベルンが勝者になろうと躍起になっていることで、担保されていると言っても過言ではなく。
魔術協会から、そして聖堂教会から、この争いの度に人が派遣されるほどには、注目されていた。
しかし、その陰で聖杯は人知れずその在り方を歪ませ、参加者が前提としていた条件が狂い始める。
そして、今。聖杯の歪みを示唆する英霊とは言い難いモノが、想定外の乱入者によって呼び出されようとしていた。
「な、何?子供じゃ気に食わなかった?」
「知るか、くたばれ外道!!!」
失敗した失敗した失敗した。
頭を抱えて薄暗い下水道の壁に
目が覚めたら殺人現場にいて、男が子供をまるで茶菓子でも勧めるかのように差し出してくる。果たして、そんな状況の中で冷静で居られるだろうか。自分ならすぐにNoと答えるし、冷静で居られたところであそこでどう動けば正解だったかなんて分かるわけがない。
分かるわけがないが、現状を理解した今では、少なくとも今一番自分の首を絞める行動を取ってしまったということくらいは分かる。
本来、知らないはずの豆知識なんかまで含めた不自然に補完されている知識。体験すらしたことないはずなのに、まるで自分のことのように思い出せてしまうヨーロッパでの大義をかけた戦いや、年老いてから行われた可憐な少年達へ口にするのも憚られるような凶行の記憶。
そして、願いを叶える万能の器。聖杯。
今、自分が置かれている状況はまさに、聖杯戦争。こうなる前に見たことがある物語のfate/stay night の状況そのものだった。
第五次聖杯戦争の物語を通じて、どういうものかは知っているつもりだが、街並みが知っているものより少し古い。車が道路を走り、テレビも色がつき、比較的近代的な街並み。それと聖杯戦争開催の周期から推測するに……第四次聖杯戦争か。
正直、第五次聖杯戦争以前については殆ど知識にはない。
言峰綺礼が師匠を刺し殺したり、それに使った剣を師匠の娘に餞別として渡したり。それぐらいだ。
対戦相手の情報は、ギルガメッシュという規格外と、アーサー王という化け物が参戦しているという絶望的なものだけ。それすらも、自分が今いる世界で現実になっているのかは怪しいところだ。型月なら抑止力等の都合でそうなるように仕向けられている可能性もあるとは思うが、ここが剪定されてしまう世界でないとはとても言えない。
「しかしこのまま何もしなければ、消えてしまうのか」
そして知識どころか、マスターもいない。
何故なのか。
あまり思い出したくないので、ある部分をもう一度繰り返し、暗示するだけに留めよう。
【目が覚めたら殺人現場にいて、男が子供をまるで茶菓子でも勧めるかのように差し出してくる。果たして、そんな状況の中で冷静で居られるだろうか。】
stay nightの騎兵よろしく、魂を食らうという方法はある。
だが、外道を嫌ってマスターを殺したはずなのにそのようなことに手を出してしまっては元も子もない。
とはいえ、取れる手段を取らずに消えるのもそれはそれでまるで存在すらしなかった“神”の言う運命にでも従っているようで癪だ。
なら、どうするか。
捕らえても心の痛まない連中を捕えて、契約を強制的に結んでしまえばよろしい。意識を奪って傀儡にしてしまえば、後はなんら問題ないだろう。
やり方は、知識が教えてくれた。
盟友とやらから譲り受けた本が言うとおりにすればいい。
「と、なると誰を選ぶか」
雨竜と名乗った殺人者……正直、現界するための十分量も魔力を供給されている感覚ではなかった。恐らく、彼と組んでいたらあの子供のような者の魂を主な魔力源にしていたのではないだろうか。
とにかく、外道な上にマスターにしたとしても外部からの魔力補給が不可欠な時点で選択肢として論外。というより、もう選べないのだが。
その他……言峰綺礼と衛宮切嗣、遠坂が参加したことくらいしか知らない。
今居る場所も分からない上、サーヴァントも切嗣や遠坂はこっちとは比べ物にならないほどのアタリをほぼ確定で出せる触媒を用いて召喚する予定、下手したらもう召喚済みなのでハナから相方になれる見込み無し。
言峰はアサシンを従えていたが早々に退場したということしか知らない。
万一召喚済みだった場合に、どんな能力を持ったサーヴァントを従えているか分からない以上、迂闊に近づくのは自殺行為と言えるだろう。
それ以外の奴に至っては、まず誰なのか、何を召喚するのか、手がかりすらない。
あれ?これは、もしかしなくても、詰みというやつではないだろうか。
そう思った瞬間だった。
追い打ちをかけるように謎の苦しみが自分を襲う。
なんだか生命の根源でも絶たれたかのような。
そんな異様な感覚を覚える。
「ま、まさか……」
そこであることに気が付く。
サーヴァントはマスターあってこその存在。
彼らから魔力供給を受けなくては、依り代を失い、この現世との縁は消えてなくなってしまう。
そして、この現世は非常に余所者に厳しく、強制力という異常な程の力で弾き出そうとしてくる。
「マスターも持たない者はただの一時間すら留まることを許さないというのか」
急いでなんとかしなくては。とにかく下水道から這い出よう。
マンホールの蓋を開けて、外に。
急いで、急いデ、イソイデ……。
「おじさん、何してるの?」
クラワナケレバ。
失敗した失敗した失敗した。
まさか、下水道から出てすぐに子供が、それも一人で歩いているなど思いもしなかった。いや、一人でなかろうともあの時なら……いや、思考の深追いはよそう。少なくとも今すべきではない。
人間の魂を食らう。それがどれほどのことかは分からない。
だが、少なくとも真っ当な者のすることではない外道の所業をしてしまったのだ。
それだけは分かる。
とりあえず、咄嗟に残った死体を海魔に食らわせて血も吸収させたので、証拠は隠滅できたとは思う。他の魔術師たちから問題視される“神秘の秘匿”にどの程度の隠蔽がいるのかは分からないが、魔術師以外にバレなければ恐らく大丈夫なはず。
「……はぁ」
それにしても、だ。
先ほどはまるで理性のタガが外れ、獣にでもなったかのような気分だった。
いくら消えかけていたとはいえ、あれ程まで早く理性を失ってしまうものなのだろうか。本能のままに、魂を引きずり出し、食らうその獣畜生のような浅ましさ。
この身はキャスターのサーヴァントであると聖杯の知識は告げているものの、あの狂気に侵されているが如き感覚。咄嗟のこととは言え、自身による度重なる人殺しへの拒絶感を本能的にすら感じない倫理の欠如。
「まさか、
本来はバーサーカーにしか付与されないスキルであるが、全くのこじつけとは言えない。
サーヴァントは生前の記憶を基に能力や宝具、人格を決定づけられる。
この体の本来の持ち主であるジル・ド・レェは生前、半生を立派な救国の英雄として生きながらも、後年魔道に堕ちて領地の少年を攫い惨たらしく殺害した男だという記憶がある。
それを狂気に堕ちたと解釈すれば、狂化のスキルを得たと解釈できなくもないのではないだろうか。
「いや、それどころではない!
このままであれば、また遠くない内に魂食いしないと体が持たなくなる。
そのような無間地獄、どうにかして避けるべきだが、果たして、なんとか……」
なんとか、土地や物に縛られてでも、現世との縁と霊地を確保できないものだろうか。そんなことを思っていると不意に、背後から嗄声に近い声が耳に吸い込まれるように入り込んだ。
「おぉ、どうやらお困りのようじゃな」
「な、何奴!?」
思わず振り返ると、そこには妖魔の類としか思えないおどろおどろしい外見をした老翁がいた。背は低くこちらを見上げる様子など、弱弱しくすら見えるくらいだが、その印象を上書きしてしまう不気味な笑みと、わざとらしい喋りが、本能的な警戒心を呼び起こし、彼から目を逸らすことを許さない。
(何故こんなところに人が……)
動揺するこちらを他所にして、老翁は言葉を続ける。
「呵々、此度は傍観に留めるつもりじゃったが、少々気が変わってのぉ。
マスター不在のサーヴァントがいて、それが、契約相手を求めておる。
そんなところに聖杯を求める魔術師が通りかかったとすれば、
これはもう、神の悪戯、いや『
何の
このような人物がいたかどうか、記憶を思い起こそうとして目を合わせると、何か頭の中に目の前の老翁の声が響いた気がしたが、立て続けの衝撃的な出来事により精神的に動揺していたからか、はたまたこのサーヴァントの体になってからの精神的な違和感が原因なのか、ノイズがかかり、全く聞こえなかった。
目の前の老人はその後、ニヤリと笑ったが、全く気にしている場合ではない。
気にもかからなかった。観察を続けているとふと、彼の肌に目がいった。
キャスターのサーヴァントとしてスキルにカウントされるほどの確かな審美眼は、たとえ狂気の中でも、この男の体を構成する美しくない蟲の粒をしっかり認識できていた。
記憶を捕らえることに成功した。
マキリ・ゾォルケン。やはり、彼はこの世界でも妖怪と呼ばれるに相応しい人物のようだ。
危ない所だった。
人殺しをした後でなくては、確実に彼との遭遇することの不味さにすぐ気づいて動揺し、ボロを出していたことだろう。
「ほほぅ……運命?
その神とやらが定めたであろう死という運命に抗って居られるような貴方のような人が、愉快そうにその言葉を使われるとは、随分とまぁ奇妙なものだ」
正直なところ、ここは彼と結ぶほか選択肢がない。だから、こんな化け物相手に挑発なぞしたくないのだが、反抗せずに契約を受け入れたところで彼はとても信用できたものではないのも確かなことだ。牽制の意味も込めて、ある程度睨みを利かせなくては、彼を選んだ時点で単純な死以上に苦痛を感じる状況に陥るであろう。
「そう皮肉を言ってくれるな。
儂も聖杯を求める魔術師。
思わぬ幸運に浮かれ、詰まらぬことを言ってしまうことくらいある。
それに……そちらにはもう、保留したり断ったりする猶予など、ありはしないのではないか?」
(やっぱり、バレてるか。
奴がまともな魔術師ならすぐ契約なんて結ぶんだがな。)
とはいえ、ここで虚勢を張ったところで、魔術師相手に今の状態を誤魔化せるはずもない。
下手なことをして、印象を悪化させる前に、とっとと、契約を受けておこう。
聖杯戦争のサーヴァントへの抑えである令呪を作った此奴に屈服するのは、正直恐ろしいものがあるが、受けねば消えるのであれば受けるしかないだろう。
……どうにか、隙を伺い目の前の老翁の命令系統から外れる方法も考えねばならないな。新たな難題ができてしまった。
「こちらとしても、黙って消えるというのは興醒めですからね。
契約の申し出、承りました、
正直、ここで
まぁ、あの場で老翁相手に駆け引きを行い、出し抜くことができたかと言われると、随分怪しかったようにも思える。などと、やろうともしなかった自分に対して、慰めの言葉をかけておこう。終わってしまったものはどう足掻いても、仕方がないのだ。
余談だが、とりあえず視界共有のためということで、虫をくっつけられた。ストレスで吐きそうだ。
審美眼による美しくない蟲の粒を認識云々については聖杯によって与えられた芸術審美(E-)のスキルとして、というよりもジル・ド・レェ卿自身が美術品を見ることで磨いてきた観察力によって見抜けたってつもりで書いてます。
〇今話の犠牲者
(主人公がどういう選択をしても生死に関わりようがない人を除く)
・雨竜龍之介(死因:主人公のパニック)
「何がいけなかったんだろうなぁ~。
子供じゃなくて、大人の女の方が実は好みだったり?」
・子供(死因:主人公の餓え)
「!?」チーン
せっかく海魔に飲み込まれた子は見逃したのに、結局別の子供が一人死んでしまった。
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評価・感想お待ちしています。
2021/03/31
投稿。誤字、違和感のある描写見つけ次第訂正。
2021/5/14
校正。一部誤字訂正。次話、現在2000文字。だいたい5000字で投稿。
2週目のあとがき(一週目終われるまで募集)
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一週目形式(描写補足、死者・死因等)
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描写補足のみ(一々死者とか要らん)
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死者・死因のみ(描写は考察で補いたい)
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個人的なことのみ(感想のお願い等)
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そもそも2週目行けます?