狂気の螺旋吸盤   作:ねっく。くらっしゃー

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奇跡的にエタらなかった(死語?)が、一年経ってしまう。
評価・お気に入りしてくださった方、ありがとうございました。


暗殺者死す

暗殺者のクラス。

 

 聖杯戦争において、唯一安定した性能を持つ従者を召喚できる枠。

 暗殺者という言葉の語源となるほどに有名なハサン・サッバーハは、このクラス名そのものを触媒とすることで、これまでの聖杯戦争において幾度も(同一人物ではないが)召喚されてきた。

 

 彼らは他の英霊と比べて戦闘力そのものこそ見劣りすることが多いが、サーヴァントの生命線となるマスターを殺害することに特化しているため、過去に彼らの餌食となったマスターもそれなりに存在する。

 

 聖杯戦争において、拠点以外の場所で油断できない理由の大半は、彼らにあるといっても過言ではない。

 

 自分が騎士として活躍した逸話から脆弱とは呼ばれない程度の筋力・耐久ステータスを持つジル・ド・レェだとしても、所詮は後方支援がメインの魔術師のクラスだ。

 

 今回の聖杯戦争で、佐々木小次郎のような例外として現れることはないだろうと考えている自分にとって、最初からぶつかるつもりのないセイバーやアーチャーといった強力なサーヴァントよりも、真っ先に警戒すべき相手。

 

 そのはずだった。

 

 「どうやら、

  アサシンのサーヴァントが一騎、落とされたようじゃな。」

 

 蚊が潰れるのを見た時のように。

 なんの感慨もなく、つい先刻主人となった老翁がそう呟いたのだ

 

 遠坂邸を監視していた蟲が、黄金の甲冑を身に纏った英霊に殺される様を目撃したらしい。ギルガメッシュだ。間違いない。

 

 契約を結んだ直後、蟲と一緒に間桐邸へと移動を行っているまさにその途中での出来事。聖杯戦争開始から僅か2日目。自身が召喚されたその日に、自分とは違い本物の英霊であるサーヴァントが一騎脱落してしまう。

 

 その事実が自分の胃をキリキリと痛めつけた。

 

 知ってはいたような気がする。

 言峰綺礼は確かに第四次聖杯戦争の序盤に脱落して、教会に保護されたと自身で言っていた。だが、画面の向こう側の出来事として知っているのと、実際に耳にするのとでは全く違う。

 

 自分の持つ肉体は英霊のものであっても、自我は只人に過ぎないのだ。

 本物の英霊すらあっさりと散る戦いで、只人が英霊を操作して勝ち残ることなどできるものだろうか。

 

 万一勝ち残れたとして、その頃には強力な同盟者であったはずの老翁はこちらから見て全く信頼できない人物になっている。

 

 聖杯戦争の令呪システム。サーヴァントの支配機構を作り上げた彼の魔の手から、一体どう逃れようというのか。聖杯の中身に入っているであろうこの世全ての悪(アンリマユ)はどうするのか。それらがどうにかできたとして……このジル・ド・レェの体で何をしようというのか。

 

 マスターはともかく、自分自身の肉体は7騎いるサーヴァントの中で最下位争いをする程度の実力しかない。他の陣営と比べてあまりにも無力なのだ。

 

 プロの暗殺者であるはずのハサンの呆気ない死により、改めてその現実が自分に圧し掛かった。

 

 

 

 

 

 「ほれ、着いたぞ。ここが儂の拠点じゃ」

 

 間桐邸に到着した。

 

、自分が操る海魔を見ていたのか、老翁には道中色々と質問をされた。クトゥルフに関わる生物を実際に見たのは初めてだったようだ。

 

 手の内を信頼できない人物に明かすのは正直気が引けたが、魔導書が魔力炉になっていてそれを取られたら魔術師っぽいことができないという特大の弱点を明かすことに比べれば全く痛くない。

 

 渡す情報を海魔の情報だけで終わらせるために、敢えて少し情報を伏せる振りをすることで興味を持続させる努力をしながら、会話をこなした。気を抜けば危うく他のことまで話しそうになるところだった。暗示の類は精神汚染のスキルにより効かないはずだから、無意識下で漏らす可能性については、今の所大丈夫だろう。

 

 真名?聞かれたが、答えはしなかった。向こうもこちらが信頼を向けていないことは分かっていたのだろう。契約を結んですぐに関係を悪化させるつもりもなかったのか、追及はされなかった。正直なところ、これを言うことによってどこまで情報を拾われてしまうか想像もつかなかったので、非常に助かった。

 

 できる限り敵対はしたくないが仕方ないのだ。

 目つきも、雰囲気も、わざとらしい話し方も、そして使う魔術も、あまりに黒幕っぽすぎる。

 

 こちらが油断したり、屈服するような態度を取れば最後、一瞬のうちに食い物にされる光景が思い浮かんでしまう。

 

 あぁ、上手いこと令呪を消費しなくては老翁自身の生命すら危ない状況が、3度ほどやってこないものだろうか。考えるだけ無駄か。

 

 それにしても、流石妖怪の住処と言うべきか、間桐邸はどこからともなく陰気な雰囲気が漂っている。庭の木が嫌に成長してて、鬱蒼とした森みたいになってるのも原因だろうか。

 

 先程から簡易にでも拠点の強化をするためという名目を使い、一人(と老翁のくっつけた蟲一匹)で海魔を随所に配置していってるのだが、充分量の魔力が供給されマシになったはずの気分が、再び落ち込んでいくのを感じずにはいられない。

 

 そんな気分に引っ張られて目線を下にやると、視界の端に人の死体が映った。

 顔は蟲で隠れていて見えないが、なんだか覚えのある雰囲気だ。

 生前は魔術師だったのか、微かに魔力の残滓を感じる。

 

 (翅刃蟲が集まり始めた。

  肉食とは聞いてたが死肉を貪るのか。やっぱり間桐怖っ!

  とっととここを去って、見なかったことにしよう)

 

 これも多分自分の糧とかマスターの力の一部になるのだ。

 一般人ではなくこういうのが当たり前の世界で生きていたのだから、好悪はどうあれ受け入れるしかない。

 

 間桐邸にやって来てから気分はますます悪くなるばかりだ。

 辛い。

 

 ≪キャスターよ、聖杯戦争に動きが見える。こちらへ来るのだ≫

 

 悪いことというのは続くものだ。

 

 気分が落ち込んだところに、更に死肉を貪る虫を見て気分が悪くなっていたところに、更に更に追い打ちをかけるように老翁、ゾォルケンから念話があった。

 

 正直、会うたびに内心嫌に緊張するので極力会いたくない。だが、聖杯戦争のことだったら、行かないとどうしようもない。

 

 こちらはこちらで現場を確認し、リモートもとい念話で話をすることも考えたがそんな都合のいいものは手元になかった。第五次の情報でキャスターがクラススキルとして必ず覚えていると記憶していた筈の道具作成のスキルはないのだ。ちなみに何故なのかは全く見当もつかない。理不尽過ぎる。

 

 渋々、老翁の元までパスを頼りに向かう。

 

 「聖杯戦争に動きがあったと聞きましたが、具体的に何をされたのです?」

 

 黒幕っぽいという印象がなかなか拭えないせいか、思わずこっちから何か嗾けたみたいな言い方をしてしまう。

 

 「まるでワシが何か策を弄したような言い方じゃのう?

  まぁよい。些細なことじゃ。ほれ、魔力を通すぞ。

  視界を視蟲と共有するでな。お主も説明されるより、実際に見た方が良かろう。」

 

 ゾォルケンの魔力が自分の体に?なんかそれ嫌!というのは今更なので言うこともできない。大人しく(蟲とかどさくさに紛れて口に突っ込まれないかだけ警戒しながら)受け入ることにする。彼の手際のよい魔術により、するすると使い魔との中継が繋がった。

 

 

 

 次の瞬間、目の前の光景が突然どこかの倉庫街へと書き換わる。

 

 できるとは思っていたがやはり実際に体感すると、凄いことだ。

 思わず頭を左右に動かすが、視界は全く動かない。

 

 蟲と視界を共有しているだけだから、当たり前なんだろうが凄い違和感だ。慣れるのには少し時間がかかる気がする。

 

 さて、そんなことに気を取られている場合ではない。

 老翁の言っていた動きとは何なのかとっとと見つけなくては。

 

 立派な鎧と、一見もやもやした変なものを持ってる金髪の少女が右手側に見える。知っている限りでは彼女がセイバーのアルトリア・ペンドラゴンだ。もやもやさせているのは確か、知名度高すぎて剣見られたら宝具を開放しなくても真名バレるからだったか。記憶が曖昧だから断言はできないが。後ろにはイリヤスフィールとそこはかとなく似ている雰囲気を放つ、アルビノの女性がいる。彼女がマスターだろうか?第四次聖杯戦争でセイバーのマスターだったはずの衛宮切嗣の姿は見当たらない。

 

 それに相対しているのは、筋骨隆々としたイケメンの男。両手に赤い長槍と黄色い短槍を持っており、非常に相手が戦いにくそうな見た目をしている。間違いなくランサーだろう。

 

 問題はどちらが宝具なのかだが……どっちも宝具とか有り得るのだろうか。有り得そうで怖い。もしそうならとっとと消えて欲しい。大英雄クーフーリンですらゲイ・ボルグ一個使いまわして2つの大技する感じなのに!2つも宝具があった日には対策するのにどのくらいの時間を要することか。

 

 ちなみに、彼の後ろには特に誰もいない。

 自分と気の合いそうなマスターだ。サーヴァント同士の戦いで近くに立ってるってことがどれだけ危険なのかって話。

 

 そういえば、セイバーも宝具2個だったか?確か今剣隠してるもやもやと、頭おかしい強さのビーム出せる剣。妬ましい。もやもやはともかく、あの剣さえあれば4騎士相手なら負ける気がしない。この本やるから、お前のステータスと宝具寄越せ!と言いたい。鞘は第五次の時点で衛宮士郎に埋め込まれていたし、衛宮切嗣が持ってるはず。

 

 持ってるとしてこれをセイバーにダメージ通しやすくなって幸いととるべきか、マスターの方が殺しやすいはずなのにそれが死ににくくなったと嘆くべきかは判断が分かれるところかもしれない。

 

 ちなみに自分は嘆く派閥の人間だ。せっかくマスターを奇襲できたとしてもちょっと粘られて令呪を使用されれば、一瞬でセイバーをデリバリーされてしまう。超回復がなかった所で最も優れたクラスの名は伊達じゃない。高い対魔力で魔術を弾かれ、海魔を出してもそれごとエクスカリバーされて殺される未来が見える。

 

 ということで、自分はイケメンの男を応援することにする。

 ……槍からビームとか出さなければだが。

 

 さて、戦いは今のところ一進一退といった様子。

 ランサーが赤い長槍で鋭い突きを放てば、セイバーは横に躱してもやもやした変なものを彼の頭めがけてぶつけにかかる。そうすれば、お返しとばかりにランサーはその高い敏捷を活かして、するりと躱し取り回しの利く黄色い短槍で刺突を繰り出す。

 

 こういった戦いがかれこれ5分は続いている。

 

 流石に膠着状態にランサーの側が業を煮やしたのだろうか。

 

 「ありがとうございます、主よ」

 

 イケメンの男が虚空に向かって何かを言うと、改まった様子で槍を構えた。

 視蟲は見ることに特化しており、耳は悪い。

 残念なことに、使い魔として感覚を共有していても内容は聞き取れなかった。

 

 「セイバーよ、今までの戦いぶりに経緯を示して、我が槍の奥義を馳走しよう!」

 

 何やら槍を掲げてセイバーに言い放っているようだが、やはり聞こえない。

 

 「気を付けて、セイバー。

  彼の赤い槍の魔力が増しているわ。宝具が来るわよ!」

 

 アルビノの女性がなにかを話す。

 

 彼女の言葉の直後、赤い長槍から光が迸ると、セイバーの腕に黄色い短槍(・・・・・)が突き刺さった。

 

 「必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)

 

 (フェイントか!)

 

 セイバーの腕に突き刺さった黄色い短槍を素早く抜き取ると、ランサーは後方に大きく跳躍。

 

 明らかに有効打を与え、セイバーの顔も歪んでいた。

 追撃をするチャンスを何故不意にしたのか、と思ったのもつかの間、二人の間に雷が走る。

 

 「AAAALaLaLaLaLaie!」

 

 ……思わず心臓を大きく飛び跳ねさせてしまった自分を責める者はいないだろう。

 

 雷と共に現れたあの戦車男は、小さな蟲の視界から見るにはあまりにも迫力があり過ぎたのだ。

 

 「我が名は、イスカンダル。

  此度の聖杯戦争においてはライダーのクラスを得て現界した!」




最後の駆け足感。

最初のタイトルは跳躍する暗殺者みたいにして、ザイード君扱うかも迷いましたが、作中でわざわざ出てくる理由がなかったのであっさり死んでいただきました。主人公は彼の役割(とダンス)を知らないので、ただただ本物の英霊があっさりやられてしまう現実に怯えてます。


〇今話の犠牲者

魔術師X(死因:主人公が詳しく観察しなかったため不明)

「……」

残念、もうこの段階ではどうしようもない。
既に死んでいたのだから。
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評価・感想お待ちしています。

2週目のあとがき(一週目終われるまで募集)

  • 一週目形式(描写補足、死者・死因等)
  • 描写補足のみ(一々死者とか要らん)
  • 死者・死因のみ(描写は考察で補いたい)
  • 個人的なことのみ(感想のお願い等)
  • そもそも2週目行けます?
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