会見を終え、有馬記念も直前となった日。
年末一歩手前、世間は冬の色とイルミネーションに彩られ、シャンシャンと鈴の音響く音楽が街中に踊る。クリスマスだ。
クリスマスに、僕は毎度のごとくダイワスカーレットに呼び出された。
待ち合わせ場所に行くと、特徴的な赤毛の長いツインテールを揺らした少女が待っていた。よく目立つ姿に頬が緩む。
「……あ、トレーナー!こっちこっち!」
「こんばんは、スカーレット」
「あら、こんばんは。珍しく律儀ね」
「クリスマスだからね。夜に待ち合わせなんて珍しいし。それより待った?」
「いえ、今来たところ……」
「どうしたの?」
「な、なんでもない!」
いきなり顔を赤くしたスカーレットに首を傾げ――あぁ、なるほど。
「ふふ、あれだね。ごめんね待った?今来たところっていうやり取りが恋人的なや」
「わああああああ!!もうもう!言わなくていいから!全部言わないで!」
「ははは、気づいちゃった僕に誤魔化しは通用しないよ。残念でした」
「はぁぁ……。もう、そういうところがアンタはだめなのよ。まったく」
頬を赤くしながらも呆れてため息をつく彼女に微笑みかける。
「僕はこういったやり取りも嫌いじゃないけどね」
「ふんっ……べつに、アタシも嫌いじゃないわよ」
軽いやり取りも終え、くすりと笑い合ってから話を続ける。
「でもどうしたの?今日はどんな用?」
「――あ!見て、流れたわ!」
「……なるほど」
彼女の指が示す先には、街中に飾られている大きな液晶があった。流れているのはこの日、この街限定の『有馬記念』の特別CMだった。
「……一番人気、か」
「おっと、プレッシャー?」
「ふふ、ばーか。そんなのずーっと昔に置いてきたわよ」
「はは、だろうね。スカーレットのファン二十万以上だもん。二十万人だよ、二十万人」
「ええ、すごいわよね。それだけはアタシも実感わかないわ」
遠くを見るように液晶を眺めるスカーレットの横顔は綺麗で、街の灯りに照らされてより一層輝いて見えた。
「あぁ、早く有馬のターフで走りたいわ。そこに集まった誰よりも、先に駆け抜けてみんなの記憶に残る一番になりたい」
走る場面を想像しているのか、目に宿る紅の光が星のようにきらめいている。綺麗で、そしてかっこよかった。
「君ならできるよ」
「……うん。そうね。アタシなら、必ずできるわ」
「ま、一回勝ってるし。余裕余裕」
「アンタねぇ……ふふ、でもそうよね。アタシ、一回勝ってるのよ。必死だったからあんまり覚えてないけど、よく勝てたわね」
「そりゃ僕が応援してたから」
「アンタの力すごすぎでしょ」
からからと笑うスカーレットと共に、他愛ない話を続ける。
「さてと。他は特に用事もないし、そろそろ学園に……」
「スカーレット」
「え、なに?」
「少しお茶していかない?」
「ふふ、何よそれ。下手なデートのお誘いみたい。別にいいけど」
「よし、行こう。どこ行こうか?」
「ええー、アンタ決めてないの?」
「うん。今思ったことだし」
「しょうがないわねー。じゃあ一緒に探しましょ?」
「おっけー」
適当に歩き、適当なカフェに入り、適当な注文をし、適当に座る。
なんとも雑なお茶ではあるけれど、これでも十分に楽しかった。
「スカーレットはさ、今楽しい?」
「んー?」
カップの紅茶を飲みながら、上目遣いで尋ねてくる。
「ほら、クリスマスのお出かけで」
「あぁそういう。ええ、楽しいわよ?」
「そっか。ならよかった」
「アンタはどうなの?」
「僕?」
「―ーあ、聞くまでもなかったわね。アタシと一緒で楽しくないわけないか」
「よくお分かりで」
ふふん、と笑うスカーレットに僕も笑みをこぼす。
紅茶は温かく、クリスマスの音楽も耳に心地良い。こんなにも楽しいクリスマスは初めてだった。
「でも、さ」
「ん?」
「なんか、スカーレットとこんな風にクリスマス過ごすことになるとは思ってなかったなぁって」
「ふふ、それはアタシもよ。まさかトレーナーと……あ」
「?どうしたの?」
何かに気づいて声をあげる彼女に尋ねる。待ちなさいと返事が来て、彼女が鞄を漁るのを待つ。なんとなく、前にも見たような光景だ。
「はいっ、これ」
手渡されたのはプレゼントだった。
「プレゼントかー」
「ええ。マフラーよ。最近、一段と寒くなってきたでしょ?それなりに保温性が高いものを選んだから……ちゃんと使いなさいよね」
「クリスマスプレゼント?」
「一応、ね。風邪予防も兼ねてだけど、ちゃんと渡しておこうと思ったの」
「そっか。ありがとう」
嬉しい。ちょっぴり恥ずかしそうなスカーレットが可愛いのは当然として、僕もお返ししないとね。
「別にお返しとかいいからね。後からもらうのも面倒くさいし」
「ふふ」
ちょうど思っていたことを言われ、笑いがこぼれる。む、っとした顔のスカーレットが言葉を続ける。
「なによ、笑わなくたっていいじゃない」
「ううん。違うんだ。ええとね――」
彼女を手で制し、鞄を漁る。ささっとサイドポケットに入れてあったものを取り出し、彼女に差し出す。
「――え?」
キョトンと目を瞬かせるスカーレットへ、プレゼントと同時に言葉も伝えていく。
「プレゼント。僕も用意しておいたんだ」
「な、なんで。アタシが呼んだのに?」
「まあね、有馬記念勝ってから渡そうとも思ったんだけど、クリスマスプレゼントのつもりでもあったからさ。受け取ってよ」
「……うん」
こくりと、しおらしく頷き受け取ってくれた。少し、肩の荷が下りた気分だ。
「中身は二つあるんだ。一つはスポーツ用のタオル、良い物だからここぞって時に使ってほしいな」
「ふふ、タオルにここぞって時も何もないでしょうよ。もう一つは?」
「普段使い用のハンドタオルだよ。スカーレットに合わせた鮮烈な緋色にしたんだ。地味にオーダーメイドだから、世の中に一つだけです」
「……もう、そんなものまで」
嬉しそうに朗らかに笑って、渡したプレゼントを抱きしめる。喜んでくれて何より。僕も嬉しい。
「本当、ばかなんだから。トレーナー、ありがとう」
彼女のありがとうは温かく、柔らかい笑顔と相まってぽかぽかと心まで温かくなる。この笑顔もまた、僕にとっては大きなクリスマスプレゼントだった。
帰り道は彼女からもらったマフラーを身に着け、そのおかげか、首元だけじゃなく全身が温かく感じた。有馬記念、ダイワスカーレットに勝利を願おう。