有馬記念当日。
控え室にてダイワスカーレットが宣言する。
「トレーナー、最後までアタシのこと見てて。そして期待して。誰よりも速く、強く、アタシが一番になる瞬間を」
「楽しみにしてるよ」
「ふふん、いい返事ね!」
堂々と微笑むスカーレットには、緊張などかけらも感じさせない、力強いくらいの自信がみなぎっていた。
「それじゃ、行ってくるわね。――誰にも負けない、一番になってくるわ!」
頼もしい背中を見送り、僕もまた席を立った。
『注目の一番人気、一番ダイワスカーレット』
『パドックでも注目を集める素晴らしい仕上がりですね』
『今年最後の大一番で名実ともに最強のグランプリウマ娘となってほしいですね』
実況解説が耳に響く。
やはり、スカーレットは一番人気だった。さて、まだ少しだけ時間がある。ここでステータスの確認だけでも済ませておこう。
スピードB+、スタミナD+、パワーC、根性D+、賢さC+。
スピードに関して言うことはない。スタミナはスキルで補うからこちらも言うことはない。パワーはもう少し伸びていればよかったと思う。根性ももう少し伸びていればと思う。賢さもBになってくれていたらよかった。
結論、なんとも言えない。
いやはや、彼女のことを信じると言った手前なんとも言えないって、僕の手のひら返しがひどい。
しかし、何せスカーレットは昨年の有馬記念優勝者だ。去年勝ったんだから、今年も大丈夫でしょうよ。相手が成長していても、こっちだって成長しているんだ。
僕とスカーレットの努力は裏切らない。さあ、ゲートインだ。僕とスカーレットの、最後のレースが始まる。いや厳密には最後じゃないけどね。僕としてはもう最後なんだよ。
有馬記念が始まる。
三番人気はナリタブライアン。二番人気はシンボリルドルフ。一番人気はダイワスカーレット。秋の三冠ウマ娘、連覇を狙っているぞ!この口上だけでもうダイワスカーレットがナンバーワンだね。
出だしは悪くない。出遅れなし。序盤はトップだ。ナリタブライアンが怖いぞ。あとエアグルーヴも怖い。ビワハヤヒデも怖い。ゴールドシップも怖い。シンボリルドルフももちろん怖い。みんな怖い!ダイワスカーレット頑張れ!
まだ余裕がある。ダイワスカーレットの後ろは二、三バ身差かな。スキルは出てるぞ!完璧なスタミナスキルだ!これでスタミナの心配はない。さすが僕、さすがスカーレット。スタミナはスキルでカバーだよ!中盤は完璧な走りだ。一位をずっとキープしてる。
第四コーナーに入る。入った!後ろはいない!独走だ!後ろからは誰も来ない!!後ろからは誰も来ない!!!後ろからは誰も来ない!!!!!
さあ速いぞ!!ダイワスカーレット!!!強い!強かった!!最強だ!!
ダイワスカーレットの勝ちだ。あぁ、グランプリ最強最高のウマ娘になった。そして二連覇だよ。二連覇。三冠だ。ようやく、ようやく掴み取った。スカーレット、かっこよかった。
拳を握り、空に突き出す。誰が見ていてもいい。スカーレットが勝ったんだ。二連覇だ。三冠だ!あぁ、でも。
「できれば、トリプルティアラも取らせてあげたかったなぁ」
我ながら、少々欲張りすぎかもしれない。
今さらなことを思って、こぼれる涙をそのままに苦笑した。
『スカーレット!スカーレット!スカーレット!スカーレット!』
観客から怒涛の勢いで歓声が降り注ぐ。
僕の前にやってきたスカーレットは、どうしてか不思議そうな面持ちで声をかけてくる。
「聞いてトレーナー。みんながアタシを呼んでるの。みんなが、アタシを見てるの。一番のウマ娘だって」
知ってるよ。聞こえてる。声に出さず、頷く。
「……ねえ、トレーナー。あのさ、アタシさ。みんなの記憶に……残れたかな?」
徐々に表情を変え、張っていた気が崩れていく。
「今までのどんなウマ娘よりも、一番のウマ娘に、なれたかなぁ……っ!?」
涙混じりの声音に対し、力強く頷く。そして。
「うん!誰よりも、どんなウマ娘よりも一番だ!」
真っ直ぐ、大きな声で。彼女の心の奥にまで届くように声を張り上げて伝えた。
「……っ!」
ダイワスカーレットは、もう抑えることなく目一杯泣いた。今までの分を全部吐き出すように、泣いて泣いて、涙を滝のようにこぼして。
レースで一着になれたウマ娘しか来られないウイナーズサークルの中で。割れんばかりの祝福の声を聞きながら。
彼女は、"一番のウマ娘"だった。
「……はぁ!カッコ悪いところはおしまい!みんながアタシを待ってるんだもの。ほら、アンタも早く準備して!」
「僕?」
指差され、意味不明な言葉に疑問を返す。涙などなかったかのように晴れ晴れと笑うスカーレットは当たり前のように言う。
「ええ、今から表彰式でしょ?きっと今まで以上に取材陣が殺到するわ。その時にアンタはアタシのことをこう紹介するのよ。"自分が育てた最高に一番のウマ娘で、僕の自慢のウマ娘です!"って」
そのまま言うのもなんとなくアレだったので、ダイワスカーレットに手を引かれながらどう答えようか考える。少しばかり浮かれているスカーレットは僕の様子に気づかず、二人で表彰式に向かっていった。
結果、グランプリ二連覇かつ三冠の世界一、とまで付け加えることになったのは、また別の話である。