エピソード・オブ・スカーレット   作:坂水木

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本編としては最終話です。今日は三話投稿しています。2/3。

URAファイナルズ優勝後。


終. エピソード・オブ・スカーレット

 ダイワスカーレットは見事、トゥインクル・シリーズで"一番のウマ娘"らしい結果を残した。ティアラ二冠、春シニア一冠、秋シニア三冠、グランプリ連覇、そしてURAファイナルズ優勝。これだけでもう十二分以上の結果だろう。あと、ファンが三十二万人を突破したとか。

 名実ともに、彼女はたくさんの人の記憶に残るウマ娘となった。惜しむらくはティアラの桜花賞や天皇賞春だけど、それこそ今さらといったものだ。僕はもう、今のスカーレットが最高だと、世界一だと思っているから。それでいいんだ。

 とても大事な『最初の三年間』を終え、スカーレットはこれからまた、新たな道へと踏み出す。寂しくもあり、嬉しくもある。不思議な気持ちだ。

 色々と考えていたら、家のチャイムが鳴った。はーい、と言いながらドアを開けると、赤髪の美少女が立っていた。

 

「うわ!三十二万のファンがいるウマ娘だ!」

「……どういう呼びかけよ、もう」

 

 呆れた目で僕を見てくる彼女に、改めて挨拶する。

 

「おはよう。部屋入る?」

「ええ、おはよ、お邪魔するわね」

 

 彼女がこの家に来るのは数度目となる。十回は行っていないはず。前に、休日は何をしているのかという話になって、ちょっと来てみるかい?とかなんとかよくわからない流れで家に呼ぶことになった。結構緊張していた様子のスカーレットが懐かしい。今となっては慣れたものだ。

 

「なにしてたの?」

「軽く回想してた。スカーレット、よく賞取ったなぁって」

「ふふ、アンタが色々出ようって言ったからでしょ?」

「まあそうなんだけど。お疲れ様。URAファイナルズも終わったし、一応本当にこれでひと段落だね」

「そうねー」

 

 椅子に座るスカーレットに、お茶いる?と聞けばいらないと返ってくる。どうやら長居をする気はないようだ。

 

「トレーナー」

「うん」

「今日、暇?」

「暇に見える?」

「暇にしか見えない」

「はは、なら暇なんじゃないかな」

「ふふ、そ。じゃあアタシに付き合ってもらえる?」

「いいよ。どこ行くの?」

 

 絨毯でうだうだとしながら話をしているけれど、僕はどこかへ連れ去られるらしい。どこだろうか。どこでもいいか。スカーレット相手なら、どこへだって付き合おう。なんといっても、僕は彼女のトレーナーだから。

 

「一番のウマ娘に相応しい場所に、よ!」

 

 言われ、彼女を見やる。スカーレットが浮かべている笑顔は、考え事を散らしてしまうほどに眩しかった。

 

 

 ――そうして、家を出たのはいいのだけれど。

 

「あーもう!また売り切れじゃない!どうしてこう、どこも売り切ればっかりなのよ!まったく、トレーナーの準備が遅いせいなんだからね!」

「ごめんて。男にも準備があるんだよ」

「……ふーん。アタシが洗面所見に行ったらぼけっと鏡の前で目つむってたのに?」

「すみません、眠かったんです」

「ふん、いいわ。まだまだ付き合ってもらうからね!」

「りょーかい」

 

 全面的に僕が悪いので、ぺこぺこと謝って彼女に付き従う。

 

「すごい関係ない話なんだけどさ」

「ええ、なに?」

「URAファイナルズ、普通にウオッカ出てたよね」

「あぁ……そうよね。普通にウイニングライブ一緒に踊っちゃったけど、よく考えたらなんでアイツ普通に参加してたのよ。おかしいでしょ」

「挨拶とかしたの?」

「軽くはね。あんまり時間なかったから、参加してたのねーくらいしか聞けなかったのよ。アイツ、すっごくぎこちない顔してたわ。すぐどこか行っちゃうし、何考えてURAファイナルズ出てたのかしら」

 

 参加理由はまったくわからないけど、ぎこちない顔の理由はわかる。かなりわかる。これは言っちゃってもいいのかな。いいか。たぶんだけど、なんとなくスカーレットも察してそうだし。

 

「ウオッカは気まずかったんだろうね。空港でキリっと話を終えて別れただけあって、あの子、そういうの苦手そうだし」

「あの子って……アイツに向けて言うと変に聞こえるわね。でも、そうかも。ふふ、アイツかっこつけだし、そりゃ有馬出なかったのにその後のレースで鉢合わせなんて気まずいったらありゃしないわ」

「ま、どっちにしろ勝ったしいいんじゃないかな。秋華賞、天皇賞秋に続いて三連勝だね」

「ふふん、ええ。いつか帰ってきたアイツのこと、また負かしてやるわ!」

 

 ふりふりと尻尾を揺らして機嫌よく歩くスカーレットが可愛い。私服姿も相まって可愛さの上限が上がっている。

 

「よーし、トレーナー。お話もそこそこに次のお店行くわよ!」

「えー」

「あら、嫌なの?」

「いやまったく。スカーレットが楽しそうだから僕も楽しい」

「ふふ、そう?ならいいわ」

 

 次のお店に向かいながら彼女の隣を歩き、ふと思ったことを尋ねる。

 

「でもどうしていきなりショッピング?」

「そんなの決まってるじゃない。さっきアンタが言ったでしょ。ひと段落ついたって」

「あぁ、言ったね」

「アタシ、ずーっといろんなこと我慢してたんだから!ショッピングもその一つよ。今日は目一杯付き合ってもらうんだからね!」

 

 ようやくひと段落ついた、か。あんまり意識しないで言ったことだけど、そうなんだよね。ようやくなんだ。

 

「……よく頑張ったもんね」

「ふふん、そうよ?頑張ったの。アンタもいっぱいアタシのこと労いなさい!」

「うん。本当によく頑張った。お疲れ様、スカーレット」

「うふふー、ありがとっ。ほらほらトレーナー、ここのお店入りましょ!」

「りょーかい。僕が良さげなものを見繕ってあげよう」

「えー、いいけど、アタシが納得した物しか買わないからね」

「うん。納得させてみせようじゃないか。僕のプレゼントセンスはよかったでしょ?」

「あ……ふふ、ええ。そうね」

 

 にこりと笑ったスカーレットと二人で、ショッピングを楽しんでいく。自分のものに自信はなくとも、スカーレットのことならそれなりに自信がある。ずっと見てきた子なのだ。彼女に似合うものの一つや二つさくっと見つけられるさ。

 

 ――そうして長々と会話をしながら買い物を続け。

 

「うーん、このベルトも似合わないか……。ちょっとアンタ、もう一回試着!」

「へい」

 

 いつの間にか、買い物は僕の服選びになっていた。そそくさと着替え、都合何度目かわからない試着を済ませる。

 

「どうかな」

「あら、悪くないわね。うん、さっきより全然いいわ」

 

 今度は彼女のお眼鏡にかなったようで、ほっとする。ファッションセンスに長けているだけあって、スカーレットの目は厳しかった。どうして着替えさせられているのかは謎だけど、彼女が満足そうだから僕はいいと思う。諦めたとも言う。

 

 

「はぁー……なんかいつものショッピングの三倍以上疲れたって感じするわ」

「楽しくなかった?」

「ばか。三倍以上疲れたけど、それ以上に楽しかったわよ」

 

 ぴっと指で僕の指を弾いてくる。表情からはあまり疲労を感じさせない。彼女自身が言った通り、疲労以上に楽しみがあったからなのだろう。付き合ったかいがあったというものだ。

 

「ま、でもそれより。アンタがいい感じのコーデになってよかったわ」

 

 言われて、自分の服を見下ろす。ジャケットにシャツにベルトにズボンに。靴下と靴までと、上から下までの全身。そう、僕はダイワスカーレットのセンスによって全身コーディネートされていた。

 さすがの上品な選び具合。自分とは思えないかっこよさが醸し出されている気がする。

 

「ありがとう」

「ふふん、いいわよ。アタシも楽しかったし。それに、する必要があっただけだもの」

 

 する必要?と問いかける前にスカーレットの声が耳を揺らす。

 

「あ、飛行機」

 

 彼女の視線の先には、空で点滅する小さな赤い光が動いていた。

 

「向こうでも、ちゃんと走ってるのかな。アイツ」

 

 アイツ。言わなくてもわかるに決まってる。

 

「走ってるだろうね」

 

 そのまま続け。

 

「なにせ、君に三連敗だ」

 

 一度目、二度目はともかく、三度目はウオッカも悔しかったことだろう。いろんな意味でね。

 

「ふふん、ええ、そうね。アタシに三連敗中だし、頑張ってもらわなきゃ困るわ。だってアイツは」

 

 そこで言葉を止め、飛行機に手を伸ばすように腕を掲げ、そして胸元で握る。

 

「―ーアタシの一番のライバルで、最高にカッコいいヤツだもの」

 

 明るく笑って、柔らかな表情はそのまま笑顔だけ引っ込めて呟く。

 

「あーあ、でも海外かー……」

 

 ぽつりと呟いたスカーレットに向き直り、彼女の言葉を待つ。なんとなく、予感がした。

 

「ねえ、トレーナー」

「うん」

「その、もし、よ?」

「…うん」

「もし、アタシが『海外に行ってみたい』って言ったら、一緒に行ってくれる?」

 

 少しだけ不安に瞳を揺らすダイワスカーレットを見つめ、僕は笑った。これだけ一緒にいて、ウマ娘とトレーナーとして結果を出してきても、まだまだだなと思う。僕自身も、スカーレットも。

 彼女の質問には、迷うことなく答えを告げた。

 

「その時は海外で"一番"のウマ娘にするよ」

「……あははっ、ばーか。そこまでは言ってないじゃない」

 

 珍しく軽やかに笑うスカーレットへ、まだ終わっていないと言葉を綴る。

 

「それにさ、僕言ったよね。君は世界一のウマ娘だって」

「そ、それは」

「言っちゃったものは仕方ない。君が望むなら、そこまで連れて行くしかないよ。世界の"一番"に、さ」

 

 ちょっとしたこじつけだけど、僕は本気だ。彼女となら、ダイワスカーレットとならどこまででも行けると思う。日本一の次は世界一。それも悪くないんじゃないかな。

 

「ふふ、うふふ。もう、ほんっとアンタは、アタシのトレーナーね」

「はは、うん。君の、スカーレットのトレーナーだ」

 

 二人で笑い合って、ちょっとした心地良い沈黙が訪れる、と思ったところで。

 

「……つまり、そういうヤツってことなんで、良きように書いてあげてくださいね」

 

 いったい何をと思い、スカーレットの次の言葉ですべてを察した。

 

「記者さん?」

 

 いつの間にか近寄ってきていた乙名史記者がメモ帳を手に感情表現多めな話をしていく。

 

「ええ!ええ……っ!お二人の熱い絆、存分にこの心に響きましたとも!トレーナーさんは担当ウマ娘がいるならば、地の果て海の果てまでその身一つでどこまでもいくと……っ!」

 

 いやそこまでは言ってないような。

 記者さんから目を逸らし、穏やかに笑っているスカーレットへ問いかける。

 

「ええと、これ取材?」

「ええ。『一番のウマ娘特集』のためのね。このカフェで合流する手はずだったの。本当、ちょうどいいタイミングで来てくれたわ。ほんっとう、よく言われてたのよね。早く単独取材をさせてくれー、って」

 

 なるほどなぁ。これもスカーレットの我慢してたことの一つか。『一番のウマ娘特集』だなんて。彼女にお似合いだ。

 

「でもレースで毎日忙しいし、アンタの服の準備とか全然できないし。だから我慢してたのよね」

「それで今日、僕の服も買ったわけか」

「ええ、ふふ、ご不満?」

「いやいや。ありがとう」

「ふふん、どういたしまして」

 

 笑顔で、この取材を我慢していたと言うスカーレットは続けて不思議なことを言う。

 

「うふふっ、それじゃ次はアンタが、担当ウマ娘についてたっぷりと語る時間よ!」

「ええー。もう存分に語らなかった?今日」

「それは記者さんいなかったでしょ?ほら、アタシも驚くくらいの素敵な一言、楽しみにしてるわねっ」

 

 そういう意図で僕の服を準備したのか。そりゃでも考えたらそうだよね。僕の服なんだから、僕の取材も入ってるに決まってる。

 にしても、スカーレットが驚くくらいの素敵な一言って……。

 

「スカーレットは僕の誇り、とか?」

 

 ふわっと浮かんだ言葉を伝えた。

 

「もう……ばーか」

 

 照れくさそうに顔を赤くして、その緋色の瞳で僕を見つめながら続ける。

 

「当然のこと言っても、全然面白くないわよ」

 

 赤い髪に赤の瞳に。瞳に宿る炎は消えることなく、今でも燃え盛っている。

 

「ずーっと前から、アンタにとって一番のウマ娘はアタシでしょ?」

 

 太陽のように眩しい笑顔で、ダイワスカーレットはそう言った。

 彼女に笑い返しながら思う。

 最初に彼女を見たとき、彼女の緋色に魅入られたときから、僕にとって彼女は"一番"だった。その一番を広めただけであって、僕の一番にはずっと変わらずスカーレットが輝いている。赤く、朱く、紅く。どこまでも鮮やかな緋色を纏って走り抜けた彼女は、今誰よりも輝いている。文句のつけようがない、最高の"一番"だ。

 彼女に出会えてよかった、彼女と三年間を過ごせてよかった。そしてこれからも――。

 

「スカーレット、僕は君と駆け抜けていくよ。どこまでも、世界の果てまで」

「ふふん、ちゃんとついてきなさいよね。全速力で一番を掴み取りに行くんだから!」

「うん。なにせ、僕はダイワスカーレットのトレーナーだから。それに」

「それに?」

「なんといっても、僕もウマ娘みたいなものだからね!!!」

「アンタそれまだ忘れてなかったの!?!?最後にそんなこと言うんじゃないわよ!ばかぁぁあ!!!」

 

 僕とスカーレットの日々はまだまだ続く。一番を掴み取り、もっと先の一番を目指して進み続けていく。もしかしたらそれは、一生を費やしても足りないものになるかもしれない。

 けれど、僕はそれでいい。そうしたいと思う。僕の人生は、緋色の彼女がいてこそ、輝くものだから。

 見上げると、夜の空に星々がきらめいていた。街中だというのに、晴天の夜空に散らばる星は綺麗で、それよりなおスカーレットの瞳は眩しく輝いていた。

 彼女との三年が終わり、新しい一年が始まる。これまでとこれからの僕の――ううん、僕らの人生に名前を付けるとしたら、"エピソード・オブ・スカーレット"なんてどうだろうか。"緋色の物語"。スカーレットにふさわしい、素敵なタイトルだ。

 言い募るダイワスカーレットからのらりくらりと逃げながらも、今の思いは取材に出さなくてもいいかなと、そんなことを思う。

 あぁ、でも。どうせならこれだけは書いてもらってもいいかもしれないね。

 

 "エピソード・オブ・スカーレット"

 

 だってほら。これって、緋色の彼女と、緋色に魅せられた僕のお話になるからさ。

 




 「エピソード・オブ・スカーレット」完結です。
 およそ4万文字。読んでくださりありがとうございました。
 ダイワスカーレットとのトレーナー絡み要素増やして甘くしたお話でした。レースの勝敗は実際にプレイした結果です。あしからず。
 ちなみにこの中編、一日で育成しながら書き上げました。書き始めは朝で、終えたのは夜の0時近かったので、本当に一日かかりました。
 
 後日、育成を繰り返してスカーレットにはトリプルティアラ、春シニア三冠、秋シニア三冠のすべてを取らせてあげられました。ひとまずは満足です。

 元は短編集の方に投稿していましたが、ウマ娘プリティダービー Season2の13話を見て変えました。どうせならちゃんと完結という形に分けたいなと。
 とまあ、長く書いてもなんなので、この辺であとがきも終えようと思います。
 また何か書いたりすると思います。それでは。あ、あと一話続きます。
 
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