エピソード・オブ・スカーレット   作:坂水木

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ティアラ路線決定から二年目突入まで。


2. エピソード・オブ・スカーレット

 ティアラ路線を決めたダイワスカーレットと共にトレーニングを重ねていく日々の中。

 ある日、スカーレットと共に食事を取りにきていた。何やら悩む彼女に尋ねると、期間限定メニューである『掴め1番! 超ド級スタミナ丼』とやらが気になるとか。

 

「何がそんなに気になるの?」

「だって一番よ!?アタシが食べなかったら誰が食べるのよ!」

「いやまあ、誰かが食べるんじゃないかな」

 

 ウマ娘の食欲旺盛さはよく知られていることだけど、ダイワスカーレットもその例に漏れない。

 食べたいなら食べればいいし、そのスタミナ丼だって他のウマ娘が食べていることだろう。

 

「でも、結構量がありそうなのよね…」

「なるほど、太ると」

「もう!どうしてそうアンタは直球で言うの!?もっとこう、言い方ってもんがあるでしょ?」

「ごめんて」

 

 女の子に太るは確かに悪かったね。僕が悪い。

 声を荒げるスカーレットに謝りつつ、ぱぱっと思ったことを伝える。

 

「それよりほら、思いっきり食べて一番を掴もう」

 

 ちょっとくらいたくさん食べたって大丈夫さ。

 

「それに、僕はいっぱい食べてるスカーレットが好きだよ」

「好きって……もう、ばか」

 

 恥ずかしそうなスカーレットに笑いかけながら、ウマ娘用ではない普通の控えめ定食を頼む。

 結局、ダイワスカーレットが頼んだのは超ド級スタミナ丼だった。美味しそうに食べる彼女の可愛さったらもう、筆舌にしがたい。太り気味にはならなかった。やはり大丈夫だと伝えてよかった。僕はいっぱい食べる子の方が好きだからね。

 ただなんというか、いつも思うことだけど、ウマ娘の細い身体にどうやったらあれだけの量が入るのか不思議でしかなかった。全員大食いって、テレビの大食いタレント全滅じゃないか。

 

 

 

 なんやかんやトレーニングを繰り返し、ダイワスカーレットが一着になっていっぱい褒められたいとかなんとかそんなような話をしたりして。

 ダイワスカーレットにファンレターが届いた。

 

「ファンレターだって。よかったね」

「へ、へー。ふーん。アタシにファンレター…」

 

 にやつきそうな笑みを抑えでもしているのか、反応がひどくわかりやすい。あと、尻尾と耳よ。顔以上にわかりやすいから。

 

「僕もスカーレットにファンレター書こうかなぁ」

「は、はぁ?べつにアンタからもらったって嬉しく……ないんだからね!」

 

 あ、ちょっと止まった。この子、今考えたな。顔赤くなってる。どうしよう。適当に言っただけなのに、これあげたほうがいいんだろうか。聞いてみるか。

 

「じゃあいらない?」

「べ、べつにいらないなんて言ってないでしょ!」

「おーけーわかった。僕に任せな」

「何がわかったのよ。もうっ」

 

 ふん、と鼻を鳴らしながらファンレターを読むスカーレットを横に、メモ帳へファンレター用紙購入、と書いておく。トレーナーが自分のウマ娘にファンレターを書くなんておかしなことかもしれないけれど、こういうのも悪くないとは思う。

 スカーレットが喜ぶならそれでいいと思うのだ。

 にやけながら手紙を読んでいたダイワスカーレットをからかいつつ、二人でトレーニングに戻っていった。

 

 

 

 ホープフルステークス。

 ダイワスカーレット二つ目のレースとなるが、G1である。重ねて、G1である。なぜこのレースを選んだのか、僕にもわからない。スカーレットが出たいと望んだからのような気がしなくもない。気づいたら出走を選んでいた。

 レースの始まりは二度目でも緊張するもので、むしろ緊張しかしない。胸が痛い。ドキドキする。

 スカーレットは今度も緊張した様子がなく、ぐっと胸に手を握り込んで気合十分といった調子だった。

 出走するのに年齢的な条件のあるレースとはいえ、G1という格付けであることには変わりない。

 一等星の輝き。これを見て僕もスカーレットもレース出走を選んだのだろうか。今となってはもうわからないし、走る直前である今では関係がない。僕にできるのは、ただ願うこと、応援することだけ。

 

 始まり。ハイペースで先頭を進むスカーレットは調子の良さが前面に出ていて、軽快な走りを見せていた。

 そのまま走り続け――。

 

「――ねえ!ちゃんと見てた!?アタシが一等星に輝いた瞬間!!」

 

 気がついたら、ダイワスカーレットが一着でレースは終わっていた。ウイニングライブも終わり、場所は控え室。

 ぼうっとした頭で、目を輝かせるスカーレットを見やる。勝った。勝ったのか。すごいな。二連勝か。スカーレット、すごいな。

 

「見てた。すごかった」

「ふふん!そうでしょそうでしょ!アタシが一番なのよ!」

「今度はもっとすごい一番になろう」

「ええ今度はもっとー―ってもう!もうちょっと褒めてくれてもいいじゃない!」

「いやごめん。つい。スカーレット、すごかったよ。本当にかっこよかった」

 

 褒めて褒めてとせがんでくるわけではないけれど、十分に彼女の表情が物語っている。スカーレットは褒められたがりなのだ。

 改めて本音で伝えると、彼女は少しばかり照れた様子で髪をいじりながら、そっぽを向く。

 

「ふん、いいわよ。次はもーっとすごい一番取るんだから!」

 

 宣言するスカーレットには悪いけど、よく考えたらもっとすごい一番ってなんだろうね。僕にはわからないよ。

 その旨を伝えたらひどく怒られた。久しぶりに理不尽を感じた。僕が悪い?そうか。僕が悪いな。

 

 

 

 新年を迎え、ダイワスカーレットにあけおめしたら律儀な挨拶と共にお年賀をもらった。

 

「え、なにこれは」

「お年賀だけど?」

 

 なんだそれは。僕は知らない。

 

「聞いたことないよ。何それ」

「はぁ!?アンタそれでもアタシより年上なの!?」

「うぐ、そうです。年上でごめんなさい」

 

 これでもスカーレットより四つくらい上なんです。

 

「まあいいわ。お年賀っていうのはね――」

 

 わざわざ説明してくれるのはさすがダイワスカーレットと言ったところか。

 どうやら、お年賀というのはお世話になった人に向けて年始の挨拶と共に贈るものらしい。中身はお菓子とか日持ちするものとか、お歳暮と似たようなものだって。

 

「へー。スカーレットは物知りだね」

「はぁ…。アンタが知らないだけよ」

 

 そうかもね、と頷きながらお年賀を受け取る。お返しは別になくてもいいと言うので、渡さないでおく。というか、今は渡すものなど何もない。

 お歳暮は親戚でもお返しをしなくちゃいけないと知っているので、これも似たようなものだろう。スカーレットはいらないと言っても、渡すのが義理というものだ。何か渡さないといけないな。考えておこう。

 

「それじゃ、走り初め行くわよ!」

 

 新年初め、気力十分なスカーレットに従い僕も歩いていく。

 まだまだ冷たい冬の空気とは裏腹に、眩い太陽が空一面を染める青に浮かんでいた。新年には最高な、雲一つない走り日和だった。

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