エピソード・オブ・スカーレット   作:坂水木

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二年目有馬記念。


6. エピソード・オブ・スカーレット

 ウオッカが寮を出ることになった。どうにも海外に行くらしい。

 『ウマ娘と言えばダイワスカーレット』と言われたい。そう言ったスカーレットの言葉が頭に残っている。

 "一番"になりたいウマ娘、ダイワスカーレット。スカーレット自身も含め、みんなの頭にウオッカの姿があるから自分は一番になれないと言うけれど、彼女が一番になりたいと願うのは本当にそれだけが理由なのだろうか。

 僕にはまだわからない。今でもわからない。それでも少しずつ、彼女がどうして"一番"を目指すのかわかってきたような気がする。だから僕もまた、彼女のためにできることを探していかないといけない。

 

 

 有馬記念。

 出遅れはなし。五位に位置付け、ここからどうなるかといったところだ。ステータスは劣っていない一番人気。スキルは変わらずスタミナ重視だが、できればスピード系にも寄せていきたかった。そこまで時間はなかったので、このレースがどうなるか少し気がかりではある。

 最終コーナーに入った。抜けていく。スカーレットが抜けていくぞ。そのままそのまま!さすがダイワスカーレット。勝ち切ったあああ!

 

 勝利を目指して出走したし、勝って欲しいと思っていたけどしっかりちゃっかり勝利してくれたのはさすがとしか言えない。今回はあまり僕の方からも言うことはない。今は少し、手探りな状態だから。

 でもまあ、やっぱりこれだけは言っておかないと。

 

「スカーレット、おめでとう」

「ふんっ……ありがと」

 

 あまり素直じゃないスカーレットでも、お礼はしっかりと言うのだから根はやはりとてもいい子だ。

 

「今年はこれで終わりだね」

「そうね」

 

 ぽつりと呟いて、静けさが満ちる。

 一年の終わりが近く、彼女ともこれでお別れだと思うと寂しい。

 

「……トレーナー」

「うん?」

 

 呼ばれ、答える。スカーレットの顔を見ると、どことなく物憂いげな表情が浮かんでいた。

 

「アンタ、アタシの担当でよかった?」

 

 やけに声が重いと思ったけど、まさかそんなつまらないことを聞いてくるなんて。レースに勝った後だとは到底思えない。

 

「珍しいね、スカーレットがそんなつまらないこと聞いてくるなんて」

「はぁ!?つまらないって!アタシは大事なこと聞いてるのに!」

 

 しょんぼりと垂れていた尻尾が跳ね、機嫌も別の意味で悪く変わる。うん、こっちの方がまだ好きだ。落ち込みなんてスカーレットには似合わない。

 

「僕がさ、スカーレットのことどう思ってるか知ってる?」

 

 彼女の話は軽く流し、質問を投げる。

 一瞬考え、スカーレットは何を思ったのか顔を赤くしてもじもじと長い赤の髪をいじる。なんとも可愛さが増した。危うく惚れそうになるところだった。あぶないあぶない。僕以外だったら惚れてたね。

 

「そ、それは……えと、す……好き、とか?」

 

 声を小さく、上目遣いで答えをもらった。ありがとう。嬉しい。可愛い。

 いやそうではなくて。僕の思ってた回答と違う。こんな照れ照れスカーレットを見られただけでもう十分ではあるんだけど、違うんだ。

 

「あぁっと、うん。好きなのは事実だからいいとして」

「そ、そうなんだ…!」

 

 嬉しそうだなぁ、この子。本当、感情がダイレクトにこっちまで伝わってくるから話してて楽しい。

 

「好きは好きなんだけど、そうじゃなくてさ。僕はね。君にものすっごく憧れてるんだよ」

「えっ、憧れ…?」

 

 意識を戻してくれたのか、僕の言葉に疑問を返してくる。そう、憧れだ。スカーレット。

 

「うん。憧れ。ダイワスカーレットの走る姿に見惚れて、先へ先へと走り抜ける瞳の熱に焦がれて、太陽みたいな君の輝きに魅入られた。僕の持っていない、僕じゃ持てない緋色の炎に――スカーレットに憧れたんだ」

「――っ!!」

 

 目を見開き、彼女の代名詞とも言える赤の瞳を揺らす。覗き込み、しっかりとその熱を見つめて続ける。

 

「誰よりも君に憧れている僕が、君の担当でよかったかなんて聞かれるまでもないよ。あぁ、もちろんよかった。ダイワスカーレットのトレーナーでよかった。ダイワスカーレットのトレーナーだからよかった」

「~~っ」

 

 見つめる先で、スカーレットが顔の色を朱に染めていく。

 

「うぅ、アンタほんっと、どうしてそんな恥ずかしいこと真正面から言えるのよぉ」

「ふふ、相手がスカーレットだからかな」

「っもう!」

 

 大きな声と共に、ばっと立ち上がり改めて見つめてくる。赤毛が揺れ、それ以上に眩しく色濃く輝く瞳が僕を捉えていた。

 

「いいわ!そこまで言うなら、アンタの憧れるダイワスカーレットとしてやってやろうじゃない!トレーナー!アンタ、最後までアタシのこと見ておきなさいよねっ!!」

「それはもちろん」

 

 ふふんと笑う彼女を見て、ほっと胸をなでおろす。思いのまま勢いのままに伝えたことだけど、それが届いたのならよかった。スカーレットのやる気は上がってくれたみたいだし、ちょっと僕も聞いてみようかな。

 

「ちなみにだけど、スカーレットはさ」

「ん?」

「僕がトレーナーでよかった?」

 

 聞かれたから、なんとなくね。気になったし。

 

「ふんっ、そんなの決まってるでしょ」

 

 止め、もう一度僕を見る。紅の瞳が悪戯っぽく笑っていた。

 

「アンタでよかったわよ。アタシのトレーナーさんっ」

 

 可愛く言うスカーレットは、わかっていても目を奪われてしまうくらいに可愛かった。

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