新年。ダイワスカーレットに呼び出され初詣に来ていた。
スカーレットの目標は変わらず"一番のウマ娘になる"こと。ならばー―。
「有馬記念に出てみようか」
「……は、はあ!?」
うん。その反応はわかる。言いたいことはわかるんだ。
「ちょっと前に出たばっかりじゃない!今さら何言うのよ!」
そうなんだよね。ほんの少し前、年末に出たばかり。そして軽々と…とまではいかずとも優勝を手に掴んだ。思ったよりあっさりと。
「ほら。有馬記念を連覇したら、それこそ人気も実力も兼ね備えたウマ娘ってことにならない?」
「それは…」
ファンから選ばれたウマ娘しか出られないレース。ファンに選ばれるという点に関して、僕は心配していない。今年もうどうしようもないほど失敗を繰り返したら別だけど、スカーレットに限ってそれはないだろう。だから、出走そのものは大丈夫だと思う。
「たぶん、二度目の有馬記念はみんな去年以上に強くなってるよ」
「そうでしょうね」
「そんな強くなったみんなの中でスカーレットが"一番"になれば、どうかな。"一番のウマ娘"だと思わない?」
「……ええ、そうね。そうかもしれないわ」
神妙に頷くスカーレットも、有馬記念二連覇の難しさは理解しているのだろう。小さく頷き、顔を上げる。
「ふん、なら次は有馬のためにいろんなレースに出るわよ」
「そうだね。勝って勝って勝とう」
「ええ。勝つわよ!」
気合十分に瞳の炎を燃やすスカーレットに頷き返した。
「ところでトレーナー」
「うん?」
「アンタはまず何をすればいいと思ってるの?」
「それ、新年として?」
「ええ、もちろん」
「そうだね……技術を磨こうか」
「ふふ、いいわね。これからいろんなレースに出るなら通用する技術も磨かなくっちゃ」
強敵揃いのレースに参加するのだから、まずはそこから始めよう。
「アンタもたまには……ううん、いつも悪くない提案だったわね。その、ありがと」
そっぽを向いてお礼を言うスカーレットの横顔は桜色に染まっていて、つい笑ってしまう。
「なによもう。せっかくお礼言ってあげたのに…」
「ふふ、ううん。こちらこそありがとうね。スカーレット、今年もよろしく」
「ふんっ、よろしく。……ふふ」
ひっそりと頬を緩める彼女の頬笑みは優しく、温かかった。
福引でティッシュを引いたり、遊園地に遊びに行ったりとしながら大阪杯を目指す。ステータスの吟味は相変わらず難しく、スタミナはもうスキル頼りと半分諦めた。今はパワーとスピードのバランスについて考えている。
そんなある日、というかバレンタインの日。朝からダイワスカーレットに呼び出された。
呼ばれた場所に行くと、制服姿のスカーレットがのんびりと待っていた。
「おはようー」
「……おはよ。アンタ、眠そうね」
「ふわぁぁ……うん、眠い」
「もう、せっかくアタシが連れていってあげるんだから、もっとしゃっきりしなさい」
ぱしりと、両頬を彼女の手に挟まれる。まだ春には早い季節。冷えた手が頬に触れて冷たい。
「う、冷たい。目覚めた。目覚めたから離して。結構恥ずかしいし」
「あら、ふふ、そう?ならいいわ。離してあげる」
にっこりと、だけどほんのり頬を染めたスカーレットが手を離す。
なんだこれ。恋人かな?頬が熱い。
「ん、予定通りね。それじゃ行きましょ?」
「う、ん。でもどこに?」
「そんなの決まってるじゃない。トレーニング用品の買い出しよ!」
「トレーニング用品か…なるほど」
「ええ、目標も決めたし、そのためにも買わないとね」
淡い期待は消え去る。僕も男であるからして、バレンタインデーに夢を見たりはしていた。が、それ以上にスカーレットの勝利の方が大事だ。ちゃっちゃと行こう。
「それにしても今日は人が多いわね。なんか行列もできてるし」
「バレンタインだからね」
「ふーん、そう。バレンタイン。じゃあこれはチョコを買う行列――あ」
「うん?」
何かに気づいた様子のスカーレットを横目に、尋ねる。
「な、なんでもっ。早く買いに行きましょ?」
「うん」
今後のためにも重要な買い出しだ。しっかり考えて買おう。
スカーレットとの買い物も終え、時刻は夕方。夕焼け色が空に浮かぶ雲を彩っている。
「ふぅ、結構買ったわね。もうこんな時間」
「早いもんだ。夕方だよ」
「ええ。それじゃ、飲み物買ってきてあげるから、アンタはここで待ってなさい」
「え、いいよ別に。早く帰ろう」
買ったもの置いて今日は終えたい。割と疲れた。あとチョコ食べたい。帰りに買って行こう。
「も、もう!いいから!今日のお礼も兼ねてるの。そこで待ってること!いい?」
「はい。待ってます」
何をそんな、お礼なんて別にいいのに。つい反射的に言葉を返してしまった。
行ってしまったものは仕方ないので、椅子に座って待つ。カフェテラス的な席だ。一日歩き回っていたせいか、座ると疲れが出てくる。僕ももう年かな。
「はい、紅茶。アンタ、コーヒーより紅茶の方が好きって言ってたものね」
「おー、ありがとう。覚えててくれたんだ」
「ふふ、当たり前でしょ?」
戻ってきたスカーレットがカップに入った紅茶を置き、それからごそごそと鞄を漁る。
「あとほら……これ」
渡されたのはリボンでラッピングされた箱。チョコレート色の箱が中身を示している。これでチョコレートじゃなかったらおかしい。しかし、チョコレートか……。
「チョコレートかぁ」
「な、なに?チョコレート苦手だった?」
「いや、ふふ、帰りに買おうと思ってたんだ。嬉しい、ありがとう」
まさかスカーレットからもらえるとは思ってなかった。そっか。バレンタインのプレゼントか。
「へへ」
「も、もうっ。そんなにやつかないでよ!べつに変な意味ないんだからね!いつもアンタには助けられてるっていうか、お礼を言いたいっていうか……とにかく、そういうこと!わかったわね!」
「ふふ、うん。ありがとうね」
言い訳をすればするだけこっちが恥ずかしくなってくる内容だったけど、今だけはそんなの気にならないくらいに嬉しい。
「……どーいたしましてっ」
照れ気味にそっぽを向いて返事をしてくるスカーレットに笑いかけ、紅茶とチョコレートをいただく。
今年のバレンタインは、ずいぶんと甘くて優しい日だった。