エピソード・オブ・スカーレット   作:坂水木

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大阪杯から天皇賞春まで。


8. エピソード・オブ・スカーレット

 大阪杯。春の三冠第一戦目。有馬記念に向けた最初の目標。

 心配はなく、ささっとダイワスカーレットを見送った。一番人気のダイワスカーレットだ。あとは見守るだけである。

 

 レーススタート。

 出遅れはなし。位置取りは悪くない。三位、四位に位置付けしている。気になるのはトウカイテイオーやメジロマックイーン、エアグルーヴといった強豪揃いなところか。

 最終コーナー手前で五位に位置付け。さあ上がってきたぞ。スカーレット上がってきた。伸ばせ伸びろ!進め進め!!いけいけいけいけ!!前だけ見ていけええええ!!!!勝った!まず第一歩だ!!

 

 勝利に手を振るダイワスカーレットを眺めながら、僕もまた勝利の味を嚙み締める。やはり技術を磨いてきているかいがあったか。良いコース取りだった。作戦の選択で先行を選ぶにあたって、パワーステータスを上げてきたことも良かったかもしれない。

 今のところ、僕のステータス育成は間違っていないらしい。安心する。

 

「ふふん、アタシが一番よ!」

「おー、余裕だね」

「そう、見えた?」

「ううん、途中は結構競ってたと思う」

「そうよね。誰が勝ってもおかしくなかったわ」

「その中で一番になった」

「ま、当然よね!アタシだもの」

 

 胸を張るダイワスカーレットに僕も頷く。

 

「でもまだ足りないわね……。ん、アンタは次の準備をお願い。アタシは"一番のウマ娘"としてみんなにアピールしてくるから!」

 

 駆けていくスカーレットを見送り、ぽつりと呟く。

 

「……次かぁ」

 

 頭にはある。ただ今のステータスと比べて大丈夫かという心配もある。いや、スカーレットを信じよう。

 考え事を打ち切り、ウイニングライブでスカーレットのファンになった後、二人で帰り道を歩く。

 

「……よっ」

 

 と、ウオッカが現れた。気まずげとでも言おうか、何とも言えない顔をしている。どうでもいいんだけど、ウオッカって神出鬼没だよね。たまに心臓に悪いからやめてほしい。

 

「……ウオッカ」

「アンタ、もう日本に帰ってきたの?ちょっと早すぎじゃない?」

「ちげーよ。また今年中には海外にいくつもりだ。だけどその前に……お前との決着をつけようと思ってな」

「……決着」

 

 僕が本当にくだらないことを考えているとは露知らず、二人の会話は進む。

 

「『エリザベス女王杯』の時からもやもやしてたんだ。お前に勝ちてぇって。あんなにカッコいい走りを見せつけられたままでいいのかってさ」

「……」

 

 おお、ウオッカ。言えたね。カッコいいって。僕、言わなかったからね。

 キラキラとした想いを込めてウオッカを見つめると、ちらりとこちらを見て目が合う。すごい微妙な顔をされた。失礼な。

 

「はっ、なによそれ。アンタそんなことのために帰ってきたの?でも……ええ、いいわ。その挑発乗ってあげる。アタシもダービーの時からずっと思ってたから。アンタに勝ちたいって。あの時から"一番"の位置を譲ってくれない、アンタを必ず、超えてやりたいって」

「……ははっ、なんだよそれ。俺の真似かよ」

「違うわ。アンタがアタシの真似をしたのよ」

 

 どっちでもいいよね、それ。

 僕の考えを察したのか、スカーレットがキッとにらんでくる。この子、察しが良すぎるでしょ。ウマ娘の耳って人の内心も読み取れるのかな。やめてほしい。

 

「――『天皇賞(秋)』、それで勝負だ」

「勝てば注目されるね」

「ええ、アタシの……アタシたちにとっても願ってもない機会ね」

 

 ふ、っと一瞬こちらを見てスカーレットが微笑む。"アタシたち"と、彼女はそう言ってくれた。なんとも面映ゆい気分になる。嬉しいというか恥ずかしいというか。彼女に認められているのはわかっているけれど、言葉にされるとやはり嬉しい。

 

「いいわよ。出走する。そこでアンタをぶち抜いてやる。決着をつけましょう。アタシとアンタ、どちらが上か。誰が"一番"か」

「ああ、絶対に負けない。お前には絶対」

 

 二人の最後の戦いが始まる。『天皇賞(秋)』。そこですべてが決まるのだ。

 

 

 

 三女神像で二度目の謎進化をし、ファン感謝祭があったりした。私服スカーレットが可愛いという感想しかなかった。ケーキをおごったりしたのは、そう特別な話でもない。なんとなく、絆が強まった気がするのはあるけれども。

 『天皇賞(秋)』を目標にしたはいいものの、僕にはその前にスカーレットに言われ考えていたことがあった。いろんなレースに出ると決め、大舞台を考え、彼女のステータスを頭に置きつつも決めたこと。

 そう、『天皇賞(春)』だ。

 

「スカーレット、天皇賞春、頑張って!」

「ええ、頑張るわよ。頑張るけど…アンタ、ほんとにいけると思ってる?」

「うん。思ってる」

 

 それは出ると決めたときにもう思ったことだから。スタミナ不足はスキルで補う!それしかない!!

 

「はぁぁ……まあいいわ。ええ、アンタが言うなら行ってくる。一着、待ってなさい!!」

 

 小難しげな顔から一転、気合を入れる彼女に大きく頷き見送る。

 頑張れ、スカーレット!

 

 レースが始まった。

 出遅れはなし。出だしは悪くない。気になるのは位置取りだ。六位、五位に位置付けている。そして怖いのがセイウンスカイ。早い早い。先頭を突っ走っている。早い。そして怖い。

 あと、スタミナが怖い。いつもよりめちゃくちゃに長いレースだから、スタミナ切れが怖すぎる。しかしちゃんとスキルは出た!トレーナーはスキル発動を察せられるというけど、それ本当なんだよね!これでスタミナ足りなかったら、それはもう僕のせいだ。どうしようもない。後でいっぱい謝ろう。

 中盤過ぎて、最終コーナー越えて四位だ。どうなる。スタミナは大丈夫か。セイウンスカイじゃない!メジロマックイーンだ!前にメジロマックイーンがいる!!スカーレット!頑張れ、頑張れ!!………はぁ。悲しいね。これが現実か。

 

「スカーレット、おかえり」

「あー!も~っ!あとちょっとだったのに!!あ~ん、も~っ!」

 

 控え室に戻ってすぐ、ばたばたと騒ぐダイワスカーレット。申し訳ないけど可愛い。こんな悔しがるスカーレットはあんまり見ないから、結構な可愛さがある。本人が騒いでいる分、尻尾の動きも激しい。大きくふりふり揺れている。

 

「詰めが甘かったね」

「はぁああ!?アンタがそれ言う!?そもそもアタシこのレース自信なかったのよ!?それをアンタが頑張れって応援してくるから――ってもう!なに言わせんのよばか!!」

「うわ、ごめんって叩かないで」

 

 結構強めに肩をばしばし叩かれる。割と痛い。でもスカーレットの発言が可愛い。くそぉ、僕にどうしろって言うんだ。

 

「はぁぁ…もう、仕方ないわね。次は完璧なレースにしてみせるわよ!」

 

 改めて瞳の紅を燃やすスカーレットを見て頬を緩める。確かに少し無謀な挑戦だったかもしれない。でも、結果は二着。彼女の求める"一番"ではなかったけれど、これがまた前に進むための糧になったのならよかったと思う。次のレースでこそ、スカーレットには"一番"を取ってもらおう。

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