魔王軍に入るのも悪くない   作:アンダンテ

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今回は文字数多めです。


第10話 死神に会え

 周りには大量のチスイバエとクライバエの死骸があった。

 私がここに来た時にも何匹かのクライバエの死骸があったが、おそらくアレシア様が言っていたこの子の能力などであの子自身が倒したのだろう。

 アレシア様の言葉を疑ったわけではないのだが、この子が少しでも戦闘ができるなんて信じれなかった。

 だが、事実死骸がいくつかあったので、この子の能力を認めざるを得ない。

 

 ………正直、かなり不安だ。

 この子がもしも魔王軍に入ったとしたら、この子の能力を使い、かなり活躍してくれるだろう。

 だが、私たちの仕事は言わば()()()()だ。命あるもの同士の戦いだ。

 自身の死を覚悟しながら、生きていかなければいけない。

 この子自身が入ると選択したとしても、私はそれを止める権利なんてない。………が、この子には感情がない。

 この子について詳しく知っているわけではないが、もしも、恐怖や歓喜などの感情すら存在しなかったとしたらどうなるのだろうか?

 

 答えは簡単だ。ただ人間を殺すためだけに生きる殺戮人形と化すだろう

 自分が死ぬと分かっていても突き進み、覚悟をすることなく死を選べる。同情することなく人を殺し、狂気的な嬉しささえ湧くことがない。

 ………それが、どれだけ恐ろしく、どれだけ空しいことなのだろう。

 

 私はこの子にそんな風になってほしくない。私はこの子に楽しく生きていてほしい。

 だが、この子がもしも魔王軍に入ったら、私は暖かく迎え入れなければならない。

 それが私の罪滅ぼしなのだから。

 ……この子が起きたら、魔王軍に入るかどうか改めて聞かないとな。

 この子が道を踏み外さないように祈るばかりだ。

 

 ……それにしても酷い怪我だ。

 クライバエにところどころ喰われているせいで、流血がすごい。

 応急処置はしたが、早めに魔王城に行って、手当てをした方がいいだろう。

 私はいわゆるお姫様抱っこをして、魔王城に帰ろうとした。

 

 お姫様抱っこをする理由は、この子に異変があったらすぐに気づくことができることと、背後から攻撃があったとしても、この子に被害はないからだ。

 この子に最初に会ったときはまだそこまで警戒する必要はなかったが、今は残った蠅どもが後ろから襲ってくる場合もある。

 警戒するのに越したことはないからな。

 

 幸い、ここ周辺のチスイバエとクライバエは全滅したのか、それとも力に恐れてこないだけかは分からないが、私の方へ来ることはなかった。

 クライバエは魔獣の中でも比較的に頭は悪い。ただ、自身がどうやっても勝てない相手には流石に襲ってこないらしい。

 

 私は再度、この子に視線を向けた。

 ………あの魔法陣、誰が仕掛けた物なのだろうか?

 魔法の作りとしては、そこそこ整っていたから、ただの悪戯というわけではないのだろう。

 これが、この子を狙った計画的なものだとしたら、相当な頭脳と行動力を持っているだろう。

 ……一応、アレシア様にも報告しておくか。

 もしかしたら、アレシア様が敵対している組織と関係があるかもしれない。

 私はこの子が少し苦しそうになったのを見ると、少し足早に村の方へ向かおうとした。

 

 

 

 

 

 だが、目の前にいる哀れな冒険者たちを殺すのが先かな。

 

 

 

 

 

 

 

 俺はトリニティ王国の中でも、そこそこ強いパーティーのリーダー、ログレスだ。

 俺たちは今、とある村で魔獣に関する調査を行っている。

 その魔獣の正体はクライバエ。繁殖力が強く、王国内でも厄介とされている魔獣だ。

 どうやらこの村で、クライバエによる被害があったらしく、俺たちはクライバエの駆除と調査を目的とし、この村へやってきた。

 

 はっきりというと、このミッションは楽勝なのだ。

 クライバエが王国で厄介とされている理由は、その繁殖力の高さと、集団で行動する習性故だ。

 

 俺たちのパーティーは、4人で構成されている。戦士の俺、魔法使いのリシェ、騎士のバイス、僧侶のレイン、という感じだ。

 クライバエは単体で挑むと、手こずるが、団体で挑むとそこまで強い敵ではない。

 長いこと一緒に行動しているこのパーティーなら、なおさら問題がなくなる。

 

 俺たちが村に着くと、案外魔獣の被害は少なかったらしく、村の人たちはいつも通りなのかは分からないが、怯えという感情はそこまで感じ取れなかった。

 村長に聞くとクライバエの被害は、周辺を通った奴隷馬車の奴隷たちらしい。

 なんでも、奴隷馬車の運転手も、奴隷たちもみんな等しく、血や肉も残らない骨だけの状態だったらしい。

 村長は村に被害はなくて良かったが、時間がたてばこの村にもクライバエがやってくるかもしれない、ということで依頼したらしい。

 

 俺たちはその話を聞いても、怯えることはなかった。

 クライバエは肉を喰らった量だけ、強くなる。

 奴隷の人数は10人ほどだったらしい。クライバエ単体がそこまで食べると、かなり強くなるが、クライバエの集団で生活している。

 クライバエはそこまで強くはなっていないだろう。

 

 それから村長の話を少し聞いて、俺たちはさっそく村で調査を行おうとした。

 

「それにしても、この村の住人が襲われているわけではなくて、良かったですね。」

「あぁ、そうだな。奴隷たちには申し訳ないが、この村がまだ襲われていないのは幸いだ。」

 

 僧侶のレインと、騎士のバイスがそんなことを話している。

 本当にその通りだと思った。だが、奴隷たちは本当に可哀そうだ。

 トリニティ王国は、奴隷売買が多く行われている。

 しかも、貴族たちはその奴隷たちを嬲り殺したり、玩具のように犯している、などといううわさも飛び交っている。

 はっきり言って、胸糞悪い。

 少しばかりの不快感を感じながら、俺は魔法使いのリシェと話をした。

 

「どうだ。ここら一帯でクライバエたちの気配は感じるか?」

「……いや。少なくともこの村の近くで集団で活動しているような気配はない。」

 

 リシェは気配を探ることが得意だ。

 その力を使って、今までの危機も乗り越えてきたのだから、パーティ―全員がリシェの力を信用している。

 俺もリシェにどれだけ救われてきたものか……

 とにかく、リシェの気配を探る力は、このパーティーの要とも言っていいぐらいに重要だ。

 だが、リシェが見つけれないということは、やはりこの村近くにはいないのか……

 やはり、村の人たちから情報収集をする方が良さそうだな。

 

「今から、別々に行動して村の人たちから情報収集をしようと思う。10分後にまたこの場所に集合しよう。」

 

 俺がそう言うと、皆は頷き解散していった。

 村の人たちがいい情報を持ってくれていたら、良いんだけどな。

 

 

 

 俺が情報収集を終えて、集合場所に向かうと、案外俺は遅かったのか全員待っていた。

 

「悪い、待たせたか?」

「いや、時間ピッタリだ。問題はない。」

「大丈夫ですよ。私も今さっきここに来たところでしたから。」

 

 バイスとレインは、俺に大丈夫だと伝えてきたが、リシェはどうだろうと、視線を合わしたら何か言いたそうにしていた。

 

「どうかしたか?リシェ。」

「………何でもない。それよりも、何かいい情報はあった?」

 

 リシェの様子は少しおかしかったが、本人が言うんだからこれ以上は追及できなかった。

 リシェがそうつぶやくと、レインが笑みを浮かべて手を上げた。

 

「どうやら、向こう側の森に、蠅らしき虫が集まっているらしいです。」

 

 レインはそう言うと、村の奥の方に見える森に指を指した。

 俺はそこまでめぼしい情報はなかったから、そこに行ってみるのもありなのかもしれない。

 

「よし、そこに行ってみるか。皆もそれでいいな。」

 

 俺たちはレインが言っていた森に向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

「なんだよ………これ……」

 

 パーティーの皆も言葉を失っている。

 俺たちが見た物は、大量のクライバエの死骸だった。

 その数が明らかにおかしい。

 俺たちの見立てだと、200から300ぐらいだと思っていたが、それよりもはるかに多かった。

 

「……嘘、この数を誰かが倒した?」

 

 そう、そこなのだ。

 はっきり言って、この数を対処するのは俺たちだけでは不可能だっただろう。

 あたりを見るだけでも、軽く400は超えている。

 しかも、あたりの木々は、爪痕のような傷がつき、見るからに人間が残したものではない。

 ………まさか、ほかの魔獣とクライバエが戦ったのか?

 だとしたら!

 

「早くこの場所から離れるぞ!もしかしたら、強力な魔獣がこの辺りに潜んでいるかもしれない!」

 

 俺がそう言うと、皆正気を取り戻したのか、落ち着いてきた。

 

「リシェ。この辺りに強力な魔獣はいるか?」

 

 俺がそう言うと、リシェは集中しているのか、黙っていた。

 しばらく待つと、リシェは顔を上げ、こう言ってきた。

 

「……魔獣はこの辺りにはいない。でも、早めに村に帰った方がいい。」

 

 リシェがこう言うんだ。村に帰って戦略を立て直した方がいいだろう。

 俺は皆に村に帰ることを伝え、早足で村に帰ろうとした。

 ………だが、それも叶うことはないだろう。

 目の前にある女性がいた。その女性は少女を腕に抱え、俺たちの方を赤い眼で見ていた。

 

 右側で誰かが倒れる音を聞いた。その方向へ視線を向かわせると、リシェがこれまで誰も見たことがない顔で怯えていた。

 リシェは口をパクパクとさせており、目は目の前の女性をとらえていた。

 

「……あ……アアァ……逃げて、私たちでは、勝てない、勝てるわけない!」

「どうした!?リシェ!落ち着いてくれ!」

 

 リシェは頭を抱え、涙をポロポロと流している。

 

「……ログレス……あいつは人間じゃない!あんな力が人間に出せるはずもない!!」

 

 ……は?………まさか!?

 

「……あいつはたぶん……魔王軍の…幹部。」

 

 リシェがそう言った瞬間、周りが暗くなり、目の前の女性の視線が絶対零度にまで冷たくなった。

 

「あなたは……あの時の!!」

 

 バイスがそんなことを言っている。

 あの時の?

 バイスはこいつと会ったことがあるのか?

 

「…あぁ、あの時の騎士か。何分ぶりだったかなぁ。」

 

 …読めてきた。おそらくバイスは、情報収集をしているときにこいつと会ったのだろう。

 ………ということは、村に侵入していた!?

 

「どういうことだ、バイス!?こいつは村で見たのか!?」

「……あぁ、村であった。魔獣に関する情報を聞こうとしてな。……まさか、その少女をお前は探していたのか!?」

 

 こいつの抱えている少女を探していた?

 どういうことなんだ?

 思考を整えようとするが、目の前から多大な圧迫感を感じた。

 レインが小さく、悲鳴を上げる。

 

「……残念だったな。お前たちは次に私が言うことに従ってくれよ?

──────死神に会え」

 

 そういった瞬間に、目の前の化け物からさらに殺気が放たれる。

 その殺気を俺は浴び、これまで経験したこともない緊張感を感じる。

 リシェはさっきまで腰を抜かしていたが、今はもう立ち直り、震えながら戦闘態勢に入っている。

 バイスとレインも、同様に何時でも戦えるような体制をしている。

 ……もう、後戻りはできない。

 周りの暗闇が一層濃くなる。

 

「じゃあな。」

 

 俺の耳がその声を聴いた時には、何かが破裂する音が聞こえた。

 その方向を見ると、俺は吐き気を覚えた。

 レインの上半身がなくなっていたのだ。周りがスローモーションになっている錯覚を覚えた。

 血がどんどんと流れ、俺の足元にも生暖かい感覚が迫った。

 

 目の前の化け物を見ると、さっきまで抱えていた少女を、黒い玉のようなものに入れ、誰にも奪わせない、と言っているような気がした。

 その化け物の腕を見ると、人間がしているような細い腕ではなく、黒くどんなものでも、潰せてしまいそうな巨腕がそこにはあった。

 

「案外弱かったな。もう少し抵抗するものだと思っていたからさ。」

 

 化け物は狂気的な笑みを浮かべ、赤い瞳をこちらに向けてきた。

 俺の頭の中は恐怖と悲しみでいっぱいだった。何年も一緒に活動していた仲間が、この一瞬で死んだのだ。

 俺の手は震え、視界がどんどん狭まってくる。

 

「……もう、だめだよ。勝てっこないよ。」

 

 リシェは自身の杖を捨て、バイスは決死の覚悟で剣を握っていたが、それも化け物が腕を払っただけで、粉々に砕けた。

 ………また、死んだ。

 俺の頭の中は絶望の感情で埋めつくされていった。

 

「すまないな。正体がばれたらこうするしかないんだ。」

「……そうか。」

 

 それでも、俺はまだ諦めるわけにはいかなかった。

 ここで諦めたら、何一つ残らない。

 俺は息を這いいっぱいに吸い、決意をした。

 

「お前はほかのやつらとは違うみたいだな。戦ってやるよ。」

 

 化け物はそう言うと、後ろに跳躍し距離を開けた。

 ……今なら、逃げることはできるだろう。だが、それは俺自身が許さない。

 俺は今、戦うことしか許されていないのだから。

 

 俺は自身の力をここまでかというほどに振り絞った。

 全身に血がみなぎり、俺の短刀がほのかに輝いた。

 これで決めなければいけない。魔王軍幹部の強さは計り知れないだろう。だが、やるしかないのだ。

 俺は全身全霊の力を込めて、大地を蹴った。

 

 化け物は少し目を細めると、さっきよりも少し速く、腕を振り払った。

 …………今だ!!!

 俺は腕が当たる寸前のところで回避を行った。

 これには流石の化け物も驚いたのか、少しばかり瞳を大きくする。

 俺は決死の覚悟で、化け物の懐に入ることができた。

 腕に力を入れ、より威力を出そうとする。

 俺は力を込めた腕を思いきり前に突き出した。

 これで……終わ──

 

「………いい筋だったが、私を倒すまではいかなかったようだな。」

 

 何が起こった?視界がぐるぐると周り、さっきまであった恐怖や、悲しみという感情がはじけ飛ぶように無くなる。

 そして、俺の目には、横向きになった化け物の姿が映った。

 

 そこで俺は理解をした。いや、してしまった。

 負けたのだと。

 俺の意識はだんだんと常闇へと向かい、俺は化け物が言っていた通り、死神に会うことができた。

 


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