『9/6 23:48 イギリス ロンドン市街地』
「ひっ、ひいぃぃぃぃいいいっっ!?」
暗い、まるで世界中のあらゆる光を取り除いたような路地裏で1人の男が悲鳴をあげる。
男の名はエドワード・カイル。一代でイギリスでも五本の指に入るほどの大富豪にまで上り詰めた凄腕の商人であった。
美しい妻に2人の息子、1人の娘と、おおよそ誰もが羨むような理想的な暮らしを営む彼は今、立ち上がることもできず地面にへたり込んだまま、恐怖に総身を震わせていた。
エドワードの向かい側には、もう夏だというのに黒いコートを羽織った長身の男が立っていた。その目元は長い黒髪に阻まれて窺い知れない。
「た、たのむ!見逃してくれ!そ、そうだ!金ならいくらでも払う!いくらでもだ!!だっ、だからっ、たのむからそれだけはっ…」
若い頃の彼ならともかく、醜く肥え太ってしまった今のエドワードには己の財以外に縋るものはなかった。彼はツバを飛ばしながらあらん限りの声で喚き散らす。
ただ、エドワードは焦っていたからか、完全に失念していた。
「
「諦めろ。いずれこうなるとは分かっていながら取引を持ちかけたのはそちらだろう?」
額に血管を浮かび上がらせて口を懸命に動かすエドワードに向かって長身の男が冷酷に告げる。
「安心しろ。じっとしていれば痛みを感じる暇はない。無駄に暴れたほうが痛むことになる。まぁ、それが良いと言うのならば止めはしないが」
吸い込まれるような暗闇の中にあってその男の両目だけは血のような、あるいは果実のような紅い輝きを放っていた。
「ヒイッ!ごめんなさいごめんなさいお金なら払いますから助けてくださいお願いします!!」
その目に見つめられ、怯えきったエドワードには最初から正常な判断はできなかったのかもしれない。
はぁ、と長身の男があきれたようにため息を漏らす。
瞬間、一際大きな悲鳴が路地裏に響く。
しかしその声はすぐにかすれて消えた。
エドワードがイギリス清教の魔術部隊『
発見された彼はミイラのように干からびた状態で転がっていた。
目と鼻の位置もわからないほどに変わりはてた顔には、恐怖だけが刻み込まれていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『9/7 10:32 日本 学園都市第七学区』
上条当麻の朝は早い。
彼はとある事情で使えないベッドの代わりにユニットバスで睡眠をとっている。
当然ながら寝心地はお世辞にも良いとは言えないが、最近そんな寝方に慣れてきた自分の適応力が怖い。
全世界のベッドがなくなっても自分にはさほど被害がないのではないだろうか、などと考えてみる。
ポジティブに考えるというのは不幸な彼なりの生活の知恵というヤツだ。
…逆にげんなりした。
「背中が痛い…。」
そう1人呟きつつ、台所へ。
今日の朝食のメニューは、パンとソーセージ、それとサラダだ。
ちなみに昼のお弁当は前日の夜の残り物である。
ソーセージを焼き始めると、シスターの皮を被った銀髪の暴食モンスターが目を覚ます。
ちなみにこの少女が上条がユニットバスで寝ることとなった元凶である。
七つの大罪のうちの一つを軽々と犯す銀髪シスターは、早速ソーセージに目をつけたようだ。
「とうま!今日のソーセージの匂いはいつもと一味違うんだよ!」
「あっ!コラてめぇインデックス!まだ焼いてる途中だろうがもうちょっと待て!」
案の定、つまみ食いに走ろうとした少女を制止するが、
「もうこの食欲は人の身では抑えられないんだよ!」
そう言うや否やインデックスはフライパンの上でジュージューと音を立てるソーセージに箸を伸ばす。
ひょい、パク。ひょいパク。ひょいひょいパクパク。
「あっ!お前それ俺の分のソーセージ!この野郎!もう怒ったぞ!優しい上条さんには何をやっても許されると思ったら大間違いだぞ!今からお前のその煩悩にまみれた幻想をぶち殺す!」
そして始まる朝の格闘大会。ちなみに参加者は2名のみである。
ベッドで丸くなっていた三毛猫はそんな2人の声で起こされたのか、不機嫌そうにあくびを漏らすと再び丸くなる。
この後、上条が学校に遅刻したのは言うまでもない。