仮面ライダー妖   作:ちくわぶみん

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第五夜「妖怪と怪異(前編)」

第五夜「妖怪と怪異(前編)」

 

「あいててて……何するんだよコワポーン!」

「鉄平がいつまでもポータルを通らないからコン」

「だ、だって怖いし……」

 

コワポンに突き飛ばされ、前のめりになりながらポータルをくぐった鉄平は、立ち上がると周りを見渡す。

 

視界の先に広がっていた風景に、鉄平は思わず呟いた。

 

「これ……学校?」

「ここが五行院東京支部、またの名を『私立五行院退魔師養成学校 東京校』だコン!」

 

そこは、森林に囲まれた三階建ての校舎だった。

木造とコンクリート、二棟の建物が連なっており、校舎の前にはグラウンドが広がっている。

 

慌てて背後を振り返ると、二基の石灯籠に灯った火が揺れているだけであり、先程まで居たはずの神社は跡形もなく消えていた。

その代わりに、生い茂った木々がざわざわと揺れるだけである。

 

「おーい鉄平、早く来いよ!」

「置いてっちゃうよ~」

 

振り向くと、既に頼人たちはグラウンドの方へと向かっていた。

 

「ま、待ってくださいっス~!」

 

置いていかれまいと走り出す鉄平。

その頭に、コワポンはさりげなくピョコッと乗っかった。

 

 

古めかしい木造校舎と、新しめのコンクリ校舎。自然の中にありながら、文明の利器が存在する。

そんな相反する存在が両立された環境の校舎に、僕ら3人は足を踏み入れる。

 

校舎に足を踏み入れた僕達は、六道さんの案内のままに木造校舎の一室へと通される。

通されたその部屋は、机と椅子が並べられ、黒板にチョークで「ようこそ」の文字が書かれており──つまり、どこにでもあるような教室だった。

 

ちなみにここへ通される前、お茶として自販機で飲み物を奢ってもらった。

 

「り、六道先生……質問いいですか?」

「はい、鉄平くん」

「なんで僕たち、教室に通されてるんです?」

「だって、今から色々説明するのに、黒板ある方が便利じゃん」

 

さも当然のように答えられた。

これは客人というより、インターン生への待遇な気がする。

 

「それじゃ、仮面ライダーについてはコワポンから聞いてるだろうし……まずは妖怪と怪異について説明しようか」

 

そう言うと六道さん……いや、六道先生はチョークで黒板に「妖怪|怪異」と書いて、真ん中を直線で区切った。

 

「まずは『妖怪族』。世間一般では『妖怪』と呼ばれているね。彼らは元々別の次元からやってきた種族で、精神だけの存在だ。彼らを認識できるのは、彼らの存在を受容する思考を持つ者に限られる。と、ここまでで質問あるかな?」

「はい!リクドー先生、質問いいですか!」

 

春歌が勢いよく手を挙げ、ハキハキとした声で質問する。

 

ああ、間違いないな。これは……

 

「春歌ちゃん、どうしたのかな?」

「言ってること難し過ぎるので、もっと分かりやすくしてください!」

 

やっぱり……。春歌はこういう難しい単語が並ぶ授業が苦手だからなぁ。

 

僕は色んな本を読んでるから何となく理解出来てるけど、今の話は一定量の知識を要する内容だったと思う。

 

すると六道先生は、あちゃーとわざとらしく額に手を当てた。

 

「ごめんね~、いつも生徒達にしてるのと同じノリで話しちゃってたよ。分かりやすく言い直そうか」

「僕からもお願いしますっス。いきなり置いてけぼりくらったかとヒヤヒヤしたっス」

「OK~、じゃあもう一度説明し直そう」

 

六道先生は、チョークで黒板に図を書きながら説明を再開した。

 

「妖怪族は実体を持たない。つまり、魂だけで生きている種族なんだ。だから、普段はこっちに干渉ことが出来ないし、向こうからこちらへ干渉することもできない。この辺りは分かるかい?」

「はい!つまり、オバケと同じって事ですね!」

「まあ、そういう事。で、精神(アストラル)体の妖怪族を認識することができるのは、彼らの実在を信じている人間だけなんだ。妖怪や幽霊を信じない人間に、彼らの姿は知覚できない」

「ふむふむ……なるほどっス」

 

なるほど。概ね思った通りの説明だ。

でも、いくつか疑問はある。

 

「六道先生、質問いいですか?」

「いいよ~」

「精神体である妖怪達が、どうしてこちらへ干渉出来るのでしょうか?」

 

コワポン達もそうだけど、怪異は人を襲い街を破壊していた。何か違いがあるはずだ。

 

「いい質問だ。妖怪族は基本的に物理的な干渉力を持たない。ただし、彼らが物質世界に干渉を果たせるようになる方法が二つある」

 

六道先生は指を2本立てながら、黒板にこう書いた。

 

「1つは”憑依“、もう1つは”実体化“だ」

「憑依と実体化……」

 

ポーチから取り出したメモ帳に素早く書き記す。

本物の妖怪の生体を、専門家から聞けるんだ。しっかり記録しておかなくちゃ。

 

「まず憑依。これは精神体である妖怪族が、物質世界に存在する物体や生物に乗り移って行動する事象だね。頼人くんは昨日見てるだろう?」

「あっ、フォックストライカー!」

「その通り。あれも憑依の応用だよ」

 

なるほど。確かに古来から、狐憑きとかトウビョウと呼ばれる現象は語り継がれてきた。

それらの現象は、妖怪がこっちの世界に干渉する為の肉体を得ようとして起きる現象だったんだ。

 

「そしてもう1つは実体化。これは色々条件があるんだけど、一定以上の力を持った妖怪は実体を持つようになるんだ。コワポンもその一人さ。というより、コワポンの家系は皆そうなんだけど」

「へぇ~、コワポンちゃん凄いんだね~」

「えっへんだコン!」

 

春歌が自慢げに胸を張るコワポンを撫でる。

分かるよ。僕も定期的に撫でたくなる。

 

「条件って、どんなのっスか?」

「そこを説明するために、ちょっとクイズを出そうか。デデン!問題!」

 

思わず背筋を伸ばす。

い、いきなりクイズ!?

 

「妖怪族は精神生命体だ。だから食事の必要は無い。ただし、代わりにあるものを養分としているんだけど、そのあるものってな~んだ?」

 

妖怪達が何を養分としているか、か……。なんだろう?

河童はキュウリや尻子玉、狐なら油揚げ、二口女ならおにぎり……なんて逸話が多く残っているけれど、おそらくそういうものではないんだろう。

 

だとすれば……

 

「えーっと……血とか、ですか?」

「春歌ちゃん不正解。それだと妖怪はみんな吸血鬼だ」

「あちゃ~違ったかぁ」

 

血肉を求める妖怪も居ないわけじゃない。

でも、種類としてそこまで多いわけじゃなかったはずだ。

 

となると他に考えられるのは……

 

「はい!魂じゃないっスか?」

「鉄平くん……惜しい!でも、いい所まで来てるよ!」

「ホントっスか!?くぅ~!」

 

魂を喰らって力にする。そういうのもゲームとかでよくあるやつだ。でも違うらしい。

 

そういえば、ヤマノケは学校に出た時、何かしていたような……。

 

「……もしかして」

 

僕は静かに手を挙げた。

 

「はい、頼人くん。答えをどうぞ」

「もしかして、人間の”恐怖“……いや、喜怒哀楽といった”感情“ではないでしょうか?」

 

僕からの答えに、六道先生の口角が上がった。

 

「頼人くん……君、中々理解があるね。大正解だよ!皆、拍手~!」

「え、ホント!?頼人凄い!!」

「頼人先輩、予習でもしてきたんスか!?」

「頼人すごいコン!」

 

皆が驚いた顔で拍手を送ってくる。

正直、僕も当たるとは思わなかったのでビックリだ。

 

「頼人くんの言う通り、妖怪族は人間の激しい感情をエネルギーに変換し、それを養分にしているんだ。だから、人間と積極的に関わろうとする。その中で交流し、それが後世に物語として残されているんだ」

「リクドー先生、例えばどんなのがあるんですか?」

「多くの場合、助けてもらった恩返しをきっかけとした交流が記録に残っているね。ほら、動物を助けて恩返しされる物語、色々あるでしょ?」

 

例えば、鶴の恩返しや舌切り雀、浦島太郎の亀などが当てはまるだろう。

憑依の習性を聞く限り、納得出来る所は多い。

 

「でも、中でも一番引き出しやすく、効率的に集められる感情がある。それが恐怖や驚きといった、”畏怖の念“だ」

「畏怖の念……」

「そう。人間にとって未知の存在である彼らにとって、最も引き出しやすい感情は、畏怖の念だったんだ。そういう記録は『怪談』として残されているね」

「ひぃぃぃッ!?」

 

鉄平が突然青ざめて頭を抱えだした。

 

「鉄平、落ち着きなよ」

「だだだだってぇ!今のってつまり、古典の怪談は全部実話って事じゃないっスかぁぁぁ!!」

「まあ、全部が全部実話ってわけじゃないよ。特に、昭和以降の怪談は殆どが作り話だ」

 

鉄平、ビビりなのに怪談漁るの大好きだからなぁ。

でもノンフィクションって言われたら、そりゃ印象変わるよね。

 

「話を戻すけど、そうやって人々から多くの畏怖の念を集めた妖怪達は、実体を手に入れるようになったんだ」

「そっか。狐って神社で祀られるくらい、信仰集めてますもんね」

「そういう事コン」

 

またコワポンが自慢げに胸を張っている。

可愛いのでなでなでしておこう。

 

「なるほど……。頼人、今の説明分かりやすくできない?」

「え?今のをもっと?」

「春歌先輩、今ので理解できなかったんスね……」

「だって私、2人ほど詳しくないんだもん」

 

実の所は、春歌はオカ研の中で一番オカルトに疎い。

でも、興味はあるので知ろうとしてくれるから、こんな時は身近な例で説明する事にしている。

 

「春歌はゲームやるだろ?妖怪が人間をアバター代わりにして活動するのが憑依。人間から恐怖をスパチャしてもらって、それを元手にモデル作ってVTuberになるのが実体化」

「ああ~!なるほど、そういう事か~!」

「現代っ子らしい喩えだね~。でも的確だ。今の説明、今度から僕の授業で使っていい?」

「先生まで感心してるっス……」

 

春歌も理解してくれたところで、そろそろもうひとつの種族について聞かなくちゃならない。

 

「それで先生、怪異というのは?」

「ああ、そっちの説明もしなくちゃね」

 

その瞬間、声のトーンが下がった。

一瞬で背筋が伸びる。六道先生の目は、サングラスの奥で鋭くなってるのが伝わってきた。

 

「怪異。こいつらの存在が確認されたのは、つい最近の事だ」

「つまり、新種ってことですか?」

「いや、新種じゃない。最初は僕らもそう思っていたんだが、全くの別物だ」

 

確かに、ヤマノケはコワポンや夜叉とはどこか雰囲気が違っていた。

禍々しさというか、どこか生理的に嫌悪感を抱きたくなる気配が全身から溢れ出ていた。

 

「妖怪達は、基本的にこちらの世界へは干渉出来ないんだけど、こいつらは違う。どうやって発生してるかは分からないが、どうも最初からこちら側へ干渉できるらしい」

「最初っから……!?」

「ひぇぇぇ……」

 

そう言って六道先生は、怪異の特徴を箇条書きにしていく。

声のトーンは戻っているけど、さっきと比べておどけてこない。

 

それだけ真面目な話になるんだろうと、僕は肌で感じていた。

 

「正確な個体数はまだ把握できていない。だが、これまで確認された個体は、君達を襲ったヤマノケを含めて三体。だが、共通点がある」

「共通点……?」

「勿体ぶらないで教えてくださいよ!」

 

身を乗り出す僕と春歌。震え始める鉄平。

 

六道先生は、これまで確認された怪異の写真を黒板に貼り付けながら答えた。

 

「『都市伝説』だよ」

 

□□□

 

五行院東京支部 研究練 とある研究室

 

多くの機材と実験器具、そして山と積まれた何冊もの本。

 

研究者の根城を絵にしたような部屋の真ん中で、白衣の少女は呟いた。

 

「ん~……んん~~……ダメだ、サッパリだねぇ……」

 

背もたれにこれでもかと背中を預け、天井を見上げる。

ふわふわとした栗毛のショートヘアの頂点から生えたアホ毛が、彼女の動きに合わせて揺れている。

 

「サンプルが少な過ぎて、調べようにも手掛かりさえ掴めない……。はぁ……こんなにも面白そうな研究対象なのにねぇ……」

「やる事なくて暇してるなら、部屋の掃除ぐらいしたらどうですか……?」

 

部屋の引き戸を開ける音に、栗毛の少女は視線を向ける。

 

声の主は、ストレートな黒髪を腰まで伸ばした少女だった。

室内を見渡し、呆れたように溜息を吐いている。

 

「いちいち片付けてたら、使いたくなった時にまた取り出さないといけないじゃないか。だったら最初から出していた方が効率的だろう?」

「……そう言って、提出予定の研究資料がいつ崩れるかも分からない紙の山に埋もれて、ベソかきながら私に探すの手伝わせたのはどこの誰でしたっけ?」

「あれから資料はちゃんとファイルに入れて整理してるじゃないか~!」

「じゃあ研究器具も片付けられるようになってください」

「うぅ……黒海(くろみ)はつくづく手厳しいねぇ……」

多貴子(たきこ)さんはもう少し生活力を身につけてください……」

「だって私は今、怪異の正体を解き明かしたくてたまらないんだよ!?なのにデータが少な過ぎる!サンプルも無い!研究が進まなくて退屈なんだよ~!!」

 

白衣の少女、多貴子は拗ねたような顔でそっぽを向く。

 

黒髪の少女、黒海は肩を竦めると、引き戸の向こうを覗いた。

 

「そんな事より、来客ですよ」

「誰だい?」

「多貴子さんが欲しがってる物を持った人です」

「ほほぉう……?」

「2人とも、休日で悪いが失礼する」

 

黒海が退いた直後、引き戸を開いて入ってきたのは、ヤマノケから頼人を助けた少年、晴矢だった。

 

「大至急、この2つを調べてもらいたい」

 

そう言って晴矢は、六道から預かった紙片と、ヤマノケから回収した黒いチャッカーを取り出す。

 

それらを見た瞬間、多貴子は椅子から立ち上がり、目を輝かせた。

 

「ほぉう……実に面白そうじゃあないか……」




生徒紹介

宵待黒海(よいまちくろみ):東京校の生徒で、妖力の流れを視認できる特殊な眼を有している。東京支部に所属する仮面ライダーの1人であり、妖怪が見えない多貴子のボディーガードとしてバディを組む事が多い。生活力が壊滅的な多貴子の身の回りの世話を焼いている。

颯音多貴子(はやねたきこ):東京校の生徒で、妖怪や怪異の解析を担当している。五行院の中では珍しい科学者の家系だが、曽祖父の代から続く研究は五行院の妖怪研究を大いに発展させた。ちなみに妖怪はハッキリ見えている訳ではなく、妖力を宿した眼鏡を通してやっと完全に視認できている程度。
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