仮面ライダー妖   作:ちくわぶみん

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第六夜「妖怪と怪異(後編)」

「都市伝説……ですか?」

「そう、都市伝説。口裂け女とか人面犬とか、比較的新しめの怪談に登場する恐怖の対象だね」

 

六道先生が貼り付けた写真には、3体の怪異の姿が映っていた。

 

1枚目には、血のように赤いマントを羽織った白い仮面の怪人。

2枚目には木箱を分解し、継ぎ接いで形にしたような姿の異形。

3枚目には、僕が戦ったヤマノケ。

 

2体目が何の怪異かは分からないけど、1枚目は外見からして間違いなくアレだろう。

 

「うえぇ……全然可愛くない……」

「六道先生、妖怪と都市伝説に違いってあるんスか?」

「昭和以降の怪談はその殆どが作り話だって言ったじゃん?記録と娯楽の違いだよ」

「娯楽、ですか?」

 

春歌が首を傾げる。

確かに。都市伝説が作り話だと言うのなら、『記録と虚構』と言った方が適切な気がする。

 

でも、六道先生は虚構ではなく娯楽だと言った。それは何故だろう?

 

「そこを詳しく掘り下げると長くなっちゃうんだけど……まあ、怪談ってのは記録であると同時に、一種の教訓でもあったんだ。人間が生きていく上で大切にしなければならない教えや心構え。そういったものを、妖怪という不可思議な存在との交流を通して広く伝えていく。そういうのも怪談の役割の一端だったのさ」

 

聞いた事がある。

 

例えば、あかなめ。掃除をほったらかして水垢だらけになった風呂場に現れ、溜まった垢を舐める妖怪だ。

風呂場はこまめに掃除するように、という教訓を含む怪談だとされている。

 

また、生活面での教訓のみでなく、海坊主やダイダラボッチのように大自然の中へ妖怪を見出し、驕り高ぶる人間への戒めとしたものもあるそうだ。

 

「でも都市伝説ってのは、未知への恐怖を娯楽とするために作られた。異形の存在へ恐怖する事そのものを、あるいは恐怖させる事を楽しむために存在している。まあ、その内のいくつかは、本当に恐怖を集めるまでに至ったけどね」

「ああ……言われてみると、口裂け女とかって映画にもなりましたよね」

「やめてくださいっスマジ無理っス勘弁して欲しいっス!!あの映画ホント怖かったんスからぁ!!」

 

夏休みのホラー映画鑑賞会を思い出したのか、鉄平がガクブルと震えだした。

 

怖がってるけど、なんだかんだで見たがるんだよね。

今の説明に、ここまで分かりやすく例を示してくれるとは……。

 

「奴らは妖怪と違って、見た目も習性もかなりバラバラだ。妖怪とも怨霊ともつかないから、『怪異』と名付けられた。ここまで理解してくれたかな?」

「春歌、今の説明分かった?」

 

念の為、確認はしておく。

 

「なんとな~く、は。カタギに手を出さないヤーさん達のナワバリで、ポッと出のくせに素行が悪くて生意気な半グレ軍団が幅を利かせてる、みたいな感じだよね?」

「「喩えが任侠映画!!」」

「ん~~~~~大体合ってるからOK!!」

 

六道先生は今の喩えがツボだったみたいだ。

さっきまでの真面目な顔が何処かへ吹っ飛んでしまっている。

 

「とまぁ、違いはこんな感じ。そして一番の違いは、妖怪はチャッカーに封印できるけど、怪異は封印できない事だね。その代わり、倒せばそれでおしまいだ。僕達の仕事は、妖怪や怪異を封印、ないし討伐することだよ」

 

六道先生はそこで説明を締めくくろうとしたが、僕はまだ疑問が残っていることを思い出した。

 

「でも先生、ヤマノケは復活しましたよ?」

「ああ、あれ。どうもヤマノケが落とした黒いチャッカー、アレがコアになってるらしいんだ。倒したと思っていた前の2体も、もしかしたらチャッカーが破壊されたか、或いは……」

「或いは?」

「いや、なんでもない。とにかく、妖怪と怪異についてはこの辺で」

 

そう言って六道先生は、黒板を上にスライドさせた。

 

「それじゃ、次は僕たち五行院について知ってもらおっか~」

 

さっきまで書き込んでいた黒板がスライドするのと同時に、もう1枚の黒板が下へ降りてきた。

2枚目の黒板の真ん中に、六道先生は『五行院』と大きく書いた。

 

「五行院は元々、京都の陰陽寮を基盤とした組織だ。今では日本全国に支部があって、各地に棲んでいる妖怪たちを監視、或いは強力な妖怪が封印された土地の管理を行っている。そして、組織の拡大に伴って12年ほど前に新設されたのが、この『東京本部』だ。京都の総本部に次ぐ規模なんだよ~」

 

陰陽寮って、あの陰陽寮!?現代まで続いてたんだ……!

……あれ?でも、東京本部の設立、割と最近?

 

「リクドー先生、そんなに大昔からあるのに、なんで東京に出来たのは最近なんですか?」

「確かに……普通、こういうのって東京が優先されると思うんですけど」

 

僕より先に春歌が、そして鉄平が反応した。

 

東京は日本でも特に霊脈の集まっている土地だ。

五行院が平安時代の頃から活動しているとすれば、新しく見積っても江戸時代には東京にも支部を置いているべきじゃないだろうか?

 

「東京支部そのものはあったよ。ただ、当時は色々面倒な事があってね……東京支部が東京本部として再編されたのが、12年前だったってわけ」

「再編……?クラス替えみたいな感じですか?」

「まあ、そんなとこ。それまではずーっとボロい木造建築だけでさ、雨漏りがひどいのなんの!」

 

なんだろう……一瞬だけ、六道先生の表情が固くなった気がした。

 

もしかすると、あんまり聞かない方がいいのかもしれない。

鉄平も何かを察したのか、僕の方に顔を見合わせてきた。

 

「六道先生!」

「ん?どうしたのかな、鉄平くん」

「仮面ライダーって、全国に何人くらい居るんですか?」

「おっ、いい質問だねぇ!」

 

六道先生の顔がめちゃくちゃ笑顔になった。

 

え、なんで?今の質問、笑顔になる要素あったっけ?

 

「仮面ライダーも勿論、全国各地の支部に数名単位で配属されているよ。といっても、組織全体でみれば2割くらいかな。あとの8割は後方支援の担当とライダーではない術師、いわゆる『祓人(はらいにん)』で構成されてるね」

 

組織全体の2割か……結構少ない方なんだ。

でも、全国規模の組織の2割だから、人手としては充分なのかもしれない。

 

「中でもこの東京校は、仮面ライダーの育成に力を入れていてね。全国から将来有望な子達が集まってくるし、ここで仮面ライダーになった子達が他所の支部でも大躍進してたりするんだよ~!」

 

そう言って、六道先生はスマホの画像フォルダから何枚もの写真を僕らの方に見せる。

いや……これは見せびらかしてる、って言った方が正しいのかも?

 

「皆、僕の自慢の生徒たちさ!ほらほら見て見て可愛いでしょー!」

「せ、先生……圧が……」

「圧がすごいです……」

「始まったコン……六道先生の教え子自慢だコン……」

 

春歌だけが、目をキラキラさせて写真を眺めている。面食いめ……。

 

「邪魔するよ」

 

と、引き戸が開く音と共に、しゃがれた声が響き渡る。

入って来たのは、藤色の着物を着たおばあさあだった。

 

「学長!お早いですね。今から紹介しようと思ってたのに」

「薫、アンタの紹介はくどいんだよ。自分の名前くらい、自分で名乗るさね」

 

そう言っておばあさんは、一つ咳払いした。

 

「五行院東京校学長、菅原藤代(すがわらふじよ)だよ。こんな辺鄙な所までよく来てくれたねぇ」

「い、いえ……」

「来たっていうより、連れてこられたといいますか……」

 

とても穏やかな口調で自己紹介するおばあさん。

なんだかいい人そうだ。

 

「藤ばぁはここの学長で、東京市部の局長でもあるから、皆失礼の無いようにね~」

「菅原学長とお呼びッ!」

「痛ぁッ!暴力反対ですよ学長!」

「アタシの知ってる若いのの中じゃ、アンタが一番失礼なんだよ!」

「おばあちゃん扱いされるほど老いぼれてないでsy……痛い痛い!分かった、分かったから脇腹狙うのやめて!」

 

……と思っていたら六道さんの脇腹思いっきりドツいてた。

怒らせたら怖いんだろうな……。

 

「ふぅ……。さて、妖狐を継いだのは──」

「僕です」

「名前は?」

「篝火頼人です」

「ほう……篝火くん、かい」

 

藤代学長は僕の顔をじっと見つめる。

 

何も言わずに見られているので、何だか落ち着かないな……。

観察されてる気分だ。

 

「あの~……僕の顔に何か付いてます?」

「……いや、何でもないさね」

 

藤代学長は袖から3つの巾着袋を取り出すと、それぞれ僕らの机に置き、教卓へと登壇した。

 

「それはワシらからの支給品、五行院の証が入っておる」

 

そう前置きすると、藤代学長は神妙な顔つきで口を開く。

 

「きっかけがどうあれ、お主ら3人とも五行院の一員になれる資格がある。どうか力を貸してほしい。勿論、今までの説明を聞いた上で、嫌ならこの誘いを拒んでもええ。記憶を消した上で、家まで安全に送り返そう。じゃが、もしもその巾着を解き、中の物を取り出したら……お主らもワシの生徒じゃ」

 

 

「ヤマノケのチャッカー、ライダーの連中に盗られちゃったんだって~?ウケる~」

 

回収から戻ってきたスレンダーマンを、天井からぶら下がったテケテケはケラケラと嘲笑う。

 

「どーすんだよ?こんなヘマやらかしちゃってさ。アイツらに色々、タネがバレるんじゃねーのぉ?」

「テケちゃん、随分と嬉しそうね」

「だって、普段上から目線で命令してくるヤツがやらかしたんだしぃ~?これくらい許されるよね、お姉様~?」

 

猫撫で声で嘲りながら、口裂け女の隣に飛び降りるテケテケ。

しかし、スレンダーマンはいつもと変わらぬ声音で返す。

 

「この程度で計画が露呈するほど、私の仕掛けは単純ではありませんよ。実験も面白いデータが取れたので満足です。それに、1本くらい差し上げたところで計画になんら支障はありません」

「……へぇ、随分ヨユーじゃん」

「余裕も何も、計画はとても順調ですからね」

 

そう言ってスレンダーマンは、部屋の中心に据えられた台の上に置かれたケースを開ける。

 

ケースはジッポケース型で、中にはコレクションのように黒いチャッカーが何本も収納されていた。

刻まれたレリーフは、全てが個別のものだ。

 

「下準備は既に万全。次は彼らを招待するのみです」

「始まるのね、私達のステージが」

 

口裂け女は待ち焦がれたように、テケテケは祭りを前にした少女のように口角を釣り上げる。

 

「せいぜい励んでもらいましょう。全てはこの世を呪うために」

 

部屋を照らす青の灯火が、帳の中で不気味に揺れた。

 

 

夕刻、六道はゆっくりと学び舎の廊下を歩いていく。

頼人たちを灯篭まで送った後、黒スーツの職員から受け取ったファイルを手に、彼は学長室を目指していた。

 

「失礼します」

 

扉の前で立ち止まり、ノックの後に入室すると、藤代が飼い猫と戯れているところだった。

 

「学長、お邪魔だった?」

「アンタが今、うちのタマに手を出すなら追い出してやるだろうね」

「へいへい、そんな真似しませんよ。引っ掻かれたくないですしー」

 

藤代は六道に顔を向けず、膝の上で丸くなったタマを撫でながら問いかけた。

 

(えにし)ってのはほとほと、何があるか分からないもんだね」

「ええ、全くです。僕も知った時は驚きました」

「じゃが、あの男はこうなる運命も予期していた。きっと何かを託している筈じゃ」

「心配なさらずとも、篝火頼人は守り通します。その上で彼には強くなってもらう。彼自身のためにも」

 

六道はそう言って、抱えていたファイルを捲った。

中身は、全国各地に存在する五行院の支部に所属するメンバーの顔写真とプロフィールが纏められたもの。中でも『仮面ライダー』となった者達を選んでまとめたファイルだ。

 

「大厄災をもたらす『国呑みの巨蛇(おおへび)』、あの預言は必ず阻止せねばならぬ」

「ええ。その為にも、怪異の正体を暴かないと……」

「薫、預言と怪異に関係はあると、本気で思っとるのか?」

「ええ、おそらく。僕の勘、外れた事ないでしょ?」

「なら、この件はお前に任せる。しくじるんじゃないよ」

「しくじりませんよ。僕、最強なんで」

 

そう言って六道は、この世に敵などいないと豪語する悪童のような、屈託のない笑みを浮かべてみせた。

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