「本当に撮るの……?」
ある日の夕方、3人の女子高生が御景市某所にある高台にて並んでいた。
街全体から海までが一望できるこの場所は『
「モチのロンっしょ~。あの噂、本当だったら絶対バズるじゃん」
「でも、もし本当だったら……」
「大丈夫だって。もし嘘でも~、ここの夕焼けマジで綺麗だし映えるじゃん。ね~?」
「どっちみちウチらに得しかなくね?ヤバ~♪」
その内2人は、コテコテにデコられたスマホを片手にノリノリで自撮り棒を構えるギャル風の少女たち。
もう1人はどう見ても乗り気でない雰囲気を溢れさせている、大人しそうな少女。
同じ高校のクラスメイトである彼女たちは、ネットで話題になっている噂を確かめようとしていたのだ。
「出てこないかな~
ジドリくん。それが噂になっている
「でも、噂通りなら一人だけで撮らないと出てこないんじゃ……」
「そだっけ?じゃあ、2人はどっか隠れてなよ。アタシだけで撮るし」
「えー、ズル~い。ウチも撮りた~い」
「なんで2人とも、そんなノリノリなの……」
怖いもの知らずなのか、それともただのアホなのか。
少女は怯えながら、ギャルギャルしい友人達の様子を見つめていた。
『ジドリくん』の噂はこうである。
ある日の夕方、一人で観光に来ていた女性Aさんが、観光スポットを背に自撮りをしようとスマホを構えていた。
すると、「一緒に写真撮ってくれませんか?」と声を掛けられる。
振り向くとそこには、スマホを手にした学ランの男子高校生が立っていた。
男子高校生の整った顔立ちに思わず心奪われたAさんは、彼の頼みを承諾。2人で自撮りのツーショットを撮ったらしい。
「イケてる写真ですよね?」とスマホを見せてくる男子高校生。
Aさんが口許をほころばせながら写真を見ると──彼の顔が"地鶏"となってこちらを見つめている。
「ねぇーーイケテル写真デスヨネ?」
横にいる彼を見ると、そこには学ランに身を包んだ"地鶏の顔をした男子"がそこに立っていた……。
この不気味な投稿を怪奇サイトにアップしたAさんは数日後、行方不明となったらしい。
あくまでネットの片隅で語られる噂話。だが、それ以降『ジドリくん』という謎の存在が現れたという話がネット上で広まっていった。
そして今に至る。
「よぉーし!撮るぞ~!」
「待って……やっぱり止めようよ……」
「もぅ~、だいじょぶだって。そんなに怖いなら、先に帰っていいよ」
「でも……」
「ねぇ~、そろそろ撮ろ~よ~」
「おけまる~!じゃあ、あたしら撮るから」
そう言って、ギャル2人は夕陽をバックに自撮りを始めた。
これはもう止まらないだろう。
少女は溜息を吐くと、広場の中心にあるオブジェの前でしゃがみ込んだ。
なんでも昔、ここで恋を叶えた彫刻家が、その喜びと感謝を込めて設置したものらしい。
ここに来るまでの道中も歩き通しで疲れていたため、少女の顔にはそれが浮かんできていた。
「大丈夫ですか?」
「ッ!?」
思わず肩を跳ねさせながら顔を上げると、見知らぬ男性がこちらを見下ろしていた。
「おっと、驚かせてしまってすみません。なにぶん、すごい顔をしていたので」
「いっ、いえ……大丈夫ですッ!」
少女は慌てて立ち上がると、思わず後退る。
そして改めて、男性の姿を一瞥した。
男性はとても爽やかな雰囲気を漂わせた好青年であった。
流行りのコーデに身を包み、身だしなみも清潔。顔立ちもかなり整っており、街ですれ違えば誰もが振り向くような美青年だ。
(な、何この人……すごくイケメンだぁ……)
思わず見惚れてしまう少女であったが、すぐにハッと我に帰ると頭を下げて謝罪する。
「ごめんなさいっ!いきなり声かけられてびっくりしちゃいまして……」
「あははっ、気にしないでください。それより、こんなところで何をしているんですか?」
「えっと……その……」
まさか都市伝説を確かめに来ました、などとは言えず口篭り、ギャルの友人達の方へと目を向ける少女。
「ああ、自撮りですか」
それを見た男性は納得したように呟いた。
「あんまり自撮りとか、されない方なんですか?」
「まあ……はい……。私はそういうのはちょっと……」
すると男性はふむ、と呟き、ポケットの中からスマホを取りだした。
「よろしければ、僕と一緒に撮りませんか?」
「え?」
「僕も自撮りが趣味なのですが、1人で撮るのは少々寂しくてですね……」
「いや……でも……」
初対面の男性、しかもこんなイケメンと一緒に写真なんて、と思わず断ろうとする少女。
そこへ、ちょうど友人達が戻ってきた。
「ちょ、なになに~?どこで捕まえたのそのイケメ~ン!」
「うわっ、マジじゃん。ズル~い、あたしらも一緒に撮ろ~よ~」
「え?ええっ……」
面食いの彼女達は一目で青年にロックオンすると、全員で一枚撮ろうと提案してくる。
流石に迷惑だろう、と止めようとする少女だが、2人とも聞いてはいない。
「い~じゃんい~じゃん♪せっかくだし、一緒に映ろうよ~」
「いいよねお兄さ~ん?」
「ええ、僕は構いませんよ。そこのオブジェがバックでいいですね?」
青年の方もノリノリで、どんどん撮影の流れになっていく。
やや流されるような形で、少女は友人達に挟まれ、カメラの方を向く。
(……まあ、ジドリくんじゃなさそうだし。一枚くらいはいいかな)
すぐ隣で自撮り棒を構える青年の横顔に、思わず気を良くしながら、少女は笑顔を作った。
「じゃあ撮りますよ~。はい、チーズ」
パシャリ、というシャッター音と共に、写真が撮られた。
「うん、よく撮れていますね。皆さんとても可愛らしいですよ。特にそちらのお嬢さんが……」
「あっ、ありがとうございます……」
褒められ慣れていないのか、少し照れる少女。
だがそこで、先程まで思い出していた噂が脳裏をよぎる。
(……いや、まさかね?)
今撮ったばかりの写真を表示させたスマホを手に、青年は確認を促してくる。
(噂は噂だし、ジドリくんは男子高校生。何もあるはずが……)
「…………え?」
耳に入った困惑の一声に、思わず隣を振り向くと、先に写真を覗き込んだ友人の表情が凍りついている。
「……ねぇ」
「……どうしたの?」
「これって……」
「ッ!?」
そこには──地鶏の顔になった青年が、こちらをじっと見つめている姿が写っていた……。
「ねぇ…………イケテル写真デスヨネ?」
少女達が顔を上げると、そこに立っていたのは……
顔と両腕に羽毛を生やし、両足がモミジとなった、地鶏の顔を持つ怪人だった。
「「「きゃああああああああああああああああああ!!」」」
□□□
気がつくと、夕闇に染まる茜色の空が目に入った。
いつもの夢だと気づくのに、そう時間はかからなかった。
気配のする方へと顔を向けて、そして予想通りの光景が目に入る。
影法師のような集団と戦う、狐面の戦士。
いつもの夢と違っていたのは、その姿がハッキリと見えるようになっていたことだ。
カラーリングは少し違うが、間違いない。
目の前で戦っているのは、『仮面ライダー妖狐』だ。
キツネビシューターを手に、首周りから広がるマフラーのような炎を靡かせ、鮮やかな剣さばきで影法師を切り伏せていく。
やがて影法師がこちらへと向かってきて、妖狐が僕の方へと向けたチャッカーから、狐の獣人のような妖怪が現れる。
そして──
「頼人、頼人!起きるコン!」
「ん……あれ、僕、寝てた?」
コワポンに頬をてしてしされ、僕は上体を起こす。
時計を見れば5時半すぎ。確か、歓迎会の後で雪村先生に『討伐任務は基本的に夕方から夜になるから、今の内に寝といた方がいいかも』と言われて昼寝してたんだっけ。
歓迎会をやっていた部屋の隣にある座敷で、畳にそのまま寝転がったのを思い出す。幸い、畳の跡とかは付いていない。
部屋の隅のちゃぶ台に置いた眼鏡をかけ直しながら、先程の夢を思い返す。
以前よりもハッキリとしていた。
昔はボヤけていた部分が見えるようになっていたし、なにより……夢の中で助けてくれていたあの人は、やっぱり仮面ライダーだった。
解像度が上がったのは、コワポン達と出会った影響だろうか?
だとすれば、やっぱり関係があるのかな?
「ねえコワポン、僕の他にも妖狐って居たの?」
「もちろん居たコン」
何気なく聞いてみると、コワポンは快く答えてくれた。
「ボクのお父さんやおじいちゃんも、先祖代々ずっと、僕の一族は『仮面ライダー妖狐』の契約妖怪コン」
「じゃあ、その中に──」
「おーい、頼人~」
「頼人先輩~、起きてるッスか~?」
そこまで言いかけた所で、春歌と鉄平が部屋に入ってきた。
「起きてるよ。何かあった?」
「初任務、そろそろ出動だってさ」
「先輩が起きてくれなきゃ始まらないッスよ」
「えっ、もうそんな時間なの!?」
「そうだコン!早く行くコン!」
僕は慌ててスマホをポケットに仕舞い、雪村先生達の所へと向かった。
□□□
「──で、よりにもよって晴矢と一緒コン……」
数分後、怪異の出現情報が報告された現場へと向かいながら、コワポンはムスッとした顔で腕を組んでいた。
「……お前達はまだまだヒヨっ子だからな。お目付け役が要るだろ」
「それがどうして晴矢なんだコン!他に居たはずコン!」
「黒海と多貴子は別任務、雪村先生は指揮を執るから支部を離れるわけにはいかない。その結果、俺にお鉢が回ってきたってわけだ」
「ぐぬぬ……」
「ま、まあまあコワポン……」
さっきからずっとこんな感じだ。
晴矢さん、初対面の時から僕に対して当たりが強いし、コワポンはそれが気に食わなくてプンスコしてる……。うう、空気が重い……。
「晴矢さん、今夜はよろしくお願いします」
「フン……先生達はああ言ってるが、俺はお前がライダーだとは認めていない」
「……なら、どうしたら認めてくれるんですか?」
晴矢さんが突然立ち止まる。
思わず僕も足を止めると、晴矢さんはゆっくりとこちらを振り返った。
「俺はな、弱いくせに半端な覚悟でこっちに首突っ込んでくる奴が気に食わないんだよ」
思わず全身が震えるのを感じた。
晴矢さんの顔から溢れ出していたのは、圧倒的なまでの怒気。
夜道で殆どが影に隠された顔に、見開かれた眼だけがギロリと僕を睨みつけていた。
僕の腕の中で、コワポンも震えているのが伝わった。
「お前は何のために仮面ライダーになった?何故そいつと契約した?」
「そ、それは……」
今にも掴みかかってきそうな勢いでまくし立ててくる晴矢さん。
思わず後ずさった時、晴矢さんの肩に厳つい手が置かれた。
『おい坊主、その辺にしておけ』
「……チッ」
『舌打ちすんな。お前が認めようが認めまいが、現状は変わらんだろう』
「分かってるさ。せいぜい足は引っ張るなよ。お前はド素人なんだからな」
夜叉に諌められ、晴矢さんは溜息を吐きながら先へと歩いて行ってしまった。
ようやく緊張が解け、思わず深呼吸する。
「僕が戦う理由……」
「頼人……?」
「大丈夫。答えられるよ……ちゃんとね」
心配そうに見上げてくるコワポンに微笑みかけ、僕は晴矢さんの後を追いかけた。
そう、答えられる。
僕が仮面ライダーになる事を決めた理由は……。
『……お前、本当にあれでいいのか?』
「何が言いたい?」
思わず隣で浮遊する相棒の霊体を見上げ、睨みつける。
『いやぁ?ただ、このままだとお前、逆に失うかもしれんぞ』
「ッ……!」
脚を止め、相棒の顔を思いっきり睨みつける。
相棒の顔は、極めて真面目だった。本気で俺と、それからあの新人の事を心配しているのだろう。
バトルジャンキーのクセに、こういう時だけ保護者ヅラしてくる所が少しウザったい。
「……そうならない為に俺が居るんだ。それとお前もな」
『ハァ~……まあ、そういう契約だからなァ。付き合ってはやるよ』
そう言うと相棒は、愛用の大剣を肩に担ぎ、俺を見下ろす。
『だが、俺はお前との契約だけでお前に付き合ってるわけじゃねぇ。そこは忘れんじゃねぇぞ』
「……」
思わず、顔を背けた。
もうすぐ日が沈む。目的の高台まではあと少しだ。