「ここがサイトに書かれてた場所か……」
周囲を見回す。話の通り、街を見下ろせる広場と、よく分からないがオブジェがある。
「今から
「トバリ……ってなんですか?」
「五行院が戦闘任務の際に張る結界だ。人払いや隠匿、それから隠れている妖怪たちを炙り出す効果なんかが複合されている」
「頼人がヤマノケと戦った高速道路にも張られていたコン」
「ああ、アレそういうことだったんだ!」
そういえば車通りがないと思っていたけど、あれはヤマノケが暴れたからじゃなくて、先に来ていた晴矢さんが戦っていたからだったんだ。
「菅原学長から貰った呪符を使えば、非術師でも張れるコン。今度使ってみるコン」
「始めるぞ」
晴矢さんは右手の人差し指と中指を立てて印を結ぶと、両目を閉じて静かに唱えた。
「“
直後、広場一帯を覆うように半球状の結界が張り巡らされる。
結界内部の風景は夜の帳が降りたように、藍色がかった色彩へと暗転する。
まるで水底にいるかのようだ。
そして、周囲を見回すと一点、先程までそこに存在しなかった影が姿を現す。
その後ろ姿は、黒い学ランに身を包んだ少年だった。しかし、その首から上は焦げ茶色の羽毛に覆われ、頭頂部には真っ赤なトサカが立っている。
僕たちに気がついたのか、それはゆっくりとこちらを振り返った。
「コケ?君たち、何者だい?」
振り返ったその顔は、噂通り地鶏の頭。
声に合わせてパクパクと動く、内側に尖った歯が並んだ嘴で、人間の言葉を喋っている。
ヤマノケ同様、作り物では出せないリアルな生々しさ。
間違いなく怪異だと、肌で感じられた。
「噂のジドリくんとやらはお前か」
「如何にも!僕こそ、あらゆる怪異の中で最も美しいナンバーワンイケメン怪異、ジドリくんさッ!!」
……一目見ただけで不気味に感じていた異形の存在は、ナルシスト全開の自己紹介と共にドヤ顔でポーズを決めた。
なんだこの怪異……ヤマノケやウシクビと全然違うぞ……?
「イケメンとかナンバーワンとか、自分で言っちゃうコンね」
コワポンが呆れた声で容赦ないコメントを呟く。
正直、僕も全く同じことを突っ込もうと思っていた。
「なぁっ!?し、失礼だぞ!そこのチビ狐!」
「そういうのは他人に言われて初めて成り立つ評価コン。自称じゃ意味無いコン」
「こ、こいつぅ……!」
うわ容赦ない。僕の相棒、思った以上にあけすけに物言うタイプみたいだ。
「君みたいなお子ちゃま狐には、僕の美しさは分かるまい!この輝く羽毛、このクチバシの鋭さ!そしてなにより、このトサカ!セットに5時間はかけている!どうだ、あまりの美しさに声も出ないだろう?」
再びドヤ顔で決めポーズを取るジドリくん。
う~ん……これは流石に……。
「イタいなぁ……」
「知り合いにかなりナルシストな妖怪が居るが、あいつと違ってツラがなぁ……」
「見てられるか。さっさと締めて、鶏つくねにしてやる」
夜叉と、それからさっきまで表情が引き締められていた晴矢さんですら呆れ顔だ。
噂で聞いてたのとだいぶイメージ違うな……悪い意味で。
「コ、コ、コ、コケーーーーッ!!揃いも揃って僕のことをコケにしやがって!許さん……許さんぞぉぉぉぉッ!!」
こめかみに青筋を立て、ジドリくんは天高く咆哮した。
学ランの両腕部と両足のスニーカーがビリビリに破れ、その下から腕と一体化した羽、三本の鉤爪を持った細い脚が現れる。
もちろん、それぞれ頭部と同じ色の羽毛に覆われていた。まさに鶏人間だ。
「正体を表したな……。コワポン!」
「了解コン!」
変身しようとドライバーを巻き、チャッカーを構えようとしたその時だった。
晴矢さんの背中が、僕たちを遮るように立ち塞がった。
「お前は下がってろ。こんな三流ごとき、俺一人で充分だ」
「え?でも……」
こちらに顔も向けずに言い放つ晴矢さん。
認めたくはないけど、拒絶されているのを強く感じた。
「ま、ここは先輩の顔を立ててやってくれや」
「夜叉、余計な口を出すな」
「へいへい、そんじゃまあ……始めようや」
『着火!ヤシャ!』
晴矢さんがアヤカシチャッカーを開くと、夜叉はその中へと吸い込まれていった。
流れるような動きでそれをオクリビドライバーにセットすると、やはり念仏のようなものが流れ始める。
『シャーッシャ、ヤシャ!ヤシャ!シャーッシャ、ヤシャ!ヤシャ!』
「変身」
『
掛け声と共にレバーを引くと、バックルが観音開きになり、溢れ出した蒼い炎が晴矢さんを包み込む。
『覇者!破邪!夜叉!ヤ~シャ!ヤシャ!ヤシャ!』
変身が完了し、仮面ライダー鬼丸は片刃剣を構える。
「怪異ジドリよ、我が『
「抜かせ!僕を怒らせたこと、後悔させてあげるよ!コケェェェェェッ!!」
ジドリくんは、両腕をバサバサと羽ばたかせながら勢いよく加速。両足で鋭く光る鉤爪を振りかざし、鬼丸へと飛びかかった。
「遅いな」
しかし鬼丸は、すれ違いざまにジドリくんの脇腹へ斬りつけた。
最低限の動きで攻撃を躱しながらの、的確なカウンター。ガツンと響き渡る重たい音に一瞬、僕らは目を奪われた。
「ぐあっ……!?」
「その程度か?」
ジドリくんは勢いよく地面に叩きつけられると、ゴロゴロと転がっていく。
更に起き上がる暇もなく、今度は真上から斬撃が襲いかかり、ジドリくんは地面を跳ね回る羽目になった。
「くっ……!おのれぇ……!」
「まだ動けるか。意外とタフだな」
地を砕く威力で振り下ろした鬼丸国綱を構え直しながら、鬼丸は余裕そうにそう言った。
荒々しいものの、無駄な動きが一切ない。パワーファイターの戦い方に見えて、その実、細やかな動作が垣間見える。まさにベテランの戦い方だ。
「ふ、ふん!この程度で僕が倒せると思ったら大間違いだよ!僕の本当の恐ろしさを見せてやる!覚悟しろ!!」
そう言ってジドリくんは素早く立ち上がると、その場で高速回転し始めた。
「なんだこの動き……。まるでコマみたいに……?」
「これが僕の必殺技!どんな奴だって、これを避けることはできない!くらえ、
何をするかと思っていると、そのまま鬼丸の周りを走り回って撹乱させ、隙を見て鉤爪で攻撃を仕掛けてきた。
あまりの速さに地面からは砂埃が立ち上り、ジドリくんの姿は視認できない。
「あ、危ないコン!」
しかし、鬼丸はそれを全て捌ききった。
背後から、頭上から、死角だと思われていた角度からの一撃さえ、その全てを刃を以て弾いてみせた。
「なっ……!?」
「なるほど、確かに早い。が、殺気がまるで隠せていない。この程度で俺と夜叉を下せると思うな、ド三流がッ!」
「ごほぉ……ッ!」
鬼丸国綱の柄に鳩尾を突かれ、ジドリくんは後方に吹っ飛ばされる。
またしても地面を転がると、ジドリくんは悔しげに歯ぎしりし、嘴を歪ませた。
『こいつ弱いな。酔い醒ましにもなりゃしねぇ。坊主、こいつさっさと捌いちまおうぜ』
「ああ、これ以上は様子見する必要もなさそうだ」
そう言って鬼丸はドライバーに刀を収めると、レバーに手をかける。
そのまま押し込み、必殺の一撃を放とうとした瞬間だった。
「隙ありぃぃぃッ!!」
ジドリくんが咆哮と共に翼を振るう。
「ッ!?」
巻き起こる烈風と風切り音。
そして次の瞬間、鬼丸の身体から火花が飛んだ。
「ぐっ!?」
『痛ってぇ!?何だ今の!?』
「ハハハハハ、何をされたか分かるまい!そら、そこのインテリボーイとキツネのキッズもくらいなぁッ!!」
そう言うとジドリくんは、クルリと僕らの方へ向き直り、こちらへも烈風を放った。
『小僧ッ!!』
「ッ!!避けろ!!」
夜叉と晴矢さんの叫ぶ声が聞こえる。
目の前では砂埃が波打つように飛び散り、音と共に烈風が迫る。
まさに絶体絶命、直撃すれば僕はただじゃ済まないはずだ。
……正直、こうなる気はしていた。
晴矢さんと夜叉は、仮面ライダーになって3日の僕らよりもずっと強い。
だからジドリくんは苦戦を強いられれば、必ず戦闘に参加していない僕とコワポンを狙ってくるだろう。
つまり、
「コワポン!!」
『着火!キツネビ!』
『コンコーンッ!!」
右手に握っていたアヤカシチャッカーを着火させ、灯る妖火に息を吹く。
実体化したコワポンが空中でクルリと一回転し、炎の結界を前方へと張った。
烈風は結界に阻まれ、何かが燃え尽きる音と共に消滅し、ジドリくんは思わず口をポカンと開けた。
「お、お前ッ!見てるだけじゃなかったのか!?」
「下がってろとは言われたけど、何もするなとは言われてないからね。自分の身くらい、自分で守るよ」
「新人とはいえ、ボクと頼人も仮面ライダーコン!甘く見ないでほしいコン!」
「コケックヌヌ……小癪なぁ……!」
歯軋りしながら僕らを睨むジドリくんに、僕はコワポンと共に笑みを向けた。
「狙われてるからには、戦わないわけには行かないよね!コワポン!」
「自己防衛コン!頼人、行くコン!」
コワポンと顔を合わせると、僕はキャンドライバーを腹に当て、再びアヤカシチャッカーに火を灯した。
『着火!キツネビ!』
チャッカーをドライバーにセットすると、祭囃子のようなBGMと共に、例の歌が流れ始める。
『コンコンコーン!コン、ココンコ~ン!コンコンコーン!コン、ココンコ~ン!』
「変身ッ!」
『
レバーを引くと、行灯のようなバックルが観音開きになり、オレンジ色の炎が僕の全身を包み込んだ。
『種火!篝火!狐の火!妖狐YOYO!ココンコ~ン』
炎が弾けると、そこには炎柄の羽織をはためかせる妖面の戦士、仮面ライダー妖狐が立つ。
腰のホルスターからキツネビシューターを抜くと、コワポンの声が頭に響いた。
『気を付けるコン。ヤマノケの時みたいに、倒しても復活するかもしれないコン』
「そっか。じゃあ……化けて出ないよう、キツめに焼こうか!」
卑劣な怪鳥に見栄を切り、僕は銃口を向けて走り出した。