「はぁぁぁッ!」
キツネビシューターから火炎弾を発射しながら、仮面ライダー妖狐は怪異ジドリくんへと向かっていく。
弾は数発ほどジドリくんに命中し、弾けるような音と共に羽毛の一部を焦がした。
「コケェェェェッ!おまっ、お前!よくもやってくれたなぁぁぁ!!」
ジドリくんは怒りに顔を歪ませると、再び羽ばたきながら跳躍する。
そのまま妖狐の頭上を飛び越え背後に回ろうとするが、妖狐は素早く振り向くと、ジドリくんが着地する瞬間を狙って引き金を引いた。
「熱ぅぅぅぅイイイッ!?」
引き金を長押ししたキツネビシューターから放たれたのは、火炎弾ではなく火炎放射。
狐の顔を模した銃のバレルから、一直線に放たれた炎はジドリくんの羽毛に燃え移り、ジドリくんは絶叫と共に地面を転がった。
「やっぱりその羽根、炎には弱いみたいだね」
『頼人、どこで気づいたコン?』
「鬼丸の刀がぶつかる瞬間、ガツンって硬い音がしてた。あれは刀と同じくらい身体が硬いって事でしょ?」
『あの音でそこまで気付いてたコン!?』
「おのれぇ!よくも僕の羽根を黒焦げにしてくれたな!!」
コワポンが驚いていると、ようやく炎を消したジドリくんが立ち上がる。
先程まで綺麗に整えられていた羽毛は黒く焦げ、チリチリになってしまっていた。それが逆に、怒りを露にしたジドリくんの形相と相まって、より不気味な雰囲気を醸し出している。
「まだやるの?大人しく投降した方が、その綺麗な羽根を失わずに済むと思うけど?」
「僕の美しさを理解できない連中なんかにやられるくらいなら、羽根の数本くらい安いもんさ!!くらえ、
「技名それしかないの!?」
「ルビは差別化してるから問題ないのさ!!」
先程、鬼丸に放った烈風攻撃が、再び妖狐に襲い来る。
しかしジドリくんは忘れていた。妖狐は、頼人は変身する前、その攻撃を防いでいた事を。
それがマグレだと思っていたために、この烈風の正体を見破られているとは考えてすらいなかったのだ。
「その技の、正体見たり枯れ尾花!」
『ソード!』
妖狐はキツネビシューターをソードモードへと変形させると、ドライバーから抜いたチャッカーを台尻へとセットする。
『ソード!キツネビ必殺!』
キツネビソードの刀身が赤い炎に包まれ、煌々と燃える。
それを正眼に構えた次の瞬間、妖狐は叫んだ。
「妖狐炎尾斬!」
直後、妖狐は炎で赤く軌跡を描きながら剣を振り回す。
まるで舞うように振るわれる炎剣は、風に火の粉を乗せながら、そこに在る“何か”を切り伏せ、焼き尽くした。
やがて烈風が止んだ時、キツネビソードを振り切った妖狐が顔を上げる。
焼け焦げながら地面に落ちていったのは、何本ものジドリくんの羽根だった。
「な……ッ!?」
「君の身体が硬いとして、硬いのは肉か羽毛のどちらかと考えた。ナルシストな性格から、羽毛はフワフワな方が女の子にウケるだろうし、肉が硬い可能性も考慮した。けど、鬼丸に放った烈風を見た時、もしかしてと思ったんだよね」
思わず後退るジドリくん。その表情には焦燥の汗が浮かんでいた。
それこそが妖狐の口から淡々と述べられる推察、その尽くが的中している証だった。
「その羽根、硬質化と軟質化を切り替えられる性質だよね?攻撃を受ける瞬間には全身を覆う鎧に、烈風に乗せて飛ばせば矢のようになる。その羽毛の色なら、砂塵に混ぜて飛ばせば目立たない。僕も風切り音がなかったら、気付くのが遅れたかもね……」
「お前……あの短時間にそこまで……!?」
そう。篝火頼人はただ見ていただけではなかった。
目で視て、耳で聴いて、肌で感じて……五感を研ぎ澄ませ、鬼丸とジドリくんの戦いをじっくりと観察していたのだ。
“幽霊の正体見たり枯れ尾花”。この言葉の通り、
今、ジドリくんは目の前に立つ狐面の戦士に対して、ある種の恐怖を覚えていた。
そして、ここまでの全てを見ていた鬼丸は……土御門晴矢は、思わず息を呑んだ。
□□□
あの瞬間、気づけば叫んでいた。
刹那に蘇る呪われし記憶と強ばる身体。
脳裏に浮かんだ最悪の予感。
もはや間に合わないと思っていた俺の想像を、あいつは……。
『……なあ、
「……」
『お前の気持ちは分からんでもない。もしお前に何かあったら、俺は死んだ相棒に面目が立たん』
夜叉の声がいつもと違ってしんみりしていた。
それだけに、俺もそれを遮るわけにはいかなかった。
『けどよ、だからってお前を戦う事から遠ざけるのは違うと思ってる。お前は相棒と……お前の親父との約束を果たすために、この道を選んだ。そうだろ?』
「……ああ。俺は父さんみたいな仮面ライダーになる。そのために……」
『そうだ。仮面ライダーになったって事は、俺たち妖怪と契約してでも果たしたい想いがあるって事だ。それはあの小僧も同じなんじゃねぇのか?』
……認めるのは少し癪ではある。だが、それはあくまで俺のプライドの話だ。
夜叉の言う通り、仮面ライダーになる以上、相棒となった妖怪との契約は必須。
ましてや交霊紙に選ばれたという事は、それなりの理由があるはずだ。
あいつはド素人。その認識に間違いは無いだろう。
だが、あの戦いぶり……ただ流されるままに戦っているというわけでは無さそうだ。
ヤマノケとの戦いで命の危機を経験し、その上でまだ
ならば──
□□□
「よくも……よくもよくもよくもぉぉぉッ!!僕をここまでコケにしやがって!!許さん……絶対に許さないぞぉぉぉぉッ!!コケエェェェェェェェッ!!」
ジドリくんの絶叫に、妖狐は思わず耳を塞ぐ。
「ううっ!?なんだこの声……!?身体が重く……」
ジドリくんは絶叫しながら羽ばたくと、妖狐の頭上へと浮かんでいく。
音の圧はジドリくんの上昇と共に角度を変えていき、妖狐の足が地面にめり込み始めていた。
『あの絶叫で空気に圧がかかっているコン……!このままじゃ押し潰されちゃうコン……!』
「殺してやる!僕の美貌を、磨いた美しさを、こんなにチリチリにしたお前は絶対に許さない!この世から消し去ってやる!!」
そう言い放ったジドリくんが開いた嘴に、音を立てて空気が集中していく。
集められた空気は圧縮され、やがてバチバチと音を立てながら青白い光を放つ。
やがて球状のプラズマが形作られ、その射線は妖狐へと向けられた。
「消えろ!!
今までで一番マシな技名を叫び、プラズマを放とうとしたその瞬間だった。
その顔にガツンと重たい音を立て、片刃の大剣が命中した。
「ごがぁっ!?」
バランスを崩して墜落するジドリくん。
同時にプラズマは霧散し、音の圧から解放された妖狐が短く呼吸しながら立ち上がる。
「させるかアホ鶏」
「夜叉、ナイスピッチング」
「晴矢さん……夜叉……」
鬼丸は妖狐の隣まで歩み寄ると、手を差し伸べる。
一瞬躊躇ったのを、妖狐は見逃していない。
「……立てるか?」
「ッ!……少しだけ、手を貸してもらえるなら……」
「そうか」
そう言って鬼丸の手を掴む妖狐。
鬼丸は妖狐の方には顔を向けず、ただ力強く引っ張って立ち上がらせた。
『いったいどういう風の吹き回しコン?』
「ハハハハ、ったく素直じゃねぇなあ坊主!」
首を傾げるコワポンを見て、実体化した夜叉は、神通力で投擲した大剣を手元に戻しながら豪快に笑った。
「今まですまなかった。お前の事をよく知りもしないで、守られる側だと決めつけていた」
「いえ、こっちも出しゃばってすみません」
『頼人が謝る事ないコン。晴矢がツンケンしすぎだったコン』
「まあそう言ってやるなよ。それより今はニワトリ野郎だ」
夜叉に促されて前方を見ると、落下したジドリくんも体勢を立て直したところだった。
ライダー達を見下ろして、ギチギチと歯ぎしりしている。
「僕の自慢のトサカをよくもぉぉぉぉッ!!絶対に許さない!!まとめて死ねぇぇぇぇッ!!」
『また来るコン!!』
またしても両翼を羽ばたかせ、大量の羽根を矢のように飛ばすジドリくん。
キツネビソードを構えようとした妖狐だったが、鬼丸がそれを遮って前に立つ。
「仲間の盾になるつもりか?馬鹿め、ハリネズミにしてやる!!」
「晴矢さん!?」
次の瞬間、鬼丸は地面を思いっきり踏みつける。
直後、地面から飛んだ何かが鬼丸の手に握られ、烈風と共に飛来した羽根を全て遮った。
突然の行動に、ジドリくんは思わず目を剥く。
妖狐もおそるおそるといった様子で、鬼丸が何をしたのか確認する。
鬼丸が盾として使ったそれは──
「ま、マンホールだとぉぉぉっ!?」
「うおおおおおおッ!!」
裂帛の叫びと共に、鬼丸は何本もの羽根が突き刺さったマンホールの蓋を、ジドリくんへと放り投げる。
力任せに投擲されたマンホールの蓋は、妖怪族の中でも特に強いとされている鬼族の膂力が加わった事で、フリスビーのように回転しながらジドリくんの首へと命中した。
「ごげぇっ!?」
クリーンヒット、クリティカルダメージ。
除夜の鐘を打つような音と共に、ジドリくんは大きく仰け反った。
「今だ!妖狐!」
「了解ッ!」
妖狐と鬼丸は2人同時に、それぞれのドライバーのレバーを押し込む。
『妖火チャージ!妖火意全カーイ!』
『妖火チャージ!妖火意転カーイ!』
バックルが閉じると、ベルト内部にチャッカーから溢れ出した妖火が充填されていく。
そしてレバーを再び引くとバックルが開き、ベルト内で充填された妖火が2人の右脚へと集中していった。
「最大火力、ぶちかますぜッ!!」
『キツネビ必殺!妖火意バースト!』
「この一撃で、ブチ抜くッ!!」
『ヤシャ必殺!妖火意ブースト!』
妖狐と夜叉は地面を踏みつけ跳躍すると、ほぼ同時に飛び蹴りを放った。
「
「土御門流・
赤と青、それぞれ二色の炎が螺旋を巻き、ジドリくんを貫く。
全身の羽毛を焼き尽くされながら、ジドリくんは絶叫した。
「僕が一番イケメンで!ナンバーワンで!最高なんだああああああ!!」
最期の瞬間まで己の美貌をアピールしながら、ジドリくんは爆散した。
爆発と共に黒いチャッカーが飛ばされ、地面を転がる。
着地した妖狐と鬼丸は、背後でジドリくんが爆発するのを確認すると転がったチャッカーを回収しに向かうのだった。
□□□
「任務完了、これより帰還します」
御景支部に連絡を入れると、晴矢は回収したジドリくんのチャッカーを白布で包んで懐に仕舞う。
「晴矢さ~ん!」
「っ!熱ッ!?」
呼ばれて振り返ると、頬に冷たい感触が走る。
思わず後退ると、そこには自販機で買ってきたのであろう缶コーヒーを手にした頼人が立っていた。
「お前っ!?」
「いやー、最近肌寒くなってきてますし、ついやりたくなっちゃって」
「お前な、俺は一応お前の先輩なんだが?」
思わず頬をヒクつかせながらそう言った晴矢。
すると、頼人は口をポカンと開けていた。
「……なんだ、鳩が豆鉄砲くらったような顔して」
「コワポン……今、晴矢さんが先輩って……」
「先輩って言ったコン!?」
「……何かおかしな事を言ったか?」
「ブフッ!」
顔を見合せている頼人とコワポンに、怪訝そうな表情を浮かべる晴矢。
その後ろで、夜叉は思わず吹き出した。
「な、なんだ夜叉まで……」
「坊主お前、今までずっと『ド素人』呼ばわりしてきたろ。それが今、先輩ヅラしだしてんじゃん?おもしれーに決まってんだろ!」
そう言ってまた夜叉は呵呵大笑し始める。
晴矢はしばらく黙り込むと、頼人達の方に背を向けたまま呟いた。
「じ、事実だろ。六道先生から任されてるんだ。お前が半人前の間は、当分面倒見てやる……。面倒だがな」
頼人とコワポンは、もう一度顔を見合せてから、晴矢の方へと視線を向け直す。
「覚悟しておけ。俺の指導は厳しいぞ。それでも付いてこられるなら──」
「晴矢先輩!」
名前を呼ばれ、今度はゆっくりと振り返る。
見ると頼人がこちらに向かって、綺麗に頭を下げていた。
「まだまだ未熟な僕ですが、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします!」
「ボクの方からも、お願いするコン!」
頼人の隣に浮遊しているコワポンも、ペコリと頭を下げていた。
それを見て晴矢は、指先で頬をポリポリと掻いた後、口を開いた。
「篝火」
「はい!」
「お前は何のために仮面ライダーになった?」
晴矢からの質問に頼人は顔を上げる。
「仮面ライダーになった理由を、お前の覚悟を聞かせて欲しい。こいつは命に関わる役目だ、それなりのモチベーションが無きゃ続けられないぞ」
「僕が仮面ライダーになった理由は……」
そこで頼人は息を吸い込む。
晴矢は頼人の様子を、静かに観察していた。
頼人の様子は理由に悩んでいるというより、どう説明しようか悩んでいるという風に見えた。
一体どんな事情がからんでいるのか。晴矢が想像を巡らせる前に、頼人が口を開いた。
「……夢を、見るんです」
「夢?」
「はい。幼い僕を、狐面の戦士が助けてくれる夢。小さい頃から何度も見てて……でも、何でそんな夢を見るのかが分からないんです」
「狐面の戦士……」
晴矢はふと考える。
もしやそれは、仮面ライダーなのではないかと。
だとすれば、頼人はかつて仮面ライダーに救われ、五行院によって記憶を消された事になる。
それが何故、仮面ライダーに選ばれたのだろうか?
「コワポンと出会ったあの日、夢の輪部がハッキリとししてきたんです。それに妖狐は、あの人にそっくりだった。僕がコワポンと出会い、仮面ライダーになったことにはきっと、偶然では無い何かがあるはずなんです。僕はこの謎の答えが知りたい」
「だから答えを求めて、仮面ライダーとして戦うことを決めた……」
「はい……契約自体は、友達を守りたくて咄嗟に結んだ所があるんですけど。それでも、続ける理由はあります!」
「そうか……」
晴矢はそのまま黙り込む。
思わず不安になり、頼人は声をかけた。
「あ、あの~、晴矢さん?」
「…………」
「せ、先輩?」
「……まあ、そういう理由もアリか」
そう言って晴矢は頼人の肩に手を置く。
「お前の夢が何なのか、いつか分かるといいな」
「ッ……はいッ!」
自分を見上げる後輩の顔を、晴矢は真っ直ぐに受け止める。
名前の通り、篝火のごとき眩しさがそこにはあった。
「あと、変身してる間はライダーの名前で呼べ」
「はい!気をつけます!」
「これで一件落着だな」
「コンコ~ン♪良かったコン」
その後、到着した情報部に後処理を任せると、頼人と晴矢は御景支部へと戻って行った。
この日以降、ジドリくんの噂はパッタリと途絶えたという。
怪異図鑑
・ジドリくん:観光地や映えスポットに現れ、「一緒に写真を撮ってくれませんか?」と声を掛けてくる、地鶏の顔をした青年。
全身の羽毛を硬質化させ、防御や攻撃に使ってくる他、絶叫する事でソニックブームに近しい程の音波を発したり、空気を圧縮してプラズマの塊を形成する事ができる。
ナルシストな性格で、自慢の毛並みやトサカを荒らされると激昂する。
黒崎好太郎さん、ご応募ありがとうございます。