仮面ライダー妖   作:ちくわぶみん

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幕間「先輩と後輩」

夕刻、とある街角の路地にて。

僕、仮面ライダー妖狐はとある怪異と戦っていた。

 

「トォォォォン!!」

「っとと、危ない!」

「トッ!?」

 

振り下ろされた刀を回転しながら避けると、キツネビシューターを撃ち込む。

 

弾丸は包帯だらけの体に命中し、火花とともに真っ白なそれが黒く焦げる。

 

「トンカラァァァ!!」

「もしかして怒ってる?」

『間違いないコンね。でも、あいつにボクらが怒られるいわれはないコン!』

「そうだね。お前の悪行もここまでだ!『怪人トンカラトン』!!」

 

僕がシューターを向ける先には、全身を包帯で覆い隠し、両腕から刀を生やした怪人の姿があった。

 

“怪人トンカラトン”。

逢魔ヶ刻、人通りの少ない通りに自転車を漕ぎながら現れる、都市伝説の怪人だ。

 

外見は刀を背負ったミイラ男のような姿をしており、自分の姿を見た相手に『トンカラトンと言え』と脅すと噂されている。

 

ここでちゃんと彼の名前を呼べれば、何もせず通り過ぎていく。

ただし名前を間違えたり、或いは「トンカラトンと言え」と言われる前にその名前を口にしてしまった場合、背負った刀で斬りつけられてしまう。

 

そして斬られた人は全身を包帯で覆われ、トンカラトンの仲間にされてしまう……というのがこの都市伝説の概要だ。

 

今、目の前にいるのは間違いなく噂のトンカラトン。

五行院からの情報によれば、何件かの被害を確認しているらしい。

 

討伐命令を受け、僕は晴矢さんと共に指定された場所へ急行。

トンカラトンを発見し、交戦を開始したのが10分ほど前の事だ。

 

「トォォン……トン、カラ、トォォォン!!」

「その攻撃は既に見切った!」

 

トンカラトンが重心を落とし、居合切りのような動きで勢いよく踏み込んでくる。

 

その動きはこの戦闘で、トンカラトンが何度か見せていたものだった。きっとクセのような、或いは彼にとっての必殺技のようなものなのだろう。

何度か当たって、地面を転がる羽目になった。

 

でも、もう見切った!

素早く振り抜かれた刃が届くより一瞬早く、僕は地面を蹴ってそれを避ける。

 

「トッ!?」

『今コン!!』

「最大火力、行っけぇぇぇ!!」

 

トンカラトンの頭上に跳び、僕は素早くベルトのレバーを引き、そのまま押し込んだ。

 

『妖火チャージ!妖火意全カーイ!』

『キツネビ必殺!妖火意バースト!』

 

妖狐脚撃

 

炎に包まれた脚で、トンカラトンの頭を踏みつける。

トンカラトンはそのまま体勢を崩し、地面に倒れて燃え上がった。

 

「トォォォォォッ!?トッ、トン、カラ……トンカラァァァァァァッ!!」

 

炎は瞬く間に全身を包み、トンカラトンは断末魔と共に爆散した。

 

残されたのは白煙を上げて転がる、黒いアヤカシチャッカーだけ。

それを拾うと、多貴子さんから貰ったジップロックに入れる。

 

『回収完了コン!』

「あとは晴矢さんと合流して……」

 

立ち上がり、周囲を見回そうとしたその時、重たいマフラーの音がブルルンと響いた。

 

『トンカラァァァァァァ!!』

「逃がさんッ!!」

 

振り向くともう1体のトンカラトンを追跡する晴矢さん、もとい仮面ライダー鬼丸の姿があった。

 

愛車の馬身紺剛を駆り、夜叉だけに鬼気迫る形相でトンカラトンに迫っている。

一方、追われているトンカラトンの下半身は自転車と融合したような姿になっており、バイクに劣らない速度で爆走していた。

 

「妖狐!そいつの足を止めろ!」

「は、はい!」

 

僕に気づいた晴矢さんはそう言って、ハンドルを強く握った。

 

「止まれぇぇぇ!!」

「トンッ!カラッ!トットォン!!」

 

僕はトンカラトンの足元に何発か火球を放つ。

しかし、トンカラトンは曲芸でもするかのようにそれらを躱しながら進み続ける。

 

それならとドライバーのチャッカーを抜き、シューターの台尻に装填。今度は前輪に狙いを定める。

 

『シューター!キツネビ必殺!』

「本日二度目の、最大火力!」

 

妖狐燐火弾

 

トリガーを引いた直後、狐の顔の形をした火炎弾が勢いよく発射され、トンカラトンの前輪に命中した。

 

「トトォン!?」

「でかした!」

 

前輪が爆散し、バランスを崩すトンカラトン。

鬼丸はそのままレバーを操作すると、ドライバーから溢れた妖火でバイクを包み込む。

 

「ブチ抜くぜ、テメェの恨みごとな!」

『ヤシャ必殺!妖火意ブースト!』

 

夜叉蒼炎轍

 

限界まで加速した馬身紺剛が、トンカラトンを空中へ撥ね飛ばす。

そして落下してきた瞬間を狙い、綺麗なジャックナイフを披露しながら後輪で殴りつけ、その五体を大地へと叩きつけた。

 

「トンガッ!?ルァアアアアアアアッ!!」

 

結構痛そうな顔で爆散した……!?

な、なんてデンジャラスな技なんだ……僕にはとても真似出来ないや……。

 

「任務完了、だな。よくやった」

「え?あっ、はい……どうも……」

 

呆気に取られている僕を他所に、晴矢さんはバイクを降りて変身を解いていた。

僕も周囲を見渡して、変身を解除する。

 

「まぁ、その……なんだ……。出会った頃に比べれば、マシにはなってきたんじゃないか?」

「ッ!?それって?」

 

思わず晴矢さんの顔を二度見する。

 

もしかして今、褒められた?

褒められてるよね?そうだよね!?

 

『素直じゃないコンね。晴矢は意外と恥ずかしがり屋さんなのコン?』

「よ、余計なお世話だチビギツネ」

 

コワポンと顔を見合わせると、晴矢さんは思いっきり顔を逸らした。

 

『チビギツネじゃないコン!ボクにはコワポンって名前があるコン!!』

「とにかく、支部に戻るぞ!」

「あ、待ってくださいよ!」

 

バイクを押しながら足早に進んでいく晴矢さんを追い掛け、僕らもその場を後にする。

 

ジドリくんを倒してから1週間後。

僕は仮面ライダーとして、街に潜む怪異と戦う日々を送っていた。

 

あの後も様々な怪異と遭遇したけど、戦う身ともなると彼らが文字通り『恐怖の対象』であることを全身で実感する。

中には噂の印象とイメージが全然違うのもいたし……。

 

例えば、『人喰いランドセル』。

自分のランドセルの色に不満を持つ子どもがいて、それを謎のおじさんが取り替えてくれるという話だ。

 

おじさんが子どもに渡すのは人喰いランドセルで、夜中になると子どもを捕食して何処かへ消えてしまう……という恐ろしい怪異なんだけど、見た目が思ってた以上に気持ち悪かった。

 

ギラギラ光る目と鋭い歯の並んだ大きな口を持つランドセル、というビジュアルは本の挿絵だとシュールだが、実際この目で見るとかなりグロテスクだった。

 

しかも本体である『ランドセルおじさん』と合体して怪人の姿になった時は、もう見た目が邪悪なコラ〇ョとしか言いようがないものに成り果てていたし……。

 

ただ、強さはヤマノケほどではなかったのが幸いだった。

最後は口の中に火球を命中させて爆散。大きな口が仇となった形で決着だ。

 

他に印象的だったのは、立体道路を縄張りとしていた100キロババア。

 

顔がとにかく怖いのなんの。それが100キロもの超スピードで追いかけてくるんだからたまったもんじゃない。追い回された時なんか、しばらく夢に出てきたくらいだった。

 

こっちはバイクでの激しい競り合いの末に、晴矢さんが『土御門流・破魔之流鏑馬』でヘッドショットを決めて撃破。

 

そんな感じで、怪異退治は順調に進んでいた。

 

「今回も、被害者が出なくてよかったですね」

「ああ。祓人(はらえびと)は何も、俺たちライダーだけじゃないからな」

「祓人……って何でしたっけ?」

「五行院に所属する、妖怪退治が仕事の職員だ。俺やお前も含まれている」

「そうなんですか!?」

 

自覚はしておけ、と釘を刺してくる晴矢さん。

 

付き合いはまだ数日だけど、出会った頃に比べてちゃんと仲間だって思ってもらえてるみたいだ。

 

もしかすると、今の方がこの人の素の部分なのかもしれない。出会い方が悪かったから、当たりが強かったのかも。

 

「祓人の中でも選ばれた奴らが、仮面ライダーになれる。変身はしないが、妖怪と一緒に力を合わせて戦ってる連中は少なくないぞ」

「そういう人たちが、この街にも?」

「そうだ。調査部を護衛しつつ、主力である俺たちライダーが来るまで現場に張り込み、一般人を守っている。いわゆる縁の下ってやつだな」

 

そう言って晴矢さんは、前方を指さす。

指さした先には、黒服を着た五行院の職員さん達が事後処理を始めている所だった。

 

「ちょっと、お礼いってきます」

「ああ」

 

僕は晴矢さんに断ってから、職員さん達の方へと走り出した。

 

□□□

 

篝火の背中を見送った直後、懐から五行フォンの着信音が響く。

確認すると、六道先生からだった。

 

「はい、こちら土御門」

『頼人くんとは、上手くやれてるみたいだね』

「相変わらず覗き見ですか。俺たちのプライバシーも考えてくださいよ」

『黒海や多貴子のお陰で、黒結界が前より薄まってるからね。ピント合わせのついでに、先輩風吹かせてる晴矢を眺めてやろうかと思って』

「暇なんですか?」

 

相も変わらず、暇さえあれば千里眼で生徒たちの様子を覗き見ている恩師に、呆れて溜め息が出る。

この人、風呂場覗きの前科とかあってもおかしくないんじゃないか?

 

「って、そんな事はいいんですよ。それより……篝火が夢に見るっていう、狐のライダーについては掴めたんですか?」

『今、本部の記録を遡ってるところ。これがなかなか見つからなくてさ』

 

淡々とした声と、ページをめくるような音が聞こえてくる。

おそらく、書庫の資料を見ながら電話してきているのだろう。

 

篝火がライダーの道を選んだ理由。かつて幼いあいつを助けた、狐面の戦士の存在。

 

十中八九ライダーであろうその戦士は、果たして何者だったのか。

出来ることなら会わせてやりたいし、そのためにも手がかりは掴んでおきたい。

 

『各地におけるライダーの行き来は、その土地の支部が記録しているはずだ。けど、御景支部に狐妖怪のライダーが来ていたという記録は残されていないんだ』

「一人もいないんですか?」

『妖狐一族は妖怪の中でも格が高い。支部に直接訪れていなかったとしても、目立つはずだ』

 

五行院の関係者は支部のみならず、各地の神社仏閣に駐在している。

それぞれが担当地区の監視を行っているため、記録に漏れがあるとは考えにくい。

 

ここでふと、前から疑問に思っていた事を思い出す。

 

「そういえば、前から聞きたかったんですが……“妖狐”は狐妖怪のライダーの中でも、特に格式のある存在なんですよね?」

『まぁ、そうだね。少なくともその名前は、決して軽くない。これまで妖狐の名を継承したライダー達は、皆それぞれ何かしらの形で名前を残しているくらいさ』

「それほどの格式があるのに、どうして妖狐の資格者は無作為に選ばれるんですか?」

 

篝火達とあのチビ狐、もといコワポンを引き合わせた呪物『交霊紙の原典』。

これを手にして降霊術を行った者には、妖狐の名を継承する資格が与えられる。

 

改めて確認しても、選別方法が格式とはかなり程遠いものに思えて仕方ない。

格式があるというのであれば、もっと厳粛な試練を以て選別するべきではないだろうか?

 

『僕も昔はそう思ってたよ。伝統って言葉は、虚飾された非効率と非合理の塊だってね』

「先生、そういうの嫌いですもんね」

『カビ臭いジジババの理由のない拘りとかクソくらえでしょ?形骸化してるなら尚更、無くてもいいと思うよ』

 

あっけらかんと言ってのける六道先生。

物言いはアレだけど、俺は先生のこういう所が嫌いじゃない。

 

この人のお陰で、俺達みたいな若手が助かっている部分も大きいわけだし。

 

「では、先生はこの選別方法に何かしらの意図があると?」

『ああ。理由は何となく検討がついてる。けど、説明は難しいかな』

「どういう事です?」

『占いとは偶然を読み解くものである、って言うじゃないか』

「余計に分からないのですが……」

 

確か、占術の基本原則だったか。

俺は占術科ではないのでよく分かっていないが、全ての偶然には意味がある、というような教えだったのは覚えている。

 

『まぁ、予知とか卜占の分野だからね。知見があるのとそうじゃないのとで、全然視点が異なるのさ』

「なら、俺の専門外ですね」

『ま、ともかくこっちは僕に任せてよ。君は君の任務に集中すればいい』

「そうします。次にかけてくる時は、無駄話以外にしてください」

『無駄なんかじゃないさ』

 

先生は電話の向こうで、クスッと笑った。

こっちの事視えてる上で、別段急務でもないおつかいを頼んでくる人がどの口で……。

 

今度本部に戻ったら、戸棚に隠してるスイーツ勝手にパクってやろうか。

 

『初めてできた後輩なんでしょ。大事にしなよ?』

「……言われるまでもないですよ」

 

俺は通話を終えると、篝火の方へと視線を向ける。

 

どうやら丁度、終わった所らしい。篝火は、俺に向かって手を振っていた。

 

「晴矢さーん!支部まで送ってくれるらしいですよー!」

「待ってろー、すぐ向かう」

 

手を振り返しつつ、俺は足を進める。

まったく、騒がしいやつだ。

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