仮面ライダー妖   作:ちくわぶみん

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第一夜「こっくりさん、おいでください」 2/2

所々に炎の柄が描かれた黒いアンダースーツ。

白地にファイヤーパターンの羽織には、背に墨字で『狐』の文字。

 

ベルトの右腰には狐の顔を象った銃が。左腰には、チャッカーを3つまで収納できるホルダーが。

 

そしてオレンジ色の狐面は、勇ましさよりも未熟さ、もしくは幼さのようなものを感じる、優しい顔つきをしていた。

 

「な、なんだテメェは!?」

 

弾けた炎で数体消滅したウシクビに、胸にある顔の額に皺を寄せて驚くヤマノケ。

 

腰を抜かした春歌と鉄平も、あんぐりと口を開けて彼を見上げる。

 

「頼人先輩が……」

「変身した……!?」

「ココーン!!その姿こそ、”仮面ライダー妖狐“!ボクたち妖狐一族の力を纏う、熱き炎のライダーだコン!!」

「これが、仮面ライダー……」

 

頼人、いや妖狐は変身した自らの身体を見回すと、やがてヤマノケの方を鋭く睨み付けた。

 

「照らすぜ篝火、覚悟しろッ!!」

 

「かっこつけんな!!やっちまえ、お前らァ!!」

「「「「ウシシシーッ!!」」」」

 

変身した際の炎で数体が倒れたとはいえ、ウシクビはまだまだ20体以上は残っている。

 

迫って来た一体に向けて、妖狐は真っ直ぐに拳を突き出した。

 

「おりゃあッ!!」

「ウシーッ!?」

 

妖狐のパンチを顔に受け、派手に吹き飛んでいくウシクビ。

 

「お、おおーっ!?凄い!?暖簾みたいに軽く飛んでった!!」

「それが仮面ライダーの力だコン!その調子で全部やっつけちゃうコン!!」

「よーし!やるぞーッ!!」

 

自分が本当に戦える力を得た事を確認し、今度は自らウシクビ達の方へと向かっていく妖狐。

 

「ハッ!ハアアアアッッ!!どりゃっ!!」

 

殴る、蹴る、打つ、払う。

 

単純な動きではあるが、一撃毎にその手足には炎が宿り、四肢を振るう度に舞い散る火の粉が並み居る怪異を焼き焦がす。

 

「たあッ!!ハァッ!!ぜやああああッ!!」

 

それはまるで、暗闇の中で松明を翳し、闇を払って進んでいくかの如く。

 

飛び火した火の粉で身体を焼かれたウシクビは、熱さに悶えて隊列を崩し、統率が乱れていく。

 

しかし、ウシクビ達もやられっぱなしでは居られない。

 

「ウ~シ~ウッシー!!」

 

一体が妖狐の背中へ向けて、腰から提げていた麻袋を投げつける。

 

麻袋は命中した瞬間、爆発した。

 

「ぐああああッ!?」

「頼人ッ!」

「頼人先輩ッ!」

 

麻袋の正体は“ゾウモツ手榴弾”。鉈と同じくウシクビの標準装備であり、中に腐食した臓物を詰めた手榴弾だ。

 

命中した物体を腐食させながら爆発させる、凶悪な武器。体制を崩した妖狐に向かって一斉に、ウシクビ達はそれを投げ付けた。

 

「危ないッ!!」

 

春歌が叫んだ、その瞬間。

 

「左腰の銃で、一気に焼き尽くすコン!!」

「ッ!?そこだあああああッ!!」

 

降り注ぐ麻袋を、赤き炎が焼き尽くした。

 

「え……?」

「今のは……?」

「ふう……間に合ったコン」

 

起き上がった妖狐の手には、左腰のホルダーから引き抜かれた銃が握られていた。

 

『キツネビシューター!!』

 

狐の口を象った銃口から発射された火炎弾が、ゾウモツ手榴弾を焼き付くす。

 

「ウ、ウシッ!?」

 

動揺するウシクビ達。

その一瞬が隙を作った。

 

「頼人!台尻にチャッカーをセットするコン!!」

「ッ!分かった!」

 

ドライバーにセットされたキツネビチャッカーを一旦外し、ウィックの部分をキツネビシューターの台尻へとセットする。

 

『シューター!キツネビ必殺!』

 

チャッカーからの火を吸引し、シューター上部に位置する狐の目が発光する。

 

「これで……終わりだッ!!」

 

ウシクビ達へと銃口を向け、引き金を引きながら一回転する妖狐。

 

放たれた狐型の炎は円を描き、ウシクビを一体たりとも残さず焼き尽くした。

 

「す、凄い……」

「これが、仮面ライダー……」

 

圧倒される春歌と鉄平。

 

残るはヤマノケただ一体のみだ。

 

「やるじゃあねぇか!俺様が相手してやんよぉ!!」

 

ヤマノケは足を2本に分裂させると、両腕をブルンと振るった。

 

ゴムのようにしなる腕は、空を切る音と共に伸び、硬く握った拳を妖狐へと叩きつける。

 

ひらりと身を逸らして躱す妖狐。

直後、防火扉がダンボールのように凹んだ。

 

「あっぶな!?」

「まだまだァ!!」

「くっ!?」

 

左右の腕から2発、3発、4発と交互に繰り出される殴打を、廊下を転がりながら回避する。

 

轟音と共に壁や廊下が凹み、ヤマノケの笑い声が轟く。

 

「フヘヘヘヘヘヘ……逃げろ逃げろぉ!潰してやるぜぇ!」

「狭い廊下で暴れ回るなよ!!くっ……このままだと校舎が滅茶苦茶に……ッ!?」

 

一瞬のきの緩みを突き、拳の一つが妖狐を捉える。

 

巨大な鉄球をぶつけられたような感触とともに、妖狐は廊下の壁へと叩き付けられる。

 

「ぐああああああっ!」

「フヘヘヘ……どうだ?どうだぁ!?」

「ぐうっ……うっ……」

 

壁にめり込んだ妖狐を嬲るように、平手で押し潰すヤマノケ。

 

ミシ……ミシ……という音と共に、壁の亀裂が広がっていく。

 

「マズイっス……このままじゃ頼人先輩が!!」

「コワポン!頼人を助ける方法とか、何かないの!?」

「いたたたたた!?春歌先輩肩掴むのやめてくださいっスぅぅぅ!!」

 

春歌は思わず、鉄平の肩を掴んで揺さぶる。

 

するとコワポンは、フサフサの尻尾の中から更に2つのアヤカシチャッカーを取り出した。

 

1つは青い狼の顔が、もう1つには栗色の狸の顔が彫り込まれていた。

 

「出来るコン!このチャッカーで、アイツに妖火を放ってやるんだコン!」

 

2人は渡されたチャッカーを手に取る。

 

「ほ、本当にやるっスかぁ……?」

「やらなきゃ頼人が死んじゃうのよ!?やるしかない……!!」

「ッ……そうっスよね……やってやるっス!!」

 

鉄平は覚悟を決めると、チャッカーをヤマノケの背中に向けて構える。

 

2人で同時にチャッカーを開けると、それぞれにチャッカーと同じ色の妖火が灯った。

 

『着火!オクリオオカミ!』

『着火!マメダヌキ!!』

 

「「いっけぇぇぇーッ!!」」

 

『ガッオーン!』

『ポンポーン!』

 

狼の顔の形をした青い炎と、狸顔の形になった緑の炎が放たれ、ヤマノケの無防備な背中へ一直線に命中する。

 

「おああああ熱っつううううううッ!?」

 

ヤマノケは悲鳴を上げてよろけると、慌てて背後を振り返る。

 

「やった!効いてる!」

「大成功っス!」

「「いえ~い!」」

 

振り返った先には、ハイタッチを交わす春歌と鉄平の姿が。

 

自分より弱いものをいたぶるのが趣味であるヤマノケの胸に、ふつふつと怒りが込み上げた。

 

「テメェらぁぁぁ!!女とデブのクセしてナメた真似しやがって!!死ねぇぇぇッ!!」

「うわあああこっち来たあああ!?」

 

ヤマノケの怒りを込めた拳が2人へ放たれる。

 

その時だった。

 

「させないよッ!!」

 

『ソード!キツネビ必殺!』

 

「ッ!?何ぃッ!?」

 

背後の2人に気を取られた一瞬の隙に、ヤマノケの手から脱した妖狐がキツネビシューターをソードモードに変形させ、必殺の一撃を放つ。

 

バレル部から展開された刃にチャッカーからの妖火が点火され、長く伸ばされた炎の刃がヤマノケの胴体を真横へ薙ぐ。

 

「ぐうううっ……がっ……あああああああああああああああッッッ!?」

「うおおおおおおおおおおおおおおおッ!!はあああああああああああああッ!!」

 

斬撃と炎、二種類のダメージに襲われ苦痛の叫びを上げるヤマノケと、それをかき消すほどに妖狐……篝火頼人が叫ぶ裂帛の咆哮。

 

弾力性のあるヤマノケの身体は刃を上手く通さない。

 

しかし、斬れないからこそ感じる苦痛がある。

 

高熱を放つ鋭い刃が、炎と共に胴体へ当てられている瞬間が長時間続く……。

 

散々弱いものをいたぶってきた報いが、まさかこんな形で返ってくるとは思いもよらなかっただろう。

 

「ぐああああああああああああああッ!!」

 

やがてソードが振り抜かれ、ヤマノケは勢いよく窓へと叩き付けられる。

 

窓ガラスを粉砕しながら中庭を転がり、苦痛に悶えながら起き上がる。

 

「ああああああ熱いぃぃぃ!!痛いぃぃぃ!!テメェ、よくも俺様に火傷を……」

 

痛む横っ腹を抑え、逃げ出そうとするヤマノケ。

 

しかし、そうは問屋が卸さない。

コワポンが妖狐に示したのは、トドメの一撃だった。

 

「頼人!ドライバーのレバーを押して、もう一度引くんだコン!!それでトドメだコン!!」

「わかった!!」

 

中庭に降りると言われた通りにレバーを押し込み、そして引く。

 

『妖火チャージ!妖火意全カーイ!』

 

バックルの行燈が開閉し、ベルト内で充填された妖火が右脚へと集中していった。

 

「最大火力、ぶちかますぜッ!!」

『キツネビ必殺!妖火意バースト!』

 

跳躍する妖狐。見上げるヤマノケ。

紅の炎脚が今、放たれる。

 

「はああああああああああッ!!」

 

仮面ライダー妖狐の必殺キック、“妖狐脚撃”。

足に宿った炎が螺旋を巻き、怪異を貫き焼き尽くす。

 

「ぐぅっ、ぐああああああああああああああッ!!」

 

断末魔の叫びを上げて、ヤマノケは爆散する。

 

爆発の瞬間、飛散した黒い靄が妖火に焼かれ蒸発し、ヤマノケは肉の一片も残さず消滅したのであった。

 

「倒した……のか……?」

 

煙が上がる芝生から立ち上がり、妖狐は呟く。

 

「頼人~っ!」

「頼人センパーイ!」

 

名前を呼ばれて振り返ると、声の主は勢いよく飛び付いてきた。

 

「おわっ!?は、春歌!危ないからそれやめてほしいって……」

「凄いよ頼人!あんな化け物倒しちゃうなんて!!」

「聞いてないし……」

 

呆れながらも、勝利を喜んでくれる幼馴染に悪い気はしない。

 

しかし、それだけ彼女や後輩を心配させた事を実感し、頼人は2人に申し訳なく感じた。

 

「春歌、豆田くん、心配かけたね。ごめん」

「ホントっスよ……心臓に悪いっス。でも頼人先輩、すごかったっス!」

「そうだよ頼人!みんな助かったんだし、頼人が謝る事ないよ!」

「ココーン!やったコン!凄いコーン!頼人、よくやってくれたコーン!」

 

そこへ、コワポンが宙を飛び跳ねながら、頼人の肩へと飛び乗った。

 

「コワポン、学校の皆はどうなったの?」

「頼人がヤマノケを倒したから、ウシクビ達もまとめてどっか行っちゃったコン」

「そっか。よかった……」

「じゃあ、これで全部解決って事?」

「いや、待って……一番の問題に気付いたんだけど……」

「え?頼人先輩、どうしたっスか?」

 

歓喜の声から一転。深刻そうな声音になる頼人。

 

春歌達の視線が集まる中、頼人……いや、仮面ライダー妖狐は羽織の襟部分を掴みながら呟いた。

 

「これ……どうやって戻るの?」

 

「「あ……」」

 

この後、コワポンが変身解除の手順を伝えるまでに一悶着あったのだが、別段綴る程の内容でもないので省かせてもらう事にする。

 

そして同じ頃、それぞれ全く異なる場所から、オカ研の3人とコワポンが戯れている姿を見つめていた者達がいた。

 

「あれが当代の妖狐ですか……」

 

細長い黒ずくめの男は、爆発したヤマノケの身体から飛び出した漆黒のチャッカーを拾うと、校舎の陰へと姿を消し。

 

「何してんのよ、バカ六道」

「フフ……どうやら、もうすぐ来るみたいだね。新しい生徒達が」

 

何処かの寺院のような場所の庭では、空を見上げていた銀髪の青年が、サングラスをかけ直し。

 

そして、校舎の屋上からは……。

 

『ほぉう、未熟な妖狐に人間のガキがねぇ。面白い組み合わせだな』

「ド素人が……」

 

大太刀を背負った蒼い鬼のような姿の妖怪と、蒼いチャッカーを握った黒髪の少年が、3人と1匹を見下ろしていた。




原案担当コメント

どうも、性懲りもなくちくわぶです。
遂に始まりました。今度は妖怪ライダー!
しかも原案としてそして執筆担当のエミヒロ君との共同制作です。

最初はほぼネタで言ったはずなのに、まさかここまでになるとは思ってもいませんでした。というか、やるとは思っていませんでした。

安心してください、アニマとトライズも書きます。そして妖の原案もやります。俺の身体は持つのか!?って心配ですが全力全開でやっていこうかと思います。


執筆担当コメント

というわけで、読者の皆さん初めまして。Twitterから来た方々はお待たせしました。執筆担当のエミヒロです。
仮面ライダー妖、遂に書き上げちゃいました。

息抜き感覚で書いてるので更新は亀、しかも不定期ですが、応援してくださると嬉しいです~。

それから、第4話辺りから読者参加の応募も始める計画ですので、そちらもお楽しみに。
それでは、また次回!

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