所々に炎の柄が描かれた黒いアンダースーツ。
白地にファイヤーパターンの羽織には、背に墨字で『狐』の文字。
ベルトの右腰には狐の顔を象った銃が。左腰には、チャッカーを3つまで収納できるホルダーが。
そしてオレンジ色の狐面は、勇ましさよりも未熟さ、もしくは幼さのようなものを感じる、優しい顔つきをしていた。
「な、なんだテメェは!?」
弾けた炎で数体消滅したウシクビに、胸にある顔の額に皺を寄せて驚くヤマノケ。
腰を抜かした春歌と鉄平も、あんぐりと口を開けて彼を見上げる。
「頼人先輩が……」
「変身した……!?」
「ココーン!!その姿こそ、”仮面ライダー妖狐“!ボクたち妖狐一族の力を纏う、熱き炎のライダーだコン!!」
「これが、仮面ライダー……」
頼人、いや妖狐は変身した自らの身体を見回すと、やがてヤマノケの方を鋭く睨み付けた。
「照らすぜ篝火、覚悟しろッ!!」
「かっこつけんな!!やっちまえ、お前らァ!!」
「「「「ウシシシーッ!!」」」」
変身した際の炎で数体が倒れたとはいえ、ウシクビはまだまだ20体以上は残っている。
迫って来た一体に向けて、妖狐は真っ直ぐに拳を突き出した。
「おりゃあッ!!」
「ウシーッ!?」
妖狐のパンチを顔に受け、派手に吹き飛んでいくウシクビ。
「お、おおーっ!?凄い!?暖簾みたいに軽く飛んでった!!」
「それが仮面ライダーの力だコン!その調子で全部やっつけちゃうコン!!」
「よーし!やるぞーッ!!」
自分が本当に戦える力を得た事を確認し、今度は自らウシクビ達の方へと向かっていく妖狐。
「ハッ!ハアアアアッッ!!どりゃっ!!」
殴る、蹴る、打つ、払う。
単純な動きではあるが、一撃毎にその手足には炎が宿り、四肢を振るう度に舞い散る火の粉が並み居る怪異を焼き焦がす。
「たあッ!!ハァッ!!ぜやああああッ!!」
それはまるで、暗闇の中で松明を翳し、闇を払って進んでいくかの如く。
飛び火した火の粉で身体を焼かれたウシクビは、熱さに悶えて隊列を崩し、統率が乱れていく。
しかし、ウシクビ達もやられっぱなしでは居られない。
「ウ~シ~ウッシー!!」
一体が妖狐の背中へ向けて、腰から提げていた麻袋を投げつける。
麻袋は命中した瞬間、爆発した。
「ぐああああッ!?」
「頼人ッ!」
「頼人先輩ッ!」
麻袋の正体は“ゾウモツ手榴弾”。鉈と同じくウシクビの標準装備であり、中に腐食した臓物を詰めた手榴弾だ。
命中した物体を腐食させながら爆発させる、凶悪な武器。体制を崩した妖狐に向かって一斉に、ウシクビ達はそれを投げ付けた。
「危ないッ!!」
春歌が叫んだ、その瞬間。
「左腰の銃で、一気に焼き尽くすコン!!」
「ッ!?そこだあああああッ!!」
降り注ぐ麻袋を、赤き炎が焼き尽くした。
「え……?」
「今のは……?」
「ふう……間に合ったコン」
起き上がった妖狐の手には、左腰のホルダーから引き抜かれた銃が握られていた。
『キツネビシューター!!』
狐の口を象った銃口から発射された火炎弾が、ゾウモツ手榴弾を焼き付くす。
「ウ、ウシッ!?」
動揺するウシクビ達。
その一瞬が隙を作った。
「頼人!台尻にチャッカーをセットするコン!!」
「ッ!分かった!」
ドライバーにセットされたキツネビチャッカーを一旦外し、ウィックの部分をキツネビシューターの台尻へとセットする。
『シューター!キツネビ必殺!』
チャッカーからの火を吸引し、シューター上部に位置する狐の目が発光する。
「これで……終わりだッ!!」
ウシクビ達へと銃口を向け、引き金を引きながら一回転する妖狐。
放たれた狐型の炎は円を描き、ウシクビを一体たりとも残さず焼き尽くした。
「す、凄い……」
「これが、仮面ライダー……」
圧倒される春歌と鉄平。
残るはヤマノケただ一体のみだ。
「やるじゃあねぇか!俺様が相手してやんよぉ!!」
ヤマノケは足を2本に分裂させると、両腕をブルンと振るった。
ゴムのようにしなる腕は、空を切る音と共に伸び、硬く握った拳を妖狐へと叩きつける。
ひらりと身を逸らして躱す妖狐。
直後、防火扉がダンボールのように凹んだ。
「あっぶな!?」
「まだまだァ!!」
「くっ!?」
左右の腕から2発、3発、4発と交互に繰り出される殴打を、廊下を転がりながら回避する。
轟音と共に壁や廊下が凹み、ヤマノケの笑い声が轟く。
「フヘヘヘヘヘヘ……逃げろ逃げろぉ!潰してやるぜぇ!」
「狭い廊下で暴れ回るなよ!!くっ……このままだと校舎が滅茶苦茶に……ッ!?」
一瞬のきの緩みを突き、拳の一つが妖狐を捉える。
巨大な鉄球をぶつけられたような感触とともに、妖狐は廊下の壁へと叩き付けられる。
「ぐああああああっ!」
「フヘヘヘ……どうだ?どうだぁ!?」
「ぐうっ……うっ……」
壁にめり込んだ妖狐を嬲るように、平手で押し潰すヤマノケ。
ミシ……ミシ……という音と共に、壁の亀裂が広がっていく。
「マズイっス……このままじゃ頼人先輩が!!」
「コワポン!頼人を助ける方法とか、何かないの!?」
「いたたたたた!?春歌先輩肩掴むのやめてくださいっスぅぅぅ!!」
春歌は思わず、鉄平の肩を掴んで揺さぶる。
するとコワポンは、フサフサの尻尾の中から更に2つのアヤカシチャッカーを取り出した。
1つは青い狼の顔が、もう1つには栗色の狸の顔が彫り込まれていた。
「出来るコン!このチャッカーで、アイツに妖火を放ってやるんだコン!」
2人は渡されたチャッカーを手に取る。
「ほ、本当にやるっスかぁ……?」
「やらなきゃ頼人が死んじゃうのよ!?やるしかない……!!」
「ッ……そうっスよね……やってやるっス!!」
鉄平は覚悟を決めると、チャッカーをヤマノケの背中に向けて構える。
2人で同時にチャッカーを開けると、それぞれにチャッカーと同じ色の妖火が灯った。
『着火!オクリオオカミ!』
『着火!マメダヌキ!!』
「「いっけぇぇぇーッ!!」」
『ガッオーン!』
『ポンポーン!』
狼の顔の形をした青い炎と、狸顔の形になった緑の炎が放たれ、ヤマノケの無防備な背中へ一直線に命中する。
「おああああ熱っつううううううッ!?」
ヤマノケは悲鳴を上げてよろけると、慌てて背後を振り返る。
「やった!効いてる!」
「大成功っス!」
「「いえ~い!」」
振り返った先には、ハイタッチを交わす春歌と鉄平の姿が。
自分より弱いものをいたぶるのが趣味であるヤマノケの胸に、ふつふつと怒りが込み上げた。
「テメェらぁぁぁ!!女とデブのクセしてナメた真似しやがって!!死ねぇぇぇッ!!」
「うわあああこっち来たあああ!?」
ヤマノケの怒りを込めた拳が2人へ放たれる。
その時だった。
「させないよッ!!」
『ソード!キツネビ必殺!』
「ッ!?何ぃッ!?」
背後の2人に気を取られた一瞬の隙に、ヤマノケの手から脱した妖狐がキツネビシューターをソードモードに変形させ、必殺の一撃を放つ。
バレル部から展開された刃にチャッカーからの妖火が点火され、長く伸ばされた炎の刃がヤマノケの胴体を真横へ薙ぐ。
「ぐうううっ……がっ……あああああああああああああああッッッ!?」
「うおおおおおおおおおおおおおおおッ!!はあああああああああああああッ!!」
斬撃と炎、二種類のダメージに襲われ苦痛の叫びを上げるヤマノケと、それをかき消すほどに妖狐……篝火頼人が叫ぶ裂帛の咆哮。
弾力性のあるヤマノケの身体は刃を上手く通さない。
しかし、斬れないからこそ感じる苦痛がある。
高熱を放つ鋭い刃が、炎と共に胴体へ当てられている瞬間が長時間続く……。
散々弱いものをいたぶってきた報いが、まさかこんな形で返ってくるとは思いもよらなかっただろう。
「ぐああああああああああああああッ!!」
やがてソードが振り抜かれ、ヤマノケは勢いよく窓へと叩き付けられる。
窓ガラスを粉砕しながら中庭を転がり、苦痛に悶えながら起き上がる。
「ああああああ熱いぃぃぃ!!痛いぃぃぃ!!テメェ、よくも俺様に火傷を……」
痛む横っ腹を抑え、逃げ出そうとするヤマノケ。
しかし、そうは問屋が卸さない。
コワポンが妖狐に示したのは、トドメの一撃だった。
「頼人!ドライバーのレバーを押して、もう一度引くんだコン!!それでトドメだコン!!」
「わかった!!」
中庭に降りると言われた通りにレバーを押し込み、そして引く。
『妖火チャージ!妖火意全カーイ!』
バックルの行燈が開閉し、ベルト内で充填された妖火が右脚へと集中していった。
「最大火力、ぶちかますぜッ!!」
『キツネビ必殺!妖火意バースト!』
跳躍する妖狐。見上げるヤマノケ。
紅の炎脚が今、放たれる。
「はああああああああああッ!!」
仮面ライダー妖狐の必殺キック、“妖狐脚撃”。
足に宿った炎が螺旋を巻き、怪異を貫き焼き尽くす。
「ぐぅっ、ぐああああああああああああああッ!!」
断末魔の叫びを上げて、ヤマノケは爆散する。
爆発の瞬間、飛散した黒い靄が妖火に焼かれ蒸発し、ヤマノケは肉の一片も残さず消滅したのであった。
「倒した……のか……?」
煙が上がる芝生から立ち上がり、妖狐は呟く。
「頼人~っ!」
「頼人センパーイ!」
名前を呼ばれて振り返ると、声の主は勢いよく飛び付いてきた。
「おわっ!?は、春歌!危ないからそれやめてほしいって……」
「凄いよ頼人!あんな化け物倒しちゃうなんて!!」
「聞いてないし……」
呆れながらも、勝利を喜んでくれる幼馴染に悪い気はしない。
しかし、それだけ彼女や後輩を心配させた事を実感し、頼人は2人に申し訳なく感じた。
「春歌、豆田くん、心配かけたね。ごめん」
「ホントっスよ……心臓に悪いっス。でも頼人先輩、すごかったっス!」
「そうだよ頼人!みんな助かったんだし、頼人が謝る事ないよ!」
「ココーン!やったコン!凄いコーン!頼人、よくやってくれたコーン!」
そこへ、コワポンが宙を飛び跳ねながら、頼人の肩へと飛び乗った。
「コワポン、学校の皆はどうなったの?」
「頼人がヤマノケを倒したから、ウシクビ達もまとめてどっか行っちゃったコン」
「そっか。よかった……」
「じゃあ、これで全部解決って事?」
「いや、待って……一番の問題に気付いたんだけど……」
「え?頼人先輩、どうしたっスか?」
歓喜の声から一転。深刻そうな声音になる頼人。
春歌達の視線が集まる中、頼人……いや、仮面ライダー妖狐は羽織の襟部分を掴みながら呟いた。
「これ……どうやって戻るの?」
「「あ……」」
この後、コワポンが変身解除の手順を伝えるまでに一悶着あったのだが、別段綴る程の内容でもないので省かせてもらう事にする。
そして同じ頃、それぞれ全く異なる場所から、オカ研の3人とコワポンが戯れている姿を見つめていた者達がいた。
「あれが当代の妖狐ですか……」
細長い黒ずくめの男は、爆発したヤマノケの身体から飛び出した漆黒のチャッカーを拾うと、校舎の陰へと姿を消し。
「何してんのよ、バカ六道」
「フフ……どうやら、もうすぐ来るみたいだね。新しい生徒達が」
何処かの寺院のような場所の庭では、空を見上げていた銀髪の青年が、サングラスをかけ直し。
そして、校舎の屋上からは……。
『ほぉう、未熟な妖狐に人間のガキがねぇ。面白い組み合わせだな』
「ド素人が……」
大太刀を背負った蒼い鬼のような姿の妖怪と、蒼いチャッカーを握った黒髪の少年が、3人と1匹を見下ろしていた。
原案担当コメント
どうも、性懲りもなくちくわぶです。
遂に始まりました。今度は妖怪ライダー!
しかも原案としてそして執筆担当のエミヒロ君との共同制作です。
最初はほぼネタで言ったはずなのに、まさかここまでになるとは思ってもいませんでした。というか、やるとは思っていませんでした。
安心してください、アニマとトライズも書きます。そして妖の原案もやります。俺の身体は持つのか!?って心配ですが全力全開でやっていこうかと思います。
執筆担当コメント
というわけで、読者の皆さん初めまして。Twitterから来た方々はお待たせしました。執筆担当のエミヒロです。
仮面ライダー妖、遂に書き上げちゃいました。
息抜き感覚で書いてるので更新は亀、しかも不定期ですが、応援してくださると嬉しいです~。
それから、第4話辺りから読者参加の応募も始める計画ですので、そちらもお楽しみに。
それでは、また次回!