『少し移動してたけど、この辺りのはずコン』
「あっという間に着いちゃった……」
降りた途端、バイクは自転車に戻り、コワポンは僕の肩に戻って来た。
ハイウェイには、何故か車が一台も通っていなかった。
だけど辺りを見回すと、グシャグシャに潰れた車が何台か転がっている。
僕達が到着するまでに、怪異が暴れ回った跡だと思う。
「怪異は何処だ……?」
「テン……ソウ……」
「ッ!?」
「頼人、上からコンッ!!」
見上げると、丸めたチラシみたいになった自動車が四台ほど、僕の頭上に浮いていた。
「メツ……!」
「く……ッ!」
咄嗟に前方へ走り、道路を転がる。
直後、さっきまで立っていた場所には、もはや鉄塊としかいえない姿に成り果てた車が落下し、爆発した。
「今のは……?」
「頼人!向こうだコン!」
コワポンが指差す方を見ると、そこに居たのは……
「ヤマノケ!?さっき倒したはずじゃ……」
「ウケケケケケケケケケケ!!」
白い身体で胸に顔。間違いない、ヤマノケだ。
でも、昼間の時と雰囲気が違うような……?
「テン……」
ヤマノケが何やら呟く。
すると周囲に転がっている車が、紙を丸めるようにグシャッと歪んだ。
「ソウ……」
歪んだ車が道路を離れ、宙へと浮かぶ。
「あれは……」
「頼人、また来るコン!」
「メェェェェツッ!!」
ヤマノケの叫びと共に、宙へと浮かんでいた車が、一斉に僕の方へと向かってくる。
今度は同時じゃなくて、断続的な攻撃だ。さっきより避けるのが難しい!
「頼人!キツネビシューターを使うコン!」
「OK!」
当たる前に撃ち落とせば……ッ!
キツネビシューターを構え、飛来する鉄塊を近い順に撃ち抜いていく。
同時に、その場に留まらず走り出す。留まっていたらペシャンコだ。
ふと、商店街のゲーセンに残ってるインベーダーゲームが頭をよぎった。
キツネビシューターの威力は、一発で飛来する自動車が粉々になる程度。
一撃も外さなければ、突破して接近する事は不可能じゃないはず。
そこからキツネビシューターをソードモードへ変形、接近戦に持ち込めば……
「行ける!」
ヤマノケの居る方へと、真っ直ぐに走り出す。
「頼人、作戦でもあるコン?」
「あるよ。あいつの能力、正体見切った!」
あいつは、さっきから車を飛ばす時に「テン・ソウ・メツ」と呟いている。
テンソウメツとは、ヤマノケの鳴き声、もしくは別名とも言われている言葉だ。
それは漢字で「転・操・滅」と表され、「転じて、操り、滅ぼす」というヤマノケの能力そのものを表しているんだとか。
おそらく車を歪めるのが「転」、歪めた車を浮かせるのが「操」、勢いよく相手にぶつけるのが「滅」で、ひとつの術みたいになってるんだ。
攻撃のタイミングが分かれば、出来ることも変わってくる。
能力が増えても、相手の手の内さえ掴めれば……ッ!
「テン……ソウ……キェェェアアアアァァァッ!!」
と、ここでヤマノケは昼間にも見せたように、腕を伸ばして攻撃を仕掛けてきた。
相変わらずゴムのようにしなる腕で、アスファルトを余裕で粉砕する拳を叩きつけようとしてくる。けど──
「うおおおおおおおおおおおッ!!」
拳はステップで回避、車は銃撃か、避けられるものは道路を転がり回避。
避けて、撃つ。撃っては避ける。
これを繰り返し、徐々に距離を詰めていく。
距離、残り10メートル……8メートル……5メートル……!
「いける……いけるコン!」
「くらえぇぇぇぇッ!!」
ヤマノケの懐に飛び込む、その瞬間。
「テン……ソウ……」
脚に何かが絡みつき、僕はバランスを大きく崩した。
「え……?」
何が起きたか分からず、身体が硬直する。
足元を見ると……グニャグニャにねじ曲がった道路照明が、僕の脚に巻きついていた。
これは……流石に想定外。
「やば……うわあああああッ!!」
「頼人ーーー!!」
曲がりくねっていた証明が、元の真っ直ぐなフォルムへと戻っていく。
それに伴い、僕の身体も勢いよく引き上げられた。それも頭と足が逆さまの状態で。
そして証明は途中で僕の脚を離れ、僕はそのまま空へと放り投げられる。
ヤバい……これ、絶対ヤバいやつ。
「ああああああああああ──」
そのまま、自由落下で道路に叩きつけられ、僕はクレーターの真ん中に、漫画のように埋まっていた。
「痛たたたた……」
「頼人、大丈夫コン!?」
「な、なんとか──ッ!?」
立ち上がろうとしたその時、頭上から陰がさす。
高く跳躍したヤマノケが、僕めがけて落下してくる。
咄嗟に両腕を交差させた直後、強烈な衝撃が僕を貫いた。
「ぐふぅっ!?」
一本足に収束した落下時のエネルギーは、きっと生身で受けていれば僕の肋骨を粉々にし、内蔵を破裂させていただろう。
「こいつ……昼間よりも、強く……」
「頼人!しっかりするコン!ここから抜け出せば、勝機はあるコン!」
「そう……したい……けど……ッ!?」
「ウケケケケケケケケツブレルツブレルツブレルツブレルツブレロォォォォォ!!」
ヤマノケは脚を曲げ、もう一度バネのように跳躍する。
また、さっきの踏み付け攻撃をする気だろう。
早くここから抜け出さないと……。
ッ……くそ……深めにめり込んでるから、中々出られない……!
それに、さっきのを受け止めたせいで、腕が痺れてる……上手く動かせない……ッ!
そうこうしている内に、ヤマノケは20メートルくらい跳んだ。
もう落ちて来る、間に合わない。
そう実感した瞬間、急に全てが冷めていった。
ああ……僕は、ここで死ぬんだ。
それも普通の死に方じゃなくて、怪異に襲われて死ぬ。
普通じゃない死が、逃れられない状況でやってくる。そのせいか、思い残す事はいっぱいある筈なのに、「仕方ないや」って気持ちが全てを覆っていった。
もっと春歌や鉄平、先輩たちと世界中の妖怪の話で盛り上がりたかった……。
もっと色んな怪談を知って、調べてみたかった……。
それに……母さんや婆ちゃんより先に死ぬなんて、親不孝にも程がある。
ごめん、父さん。父さんの代わりに母さんと婆ちゃんを守るって、約束したのに……。
そういや、コワポンに聞きたいことも、まだいっぱいあったなぁ……。
せっかく、本物の妖怪と友達になれたのに……──
「頼人!ぬりかべのチャッカーをシューターにセットするコン!!」
「……ッ!」
耳朶を打つ声で、ハッと気がついた。
同時に、僕の手は既に腰のホルダーへと伸びていた。
まだ痺れる手で、キツネビシューターを握り、ホルダーからヌリカベチャッカーを取り出そうとする。
心はさっきまで諦めかけていた筈なのに、僕の身体はまだ諦めていないみたいだ。
いや、それとも……ほんの少し、弱気になっていただけかもしれない。
とにかく、僕はまだ生きたい。
生きて帰って、また学校に行って、皆と部活がしたい!
心の底に火が着いた。身体中が熱を帯びていく。
まだ、ここで終われないんだ!!
「そっちはボクがやるコン!」
すると、コワポンがチャッカーを手に、僕の胸の上を歩いてきた。
小さな前足で器用にチャッカーを持ち、僕の手に握らせる。
「コワポン……」
「ボク、まだ頼人といっぱいお喋りしたいコン。まだ話せてないこと、いっぱいあるコン。だから……諦めちゃダメコン!」
「……ッ!」
コワポンの真っ直ぐな目は、小さいけれどとても綺麗だった。
何で選ばれたのかはよく分からないし、契約したのも成り行きだけど……でも、その通りだ。
「僕も、まだコワポンの事、全然聞けてない……!だから……まだ、諦めないッ!」
「頼人……」
「燃えてきた!コワポン、一緒にやろう!」
「わかったコン!ボクも一緒だコン!」
コワポンの前足が、僕の右手をギュッと掴む。
痺れていた右手が、チャッカーをしっかり固定する。
そのまま親指でカバーを弾くと、音と共に炎が揺れた。
『着火!ヌリカベ!』
キツネビシューターの台尻へ、ヌリカベチャッカーをセット。
見上げると、ヤマノケは既に目前まで迫っていた。
『シューター!ヌリカベ必殺!』
「「いっけぇぇぇぇぇぇ!!」」
トリガーを引いた直後、銃口から解き放たれた炎は、巨大な防壁となって広がった。
まっすぐ落ちてきたヤマノケは、防壁によって落下エネルギーを奪われていく。
ニヤついていた顔が、驚愕へと変わっていき、やがて焦燥が滲んだ。
「ツブレロツブレロツブレロォォォォォ!!テン・ソウ・メツ!テン・ソウ・メェェェツ!!」
押し切れないと悟ったのか、周辺にある車を手当り次第に操り、僕らを推し潰そうとするヤマノケ。
だが、その全てが阻まれ、僕たちには届かない。
向かって来るもの全てを阻む鉄壁の絶対防壁。
それが、ぬりかべの力なんだ!!
「頼人!そのまま押し返すコン!」
「ぶっ飛べぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
左手を高く、眼前の空へと突き出す。
同時に防壁は、すぐそこまで迫っていた死の遣いを、勢いよく弾き返した。
「ギエェェェェェェェェ!!」
弾き飛ばされ、今度はヤマノケが地面を転がった。
悲鳴を上げながら転がる白い身体には、擦り傷が増えていった。
それと共に防壁は消えていく。なんとか生き延びたみたいだ。
「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……」
「頼人……大丈夫コン?」
「大丈夫……まだ……」
クレーターになったアスファルトからなんとか抜け出し、立ち上がろうとした時だった。
「テン……」
「ッ!?」
顔を上げると、ヨロヨロとしながらも、まるでダルマのような動きで立ち上がったヤマノケが、僕の方を睨み付けていた。
「ソウ……」
「あいつ、まだ……!」
「頼人!逃げるコン!!」
コワポンが叫んだ、その時──風を斬る音が聞こえた。
「メ──ギエェェッ!?」
見ると、ヤマノケめがけて飛んできた何かが、ヤマノケの眉間にぶつかっていた。
仰向けに倒れるヤマノケ。
その眉間を打った何かは、そのまま僕の後ろの方へと戻っていく。
ブーメランにしては大きく、ぶつかった時の音も重厚だった。
あれは……剣、だろうか?
「危ねぇ所だったな、小僧」
「……!?」
振り返ると、こちらへ歩いて来る2つの人影があった。
1つは人間。レザー製の黒い学ランに身を包んだ、ウニみたいにツンツンした黒髪の男。
歳は多分、僕より上だろう。該当に照らされたその顔は、とても険しい表情をしていた。
もう1つは……どう見ても妖怪だった。
半裸の上半身には、逞しい体格の青い肌。長い白髪の頭頂には、二本の角がそびえ立つ。
そしてその手には、先程飛んできた大剣が握られている。
身の丈半分以上はあるのに、あんなふうに投げられるものなのだろうか。
その男の人は僕の目の前で立ち止まると、僕の顔をすごい目で睨んできた。
ツリ目の人に睨まれるの、すごく怖いな……。
「ったくド素人が。手こずりやがって」
「え……?」
「すっこんでろ。そこで見てりゃいい」
え?僕、今初対面の人にディスられた?
「はぁ~~~!?ちょっと何言ってるコン!?」
「まあ落ち着け小狐。そっちの小僧、その身体じゃ無理できんだろう?」
「そんな事は……っッ……!」
「頼人!?」
「ほらな。黙って休んでた方が身のためだぜ」
膝を着く僕を尻目に、学ランの男はヤマノケの方へと歩いて行った。
あの人はいったい……?
「お前が噂の”怪異“だな?」
「……!?」
「答えなくていい。すぐに終わるからな」
そう言って学ランの男が取り出したのは、僕が腰に巻いてるものとよく似たものだった。
「キャンドライバー!?でも、色が違う……?」
「あれはオクリビドライバー!?って事は、五行院から派遣されてきたコン!?」
僕のドライバーは行燈のような形をしていた。
けど、その人のドライバーは石造りの灯篭のような形だった。
「夜叉、行くぞ」
「あいよ。雑魚だけじゃ物足りねぇと思ってたんだ」
続けて取り出したのは、青いジッポライター。
真ん中には、鬼の顔のレリーフが刻印されていた。
夜叉と呼ばれた鬼が、その青いライターへと吸い込まれていく。
間違いない、アヤカシチャッカーだ。
「って……夜叉!?夜叉ってあの!?」
「黙って見てろ」
『着火!ヤシャ!』
そして、チャッカーに火を灯すとドライバーへと装填した。
『シャーッシャ、ヤシャ!ヤシャ!シャーッシャ、ヤシャ!ヤシャ!』
念仏を唱えるような、それでいてリズミカルな音が鳴り響く。
それに伴い、男は天へと掲げた右手を下ろし、胸の前で印を結ぶと、高らかに叫んだ。
「変身ッ!」
『
ドライバーの右側にあるレバーを引くと、バックルの灯篭が観音開きにパカッと開き、セットされたチャッカーから鬼の顔の形をした青い炎が上がった。
『覇者!破邪!夜叉!ヤ~シャ!ヤシャ!ヤシャ!』
ドライバーから噴き出した炎に包まれ、やがて炎の柱が弾ける。
そこには……鬼のような姿をした、青い仮面ライダーが立っていた。
「仮面ライダー鬼丸、いざ尋常に……参るッ!」