また来てくれて嬉しいよ。
今日は前回までのあらすじを振り返ってみようか。
舞台は、周囲を山と海に囲まれた自然豊かな街、御景市。
オカルト研究部に所属する高校生の篝火頼人と犬山春歌、豆田鉄平の3人は、頼人くんが家の蔵で見つけた『交霊紙の原典』から現れた狐の妖怪コワポンと出会う。
本物の妖怪との遭遇に大興奮な3人だったけど、そこへ人々を脅かす「怪異」の一体、ヤマノケが現れ、学校を襲った。
友達を守るために、頼人くんは妖怪「きつね火」と契約。『仮面ライダー妖狐』へと変身し、ヤマノケを撃退する。
家に帰ってコワポンから、仮面ライダーについて説明を受ける頼人くんだったけど、そこへ怪異の出現情報が。
現場へ駆けつけた頼人くんの前に現れたのは、昼間倒した時よりパワーアップしたヤマノケだった。
仮面ライダーに変身して戦うも、ヤマノケに追い込まれる頼人くん。
そこに現れたのは、妖怪「夜叉」と契約した『仮面ライダー鬼丸』だった。
鬼丸は圧倒的な力で、ヤマノケが変貌した巨大怪異、シシノケを倒す。
変身を解いた鬼丸は土御門晴矢と名乗り、頼人に仮面ライダーを辞退するよう迫って──。
……というわけで、僕ちょ~っと出かけてくるから、お留守番よろしく~。
暇ならそこに置いてあるアルフォート、全部食べちゃってもいいから~!
突然現れた不思議な男へと顔を向けた晴矢は、バツの悪そうに呟いた。
「来てたんですね、六道先生」
「任務先で初対面の後輩いびるなんて、そんな風に育てた覚えはないんだけどな~。ねぇ晴矢?」
「いや、あんた俺の親じゃないだろ」
「それに、ライダー同士の私闘は禁止されているの忘れてないよね?違反者はベルト没収と謹慎処分だよ~」
「分かってますよ……でも──」
「デモもストも無いでしょ。その子は選ばれた。受け入れるのも拒否するのも彼の自由だけど、脅して強要するのは違うでしょ」
軽めのノリで話しかけてきた男の語気が、一瞬強まる。
サングラスの奥からの眼光に、晴矢の背筋が伸びたのが伝わった。
「それは……すみません、頭冷やしてきます」
そう言って、晴矢はその場を離れる。
夜叉も「やれやれ」と呟きながら、その後に続いた。
「さて、と。初めまして、新人ライダーの妖狐くん!いや、篝火頼人くんだったよね?」
「えっと……あなたは?」
怪訝そうな目で見つめられると、男はからからと笑った。
「アハハハハ、挨拶が遅れてごめんよ~。僕の名前は
「し、私立五行……なんですって?」
「私立五行院退魔師養成学校、長いから五行院でいいよ。要するに……君をスカウトしに来たってわけ」
「す、スカウト……?」
普通に生活している高校生が殆ど聞く機会のない単語に、思わず首を傾げる頼人。
六道は、見越していたかのように微笑んだ。
「まあ、いきなり言われても意味が分からないと思う。というわけで、コワポンくんも交えて改めて説明しようか」
「コン!六道先生、よろしくお願いするコン」
「コワポン、この人知り合いなの?」
「まあ、その辺も含めて明日話すからさ。場所は送っとくね」
直後、コワポンの尻尾から着信音が鳴る。
コワポンが尻尾の中から、先程ヤマノケの位置を把握する際に使ったガラケーを取り出すと、待ち合わせの場所と時刻が書かれたメールが届いていた。
「そうそう、君のお友達が2人いるよね?あの子たちも連れて来てもらえるかな?」
「どうしてあの二人の事を!?」
話してないはずなのに、と驚く頼人だったが、六道はイタズラっ子のように笑うだけだ。
「あの二人もチャッカーを持ってる以上、関係者だ。色々と知る権利があるだろう?」
「先生、そろそろ離してやったらどうです」
そこへ晴矢が、ぬりかべチャッカーを懐に仕舞いながら戻ってくる。
「そうだね。立ち話し続けるのも良くないし、もう夜も更けてきてる。家まで送ろうか?」
「ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。コワポン居ますし」
「そうかい。じゃあ、取り敢えずここから降りようか」
3人がハイウェイを降りた後、何事もなかったかのように車が通り始める。
周囲の風景も、ライダー達が戦っていた時より明るくなったように見えた。
□
晴矢と六道、二人と別れた頼人はコワポンと共に、自宅への帰路に着いていた。
家まで続く坂道で自転車を押しながら、頼人は肩に乗るコワポンに喋りかける。
「なんだか、すごい人達だったね」
「六道先生は、五行院の幹部の一人なんだコン。座学の教え方も上手で、いい先生なんだコン!」
「へ~、見た目あんなに胡散臭いけど、凄い人なんだね」
「でも晴矢ってやつは偉そうでキライだコン!頼人に対してあんな事言うなんて許せないコン!」
ぷりぷり、プンスコ。そんな擬音が似合う顔で怒るコワポン。
その可愛らしい姿を見ていると、頼人の心に残っていた苛立ちも、何処かへ飛んでいってしまった。
「フフッ……」
「ん?頼人、どうして笑ってるコン?」
「ありがとう、コワポン。僕のために怒ってくれて」
「当たり前コン。頼人はもう、ボクのパートナーだコン!」
「うん!……あ、忘れてた」
頼人はコワポンの方へと、自分の手を出した。
「その、今更だけどさ……よろしくね、コワポン」
差し伸べられた手を見て、コワポンもその小さな前足を伸ばして応じる。
「こちらこそよろしくコン、頼人!」
人間と妖怪、異なる種族。
偶然出会った少年と妖狐は、青白い街灯に照らされながら、しっかりと握手するのであった。
□
「ったく、揃いも揃って何も分かっていねぇだろ……」
『まあまあ、もう少し様子を見てみようじゃねぇか。面白そうだしよぉ?』
御影市全域を見下ろす高台で、晴矢は溜め息混じりに呟いた。
一方、相棒の夜叉は、どこか楽しそうだ。
「先生、やっぱり俺は反対です。非術師をライダーに選ぶ意義が、俺には理解できません……」
晴矢は眉間に皺を寄せたまま、隣に立つ六道へと顔を向ける。
「確かに、ただの古臭い慣習なら撤廃すべきだと僕も思うよ。でもね、それだけじゃない気がするんだ、この制度は」
「それはどういう……」
「さあ?あくまで予感だよ」
あっけからんと肩を竦める恩師に、晴矢は溜息を吐く。
だが、その眉間から皺は取れていた。
「あんたがそこまで言うなら……信じてあげますよ。俺には分かりませんけど、根拠はあるんでしょ」
晴矢の言葉に、背後で浮いている夜叉がニヤリと笑った。
「それで晴矢、この街をどう思う?」
「この街を、ですか?」
晴矢は少し考え込むように、顎に手を添えた。
「昼間に着いたばかりですが、街中から嫌な気配を感じました。妖怪達の気配とは違った、禍々しさのようなものを強く感じます」
「やっぱりそうか。どうやらこの街、何かしらの勢力が巣食ってるみたいだよ」
そう言うと六道は、燃え焦げた紙切れを取り出して見せる。
「これは?」
「さっき君たちに合流する前に、山の中で見つけた石碑に貼られてたんだけど、剥がしたら燃えた」
「燃えた?」
「そう。どうやらこの街、結界で覆われてるみたいでね」
「はぁ!?」
「この御札には、その結界に上塗りするような呪術が込められていたんだ」
「って事は……何者かが一枚噛んでいる、と?」
「思ったより大きな事件になるかもしれないね……」
そう言って六道は、街を見下ろす。
静寂に包まれた街の暗闇は、何かを覆い隠しているように渦巻いて見えた。
□
「それで、ここが集合場所?」
翌日の土曜日、オカ研の3人は昨日、メールで指定された場所へと来ていた。
「ここって確か、前まで神社だった場所だよね?」
「そうっスね。確か1週間くらい前、火事で焼けて修復中だったような……」
「でも、間違いなくここって書いてあるコン」
階段を昇った鳥居の前には、関係者以外立ち入り禁止の立て看板が立っている。
呼ばれて来た春歌も鉄平も、そして春歌の肩に乗ったコワポンさえも首を傾げていた。
「お、時間通りだね。おーい、ここだよー!」
そこへ、呼び出した本人の声が聞こえてくる。
振り向くと、神社の奥から六道がこちらへ向かって手を振っていた。
「六道さん!?ここ、立ち入り禁止なんじゃ……」
「いや、僕関係者だから」
「そうなんですか!?」
「五行院は神社本庁と繋がりがあるからね。……っと、やぁやぁはじめまして!」
そう言って六道は、3人を手招く。
「犬山春歌ちゃんに、豆田鉄平くんで当たってるよね?」
「そうっスけど……」
「なんで私たちの事知ってるんですか!?」
「五行院の情報網は結構広いのさ。悪いけど、一通り調べさせてもらったよ。ごめんね~」
「「あ、怪しすぎる」っス……」
早速、初対面の2人からも怪訝そうな目を向けられてしまう六道。
だが、当人は特に気にしていないようだ。
「なにせ君達が関わったのは、国ですら公にはしていない存在だからね。無論、無闇に口外しないでもらえると助かる」
「も、もしも口外しちゃったら、どうなるんスか……?」
震える声と共に挙手する鉄平に、六道は声を低くして応じた。
「黒服のこわ~いおじさん達が家に来て、証拠ひとつ残さず何もかも始末してから──」
「ひぃぃぃぃぃッ!?」
「……ってのは冗談なんだけどね」
「脅かさないでくださいよッ!?」
六道はおちゃらけた声で笑いながらネタを明かす。
思わず縮こまってしまった頼人も、大声でツッコミを入れた。
「でも半分くらいは本当だから、そこら辺は気を付けてね。さあ、こっち来なよ」
手招きしながら歩き去っていく六道の背中を、頼人達はゆっくりと追いかける。
「……コワポン、今のどこまでが本当なの?」
「怖いおじさん達が来るって所までは本当だコン」
「怖いおじさん達が来るのは本当なんスか!?ヒィィ……」
「鉄平、ビビりすぎじゃない?」
歩きながら、春歌は境内を見回す。
燃え尽きた社殿に、所々が抉れた参道。
社務所は吹き飛んでおり、あらゆる場所に破壊の痕跡が残っていた。
そして、それらを作業員らしき服装の人達が調べている。
「これ、どう見ても普通の火事じゃなさそうだよね」
ふと、春歌が呟いた。
「嫌な臭いが残ってるコン。間違いなく怪異の仕業コン」
「怪異が神社を襲ったってこと?」
「この神社はね、五行院の支部だったんだ」
六道は前を歩きながらも、頼人達の話を聞いていたようだ。
一定の距離を空けながらも、六道は丁寧に説明する。
「1週間ほど前、ここ、御影支部からの定期連絡が途絶えた。通信が途絶えて数分後、あちらでどうにか撃退できたと報告されたんだけど、どうにも腑に落ちなくてね。周辺支部から調査隊を結成して、派遣してもらったんだ」
「そ、それで、どうなったんですか?」
「派遣された調査隊は音信不通、だったんだけど……」
「けど、なんですか?」
六道は少し間を空けたあと、口を開いた。
「昨日、頼人くんと戦ったヤマノケが、手掛かりを持っていた。いずれ判明するはずさ」
「そうですか……。無事に見つかるといいですね」
「ああ」
敢えて直接的な表現は避けたが、何となく頼人たちも察したのかもしれない。
口を閉じ、揃って目を伏せていた。
「り、リクドーさん!質問、いいですか?」
気まずい雰囲気になりそうな空気を打破したのは、春歌だった。
「六道先生、でいいよ」
「じゃあ、リクドー先生。私たち、これから何するんですか?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「えっ!?」
六道の言葉に、頼人は慌ててメールを確認する。
「あはは、な~んてね。それは僕らの拠点で話そうか」
そう言うと、六道はようやく足を止めた。
見ればそこは、境内の中庭に並んでいた石灯籠の前であった。
「これくらいなら、まだ直せそうだ。ぬりかべ、よろしく~」
『着火!ヌリカベ!』
ぬりかべのチャッカーに点火し、隣合った二基の石灯籠を修復する。
それから六道はもう一本、デフォルメされたような目の付いた炎のレリーフが刻印されたチャッカーを取り出す。
「さあ、釣瓶火。仕事だよ」
『着火!ツルベビ!』
灯った妖火に息を吹くと、火の玉が2つ現れ、それぞれの火口と入っていく。
二基の灯篭に火が灯った次の瞬間、その中間に位置する空間が螺旋に歪む。
「なんかグニャッとした!?」
「六道さん、一体何を!?」
「僕らの本拠地とポータルを繋げた。さあ、入って入って!」
そう言って六道は、空間の歪みへと入っていく。
「2人とも、どうする?」
「ど、どうするって言ったってぇ……」
「何だか面白そう!私、一番乗り~!」
「あ、ズルいぞ春歌!」
「ちょっとぉ!?頼人先輩!春歌先輩!待ってくださいよぉ~!」
先を争うようにポータルをくぐり、消えていく2人。
取り残された鉄平は、おそるおそる指先で歪みに触れようとする。
水面に指を突っ込んだ時のような感覚と、それを隔てた先に感じる空気の肌触り。
あまりにも不思議な感覚に、足を踏み出すべきか迷う鉄平。
「なにしてるコン。早く進むコ~ン!」
「ひぇあっ!?」
と、いつの間にやら春歌の肩から降りていたコワポンに勢いよく突き飛ばされ、鉄平は悲鳴を上げながらポータルに押し込まれるのだった。