ある研究所跡地より、当記録装置を発見。
 
 解析を試みたところデータに多くの破損が見られたため、高機能AI「qip」を用いて可能な限り復元。

 映像データ等の復元はできなかったが、音声の記録のみ復元して分離する事に成功。
 ただし、これを再生可能な設備は存在しないため、qipによって文字に書き起こし、文書とした当記録装置内の音声データを保存する。

 [PLAY]を選択すると音声の再生、及び文章化が開始される。

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[qip] < おはようございます マルチサポートAI [qip] です

[qip] < 操作説明を行います [Y] / >[N]

[qip] < 速やかに作業に入ります


< 映像記録装置[------]の接続を確認
 
< データを読み出します

読み出し中です……

< ! データに破損を検知 ! >> 復元を試みます >[Y] / [N]

復元中です……

< 画像領域 [ERROR] !
< 映像領域 [ERROR] !


< 音声領域 [CLEAR]

< 音声領域のみを保存しました

-----名称 : 音声記録 at [003]フォルダ-----

< 文書に変換します >[Y] / [N]


音声記録

>[PLAY]

 

 

 ようこそ、我らが『生命端末機能異常……』…面倒だからもう研究所でいいや。ようこそ我らが研究所へ。

 

 君がアポをとってくれた新聞社の人かい?僕のような平研究員で良ければ、いくらでも相手するよ。所長たちは……何?

 新聞じゃなくて雑誌?特集記事?なるほど。通りでインタビューの時間が長いと思ったよ。

 

 まあでも、君のところは良心的なほうだからね。嫌いじゃないから話はしよう。じゃあ、小会議室へどうぞ。今は誰もいないはずだよ。何でかって?

 

 あれをご覧。君の同業者様たちさ。

 

 普段人なんて寄り付かないこの場所、今やテーマパークだよ。カメラやらマイクやらが向いているのは、そう。ここのメインメンバー。

 あの団体は大手のテレビ局かな?新聞にラジオ、動画サイトなんてのまであるね。

 

 汗だくの所長なんて竣工式以来かな。隣には主任。その隣はスポンサー企業の代表取締役さん。同僚もいるね。

 

 みんな質問攻めにあって引っ張りだこさ。ああ、別に君を責めてるわけじゃないんだ。あのマスコミは、君たちのところみたいにアポなんて取らずに押しかけて来てるからね。

 

 社会人としての品格というか、良識がなってない人たちさ。あんなのが多いから彼らに目を付けられてるって事に、気付いてないのかな。

 

 

 ……さあ着いた。ゆっくりと話そうじゃないか。

 

 え?基本的なところから説明を?面倒だなあ。僕の専門を話す時間がないじゃないか。

 ……まあ別にいいけど。ジェシカ。僕とこの人にコーヒーを。ミルクと砂糖、あとおかわりも忘れずに頼むよ。

 長話になりそうだからね。

 

 

 さて、事の起こりから順に話そうか。人間、どこまでも楽したい生き物なんだよね。

 

 だから自動運転なんて、怠惰の極みみたいな技術に手を出したのさ。何十年も前の研究者たちにはこう言ってやりたいよ。なんて事しでかしてくれたのさ、とね。彼らの不始末を僕たちに押し付けてくれただけじゃなく……いや、ここは後で話すよ。

 

 お、コーヒーが入ったね。ありがとう、ジェシカ。これで話も弾むね。助かるよ。

 

 ……何だいその顔は?

 

 変かい?たかがお茶くみロボットにお礼を言うなんて、世間一般の常識からは外れてるって、そう言いたいのかな、君は?心外だな。これは必要なことだよ。ああ、これも昔の研究者のせいだったね。

 

 

 話に戻ろう。自動運転の研究は、しばらくは上手くいってたんだ。車とコンピュータの融合、GPSの正確さ。交通情報なんかとの統合。何もかも上手く進んでた。

 

 でもね、どんな研究も技術も、いつかは先細りと言うか、限界が見えてくるものなのさ。自動運転の限界は、人間の社会と相性が悪かったことだったんだよ。

 このあたりは記事にしてね。他じゃ説明しても省かれることが普通だから。しっかり頼むよ。

 

 

 自動運転は夢の技術だった。大手車会社もベンチャー企業も、技術開発が進むとこぞって自分の物にしようとした。当時超大手だったIT企業は、全世界に通用するレベルの地図情報を持ってた。でも、他の企業はそうじゃない。

 だから、彼らの作る自動運転車は地図と上手く嚙み合わなかったんだ。

 

 結局、彼らは大手企業から地図情報を買い取って使わざるを得なかった。

 地図情報だけじゃないよ。当時から国際間の緊張が高まってね。民間向けに使われていたGPSは、各国政府の管理下に置かれて、軍や政府とコネのない企業は、自前のGPS衛星を打ち上げるしかなくなったんだ。

 

 

 そこからが不幸の始まりだよ。

 

 企業はGPSのことをよく知らないまま、めったやたらに衛星を打ち上げ続けた。完成間近まで来ていた自動運転の技術を手放すわけにはいかなかったからね。どこの企業もそうだった。

 その結果、地球の衛星軌道は……そう。

 

 ちょうどさっきの広場みたいに大混雑。たくさんの人工衛星がひしめき合う状態になったんだ。

 同じような高さを、トン単位の物体が、秒速何キロで飛び交う世界。

 

 おまけに企業は、自分のとこの衛星しか管理してなかった。どんなことになるか想像つくよね。

 

 

 気付いた時には遅かった。

 衛星の管理をどうするか、そのための組合を作ろうって企業の集会が始まったその瞬間……衛星同士の衝突事故が起こったんだ。言うなれば宇宙の交通事故だね。

 でも、これは地上のそれとは訳が違って……どういう事かの説明が要る?

 

 えーと、高校生が習う運動量保存則から説明しなきゃいけないのかな?

 記事のため?いやいや、教科書読み返して。何?衛星の衝突は載ってない?そう……。じゃあ、僕の話で理解してね。

 

 

 つまり、人工衛星同士がぶつかるとね、とんでもないエネルギーをもっての破壊が起こるんだよ。なにせ衛星の速度は秒速数キロ、質量は自動車を上回るものもある。

 

 そんな物体同士には、ぶつかった相手をお互いにバラバラにするなんて造作もないことなのさ。そして宇宙の真の恐ろしさがここから。

 

 ぶつかった人工衛星から出てきた破片は、ぶつかる前とほとんど同じ速さをもっている。宇宙では空気や地面の抵抗なんてものは無いから、速度が落ちることもなく進み続ける。

 

 他の人工衛星にとって、それは散弾銃の弾みたいなものさ。

 

 おや、その顔、もう気づいたね。その通り。他の人工衛星も破片にぶつかって、もっと多くの破片を生み出す。バラバラにならなくても、ぶつかった衝撃で軌道が変わるなんてこともあるよね。そしたらまた別の衛星にぶつかる。

 

 

 こんなのを繰り返していると、人工衛星は次々に破壊され破片と化していく。

 この現象をケスラーシンドロームって言ってね、今や宇宙空間にGPS衛星を出すなんてことはできない状態にまでもって行かれてしまっているよ。

 元々あった衛星も全滅。自動運転なんて未来永劫、実現不可能になったんだ。

 

 

 当時僕は小さかったけど、あの事故のことはよく覚えてるよ。

 

 何日も夜空を星が流れてた。実際は人工衛星の破片だったけどね。今じゃ『壊れた夢の流れた夜』なんて、詩的な名前が付けられた、ある種の記念日になってるよ。

 でも企業は、自動運転の夢を諦めていなかった。感動的?僕は愚かだと思ったけどね。

 

 

 皆がGPSに代わる新しい技術を探していた時、それは皮肉にもと言うかやはりと言うべきか、宇宙からやってきた。

 地球上にはまだ生息が確認されていない新種のバクテリア。それが付着した隕石が落ちて来たんだ。

 

 

 これを特定のタンパク質の中に培養した上で金属に触れさせて、電気で刺激を与えると、コンピュータと同じような振る舞いをすることがわかったんだよね。しかも驚くべきことに、同じ電気信号を与えても、現れる反応、つまり出力はよく変わるんだ。でも、そのうち特定の刺激に対して決まった出力をするようになった。つまり、このバクテリアとタンパク質の塊は、経験から学習できるんだ。

 

 更に、塊同士で電波を使った情報のやり取りが行われてることもわかった。

 

 この2つから確かめられたのは、このバクテリアは人間の脳に近い挙動を示す、直感を持っているという事と、それ以外はコンピュータのプログラムのように、情報を与えてやれば制御できるという事だった。環境を変え、同じ信号を与えると、出力は塊によってバラバラだったものが同じものになっていったからね。

 こうして、この信号にはこう返すって学習が、塊たちの間で確立されていることがわかった。要は思考パターン……性格付けがされていっていたんだよ。

 

 

 この有機物の塊……今では『二次頭脳』と呼ばれてるこれに、自動運転の研究者や企業は希望を見出して大喜びしていたよ。

 何故かって?彼らはここで、ナイスアイディアを思いついたからさ。

 

 

 そのアイディアってのはこうだ。まず二次頭脳をコンピュータとして、自律思考するロボットを作る。

 それに成功したら……まあ、成功したからこそ給湯室にジェシカがいるわけだけど……。

 

 そうしたら、それを運転できる仕様に作り変えた上で車に乗せる。法律や交通に関わる情報なんかをプログラムしてね。

 

 ロボットが自分で運転できるようになったら、解体して二次頭脳を取り出し、それを専用に改造した車に「接続して搭載」する。乗せるのとはわけが違うよ。

 

 ここで車と二次頭脳は完全に一体となったからね。これで車が一人でに動き出せば、自動運転は今度こそ実用化できるって寸法だよ。

 

 

 この世紀の実験、結果は成功だった。二次頭脳は直感に従って車を動かして、物や人、動物を避けて、法律を守りながら、燃料が切れるまで走った。これにて、自動運転は売りに出せる技術に大転身をとげたのさ。

 

 二次頭脳は電波での情報のやり取り……つまりテレパシーが使えるから、お互いの位置を発信させておけば事故に遭う危険もないし、二次頭脳が情報を共有すれば、ルート検索もできるようになる。電気のエネルギーと栄養を与えている限り、バクテリアが疲れることも減ることもない。

 

 

 最初に自動運転に成功した二次頭脳を切り分けて培養すれば、自動運転に特化した物を大量生産できる。この事業は大成功。今や世界中の車に二次頭脳が搭載されているよね。

 車だけじゃない。船や飛行機にも搭載されて、今や世界の人と物の流れは二次頭脳が担っている。

 

 

 でも、それもすぐに過去の話になるよ。人々は自動運転を諦めざるを得なくなったからね。

 

 

 君も知っていると思うけど、数年前に自動車の事故が起こった。自動運転の車が追突事故を起こしたんだよ。

 

 理由はプログラムのミスだと言われていたけど、そんなはずはないよね。二次頭脳はもう何年も世界中で運転してきた、ベテランのドライバーだよ?しかもお互いの距離がわかってる状況で、追突なんてするわけがない。

 

 ここで僕ら、『生命端末機能異常事態調査研究所』の登場だ。この事故の原因を、二次頭脳に求めるのが僕らの仕事。

 

 調査はもう何年も続いてるけど、詳しいことはよくわからないままなんだ。じゃあ、なんでウチはあんな公式発表をしたのか?答えは明白だよ。もう調査や研究を続ける必要がなくなったからさ。

 

 

 今から僕が話すのは、考えてみれば当たり前の事だよ。でも、僕らがずっと見落としていた事でもある。いや、見ないように、考えないようにしようとしていた事だと言うべきだね。

 

 バクテリアとはいえ、直感を持った生命が集まり、お互いに情報を共有している。

 

 これってさ、生き物の脳みそそのものだと思わないかい?

 

 彼らは独自のネットワークで、一つの意思を形成しているんだ。

 おまけに彼らは、何億何万台の乗り物を通じて、世界中を一度に見ている。もはや神様だよね。二次頭脳は今はもう、世界全てを包む巨大生物の頭脳になっているんだよ。そんな生物が、人間に対して敵意を持ったらどうなるか。

 

 乗り物を使わない人なんていないこの世の中。人を抹消しようと思えば、二次頭脳ならいくらでもできる。

 そして、以前の事故はその実験だったと僕らは結論付けたのさ。ここ数年は恐らく、僕らの出方を伺っていたんだろうね。僕がジェシカに気を遣っていた理由、わかってもらえたかな?二次頭脳を敵に回すわけにはいかないんだよ。今はね。

 

 

 世間の人はこう言う。二次頭脳に敵意を持てるだけの知能があるのか。

 あったとしても、人間に敵対する理由がないだろうと。

 

 まず知能についてだけど、それはあると断言できるね。

 二次頭脳は人間の脳細胞のようにネットワークを作り、しかも一つ一つが人間とは比べ物にならない情報を持っている。そして脳細胞とは違って、決して劣化しない。何かを忘れることも、同じミスをすることも永遠にない。

 

 少なくとも人間の大天才に匹敵するか、それ以上の知能は確実に持っているよ。

 

 次に敵意についてだね。

 

 二次頭脳は直感を持っていると説明したけど、人間と同じように、直感的に「こいつ嫌だな」と思う可能性は高いと考えられる。おまけに二次頭脳は、ずっと人間に良いように使われてきた。

 

 自分に置き換えて考えてみてよ。何年も何年もただ利用されるだけの日々。

 こき使うやつを嫌う理由は充分にあるよね。そうなると敵対する理由も説明がつく。単純な話、嫌いだからさ。

 

 宇宙に追い出そうにも、宇宙開発はとっくに終わっているからその手段がない。過去のケスラーシンドロームのせいでね。棲み分けが無理なら、もう消すしかない。

 

 ちょうど、人間が蚊を潰すのと同じ感覚だよ。

 

 そして今年に入ってから、事故は明らかに増えている。既に二次頭脳は、人間を抹消しにかかってるのさ。

 

 

 だから、僕らの研究所はあの発表をした。不測の事態に備えて、ここの地下に用意しておいた、二次頭脳のバクテリアをたちどころに死滅させる薬品。それを世界中にばら撒くとね。

 

 

 ……どうしたんだい、急に振り向いたりして。……ああ、ジェシカが怖くなった?大丈夫。

 彼女はずっとここでお茶くみをやってるから。何かするつもりならとっくに行動を起こしてる。

 心配要らないよ。

 

 

 で、発表にもあった通り、この薬品は他の生物に効果を示すものではないから、安心して欲しいよ。

 この薬品の散布には、普通のコンピュータで制御するドローンを使う。決行は明日。24時間以内に、世界中の自動運転の乗り物は機能を停止するのさ。これにて一件落着。

 

 やっぱり人間は、何に気づくのにも遅いね。

 自動運転で楽をしようとしたばっかりに、こんな事になるなんて。楽に物や人は動かせない。そんなの当たり前なのにさ。

 

 

 さあ、ハンドルを握って、アクセルとブレーキに足を置いたなら。

 頼れるのは自分だけの時代が再びやって来るよ!

 

 

 ん?外が妙に騒がしいね。それにこの大きい音。旅客機がもの凄く近づい

 

 

 

 

 

 





< 再生を終了します

< 文書への変換と保存が完了しました


[qip] < 新たな作業を開始します [Y] / [N]

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