家路を急ぐ   作:東大和

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スポーツ小説です。よろしくお願いします。


プロローグ

 

 

 

 

 

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 「青春」と聞いて何を思い浮かべるだろう。

 

 恋愛。勉強。唯一無二の親友との思い出も、かけがえの無い青春の1ページだ。

 

 だが、青春を語る上で、やはり部活動は欠かせない。ホームルー厶が終われば部室棟に駆け込み、過去の自分を超えんと弛まぬ努力を重ねる。友達以上の関係となった仲間とは、時には励まし合い、時にはライバルとして競い合う。流した汗と涙は自分を裏切らず、部活を通じて得られた経験は、引退した後も何物にも代え難い自信と情熱の礎となり続ける。

 

 部活動は、間違いなく青春という名のキャンバスを彩る、素晴らしい絵の具なのだ。

 

 桜舞い散る、春の1日。

 

 ここ都立緑ヶ丘高校でも、まっさらなキャンバスに自分だけの青春を描く日々が始まろうとしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん、入学おめでとうございます!」

 

 入学式を終えて、自分の教室に戻ると担任の先生が話し始めた。有り難い言葉を右から左に流しつつ、鷹野(たかの)正美(まさみ)はぼんやりと窓の外に目を向けた。緑ヶ丘高校は校舎を挟むように校庭と正門が位置している。西向きの黒板に対して、南側にある窓からは正門と、そのすぐ側にある桜が見えた。

 

 花びらが散っていくさまを見つめていると、先生が生徒の名前を呼び始めた。相川くん、井上さん、古賀くんと五十音順に呼ばれていく。

 

 そして──

 

「鷹野正美()()!」

「……はい」

 

 「さん」付けで呼ばれた鷹野は、中学生時代にすっかり低く変わり果てた声で返事をする。それを聞いた先生はびっくりしたように目を丸くして、そして慌てて笑顔を浮かべながら、自分の言葉を訂正した。

 

「あ、ごめんなさい……鷹野《くん》でしたね」

「はい……」

 

 先生は申し訳なさそうにそう言うと、すぐに点呼を再開した。それに合わせて、鷹野も目線を窓の外に戻す。何度目か分からない間違いも、高校生にもなればもう慣れた。それに、今日はそんな些細なことを気にしている余裕など無い。鷹野の胸の中は、他のことで埋め尽くされていた。

 

 点呼が終わり、先生から簡単な連絡事項が伝えられる。最初は聞き流していた鷹野も、終わりの気配が近づくにつれてそわそわと足を開いたり閉じたりし始めた。落ち着かないのは足元だけでなく、行き場を求めた手が、鷹野の生まれつき茶色がかった髪の毛をくしくしと弄り回す。目にかからないくらいまで伸びた髪の毛を触りながら、鷹野は窓の外と先生との間で視線を行ったり来たりさせた。

 

 そして、ついにその時が来る。

 

「では今日はこれで終わりにします。では皆さん、さような──」

 

 「ら」と、先生が言い終わるのと同時に、鷹野は荷物を抱えて教室を飛び出した。鷹野がいなくなった教室に、一瞬の沈黙が満ちる。だが、すぐに興奮した様子で何人かの生徒が騒ぎ出した。

 

「にゅ、入学式ランナーだ!!」

「嘘だろ……アイツ、高校3年間を孤独で過ごす気か!?」

 

 はじめは数人のものだったざわめきが、教室全体に広がっていく。

 

「あ、アイツの名前は?」

「鷹野だって。聞いたことあるか?」

「いや、無い……」

「まさか、無名の状態で入学式の日に出走?そんな馬鹿な……」

「いや、でもあの恵まれた身長と体格……きっと身体能力に自信があるんじゃないか!?」

「いや、入学式大会は身体能力だけじゃ勝てないぞ……!」

 

 ざわめきは大きなどよめきに変わり、そしていつしかクラスの中だけでなく学年、いや、学校全体へと広がっていった。噂が噂を呼び、鷹野の名前が学校全体へと広まる。

 

 その日の放課後には、鷹野の名前を知らない生徒はほとんどいない程になっていた。そして、それと同時にこんな話も広がっていく。

 

 今年の()()()は荒れる──

 

 暖かい風の吹く、入学式。部活動に青春を捧げる若人の物語が、今年も始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3年生の教室。そこにも、噂の1年生帰宅部の話が舞い込んできた。

 

 鬱陶しい。聞きたくもない話題が嫌でも耳に入ってきて、女生徒は母親親から受け継いだ、耳にかかったボブカットの金髪をかきあげてイヤホンを耳にはめた。だが、それを後ろから勢いよく外される。

 

 女生徒は苛立ち、サファイアのような碧眼で睨みつけながら振り返って犯人を睨む。そこには満面の笑みでこちらを見ている友人の笑顔があった。

 

「ねえ、今年の1年で入学式ランナー出たらしいよ」

「……で?」

「で、って……(あおい)、あんなに熱心に帰宅部やってたじゃない」

「私は帰宅部辞めた。あんなの、ただ帰ってるだけに過ぎないし。部活って名乗ってるのが馬鹿馬鹿しいわ」

「むぅ、つれないなぁ。せっかくウチの学校で()()()()入学式ランナーが出たのにぃ」

 

 その言葉に、参考書を持った少女が一瞬固まる。だが、すぐに友人をキッと睨むと、その薄い唇を小さく開いた。

 

「私にその話はしないで」

 

 葵と呼ばれた女生徒、天神(てんじん)(あおい)は、そのまま噂の1年生に興味を無くしたようで、また参考書へと集中する。葵の友人はその後も何度か葵にちょっかいを仕掛けたが、葵から反応が全くないことに飽きてしまったのか、「じゃあねー」と言って去ってしまった。

 

「……アタシは、一生懸命帰ってる葵、カッコいいと思ったけどなぁ」

「……」

 

 去り際、ポツリとそう呟いた友人の言葉に聞こえないフリをして、葵は再びイヤホンをはめる。だが、どんなに好きな音楽を大音量で流しても、最後の友人の言葉が頭から離れない。

 

「……くだらない、帰宅部なんて」

 

 葵は口の中で小さく呟く。ぎりりと奥歯を噛みしめる彼女を、窓から吹き込んだ春の風が撫でる。それを煩わしいと感じた葵は、苛立ちをぶつけるかのように、勢いよく教室の窓をピシャリと閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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