家路を急ぐ   作:東大和

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ウマ耳を頭から生やした女の子を育成するゲームしてたら大学生活が終わりました。




 

 

 

 

 

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 誰よりも早く教室を飛び出した鷹野は、家に帰ることなく都内の病院へと足を運んでいた。坂を超え、赤信号に捕まりそうな時はまた別の道を進み、一切の無駄なく病院へと辿り着く。学校からおよそ30分。まだ4月とはいえ、ずっと全力でペダルを漕いでいた鷹野は、シャツを汗で湿らせていた。

 

 インナーが肌に吸い付く気持ち悪さを堪えて、早歩きで受付へと向かう。既に顔馴染みとなった看護師と軽く挨拶を交わすと、鷹野はすぐに病院の一角にある病室へと向かった。

 

 はやる気持ちを抑えて、看護師に言われた病室の前に着く。病室の扉の横にあるプレートには、「鷹野(たかの)(ゆき)」と書かれている。ここで間違いない。鷹野は扉を数回ノックした。すると、中から「はーい、どうぞ!」という元気な返事が帰ってくる。それを聞いた鷹野は、少しだけ安心した気持ちになりながら、優しく扉を開けた。

 

 部屋の中では、鷹野と同じく少し茶色まじりの長い髪をおろした少女がベッドに座っていた。ぱっちり開いた可愛らしい目がこちらに向けられ、整った顔に笑顔が浮かぶ。そんな少女に、鷹野は声をかけた。

 

「ユキ」

「お兄ちゃん!!」

「具合、良さそうだな」

「うん!ごめんね、心配かけて……」

 

 しゅんと項垂れた妹の頭を、鷹野は優しく撫でる。ユキはくすぐったそうに目を細めながら、しばらくされるがままになっていた。鷹野がホームルームから気になっていたこと、それは他でもなく妹であるユキのことだった。

 

 鷹野の1歳年下の妹であるユキは、生まれながらに体が弱く、朝起きるとなんの前触れもなしに高熱にうなされていることが多々ある。ユキは昨日、ここ最近で1番酷い40度近い熱を出して床に倒れており、慌てた両親が救急車を呼びに行く事態となっていた。昨日は1日中苦しそうにしていた彼女だったが、今日はすこぶる調子が良さそうだ。このぶんならすぐに退院できるだろう。

 

 ユキに対して、鷹野は丈夫すぎる体で生まれてきた。風邪には1回もなったことがないし、スポーツ全般もそれなりにこなせるほどの運動神経と丈夫さも持ち合わせている。この健康っぷりを分けてやりたいと思ったことは1度ではない。

 

 鷹野がユキの頭を撫でていると、彼女の手元のスマホが点灯していることに気がついた。ユキは何を見ていたのだろう。妹とはいえ、あまり詮索するのは良くないだろうか。

 

 そんなことを考えていると、逆にユキの方から、「あ、そうだ!」と言いながらスマホを突き出してきた。

 

「ねぇ、これ一緒に見ようよ!」

「これは……?」

「全国高校帰宅選手権入学式大会だよ!」

「……は?」

「全国高校帰宅選手権入学式大会だよ!」

「いや、2回言わなくても聞こえてるから……」

 

 帰宅部とは、江戸時代に子供が寺小屋に通っていた時代から続くとされている、日本で最も長い歴史を持つ部活動だ。国内での人気も高く、高校生のおよそ30%ほどの生徒が帰宅部に所属していると言われている。

 

 その競技人口の多さ故に、全国大会にもなると非常に高いレベルの帰宅が繰り広げられる。ユキも帰宅部に所属しており、今もスマホで高校生の帰宅姿を興奮しながら見ていたのだろう。ユキは動画を鷹野に見せながら、「あの選手の自転車での3丁目の交差点のコーナリングがね〜!!」と盛り上がっている。

 

 だが、鷹野は正直なところ帰宅部にそれほど強い憧れを(いだ)いていなかった。

 

「でも帰宅部って、部活なのか?上下関係も無くて緩いし、練習も厳しくなさそうだし……」

「でたー!それ、帰宅部差別だよ!!帰宅部はタフじゃないと務まらない、立派な部活なんだから!」

「え、でも帰宅部って帰ってるだけだし……というか放課後は別のスポーツをして、それから家に帰る運動部の方がよっぽどタフ──」

 

 そう言いかけたところで、ユキが「ちっちっち」と指を横に振りながら鷹野の言葉を否定する。そして、熱を帯びた口調で話し始めた。

 

「いい、お兄ちゃん?帰宅部っていうのはどの部活よりもタフでストイックなの。誰よりも速く帰る体力、ポイントの高い通学路を厳選する思考力、そしてなにより赤信号や電車のトラブルに巻き込まれない勝負感!!ただ運動神経が良いだけじゃ勝てないレベルの高い競技──それが帰宅なんだよ!!」

「……」

 

 それ、ただ帰るだけじゃ駄目なのか──そう思ったが、ユキの反感を買うと判断した鷹野は何も言わなかった。それに、ユキがこんなに楽しそうに話しているのだ。水を差すのも悪い。鷹野はむしろ、ユキの話に乗ることにした。

 

「帰宅部か。見てて楽しい?」

「うん!それに今日は入学式大会だからね!すっごく盛り上がるんだ〜」

「入学式大会?」

 

 またまた聞き慣れない用語が出てきて、鷹野はコテンと首を傾げる。ユキは兄に何かを教えるのが楽しいのか、ご機嫌な様子で口を開いた。

 

「うん、高校生の帰宅には()っつ大きな賞があってね、そのうちの1つが入学式の日の帰宅なの。入学式の日の放課後って、普通お友達作ったりするでしょ?でも、それを振り払って帰るから、『最も覚悟のある帰宅部員が勝つ』って言われてる帰宅なんだ!」

「え、帰宅部な上に今後の学校生活ぼっち路線とかそれなんて地獄……?」

「なにか言った?」

「いや、何も……」

 

 妹の冷たい視線から目を背けつつ、彼女の手元にあるスマホを覗き込む。なんとか話題を逸らせないかとあれこれ考えていると、ユキが見ている入学式ランの中継画面が切り替わり、過去の入学式帰宅の映像が流れ始めた。画面端には「〜名勝負を振り返る〜」というテロップが添えられている。よほど帰宅部界隈の記憶に残る帰宅だったのだろう。だが、それ以上に気になることが鷹野にはあった。

 

「あれ、この制服って俺の学校の女子じゃないか?」

「うん。緑ヶ丘高校の選手だよ。この帰宅はたしか……2年前の入学式帰宅だったかな?」

「じゃあ、今はウチの学校の3年生か」

「多分。でもこの人、最近出てこないんだよね〜。名前はたしか天神さんだっけ?あ、会ったらサイン貰ってきてよ!!」

「はは……会えたらな」

「本当に!?約束だからねっ!指切り!!」

 

 興奮気味の妹を落ち着かせるように、ユキの細い小指と自分の小指を組む。ユキは嬉しそうにニッコリ笑うと、それからも帰宅部の何たるかについて鷹野に長々と話し続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 面会時間も終わりに近づいてきた頃、ずっと入学帰宅の動画を見ていたユキが、不意に口を開いた。

 

「そういえば、(じゅん)ちゃんには会った?」

「あー、そういえば会ってないな」

 

 准ちゃんとは、鷹野とユキの幼馴染にあたる女の子だ。鷹野と同い年で、幼稚園と小学校は同じ学校に通っていた。中学に上がるタイミングで彼女の親が転勤してしまい、それでお別れだったのだが、高校生になるこの時期に東京に戻ってきたらしい。それも、鷹野と同じ高校に通うとのことだから驚きだ。

 

 准と仲良くしていたユキは大喜び。なんなら鷹野が緑ヶ丘高校に合格した時よりも喜んでいたのだから、兄としては複雑である。

 

 一方、鷹野はあまり准が得意ではなかった。准はいつも強引で、当時引っ込み思案だった鷹野を無理に連れ回していたところが苦手意識を持ってしまった原因として大きい。

 

 そんな鷹野の気持ちを露知らず、ユキは楽しそうに顔を綻ばせた。

 

「いいなぁ〜お兄ちゃんは。准ちゃんと一緒の学校に通えて!」

「来年ユキも緑ヶ丘を受ければいいさ」

「うん、そうしよっかな。……学力がちょっと不安だけど」

「あはは、それは今から頑張るしかないな」

 

 鷹野がそう言ったちょうどその時、面会時間の終わりを告げる放送が流れてくる。名残惜しいが、今日はこれでお別れらしい。少し寂しそうな顔をするユキの頭に、鷹野は来たときと同じように、彼女の頭に手を置いた。

 

「すぐ退院できるよ」

「うん……」

「帰ってきたら、兄ちゃんがユキの好きなものなんでも食べさせてやるからな」

「……うん!」

 

 最後に、ユキが少し無理したような笑顔を浮かべる。鷹野はそれに少し胸を痛めながらも、寂しさを振り払って病室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




スポーツ小説です。
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