家路を急ぐ   作:東大和

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幼馴染っていいよね。
ちなみに自分はリアル幼馴染とは何も起きませんでした。
現実ってそういうものです。


指差して。

 

 

 

 

 

1

 

 

 

 

 

 じゅんちゃんは、ちょっとふっくらした僕の幼馴染。

 

 いつもワガママで、僕の腕を引っ張って歩くおんなの子。

 

 

 

 

 

「じゅんちゃん……もうかえろうよ……」

「えーっ、まだあそべるよ!だってまだ、あかるいもん!!」

「でも、もうごじ(5時)だからかえらないと……」

「イヤ!じゃあ、まさちゃんだけかえりなよ!!」

「そんなぁ……」

「よつばのクローバーみ()つけるまで、かえらないもん!」

「よつばのクローバー?それってこれのこと……?」

「あっ、それ!どこにあったの?」

「じゅんちゃんの左足のとこ。あ、これ、あげようか?」

「えっ、いいの!?」

「いいよ。ほら、だからはやくかえろう?」

「うん!」

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

(じゅん)ちゃん、一緒(いっしょ)(かえ)ろう」

「うん!あ、正美(まさみ)ちゃんはすぐにどっか()っちゃうから、わたしが()(にぎ)ってあげる!!」

「え……どっか行っちゃうのは(じゅん)ちゃんじゃ……」

「え?なにか()ったー?」

「う、ううん……なにも」

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

「正美ちゃん、帰ろう?」

「うーん、もう少しみんなと遊んでから帰ろうかな」

「駄目!正美ちゃんは私と帰るの!!」

「えぇ〜まぁいいけどさぁ……」

「ホント?やった!じゃあ早く帰ろ!!」

「うん……」

「ほら、手も繋がないと!」

「……恥ずかしいよ」

「……………」

「はぁ、分かったよ〜」

「えへへ〜」

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

「正美ちゃん!帰るよ!」

「あ、准ちゃん、えっと……」

「?なにしてるの!早く帰って遊ぼうよ!」

「えっと、僕、これからみんなと野球しにいくんだけど……」

「えっ……」

「ごめんね、准ちゃん。今日は一緒には帰れないや」

「……昨日も一緒に帰ってくれなかったじゃん」

「あ、えっと、じゃあ一緒に野球行く?それなら一緒に──」

「そういうことじゃないの!正美ちゃんのバカっ!!」

「あ、待ってよ准ちゃん!」

「おい、まさみ!あんな太っちょなんかに構ってないで早く公園行こうぜ!」

「あ……………うん……」

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅん…」

 

 窓から差し込んだ朝日が、無理矢理私を目覚めさせる。フラフラとした足取りで洗面所へ向かうと、鏡の中で()()()()()()()少女のの髪の毛がぴょこんと跳ねていた。

 

「……あとまわし」

 

 顔と歯を磨いて、朝ごはんを食べる。朝はいつもトーストだ。バターを少しだけ塗ったトーストを、小さい口にのそのそと運び込む。高校になって一人暮らしを始めてから、家にいる時間はいつも静かになった。

 

 物音のしない部屋で、トーストをかじりながら先程の夢を思い出す。小学校の時の懐かしい夢だ。あの頃は放課後が楽しみで仕方がなかった。大好きな幼馴染と一緒に帰って、日が暮れるまで一緒に遊んで、たまに夕飯も一緒に食べた。

 

 中学に上がるタイミングで私は転校したけれど、幼馴染とがいない放課後は、毎日に虚無を感じる灰色の日々だった。

 

 そんな日々も、高校に入ってようやく終わる。

 

 パンを食べ終えて、再び洗面所で歯を磨く。今度の鏡の中の私は、ニコニコと笑顔を浮かべていた。

 

 何がそんなに嬉いの?鏡の私に問いかける。彼女は答えた。決まっている。夢の中で彼に会えたこと。そして──

 

「今日こそ、あの子に会えるかも♪」

 

 鏡の中の私と、リアルな私が一緒に口を開く。2人でクスクスと一緒に笑うと、私は壁にかけられた(がく)を、うっとりと眺めた。額には、すっかり茶色く変色した四葉のクローバーが押し花へと姿を変えて収められていた。

 

 あの頃の少し太ったおんなの子はもういない。それでも、大事な思い出だけは、色あせても決して消えることなく、少女の心に残り続けている。

 

 

 

 

 

2

 

 

 

 

 

「ねぇ、鳳がまた誰かと喧嘩してるらしいよ」

「またぁ?アイツ、素行悪すぎ〜……」

「しかも、相手は1組の女子だって〜。ほら、噂のすんごいかわいい子!」

「えー、かわいそ〜」

 

 鷹野がクラスの女子がしている話を小耳に挟んだのは、6限の授業が終わっていざ帰ろうとした時だった。鷹野には相変わらず友達がおらず、今日も日中は一人で過ごしていた。理由は分からないが、鷹野が声をかけようとすると同級生は怯えたように距離を取るのだ。何日もそれが続くと、あまりいい気分がするものではない。

 

 だが、そんなことを気にしていられないほどの用事が、今日の鷹野にはあった。今日は他でもない、大事な妹のユキの退院日なのだ。

 

(今回は少し長かったな……)

 

 医者の話だと数日で退院できる予定だったが、鷹野がユキの見舞いに行った翌日に再び熱を出してしまい、今日まで入院が長引いていたのだった。

 

 だが、それも今日でおしまい。午前には母が迎えに行くと言っていたので、今頃は家にいるはずだ。自分もこんな所で油を売っている時間など無い。自転車の鍵を(あらかじ)め鞄から出しておくと、急ぎ足で教室の出口へと向かった。

 

 教室からは、出て右手側にある階段を使うのが一番早い。出口付近で噂話で盛り上がっている女生徒の脇をすり抜けるように歩くと、「あっ、ちょっと!」と後ろで誰かが人を呼ぶ声がした。

 

 自分のことではないだろう。入学してから一度も声をかけられたことが無い鷹野はそう思ったが、続く「鷹野クン!」という言葉に足を止めた。振り返ると、先程の噂話をしている2人のギャルっぽい女生徒がこちらをじっと見ている。

 

「え、自分か……?」

「う、うん……」

「ちょっとサキ!話しかけたら今度はアタシたちが……」

「ミカ……大丈夫じゃない?鳳は今いないんだし」

 

 鷹野の目の前で2人──どうやらサキとミカというらしい──が、ヒソヒソと何かを相談している。どうやらミカという女の子がが、鷹野に声をかけたサキに抗議しているようだ。だが、しばらくしないうちにミカが折れたようで、ようやくサキが鷹野に向けて口を開いた。。

 

「あー、えっとね、帰るんなら左の階段使ったほうがいいよ」

「む……それだと昇降口まで遠回りじゃないか?」

「そうなんだけどさ、ほら、今1組の方で鳳が暴れてるんだよね〜」

「鳳……えっと、誰だ、その人は?」

「えっ!?鳳のこと知らないの!?ヤバ〜……」

 

 何が「ヤバい」のかは知らないが、見ず知らずの人が暴れていたところでどうということはない。心配してくれるのはありがたいが、今の鷹野は早く帰りたい気持ちのほうが大きかった。

 

「注意してくれたのはありがたいけど……今日は(妹の退院日だから)早く帰りたいんだ。右の階段を使って帰るよ」

「え、ま、マジ?でもあの鳳だよ?キミに話しかけないようにしてるのだって──」

「サキ」

 

 何かを訴えかけたサキの肩に、ミカが手を置く。ミカの顔は、どこか諦めたようなそんな落ち着きがあった。

 

「サキ、鷹野君はやっぱり()()()()なんだよ……」

「でも、入学式の日だってランキングに──」

「鷹野クンも言ってたでしょ?『今日は(入学式の悔しさをバネにもっと成長するため、他の誰よりも1秒でも)速く帰りたいんだ』……って」

「ミカ……そうだね。鷹野クンは緑が丘高の入学式ランナーだもんね」

 

 2人は互いに頷きあうと、鷹野のために教室の出口を広く開ける。鷹野がそれに困惑してる間に、サキの方が口を開いた。

 

「鷹野クン……帰宅に水差してゴメンネ!」

「アタシ達、応援してるから!鷹野クンが誰よりも速く帰ることを!」

「え、あ、うん……?き、気をつけて帰ります?」

「「うん!」」

 

 たかが帰るだけなのに、大げさな2人だ──鷹野は首を傾げながら、教室を出た。厄介事にだけは巻き込まれないよう、ひっそりと歩いて家路を急ぐ。

 

 

 

 

 

3

 

 

 

 

 

 鳳は今日も帰ることができず学校泊になる苛立ちを、入学式帰宅に出走した鷹野に対する嫌がらせで発散していた。クラスメイトに「鷹野に話しかければぶっ潰す」と脅し回り、今日はそれをクラス内に留めず学年中に広めようとしていたのだった。

 

(気に食わねェ……)

 

 大股でドカドカと歩きながら、目的である1組の教室へと向かう。手始めに端のクラスから──そう意気込んで教室に乗り込もうとしたとき、鳳は中から飛び出してきた女子生徒と正面からぶつかった。

 

「きゃっ」

「ッ──」

 

 少女は衝突した勢いでぺたんと尻もちをつくが、鳳はよろめき、数歩下がる程度だ。非はどう見ても鳳にある。だが、鳳はわざとらしく舌打ちすると、目の前の女子生徒に怒鳴りつけた。

 

「てめえ、どこ見てやがる!!」

 

 鳳が、血走った目で少女を睨む。だが、ぶつかられた少女は臆することなく、身体を起こしてスカートの埃を払った。これまでにない相手の反応に、いつもは尊大な態度しか取らない鳳が、珍しく面食らう。

 

 そんな彼の様子を歯牙にもかけず、女子生徒は黒く艶のある髪を耳元までかきあげると、その整った可愛らしい顔にニコリと笑みを浮かべて──

 

「どこを見てるって……少なくとも、鳳くんみたいな負け犬ではないかな」

「なっ……!?」

 

 最大の煽り文句を吐き出したのだった。そして、その女生徒はそれだけでは飽き足らず……

 

 

「鳳くんが出られなかった入学式レースに出走した、そこの彼くらいじゃないと、私の視界には入れないかもね」

「……え、自分?」

 

 面倒ごとに巻き込まれまいと、息を潜めて脇を通り過ぎさろうとした鷹野を指差して、花のような笑顔を浮かべた。

 

 

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