「にゃんぱすー」
休日の朝。
小町さんに呼ばれ、比企谷君宅に向かった私を出迎えたのは、暗い顔で頭を抱えた一色さん、由比ヶ浜さん、小町さんと
「にゃんぱすー」
目が虚になって、来訪した私に訳の分からない呪文を唱えている……私のパートナー、比企谷八幡であった。
* * *
「……小町さん、これはまさか」
「……はい。またです。……今度はのんのんびよりっていうんですけど、前回のごちうさより悪いのは原作も終わってしまったことでして、、、より兄の絶望度が深いんです」
「……なんで今回も私は巻き込まれてるんですかね」
予想通り、比企谷君は推しアニメ終了でメンタルがやられていたらしい。一色さんのやつれ具合から見るに、今回も彼女に似たような声のキャラクターがいたみたいで……
「あの、小町さんもしかして」
「あ、大丈夫です。今回は被害者はいろは先輩だけなので、雪乃さんに似た声のキャラクターはいません」
「そう……良かった」
前回のごちうさクライシスでは、私も一色さんとキャラクターに精神を支配されかけた。あの教訓は私たちにまだ生きている。
「なっつん、にゃんぱすー」
「……やめて、こっちをそんな純真な目で見つめないで……何で私を見る目だけそんなに純真なの」
比企谷君は一色さんに向けて謎の呪文を吐いていた。私たちに向けるものとは違って、一色さんにだけは濁りのない小学一年生くらいの澄んだ目だ。
一色さんは努めてその目を見ないように顔を逸らしていた。
「……むぅう」
平らな目をして、由比ヶ浜さんが腰を上げる。
彼女は二回連続で声が似ているキャラクターがいないからなのか、なんだか顔がムスッとしていて面白くないみたいだ。
そのまま由比ヶ浜さんはにゃんぱす君の目の前まで移動して、不機嫌な態度を隠そうともせずに、こう言い放った。
「ヒッキー、やっはろー!!!!!」
「……」
「やっっっはろー!!!!!!!!!!」
彼女は何をやっているのだろう。
多分、謎のにゃんぱすにやっはろーで対抗しているのだと思うのだけれど、、、
私と小町さんの二人で、またも頭を抱える。一色さんはまたキャラクターに自我を支配されるのが怖いのか耳を塞いでいた。
……今の比企谷君にやっはろーは効果がない。
そう思っていた。
「ふぉぉぉ!!!!! にゃんぱすー!!!!!」
「ふぇ!?」
比企谷君は、由比ヶ浜さんにも目を輝かせて、あろうことか正面から由比ヶ浜さんに抱きついた。
……どうやら、にゃんぱす君はやっはろーにシンパシーを感じたらしい。
「わ、わたしは、なっつん。わたしは、越谷夏海……そうだ、そうだ。私はれんちょんと遊ぶ……私はれんちょんと遊ぶ」
一色さんがついに頭をやられたのか、目が明らかに他人のそれになった。
「ひ、ひひひひひひっきー!!!!!!? ……えへへ、わたしもう、このままでいいやぁあ」
まさかの由比ヶ浜さんまでもが陥落する。
由比ヶ浜さんが陥落という事は、あの人格リセットクッキーが使えないことを意味していた。
アレは由比ヶ浜さんでないと作ることができないのに……
「……小町さん。どうしましょう」
「どうしましょう……」
私と小町さんは、途方に暮れるしかない。
これどうしましょう。