落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
後日淡もオチもなくただの間幕である。
京都における『
相対戦に参加した俺、レキ、キンジ、白雪。二勝一敗一分けという結果になったが、それを差し引いてもそれぞれが負った怪我は当然ながら重傷だった。
最も軽傷なレキでも全身に銃弾痕、白雪も超能力の使い過ぎで精神力が完全なガス欠と少なくない斬撃。俺も張遼から受けた刃が命に係わるレベルだったし、キンジなどは生きているのが不思議なくらいに死にかけていた。
京都の街とか滅茶苦茶にした上に世界遺産とかぶっ壊して冷静に考えれば大問題ではあるが、そこら辺は喧嘩吹っかけられたほうなので、責任は曹操たちに押し付けておく。そういう細かい話は先生に任せておけばいいだろう。
いやまじ弁償しろとか言われても困るし。
そんな感じで星伽神社で応急処置を終えた俺らはそそくさと京都を出て、東京へと帰還していた。
東京に返ってまず病院送りになった俺たちだったが、
「おやおや兄さん方。そんないつも通りに死にかけてどうしたのですか? まったく仕方ないですねぇ。私がいないと皆さんは駄目ですねぇ。うふふ、もっとこの万能系妹遙歌ちゃんを頼ってくれていいんですよ?」
というウザい系妹になってきた遙歌のスキルによって一瞬で治癒していた。鬱陶しさが増してきたがしかし相変わらずの万能性である。
助かったのは確かで、その日のうちに退院できたのだが。それでも病院を出たで出たら学校へ行って事情聴取、政府のお偉いさんぽい人たちからのお話で気が休まる暇がなかった。
何はともあれ部屋に帰って、
「ただいま」
「おかえりなさい」
●
「……」
そしてキンジは寮の屋上にて空を見上げていた。京都から帰還して既に一夜明けていた昼下がり。修学旅行空けはしばらくは連休だ。昨日帰って来て全員泥のように眠り込んでいて、蒼一やレキ、白雪はまだ寝ている。アリアや理子はそんな眠りこけた三人の代わりに追加の報告で武偵高だ。明日にはキンジたちも行かなければならないが、ともあれ今日は休みだ。
だから何かをするまでもなく、キンジは空を眺めていた。
「……」
想うことは――曹操との戦いだ。
「……くそったれ」
手も足も出なかった。戦闘中は興奮していて、攻めること以外は頭の中から消去していたが、最終的にキンジが与えたダメージは額への打撃だけだった。そしてキンジは生かされただけだ。尋常な相対戦と言いつつ曹操は遊び続け、キンジは必死だったにも関わらず死ぬ一歩手前までボロボロにされたのだ。
「弱いなぁ……俺」
遠山キンジの実力は決して高くない。
シャーロックを倒したのは蒼一と共闘したおかげでしかなく、キンジ一人で勝つのは無理だっただろう。昔キンジと馬鹿みたいに殴り合って共倒れになったが、それだって蒼一のほうが拳士としての領分ではなくチンピラの喧嘩だったから。
『緋裂緋道』という我ながら破格な異能があっても、
「俺自身の技術が足りないから」
銃やナイフ術ならば一流であるのは自覚があるし、曹操からのお墨付きだ。けれど体術や剣術に関しては二流呼ぶことすらもおこがましい。武偵高の授業では評価高くても実戦では使い物にならない。体術は蒼一とかかわりを持ってから、剣術は緋刀を手にしてから本格的な訓練を始めたがまだまだ足りない。
そもそも過負荷である理子を除いて、単純な力で言えばバスカービルの中ではキンジは最も弱い。
「……情けないな」
本当に思う。
那須蒼一のような格闘術。
那須遙歌のような異能。
レキのような狙撃術。
神崎・H・アリアのような直観。
星伽白雪のような超能力。
峰理子のような精神。
そういったものがキンジにはない。
自分は欠けていてばっかで、足りないものばっかだと思う。
一体ここは自分のどこに王の資質なんてものを見出したというのだろう。『バスカービル』の中でリーダーというのはただポジションから選ばれただけだ。
だから遠山キンジは王なんてかっこいい存在なんかじゃ全然なくて――、
「……キンジ?」
背後から自分を呼ぶ声をキンジは聞いた。
●
アリアだ。制服姿なのは学校帰りなのだからだろうが、キンジが思ったよりも戻ってくるのが早かった。
「お前、学校はどうした」
「さっき終わったわよ。元々言うことはメールで先に送っておいたから、報告するだけでだったし。ま、理子は秋葉原に行ってから帰るって言ってたけど」
「……そうか」
「あ、これお土産」
「……ありがとな」
手渡されたのは缶コーヒーだった。学校帰りで買ってきたのだろうか、アイスだが少し温かった。
簡素な報告ではあるが十分。ちゃんとした詳しい報告は蒼一たちが起きてからということだろう。それにキンジ自身も今はそんな詳しい話を聞く気にはなれなかった。
それはアリアにも伝わっていたようで、
「……」
「……」
あるのは二人が缶コーヒーを啜る音だけだ。
しばらくそのままそれだけで、
「だぁーっ、鬱陶しいわね!」
「ぬわぁ!」
アリアに蹴飛ばされた。それも、ちょっと蹴られたレベルではなく後頭部へのハイキック。いつもアリアに蹴られ慣れているキンジではなかったら問題である。尻もちを付き、頭を押さえながら叫ぶ。
「何すんだよ!」
「こっちのセリフよ! 昨日からやたら空気重くて近くにいて鬱陶しいのよ! もうちょっと元気だしなさい!」
「元気付けてくれるのは在り難いけど言い方があるだろ!」
「思わずキレるくらいに邪魔くさいのよ!」
「ぬぐ……」
そう言われると返す言葉がなかった。それくらいにいじけていた自覚はある。
あるが、
「だからって蹴ることないだろ!」
「銃撃つよりマシでしょ!」
基準がおかしかった。
「ほら、悩みがあるならさっさと言いなさいこのバカキンジ」
「……アリア」
こちらを見下してくる彼女は僅かに頬は赤い。だが赤面症のアリアのことをよく知るキンジからすればこのくらいは平常運転だ。よく考えれば普段から発砲が基本なのだから、蹴られるくらいなら優しいのかもしれない。
「……」
「ほら」
「……いや、ただ」
自分が弱いことに自己嫌悪に浸っていた、なんて言えるわけがない。そんなの恥ずかしいというだけじゃない。強くなるためにはそれを認めなければならないのは年末から解っていた。だからこそ蒼一や白雪から技術を学んでいた。
けれど相手はアリアなのだ。
クチナシの香りの少女。キンジにとって誰よりも大事な存在。
キンジが守らなければならない、護りたいと思っている。那須蒼一にとってのレキと同じようなものだと、そしてあの蒼の守護者の想いにも自分の想いは負けないという意地はあった。
だからこそ、
「――な」
「なんでもない、なんて言ったら風穴よ」
「……」
なんでもないと言いかけた。
けれど先回りして言われたのだから言えない。黙ってしまったキンジにアリアはため息を吐いて、
「ねぇキンジ。覚えてる?」
「……?
「四月、私がイギリスに帰ろうとした時のこと」
「……そりゃ、まぁな」
唐突な問いかけだったが、それでも記憶は明白だ。半年ほど前にキンジと一度パートナーを組み、しかし解消してイギリスに帰ろうとしたアリアを帰国直前にキンジが引き止めた。あの時のことを思い返すと中々に頭が痛くなる。
我ながら無理したなぁと今更ながらに思う。
ヘリからアリアを呼び止めて、飛んできた彼女を受け止めて、さらにはフェンスから飛び降りて温室に落下だ。一歩間違えれば死んでいた。勢いって怖い。
「私はあの時までずっと
「……言ったな」
「でもね、キンジ。今の私は
そうやってアリアは笑っていた。
かつてキンジに自分は独りだと言っていた彼女はそうではないと笑顔を浮かべながらそう言っていたのだ。その笑顔は蒼一やレキ――キンジは彼女の笑顔そのものは認識できないが――よく似ていた。
孤独の闇の中にいたけれど絆を得た。
ずっと笑えなかったけれど今は笑える。
そういう人間をキンジは誰よりも見てきた。
落ちこぼれの拳士と無感の姫君は落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君に。
緋弾の独唱は緋色の旋律に。たった一人で虚しく歌うのではなくて誰かと奏であって響き合うことができると。
「それも全部、アンタのおかげよ。BGMどころか指揮者って感じね」
「……うまいこと言ってるつもりか?」
「えぇ、本心よ」
そう言われると返す言葉がなかった。何気なく言ったつもりかもしれないけれど、その言葉はキンジの心中に突き刺さっていた。
指揮者。
指揮をする者。
つまりそれは――王だ。
「……柄じゃねぇよ」
「案外似合ってると思うけどね」
「そう、かい」
ため息を吐きながら、キンジは仰向けに寝転がった。望めるのは夏と秋の変わり目の空だ。
曹操はキンジが覇道の担い手とか言ってアリアもまた指揮者のようだと言う。自分ではそういうことの自覚は全くないのだけれど。あれの言うことならばともかくアリアが言うことならば考えさせられる。
「……なぁアリア」
「何?」
「俺、強くなるぜ」
「えぇ、一緒に。皆で、ね」
「あぁ」
あの万人の王と彼女に狂う従僕たちに負けないように。
愛と絆を以て――緋色の覇道は歩き始める。
蒼一の一人称――と見せかけて結局キンジである(
なんかもう誰が主人公なのか。
七章ですが、今月緋弾の最新刊でるということに気付いたので、それ読んでから書こうかなと。ドイツ出てたので、ドイツのオリキャラを宣戦会議で出せるかもですねー
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