落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
オホン……ギャグ回ですねー
「……いい夜空だ」
見上げた夜空に星は見える。
それは確かに田舎で見るような満天の空ではない。気で強化した視力でようやく見つけたもの。普通だったら望遠鏡がなければ見えないだろう。東京の街の明かり、文明の灯によって駆逐された夜の海。俺も、俺以外の誰かも、かつての誰かも、いつかの誰かも見続けて、見ることになる宙の輝きだ。
絵になる光景ではないのだろう。無理やり引き上げて、その上でもまだ数個程度の星しか見えないのだから。名前が何なのかは俺は知らないが、それでも見えなくても確かに俺たちを見下ろしている光。
だったらそういうのも悪くない。
元々どうしようもない落ちこぼれの身だ。誰にでも見える一等星なんかより、誰にも気にも留められていなさそうなしょぼいけれど、誰か一人くらいしか見ないような星のほうが俺らしいというものだろう。
いやしかし都会の明かりというのは凄まじい。完全に日は落ち、それほど月明かりははっきりしていないのにも拘らず、街のほとんどは昼と変わらない、活動には困らない明るさだ。人類の始まりは松明、いや文字通り種火――種と呼ぶくらいに小さな炎しか生むことはできなかっただろう。基本的に最初の炎は木に落ちた雷による発火現象だったらしいし。
そう考えると人類の進歩は偉大だ。
よくもまぁこんだけ発達したものである。残念ながら物を作るということに関しての俺の適正はない。ならば何の適正があるのとかと聞かれれば困るのだが。だからこそ世界を築き上げてきた先人たちを尊敬する。
あぁ、つまり、
「ビバ☆人類――」
「帰ってこい」
脳天に衝撃が落ちた。
●
「……痛いなこの野郎」
夜空が望む窓から視線を外し、振り向けば拳を構えたキンジだ。
夜の教室といえばなんだか卑猥か恐ろしいのか微妙なところだが今教室を使っているのはクラスのほぼ全員。『変装食堂』の衣装の仕上げに集まっている。『変装食堂』の締め切りを破るのは拙い。だから期限の前日に教室に集まって徹夜で作業するのが伝統行事だ。机は全て後ろに退かされて各チーム毎にシートを引きつつ喋りながらの作業だ。
最もほとんどは完成しているか、文字通り最後の仕上げのみなので緊迫した空気はない。
今しがた人の頭をぶん殴ってくれたキンジもお題の警官姿だった。まぁ目つきが暗いことを除けばそこそこ様になっている。見る限り違和感もないが、確かコイツはSVRで変装衣装を一式買っていたはずだ。あやぽんに緋刀やらなんやら作らせていた金がないはずだがよく買ったものである。金欠になったら貸してやろう。トイチで。
「お前にだけは絶対金借りん。……いやそうじゃなくて、なんか一人で空見上げてないでお前もやることやれよ。衣装は」
「衣装、だと」
衣装。
変装。
なるほどこの場はそういう場だろうが。
「――奴隷の衣装ってなんだよ!」
マジでなんだ!
誰だ書いたやつ!
奴隷とかいろいろ問題ありすぎだろ!
変装も仮装もクソもあるかよ!
「いやいやマジでなんだよ奴隷って。俺みたいにこうやって日本生まれでそこそこちゃんと暮らしているやつがやっちゃだめだろこれ……」
「蒼一」
窓に項垂れた俺の肩にキンジの手が置かれた。そしてやたら達観した笑顔で、
「俺だって、アリアの奴隷だぜ……」
「そうだった……」
というか俺も普段からそんな感じだった。なんだろう奴隷兼刀兼旦那って。これなら執事の方が万倍マシだった。
「いやまぁ……奴隷っていってもガチじゃなくて、ギャグぽいのをイメージしてるんだろう。小間使いとか小姓的なさ。いや、寧ろガチでマスターとサーヴァント的な意味で書いたのかもしれないぜ。どんな恰好選んだんだ? 安心しろ、笑わないから見せてみろ」
「……とりあえず手錠を」
「ぶわはははははははははははははは! 似合いすぎだろ! あはあっはははははははははっはは!」
「てめぇーー!」
「暴行罪てひっ捕らえるぞ!」
教室の一角でマジ殴りし合う制服姿の奴隷と警官である。五分ほど取っ組み合いを続けたが誰も一瞥しただけでスルー。虚しくなってきたのでやめた。
「……」
「……」
無言でガールズたちへと移動する俺たちだった。
●
「あ、キンちゃん。どうかな。女教師の恰好なんですけど」
「犯罪だァー!」
「えぇ!?」
白雪の変装は『女教師』――白のブラウスに紺色の膝上スカート。膝上のスカートの教師なんか許されるかとか突っ込みたいが武偵高では許されるのでいいとしても問題は白雪自身だ。仲間内でもトップクラスのスタイルの良さなのでブラウスだけでも犯罪的である。
「どうせその恰好でショタキンジ誘惑する妄想でもしてたんだろう」
「ぎくぅ」
図星だった。
「……ん、何か言ったか。言ってないなぁ。いや、なにか聞こえた気がしたんだが気のせいかハハハ」
キンジが現実逃避に走った。
ザマぁ、とか思って見ていたら後ろに気配。
「ばきゅーん。どう、そーくん?」
いたのは理子。ガンマンという職業なのか生き方なのかよくわからないのを引き当てた理子はテンガロン・ハットに臍だしブラウス。革チョッキやらブーツやらデニムスカートやらなんか名前を知らない紐状のヒラヒラなど完璧に装備している。流石はリュパンの血筋というか周りを見る限り一番で気がいい。
右の腰の拳銃まで古そうなリボルバー。左は何故かオートマチック。。
理子。
リボルバー。
オートマチック。
ガンマンスタイル。
「んー? なにかな? 理子のことをそんな熱く見つめちゃって。浮気は? もしかして浮気!? どーしっよかなぁー、きーくんとそーくん……もしかして理子の逆ハールートとか在ったりしちゃうのかなぁー!?」
「……わるい、なんか気持ち悪くなってきた」
「吐き気を催すほど!?」
いじける理子には悪いがなぜかそれらの組み合わせは心臓に悪い。ほんと、なんでだろう。なんかこう……別の世界的な。
レキのせいで俺まで電波受信してきて怖い。
「そういえばそのレキは」
「呼びましたか?」
またまた背後から声。何気に皆気配消しているが意味があるのかとどうでもいいことを考えながら振り返り、
「どうでしょうこの変装力」
――タコっぽい火星の宇宙人のようなコスプレをしたレキがいた。
「――なにしてんの!?」
那須蒼一、生涯最大の突っ込みだった。
小学生とかが描くクラゲとタコが合体したようなアレである。口のようなところに顔で出ていてこれまた無表情。体は触手だか足ぽいので隠されているが、所々ウェットスーツみたいなのを着ている。
なんだこれは。
一体何を引いたらこうなるというのだ。
「電波を受信する少女です」
「ピンポイントだな!」
生涯最大の突っ込みその二だった。
よく見たら頭部のてっぺんにアンテナとなんかルービックキューブみたいなのがくっつているがそれを見ていたらなんかまた気持ち悪くなったので視線を外す。
というかくじ作った奴だれだマジで。職業というかただの属性じゃねぇか。
というかレキさんもチェンジしてくれませんかね。
「というのは冗談です」
「冗談かよ!」
突っ込みその三だった。不覚にも突っ込み属性をゲットしそう。
「常識的に考えてください。そんな職業あるわけないでしょう? これは蒼一さんをからかうために遙歌さんに作ってもらったものです」
「……」
いまいち妹のキャラが掴めなかった。いや、俺が言えた義理ではないのだけど。入学した時は健気だった気がするし、学校来て少しはそうだった。壊れだしたのはみんなで歓迎会した時だろうか。身内を集めて、盛大にパーティーやってからは大分キャラ崩壊していた。いやまぁ日常の中で自分の在り方を探しているというならばいいことなのだろうがレキの悪ふざけに付き合うのはほどほどにしてほしかった。
大体被害は俺なのだから!
「それで……真面目にお前の変装なんなの?」
「よくぞ聞いてくれました――ばっ」
「口で
ばっ、と共にレキは着ぐるみを脱ぎ棄てて制服姿に。よく見る光景がだが理屈は謎である。後で聞いたら理子に習った変装術の一環らしい。
そして現れたのは――白衣姿のレキだった。
「
またまた口で言った。もっと言えば手動で白衣をはためかせた。
腕をクロスさせて、
「ふぅわーはっはっは。私こそが狂気のマッドサイエンティスト。レキュ・ラピスラズリであぁーる」
完全無表情のまったいらなトーンでそんな痛々しいことを言いきった。
痛々しすぎて涙が出た。
「レキ……お前疲れてるんだよ」
「あの、ガチトーンの生暖かい目で抱きしめるのやめてくれませんか……」
「安心しろ。俺は何があってもお前を愛しているぜ……」
「あの、そういうことをギャグパートの教室で言うのやめてくれませんか……」
しかし教室で抱き合っているのに、というか俺が一方的に抱きしめているのに周囲は完全にスルーであった。
つまらん。
「それで、真面目に何だったんだ? 白衣ってことは研究者か?」
「えぇまぁ。『研究所員』ですので。白衣に」
懐から取り出した大きな丸眼鏡を装着。野暮ったいといえばそれまでだが、元が美少女なので似合っている。というか俺的にレキに似合わない恰好はないと断ずる。
「それで蒼一さん。貴方のほうはどうでしたか」
「あーいや、とりあえず手錠を用意してみたけど」
「手錠、ですか」
あ、なんか目がキランとかなった。
「いけませんね。それだけでは物足りません。ここに私が用意した首輪と足枷があります。それに……おっと、あそこには夏の一戦でボロボロになって着れなくなった蒼一さんの和服がありますね。誰が持ってきたのかは解りませんがソレを着ればいい感じに敗戦の将みたいな感じになると思いますよ」
「……」
手錠って。
足枷って。
あとあれ棄てたと思ってたのに……。
なんで持ってるんだ。
あと微妙に貶されている気がする。
「あの、レキさん? 俺のこと好きだよね……?」
「好きですよ。蒼一さんが死んだら世界亡ぼしてしまいそうになるくらいには」
愛が重かった。
ただまぁ、あの夏のアレはマジで血塗れなので有りといえば有りなのだろうが。けれど一応死の淵を駆け抜けた装備をコスプレ食堂で遣うのはなんだか切ない。
なんとなく悲しくなって周りを見回せば、
「か、かかっか、かんざ、きぃ……っアリ、ア! しょうが、しょ、小学ぅ四年生、で、です!」
「は、はい。よくできました……」
小学生に変装し、顔を灼熱のように赤くさせたアリアとその頭を恐る恐る撫でるキンジであった。
「犯罪だぁーー!!」
次回でちょい飛ばしてワトソン君とかの出番ですかねえ。
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