落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
雑用仕事をこなしながらも学園を回り続けていけばすぐに午前中は過ぎて行った。それ自体には特に疲れることない。基本的に荷物運びやゴミ捨てがメインだ。そのくらいで疲れるような柔な体をしてはいない。午前中四時間くらい大量のゴミをゴミ捨て場まで運んだり、機材を運んだりしたわけだが問題ない。
労働ではあるが面倒ではないということ。
「さって、お昼休憩ももらったことですし、兄さんたちのところへ行きますか」
「いや、ちょっと……っ、待って……体力が……」
「はは……っ、だらしねぇな……ぁ」
残念ながらあかりちゃんには面倒だったらしい。彼女の場合、面倒というか苦行だったらしい。汗をかいて息も荒く随分とお疲れだ。彼女の場合技術面では凄いのにまだまだ体力面では平均くらいしかないので力仕事には向いていなかったらしい。一般人の人たちのいないゴミ捨て場でへたり込んでいる。体力自慢のライカちゃんも流石に疲れていて息が荒い。
「はぁはぁ……あかりちゃん可愛いなぁ」
同じ分だけの労働、或は苦行をしたはずの志乃ちゃんは疲弊しきったあかりちゃんを隠しカメラを使ってその姿を収めていた。流石はあかりちゃんのストーカーの志乃ちゃんである。平賀さんにだけは絶対会わせたくないと思う。金に物を言わせて平賀さん製――
「志乃ちゃん。遊んでないでスポーツドリンクでも出してあげたらどうですか? 持ってますよね? あとその方が好感度上がりますよ」
「あかりちゃぁーん! ドリンクですよー!」
解りやすいなぁ。友達思いと言えば聞こえはいいのかもしれないが、彼女の場合
甲斐甲斐しく世話を始めた志乃ちゃんを横目にしながら、時間を見れば十二時少し前。ちょうどお腹も減って来た頃で、遠くから屋台の香りも届いてくる。高校生だからといって馬鹿に出来ないであろう良い匂いが食欲を誘う。安っぽさ故においしさっていうのもあるだろう。
午後からは私たちは主に新入生予定の相談などが仕事に入っていたので、ある意味では午前中よりも精神と体力を使うだろう。
だから、
「腹ごしらえ、行きましょう」
●
訪れた『変装食堂
つまりあの人では厨房ではなく接客のはずだ。二年生における身内の料理スキルは筆頭が白雪さんであり、次点で普通クラスのキンジさんだ。できないこともないのだろうがネタに走る理子さん、健康食品オタのレキさん、メイド任せのアリアさん、料理どころか家事がほとんどできない兄さんが続く。ので、おそらくは白雪さんとキンジさんが厨房で他の人たちが接客ということになっているはずだ。
ちなみに私は白雪さんには届かないが人並み以上ではある。
推理でもなんでもなく、あの人たちと一緒に暮らしていればそれくらいすぐに解る。
案の定だった。
「お、いらっしゃい。遙歌、ライカちゃん、間宮ちゃん、佐々木ちゃん」
食堂に入ってすぐに案内に現れたのは兄さんだった。
兄さんではあるが――奴隷姿の兄さんだった。ボロボロでどこもかしこも時間が経過した黒い血の跡。おまけに首や手首、足首には首輪、手錠、足枷。その上さらにさらに手錠と足枷には何十キロもあるでろう鉄球がそれぞれ二個づつ短い鎖で繋がれていた。
「……」
私ですら普通に引く。
「か、かっこいいですね!」
「え……?」
「かはは、お世辞でもありがとよ」
乙女だとは思っていたけど、これでかっこいいとか言えちゃうあたりやっぱりライカちゃんは乙女なのだろうが、しかしやっぱりこの恰好は引いた。あかりちゃんも志乃ちゃんも引いているし。
「なんでそんなことになってるんですか。襤褸切れみたいな恰好はともかくその鉄球は」
「悪乗りに悪乗りが重なってなぁ。襤褸切れ用意してから首輪と手錠付けたんだけどお前それくらいじゃ堪えねぇやろ! とか蘭豹が半分酔ったまま尋問科から鉄球運んできてな。あれよあれよと気づけばこうなっていた」
「そこで普通に動いてる那須先輩が凄いですけど……」
目算で大体五十キロ近くの鉄球が合計八個。つまり合計四百キロもの重りだが、普通に兄さんは歩いていた。足の方は流石に引きずっていて邪魔くさそうではあるも、それだけで動きにくそうということもなく、手のほうも同じ。色金では通常の気の使用でもこれくらいは簡単だろう。私も素でできる。
ただ鎖と鉄球がぶつかる音とか地面を擦れる音が地味にうるさい。
「はい。四人席な。注文決まったら呼んでくれ。基本俺はオーダーだけだから俺を呼んでもいいし、他の奴……あー、くーちゃんとかでもいいけどな。あとさ」
「はい?」
「アレ、お前らの担任だろ? どうにかしてくれ」
指を指した先へと皆で視線を向ければ――見覚えのあるパトカーが微動だにせず止まっていた。見覚えがあるというか、数時間前に見たパトカーだった。床に接触しているがなんとも言えない存在感はあったまま。存在感というか違和感だった。食堂にパトカーとか異色すぎる。
「唐突に表れて何も言わずにあそこ鎮座してんだけど、なんなのあれ? 想像付くというか外れてほしくてしょうがないんだが」
「何時でもキンジさんの召喚に応じられるように宝具開帳準備完了させて待機らしいです」
「ちょっと帰らせてくるから注文決めとけ」
じゃらじゃらと鎖と鉄球を引きずりながら、パトカーへと歩いて行く。蹴りを車体に食らわし――追随した鉄球が謎の軌道を描いて兄さんの腹へと命中して崩れ落ちてそれをどこからともなく現れた白衣姿のレキさんが引きずろうとしたが失敗して少し考えて何かをパトカーに囁いたら兄さんがパトカーに収容された。
「……」
見ていた誰もが黙るしかなかった。
鉄球も一応武器になるとはいえアレはいくら何でもひどくないだろうか。結局忠義のパトカーは何事もなかったかのように黙したまま。そりゃあ向こうからしたら兄さんの自滅以外の何でもないのだから気にすることもないし、そういうキャラではないと思う。あの忠義のキャラクターは謎しかない。
これにはさすがのライカちゃんも全力で目を逸らしていた。
「あ、あの、あの……い、いいですか? ち、注文、頂いても……?」
結局オーダーはくーちゃんさんでした。
●
食事自体には特筆すべきことはなかった。
忠義のパトカーに放り込まれた兄さんは暗い影を背負いながらもすぐに出てきたが、仕事に戻って話をする余裕もなかった。まぁよく考えなくても書き入れ時に来たのにその時間帯に最も忙しく働いている人たちと楽しくお喋りできるわけではない。それこそ厨房は戦場にでもなってるのだろう。
なのでそれぞれに手早く食事を終らせながらも午後の仕事に入る。
午後の仕事は基本的には新入生向けの相談室。相談室と言っても、校門の近くで縦長の机に適当に衝立を付けて一つの机に付き三人程度の生徒と新入予定生が一対一、或は一対複数で話し合うというものだ。衝立もすぐに取れるので頑張れば一度に五人くらい会話できるだろう。最も、いくら高校生だとしても五人の中学生と相談というのは荷が重いのだが。
当然、私たちがやるのは気軽にできる
何はともあれ、私がやるのはぶっちゃけマニュアル回答の気休めでも構わないということだ。
というか保護観察の身分であり武偵高に編入してきて数か月という私にまともな相談ができるわけではない。元々非日常の世界から日常の世界に移った身としてはこの陽だまりの価値については一家言あるつもりだけれど、私のような経験など役に立つことはないだろう。
役に立ってほしくないとも思う。
切実に。
そもそも教師陣から質疑応答のマニュアルはもらっていた。それをあかりちゃんたちと保管することによってなんとか中学生の相手は出来ている、と思う。
シフトの担当時間は大体二時間程度で、相談は一組十分ほど。
そしてちょうど時間的に次で最後かなぁと思ったくらいの時間に彼女たちは現れた。
「こんにちわーはじましてぇ」
「……」
二人組の少女と少年だった。
肩まで伸びたとび色の髪に野球帽、鋭角的なスポーツタイプの色の濃い赤のサングラスで瞳の色は見えないが、顔立ちは全体的に整っている。思わずびっくりするくらいには可愛い女の子だった。その隣には笑顔の少女とは対照的に仏頂面の少年。黒髪を背まで伸ばしつつ、バンダナで頭部全体をくくっている。そして顔には少女と同じタイプで青いサングラスを掛けていた。
「……?」
なんとなく、どこかで見たことあるような気がしたが、
「相談室でいいんだよね」
「あ、はい。どうぞ」
こちらよりも先に聞かれたので目の前の椅子を少女さんに進める。立ったままの少年にも目線を送って隣の椅子を使うように言ったのだが無反応だった。時間的にはシフトギリギリで両隣にいた知り合いの人もいないので好きに使ってくれて構わないのに座らないとは。
そういう年頃なのだろうか。
思いつつ、マニュアル通りに口を開いた。
「どういう相談ですか?」
基本的に丁寧語などは使わないほうがいいと言われたが、口調というのを変えるのは面倒だ。溜め口が悪い場合はあっても敬語が悪いということはまずないだろう。
「あはは、そりゃあこの学校についてに決まってるじゃないですか」
「……そ、そうですね」
いい笑顔だったがイラっとしたというのは否めない。イ・ウー時代なら半殺しにしていたが、今の私は武偵高一生徒の那須遙歌ちゃんだ。普通の高校生は出会い頭に半殺しにはしないだろう。
なので、我慢して、
「武偵高に入学を考えているんですか? あ、学年は……」
「ん、んー。一応中三ってとこかな。まぁそこら辺は気にしなくてもいいよ」
「……そうですか」
「それで入学は――そっちも別にいいや」
「……」
何しに来たんだコイツとかキャラ棄てて突っ込みたくなった。だが、我慢である私。武偵高に来て、伊達に他人と関わって来たわけではない。少しくらいは忍耐というのを覚えてきたのだ。
「迷ってるんですか? たぶん、貴女なら十分やっていけると思いますが……」
これについては心から。
この人の話を全く意に介さないバイタリティは武偵高でも十分に通用するクラスだ。というか武偵高に入学してくれないだろうか。来年後輩になってから苛めてあげたいと思う。
などと邪な考えに染まっていたら、
「楽しいのか?」
「え?」
「アンタは今、ここに通っていて楽しいのか」
誰の声なのか一瞬気づかなかったが、少女さんの背後につまらなさそうに立つ少年さんだった。なんというか聞き覚えがあると言えばあるし、気のせいと言われればそのまま納得してしまいそうな、不思議な声色だった。
「どうだ。アンタは今幸せか?」
問い詰めるような物言いに思わず戸惑うが、
「楽しいですよ、楽しいです。幸せ、ですよ」
その答えに迷うことはなかった。
自分は今、間違いなくこの日々を楽しんでいるし、幸いを感じている。戦乱の最中でありながら、兄や友達や仲間がいて、その人たちと当たり前の日常を過ごしている。かつてのように死に損なって、死にきるために生きていた私とは違うのだ。
だから楽しいと思っているのだから楽しいというし。
幸せだと感じているのだから幸せと言う。
「……ふん。それならそれでいいさ」
それだけ言い捨てて少年さんは背を向けて去って行った。少女さんにも、周囲にも全く構わず淀みない速度で視界から消えていった。
「あ、ちょっと待ってよー! もう……じゃあ
「あ、はい」
そして少女さんのほうも去って行って。
「……あれ?」
気づいた。
「……私名乗りましたっけ」
名乗っていない――この時は、まだ。
前回の負完全が意外に受けてビビる。あれでいいのか……
さて登場した少女さんと少年さんはなにものだったのだ……
文化祭編はこれで終わりですかねぇ。
次話で奴らが来る。
あと一次創作もちょっと始めたので落ち拳の更新が平日メインになります。一次が休日ということで。
良ければそっちもお願いしますねー