落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
「さてと」
食事を終え、キリコちゃんが配達してくれた装備の中で手元にあるのを確認し終えてから。女性陣はそれぞれのベッド――入り口からみて右側手前がレキさん、奥が白雪さん、左側手前が理子さん、奥がアリアさん、一番奥二つは開いている――にそれぞれ座って、キンジさんや私はパイプ椅子、陽菜ちゃんだけは扉の横に背を預けるという配置。武装は閉まっているのもあるし、レキさんの対物ライフルだけはベッドと垂直で置かれているだけなので危険である。これを運ぶのはおそらく私なのかなぁと想いつつ、
「ブリーフィング、始めるぞ」
キンジさんの言葉に全員が頷き、
「……いや風魔は帰れ」
「何を言うで御座るか。この身は師匠の草に御座る。言葉通り道端の雑草と思って話をしてくれてようござろう。ささっ、どうぞどうぞ」
「お前は……はぁ、まぁ言って聞くような奴じゃあないか。他言無用だし、絶対に勝手なことするなよ」
「ニンニン」
言っても聞かない忠義者、というのはランスロットさんと同じだろう。多分、ここで追い出されても得意の忍術で盗み聞きでもしていただろうし。多分、それは私なら気づいただろうけど。
その時どうするかというのはちょっと解らなかった。
「それで、昨日なにがあったんですか?」
やはりまず聞くべきことはコレだろう。生憎まだ私は昨夜のことを把握しきれていない。
現時点で私が知っているのは襲撃されて部屋が爆散したことと兄さんが海に飛び込んでから消息がつかめないこと。そして――右腕だけが残されていたということだけだ。
「ま、そこからだな。最初から話そう。……そう、あれは闇鍋で俺が鷹の爪パルスイート和えがくっついてすっぽんの生き血ソースがまとわりついて、一軒案牌のように見えた白滝が変な色になり、カロリーメイトシュールストレミング味の阿鼻叫喚な匂いを吸ったももまんを死を覚悟して食べようとした時のことだった……」
「なにしてたんですか……」
そして誰入れたか簡単に想像が付いた。というかシュールストレミング味のカロリーメイトが存在したことが驚きだ。闇鍋でなんてことをするんだろう。キンジさんの顔がかなり青くなっているので想像はしないけど。
「それと同時だった。窓で物音がしたんだな。結構大きな音だったからこれで食べなくてもいいのではないかという希望を持って誰よりも先に窓へと駆け寄った」
「ゴキブリみたいな動きだったよねー」
「うっせぇ。……とにかく、そして窓を開けたら
アイツというのは――二人組の少女のほうだろう。ドライの言葉からすれば、彼女が部屋にいた兄さんたちに襲撃を掛けたのは理解できる。
「まったく気配なかったのよねぇ」
「少なくとも部屋全域に張っていた結界は作動しなかった」
「私の方にもおかしな風は全く感じませんでした」
「パーペキステルス性能だねぇ。でも、スキルとかじゃなくてアレは先端科学兵装の類だよね? 恰好から見てさ。でも機械なんかでゆきちゃんの結界とか破れるものなのかな」
確かに、フォースと呼ばれていた少女は見るからに機械的な武装で身を固めていた。幾らか傷があったので本来はもっとあったのだろう。
「うーん、一応ああいう現行科学よりも一歩二歩先に進んだ科学を生み出すというのも一種の異能による成果ということもあるらしいです。それでアリアさんの力の非殺傷指定とか作っているわけですね。だから最新鋭クラスならば不可能ではないかと」
少なくとも先ほどのキリコちゃんはそういう類だ。
その代償というべきか感情が極めて希薄ということがあるが。
「
「いや、多分ズレてない。あのフォースとかいう奴は現れて、まず最初に俺をこう呼んだんだ――『お兄ちゃん』ってな」
そしてそこから先の展開は予想していた通りの物だった。
フォースは肩から引き抜いた細かく振動するような刀で即座にレキさんを狙った。突然の登場と言葉に誰もが驚いた隙に、その刀をレキさんへと振りおろし――庇って兄さんが受けた。あの人ならば回避と反撃を同時にできたであろうに、反撃の際にレキさんに被害が受けるのを恐れて敢えて受けた。受けて――そして右腕を斬り落とされた。斬り落とされて、刀が降りぬかれてから一撃見舞ったのは流石としかいいようがない。
そしてそれから、
「なんかクロスしたベルトぽいので蒼一君が拘束されて海に投げ飛ばされた」
恐らくそれも先端科学兵装。腕を失い、一撃叩き込んだ後ではいくら兄さんでも受け損ねた。というよりは殺気も意識もない機械兵装だったからというのもあるのだろう。全身を絡め取られて海に投げ捨てられた。
そして兄さんが離脱し、
「正直白雪がなかったら死んでたわね」
苦虫を噛み潰したようにアリアさんは言う。兄さんを投げ飛ばし、キンジさんを背にして室内のアリアさんたちへとフォースが行ったのは、
「もうザ・SF映画だったねぇ」
「ランスロットのガラティーンの小型版みたいだったな」
超振動ではなく超高熱。ビームサーベルの如くにそれ自体が光と熱を持ったナイフ。それが数十も一度に投擲された。明らかに殺すための光刃を防いだのはやはりというべきか白雪さんの炎。咄嗟に展開した炎の壁が受け止めた――そこまでは良かったのだが、
「
「……まぁ部屋自体は現場検証が終わった後に私が修復しておきますよ」
寧ろ、暴発しても私たちの部屋以外に被害を出さなかったことを褒めるべきであろう。そして一気に火の海になって全員が海へと飛び込み、散り散りになりながらもなんとか帰還したと。
「……なるほど」
それが昨日の顛末。改めて聞いてみればなんというか、
「上手いこと俺たちの弱点を突いてくる」
キンジさんの言葉に誰もが頷いた。
私たちの弱点――それはつまり絡め手に弱いということだ。
考えることが苦手な兄さん、基本的に攻撃に指向が偏っているキンジさんやアリアさん、過負荷故に原則行動が空回る理子さん。比較的まともなレキさんでも何を考えているか解らないし、白雪さんも細かい策が得意とは言えないだろう。かく言う私もそういうのはからっきしだ。策を考えろといえばできるだろうが、それでも相手の動きに合わせるというのが私の基本スタンス、或は傲慢とも見られがちだが、そこは性分としかいいようがない。先日のワトソンさんの策に嵌ったのがいい例だ。
なので、基本的に私たちはどうすれば策に嵌らないかではなく、どうすれば嵌った策を打倒できるかということだ。
「自分たちのことながら脳みそ足りないにもほどがありませんか?」
「遙歌殿が言えることではないで御座るなー」
「私はほら、兄がアレなので……」
冗談を口にして、冗談ができるくらいには調子を取り戻していることを自覚する。よく考えれば私たちは七年も離れ離れになっていたのだ。私の方は兄さんが何をしていたかは知っていたが、兄さんの方は私が死んだと思っていた。それに比べればなんてことない。
「まぁ俺たちの欠点はそれぞれ解ってたことだろう。自分の弱点対策をなにもしてないわけじゃないし……ともあれ、問題はフォース、ドライ、それに多分GⅢのことだ」
そして先ほどの話に戻る。
「『
「キーくんの家族に実は兄妹がさらにいたってことはないの?」
「ない。それは断言できる。俺と兄さんは二人兄弟だったし……隠し子がいるなんてこともまずないはずだ」
「だったら――」
キンジさんを兄と呼ぶフォース。その前のサード。そして――、
「ドライが言っていました。『セカンドも落ちこぼれも女共も全員フォースにくれてやった』って」
落ちこぼれは言うまでもなく――私自身としてはこの呼び方に忸怩たる思いがあるが――兄さん。女共はそのまんまアリアさんたち。だったら、
「セカンドはキンジさんということになりますか……?」
「だろうな。そこまで来たら簡単だ。兄さんが入ればファーストとでも呼ばれていただろう」
「Gの意味は?」
「考えたが一つある――俺の親父の名前は遠山金叉。スペルにすれば頭文字はGだ」
頭文字G。そのまま訳すれば金叉の一番目、二番目、三番目、四番目。
「そういえば、この前キリコちゃんから聞きかじった話ですが……アメリカでは優秀な遺伝子を使ってクローンを生み出すという計画があったらしいですね。少し前に破産したらしいですが……」
「――なぁーんだ。そんな簡単に答えに辿り着いちゃうんだ」
●
現れたのがフォースでであることを、最も早く認識したのは他でもないレキさんだった。
昨夜の襲撃からたった一夜。病院の中という安全地帯であるはずの場所。どちらも私たちが戦場から最も遠い所と認識している場所。ここが例えば空き島のようななんども戦場に使われた場所だったら違ったかもしれない。
意識の死角。
日常を愛し、愛しすぎているが故の私たちの決定的の弱点とも言える場所を彼女はまたしても的確に突かれていた。さらに言えば彼女の服装も問題だった。私たちが常に見ている装いだったからこそそれに戸惑って意識の空白が生まれた。
けれどレキさんはそんなことには全く構わなかった。
「――」
いつの間に手にしていたのかボールペンを握り、動いた。全く無音無気配、無拍子、或は零拍子とすら言ってもいい動きでベッドから飛び降りる。飛び降りて
――フォースの首根っこを左手で掴み、右手でボールペンを彼女の右目一ミリ手前で停止させていた。
「――な」
空気が止まっていた。突然現れたフォースは言うまでもなく、何のラグもなく躊躇いもなく動いたレキさんにも。
「――ふうん」
そして、それでもフォースは不敵に笑う。昨日のようなサングラスはなく、露わになった顔は整っているし――どこかカナさんやキンジさんに似ていた。
「非合理ィ。お前武偵なのにこんな殺人未遂してもいいと思うの?」
「今すぐ、蒼一さんの居場所について知っていることを全て吐きなさい。それ以外のことは聞いていません。答えないなら」
「殺せるぅ?」
「殺せないと思いますか」
その言葉には確かに殺気と殺意が籠っていた。放っておけばそのままボールペンを頭蓋に突き刺しかねない気配があった。
「私たちを襲うのにタイミングは素晴らしかったでしょう。蒼一さんという拳士を排除するためにまずは私を狙うというのも作戦としては最適だったでしょう。えぇ、あの人を打倒するには私を狙うことが最も簡単でしょうね。その手際は賞賛するしかない」
それでも、
「私の感情は貴女を赦せない」
殺気と殺意――そして怒気。
表情は無表情でも、彼女はこれ以上ないくらいに怒っていた。私が見たことないし、聞いたことがないほど。私だけではなく、他のみなさんも驚いて動けないほどに。確かに私たちはなんとなくでレキさんの感情を読み取ることができないでもない。それでも、ここまでに彼女が感情を表したことはなかった。
これは本当に殺しかねない。
そう、私は思わず思ったし、レキさんは本気だった。
「……でも、お前は私を殺せないよ。さっきの話の本当のところ聞きたくないの?」
「ならまずそれをいいなさい。今殺してないのはその話があるのと、貴方がキンジさんの妹というほんの僅かな可能性故だということを忘れないように」
「……ほんとだよ。私やGⅢはお兄ちゃんの父親――遠山金叉の細胞から生み出されたクローン、
「――」
呻いたような声はキンジさんのものだった。
それだけ衝撃だっただろうし、それもしょうがないだろう。二人兄弟と思っていたら、実は父親のクローンが二人、それも超人を作るためなんて理由で。
「あのドライは」
「あっちは私も良く知らない。GⅢかドライ本人じゃないとね」
「此処に来た目的は」
「お兄ちゃんと仲良くすること」
「……はぁ?」
今度の声は多分全員分。私も、多分そんな声を出していて、レキさんですらも張りつめた怒気をわずかに忍ばせるほど。昨夜私たちを襲撃し、兄さんの腕を斬り落とした少女は目にボールペンを突き立てられながら、それでも頬を上気させ、瞳を潤まして笑っていた。
「ほんと、それだけだよ。私の目的はお兄ちゃんと仲良くして、あとはぁ、そのーうふふ」
まるで恋する乙女のようなそれは、
「お兄ちゃんと一線超えるために来たんだ!」
遙歌「キモウトキャラ被り……!?」
かなめの言うことが重すぎて、あえなく必殺章変え。
さすがにブチギレレキもこれには唖然……したのか? レキならばそれでとか流しそうだなぁ(
というわけでブチギレレキと見せかけて未遂。ここまで感情露わになるのは次は何時だろうか。
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