落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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ようやっと帰国して落ち着きました。


第4曲『おかしな人です』

 

 何か変な物音で目が覚めた。

 

「ん、ぐ……っ」

 

 結局昨夜本当にリビングのソファで眠らされた。別に滅茶苦茶堅いとか不便というわけではなかったけれど、前日が飛行機で凝り固まった身体でソファでの睡眠というのはあまりよろしくない。案の定体を起こせば特有の身体の引きつりと共にボキボキと骨が鳴る。身体を伸ばしながらブランケットを退かせば、

 

「あ、あ……っ、ございまっ……おはよ……す……っ」

 

「……お、おはよう」

 

 やたらテンパってどもる、或はいつも通りの中空知がいた。ペットボトルの水を手にしていたところを考えると目を覚まして水でも飲んでいたのだろう。

 

「あー……今、何時だ?」

 

「し、しししししししちぃじぃですぅ」

 

「……七時か」

 

 呟き、中空知の答えがいまいち理解できなかったので時計を見てから確認する。リビングはキッチンと隣接していて、小さな机と俺が眠っていたソファ。それ以外にはテレビとその前に置かれた小さな椅子。部屋の端に俺のスーツケースや武装といった感じに物がある。

 他の二人はまだ寝ているのだろう。

 それにしても、

 

「あー、中空知?」

 

「ひゃ、はひゃはい!?」

 

「……大丈夫かお前」

 

「へ、は、はいぃ」

 

 大丈夫じゃないだろこれ。

 会話にならない。

 

「なぁ、中空知」

 

 少し注意しようと思い声を掛ければ、

 

「くださいっ……! 待って、ちょっと……ッ」

 

 意外に機敏な速度でリビングから脱出された。残された俺としては呆然として、固まるかしかなく、もしかして自分は今なにかしら高校生女子が思わず逃げ出してしまうような行為を犯してしまったのではないかと真剣に考えそうになったところで――着信音が響いた。しょっちゅうぶっ壊れる俺の携帯だが、『緋影』と同時期にキリコと平賀さんが魔改造してくれた携帯は見た目は普通のスマートフォンなのにやたら頑丈に出来ている上に、地球のどこにいても普通に使えるという優れものだ。まぁ流石に香港における曹操戦の時は流石に壊れていたが。つまり完全に新品だ。

 赤にカラーリングさらたそれの液晶に表示されていたのは、やはりというべきか中空知の名前である。

 

「……もしもし」

 

『お見苦しい所をお見せして申し訳ありませんでした、遠山さん』

 

 響いてきたのは案の定、恐ろしく聞きやすくはっきりとした中空知の声だった。これまで結構な数の人間と関わってきたと思うけれど単純な聞きやすさという点では彼女に勝る人はない。蒼一曰く音か何かに関わる異常。

 上がり症の通信士(オペレーター)中空知美咲。

 その真の姿。

 

「……いや、別にいいけどさ」

 

 前々から知っているわけだし。中空知とは一年の頃から任務の時に通信士として協力し合っていたのだ。そもそもあの那須蒼一を十全にナビゲートできるのは彼女を措いて他にいない。バスカービルにも個人的に力を借りていたわけだし。

 今更驚かないし、寧ろ関心する。

 

『いいえ、自身の対人能力の無さに関しては自覚しております。こんな私ではまともな会話ではできないでしょう。申し訳ありません。トイレに行った後、水を飲んだ物音で起こしてしまったようで』

 

「それもいいって。どうせ起きなきゃいけないんだから。ちょっと早いってだけさ。時差ボケは正直辛いけどな」

 

『…………』

 

 そこで帰って来たのはなぜか沈黙だった。

 実のところ、電話越しで話す限りの中空知がこうやって言いよどんだり、沈黙したりするころは殆どない。声が聞きやすいというだけではなく、即決即断もできていたのだ。

 そんな彼女が、これだけ長く黙った。

 少し驚く。

 

『遠山さんは』

 

「?」

 

『遠山さんは――怒らないのですか?」

 

「はぁ?」

 

『私を知る人間は、私の二面性を知る人間は必ずと言っていいほど口をそろえて言います。どうして人前で同じように話せないのか、と』

 

「思ってないわけじゃねぇけど、というか今更だしな」

 

『今更ながらも言わせてもらいます。貴方は、こんな私の精神性に何故何一つ文句を言わないのですか? 控えめに見ても貴方の前での私は非常に面倒だと思いますが』

 

「自覚あったのか……」

 

 いや自覚があったから、対面せずに電話でコンタクトを取っているわけか。

 

『自覚させられた、なんて言いません。確りと自覚しています。自分という物を、私は確かに理解しています。どういう人間か、どういう存在か。……だから私の周りに人が少ないのも仕方ないことだと思います。もの好きな人は何人かいますが』

 

「……俺も、知ってるさ」

 

 周りの人が少ないというけれど。

 いないわけじゃないのだ。

 どういう経路で仲良くなったのかは知らないけど、平賀さんやレキとはあだ名で呼び合う中だし、蒼一でだって勝手にそう呼んでる。

 中空知美咲は一人ぼっちじゃない。

 

『それでも、彼女たちの前で平常と同じように会話できるかと言われれば、できないんですよ。男とか女とか関係なく、私は誰ともまともに会話できません。また、それが治るとも思っていません――治そうと、すら』

 

「……」

 

 解りやすくはっきりとした声の中には解りやすくはっきりとした意思があった。

 言っていることはつまり自分の欠点を治す気はないというある意味物凄い駄目な発言ではあるが、中空知の物言いには、ただそれだけではない何かを感じさせられる。

 

「だから、何が言いたいんだ?」

 

もし万が一の場合(・・・・・・・・)私を切り捨て(・・・・・・)てください(・・・・・)

 

 一息に言い切った。

 

『今回の研修中に何かしらの事件に巻き込まれ、私が邪魔になった場合即座に見捨ててください。各地の見学に訪れた先でことが起こった場合、私の対処能力はほぼゼロです。邪魔になるだけですので……』

 

「知るかバーカ」

 

『――』

 

 思わずイラッとしたから頭の悪い言葉を吐き捨てていた。

 

「お前がどんだけコミュ症で他人とまともに会話できなくてヤバイ場合になって絶体絶命になったとして俺はお前を見捨てないからな。つか二度そんなこと言うなよ」

 

 それに、

 

「武偵憲章第一条、仲間を信じ、仲間を助けよ、だ」

 

『…………私がコミュ症で他人とまともに会話できなくて絶体絶命になるであろうことはどうするんですか?』

 

「それはそれ、これはこれだ」

 

 そもそもそんなことを言っていたいたら俺の仲間だって大概だし。

 だからまぁ別に中空知にどんな問題があったとしても俺の仲間であることには問題ないのだ。

 

『――』

 

 しばらくの間、中空知は電話の向こうで口を閉ざし、苦笑と共に言葉を漏らした。

 

『遠山さんは――おかしな人です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遠山。おい、遠山。話を聞いてるのか?」

 

「……ん、お、悪い。ちょっと考えことしていた」

 

「考えるな、などと流石に言わないし、お前はもうちょっと思慮深くなったほうがいいとは思うが、それにしたって声を掛けても反応しないのは問題だぞ」

 

「悪い悪い」

 

 朝のことを思い出していたら反応が遅れてしまった。適当に笑って誤魔化しつつ、意識を切り替える。車の外は結構暗い。夜の七時前ということもあるし季節的に冬だからだ。俺とジャンヌがリムジンで向かっているのはオペラ座ガルニエ宮だった。そこにメーヤやこっち側の協力者がいるらしい。メーヤとは『宣戦会議』以来直に会ってないから会えるのは嬉しいのだが、

 

「……どうにも着慣れないな」

 

 やたら洒落た真っ白なタキシード――スモーキングというらしい――がどうにもくすぐったい。それに顔に付けた仮面も。あのオペラ座の怪人が付けているような目の周りだけを隠す白い奴。つまり全身白い服。落ち着かない。別に和服洋服にこだわりがあるわけでも、白を全く着ないというわけでもないが、普段なら絶対しないような恰好なので浮ついてる。といか髪と目が赤くて仮面と服が真っ白ってものすごく派手なのだ。

 華のオペラ座で、それも仮面舞踏会なんかあるのだからこれくらい必要なのだろうけど。

 少し前をある退くジャンヌもまた白と銀のタイトなイブニングドレスに、ちょっと豪華なコスプレみたいな猫耳と仮面で顔を隠していた。ちなみに意外に気に入っているらしくて付けてすぐは謎の猫言葉を喋って夾竹桃に鼻で笑われていたから今は止めている。

 夾竹桃と中空知は留守番だが会話している光景が想像できない。いや俺が想像できないだけれど、ちょっとくらいはできるだろうけど。

 そうこうしながら車の外に一目でそれだろうという大きな建物が見えてきた。ガルニエ宮というが文字通り宮殿だ。夜の中でもライトアップされ金に装飾された白亜の建物がはっきりと見えている。昨日からこの街を歩いていて、色々な所に石像やら彫刻なんかがあって驚いたが、此処のはもっと豪華だ。そのあたりの学がない俺でも思わず息を呑む。

 

「フォロー・ミー、遠山。一応今回のはシークレットだ。正門からではなく裏口から入るぞ」

 

 入ったのはオペラ座だったが舞台じゃなくて、向かう先は地下の舞踏場らしき場所だ。最も後で知ったのだが普通に観光客用の入り口だったりするらしいし、舞踏場どころかただの廊下らしい。

 

「おおう、まんま映画の世界だなおい」

 

「ハリウッドもびっくりのバトルを繰り広げる男が何を言うか」

 

 少し暗めの照明に照らされたホールには人種も恰好も様々な人たちが談笑を交わしていた。恐らく芸能人やマフィアとかの重鎮なのだろう。そんな連中が集まって顔を隠しているのだからかなりカオスというかアンダーグランドな空気を醸し出している。

 

「にゃおにゃおとおにゃま」

 

「止めたんじゃなかったのかそれ」

 

 おまけにどこから出したのか馬のぬいぐるみまで持っている。

 

「猫が馬を持つユーモア溢れる目印だ。メーヤのほうは犬が馬を持つが合言葉だな」

 

「どこにユーモア溢れているのか全くもって謎だがつまりメーヤの方は牛の仮面だか何かを付けて馬抱えてるってことか?」

 

「そうだ。そしてこれがヨーロピアンジョークだ」

 

「うっそん」

 

 ちょっと信じられない。というか信じたくねぇ。

 

 「ジョークも学べ色男。思ったよりも人が多い。少し手分けしよう。私は下を、お前は上を。後で合流しよう」

 

「了解」

 

 一度猫ジャンヌと別れて上の階に向かう。これまたやたら装飾過多で人を探しているのか、よく解らなくってくる。メーヤの姿を思い描きながら周囲を見回し、足を進めていく。上の階からは避けの匂いが強い。バーでもあるのだろう。

 

「バー、酒――アルコール」

 

 思い出したことがあったから、そちらへと足を向ければ案の定。

 

「ん、ぐっぐ……んん……プハァッ! んー、ヴォーノ!」

 

 何やらわんこそばの如くカクテルやら酒を飲みまくっている女がいた。それも犬らしき仮装をした女。緩くウェーブが掛かった豊かな金髪に剥き出しになった肩。背後から見ても胸が大きいと解るくらいに扇情的なスタイルの女だ。

 かつて会った時とは随分と違う服装だが、見れば解る。

 

「メーヤ」

 

「?」

 

 背後から戦友へと声を掛け――立ち上がりながら振り返ったメーヤの胸が顔面に激突してすっころんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 胸、胸部、バスト、もっと分かりやすく言えばおぱーい。

 身内で恵まれているのは白雪だが、あの幼馴染の場合肉体的接触を迫ることは実はあまりない。あまりないというだけでするときは思い切りするのが彼女の恐ろしい所だが日本女子の平均を上回るあの肉体は意外にも控え目だったりする。他にも理子も身長に似合わず発達している、本人曰くロリ巨乳という分類なのだがそもそも行動全般があざといし色物なので色気が微妙に外れている。いや勿論本能を刺激することは間違いないのだが、アレの場合我慢できなさそうでなんとかできるラインをギリギリに狙ってくるから性質が悪い。

 あと我が最愛の嫁アリアに関しては――コメントを控えよう。

 つまりまぁ何が言いたいかというと。

 胸で殴られるなんてことはまずあり得ないし、それで驚いて転んだとしても完全無欠に俺は悪くないということだ。

 

「……」

 

「あら。あらあら! トオヤマさんではありませんか! 思いのほか構造が複雑だったので待っていたのが功を成しました。これは主に感謝しなければなりませんね!」

 

 大きな声で喜びながら彼女は手早く胸の前で十字架を切り、祈りを捧げる。

 十字架、祈り、主。

 明夜・ロマーノ。

 師団に所属する代表戦士の一人。バチカンのエクソシストでローマ武偵高の殲滅科(カノッサ)。俺の一つ年上で十八歳。同時にカナの後輩だったこともある。直接会うのは『宣戦会議』振りのことで、見た目わがままボディのおっとりシスターだがあの時カツェのことを虫呼ばわりして背後から不意打ちしようとする超絶武闘派だ。

 加えて言えば幸運の大剣使い。

 それも異能の燃料は――酒精(アルコール)

 

「……久しぶりだな」

 

 やっとのことで勝機を取り戻し、当たり障りのないことを捻り出す。とりあえず先ほどの記憶と感触は記憶の一番深い所に厳重に封印しておく。封印が甘いとアリアに気付かれないので今だけ気分は封印スキルホルダーだ。

 

「えぇそうですね! やはり電子機器の文字より実際に会って言葉を交わす方がいいものです! あ、手を貸しますよ」

 

「いや、大丈夫だ」

 

 差し出された手を握ると封印が甘くなりそうだったので自分で立ち上がり、服装を整えてから再び彼女に向き直る。合言葉通り、犬を模した仮面を被り、馬のぬいぐるみは豊満な胸の谷間に突き刺していた。

 ぬいぐるみを挟む谷間。

 言葉にすると凄い。

 

「あー、メーヤ一人か? ジャンヌは今下でお前のこと探してるからすぐ来るだろうけど。メーヤ以外にも協力者がいるって聞いてたんだけどな」

 

「えぇ、えぇその通りですよ。先ほどお手洗いに行ったのですが……あぁ、来ました。ロナルドー! トオヤマさんですよー!」

 

 大きく手を振ったのは俺の背後だった。

 つられて振り振り返ってみれば、一人の子供が歩いて来た。  

 子供。そう子供だ。かなり小さい。もしかしたらアリアよりもさらに小柄だろう。

 水色の短い髪に中性的(ユニセックス)な顔立ち。俺の白とは対照的な真っ黒のタキシード。彼、或は彼女もまた犬を模した仮装をしている。どことなく雰囲気がワトソンに似ている。

 男装した少女。

 そういう風に見えるが、

 

「女の子……いや、男か?」

 

「お見事デス。私の性別を初見で見破る人は珍しいデスね」

 

 変声期すらまだなっていないような高い声だ。多分、見た聞いたでは普通解らない。

 普通の話だけど。

 

「仲間に男装が得意な女の子がいるからな。なんとなく解る。それで、お前が……」

 

「ハイ。お目に掛かれて光栄デス、『絆の勇者(リンカー)』殿。バチカン法王庁特務局第十三課特務機関イスカリオテ及びバチカン大法院第七区担当執行機関アイゼルネ・ユングフラウ主席異端審問官及びローマ武偵高殲滅科四年『魔女狩り』ロナルド・アーバスノット・ノックスと申しマス」

 

 やたら長ったらしい称号だか所属を彼は告げ、大真面目な顔でこう告げた。

 

「トオヤマ卿――私はお兄様、お兄ちゃん、兄上、どれで呼べばいいのデスか?」

 

 




ちなみにコンスラシオンのヒロイン難易度。
ジャンヌ:イージー(地雷有)
夾竹桃:ベリーハード(猛毒有)
中空知:カオス(地雷原)

オリキャラ枠一人目はノックス。
何気初の男の娘枠。

別に趣味ではない(
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