落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
対異能技能。
それは主に色金の姫や守護者が有する超能力異常過負荷等に対し、絶大なアドバンテージを作りだす反則級のスキルだ。
例えば那須蒼一とレキ。
瑠璃色金の守護者と姫の場合生み出されるのは異能無効。静かさと道理を極めた瑠璃色の権能はありとあらゆる異能を砂上の楼閣の如く霧散させる。
無効、霧散。
求道という気質故に肉体、或は弾丸や光弾などの媒介を解さなければその力は発揮しないが、触れてしまえば総ての異能は消え去る他ない。あれは一度受ければ解るが、受けた方としては突然力が入らなくなる感覚に似ていた。使われたスキルが瑠璃の気に触れた瞬間その効果が悉く無に帰る。だから静かに音もなく瑠璃の色金は異能を消し去ってしまう。
例えば遠山キンジと神崎・H・アリア。
緋々色金の守護者と姫の場合生み出されるのは異能破壊。激しさと道理を極めて緋々色の権能はありとあらゆる異能を硝子の細工の如く破砕する。
破壊、破砕。
覇道という気質故に肉体や媒介に縛れることなくただあるだけで周囲へ、その力を問答無用で発揮する。これは受けたことないが、受けた相手に聞く思い切り吹っ飛ばされた感覚に似ているらしい。使われたスキルが緋々の気に触れた瞬間その効果が悉く砕かれる。だから派手に爆音と共に緋々の色金は異能を破壊する。
結果としては瑠璃も緋々も変わらない。受けた側の感覚に違いはあるが、既存の異能の全てを凌駕することには変わらない。
欠点を上げる場合、あくまで色金は人の魂によって作用するものだから曹操のような魂に関連するスキルや猴の神咒神威、或は極限域にまで純化された想いで構成された異能には効果を失うことがある。最もそれは俺たちも欠点だと思わないが。
いずれにせよ現在存在する無条件の異能無効破壊は色金という超金属と人の魂によるものに限定される。
限定される――はずだった。
「――
しかしその宣告は俺の認識を完全に覆した。
極光に彩れた聖剣の極大斬撃。それは本来俺が振るうにはあまりにも貴すぎる閃光。けれどだからこそ確かな畏敬の念と共に振るった聖剣はカツェの背後から飛来した一条の光と激突し、拮抗することもなく一瞬で分解された。
無効でも霧散でも破壊でも破砕でもなく。
分解、そう分解だ。
聖剣に乗せられた祈りや願いといった形のないはずの想念が、手術でも受けたかのように、計算式にでもされたかのように、総て残らず解けて消された。
「――」
振りぬいた姿勢のまま、俺は硬直から回復するのに数瞬を有した。そもそも緋々と瑠璃の色金とは別の異能分解を受けたから。さらに、俺が覇道の力を以て振るった聖剣があまりにも呆気なく分解されたから。もし仮に相手が蒼一や、同じようなものを受けた自分だったとしてもここまで当たり前のように分解することはできない。
色金よりさらに上位の対異能スキル。
そんなものが存在する可能性が欠片でもあるということに身体の動きは止まり、
「――堕ち三日月」
斬撃が降ってきた。
「う、お、お……!?」
真っ黒な影から伸びる二振りの一刀。アクロバットに体を縦回転させ、恐ろしい速度と共に墜落し、俺へと迫ってきた。見上げればギロチンのようであり、すぐそこだ。だがそれ以上に迸る斬気が身体を反応させた。極光の残滓が消え去った緋刀を思わず振り上げ、迎え撃ちに行く。
行った。
「――」
「――な」
迫っていた双斬が――すり抜けた。
否、すり抜けたのではなく、回転の勢いのまま刀を引き脇に抱え込むように収納して緋刀を回避してた。
まるで、俺の動きを先読みしていたかのように。
赤い左目が妖しく光り、
「――凶叉」
双刀が抜き放たれる。前進と上半身の沈み込みを利用した超音速を宿した刃は切先から水蒸気の尾すら引いている。硬直状態から無理矢理身体を動かしたにも関わらず動きを上回られた俺に回避する術はなく――、
「兄様!」
背後からロンが服を引っ張りながら後退したことによってギリギリ逃れた。
「っ……!」
腹掻っ捌き掛けた二刀の斬気に背筋を凍らせながら、ロンの後退に身を任せながら、緋刀を我武者羅に振った。技でも技能でもなんでもなく、単純に色金の気を放出するだけの衝撃波。けれどだからこそ純粋な破壊力だけは申し分ない一撃だった。
「――ふん」
だが、それもまるで未来予知か何かのように、俺が攻撃するよりも早く回避行動をとった影は難なく背後に跳んだ。
「『魔剱』に、『妖刕』……ならば……ッッ!」
「――我に求めよ。さらば汝に諸々の国を嗣業として与え地の果てを汝の物として与えん」
ロンの呻いた直後、朗々と詩のようなものが響き渡り、連続する靴音と共にさらにもう一人現れる。
「汝、黒鉄の杖をもて彼らを打ち破り、陶工の器物のごとくに打ち砕かんと。されば汝ら諸々の王よさとかれ、地の審判人よ教えを受けよ。恐れをもて主につかえ、おののきをもて喜べ」
それは十字教における聖句の一部。一切の淀み無しに謳われる聖句の主は、しかし一見して敬遠な信者には欠片も見えなかった。派手に染めた金髪、カソックも適当に着崩し、さらには至る所に十字架のシルバーアクセサリー。
そしてその手に、装飾銃。
「子に接吻せよ。恐らくは彼は怒りを放ち、汝ら途に滅びん。その怒りは速やかに燃ゆベければ。全て彼により頼む者は幸いなり――Amen」
白と金の美しい装飾銃。聖句と共にゆっくりと持ち上げられたそれが、締めと引き金を引かれる。
吐きだされたのは鉛玉ではなく、光の砲弾だった。それそのものがソフトボールよりもさらに大きい。相応の速度で射出され、
《ノックス第二条、攻撃術式の使用を禁ズ!》
ノックスの赤い宣告が下ろされる。
カツェの術式すらも容易く断ち切った赤き真実の刃。
「――づぅッ」
しかしその砲弾を切り裂くことは叶わずロンの身体が弾かれた。
あれが――『聖銃』。
『魔剱』と『妖刕』、そして『聖銃』
事前に聞かされていた所属不明の傭兵。
強襲してきた黒影の少年、そしてホールの奥から現れたもう二人。
「……あいつらが」
真っ黒なロングコートで顔下半分に隠した少年にセーラー服姿の背後に円環状の刃を浮かせたツインテールの少女。見た目は、俺よりも一つ二つくらい年下に見える。少女の方に至っては中学生に見えてもおかしくない。いやそんなこと言ったらアリアなんて小学生だが。
「……案外大したことないな。アレがあの『
「油断はモーレツいけませんよ。『
「それでもカツェの罠引っかかるんだからたかが知れてるぜ」
「好き勝手言ってくれてるなおい……」
また名前の一人ある気な感じだ。風評被害も甚だしい。男の方が『妖刕』で女が『魔剱』らしいが、『妖刕』はなんか小ばかにして、『魔剱』の方は警戒心丸出し、『聖銃』は何が面白いのかニヤニヤ笑っている。。まぁこのあたり覚悟していたけれど。
「ロン」
「無事デス、が状況が悪いデスね」
そう、先ほどまでは二対一だったのに、これでは二対四、数が逆転してしまっている。その上で相手三人の力量は未知数、おまけに俺は術式に不慣れと全くもってよろしくない。
それに、
「……ジャンヌたちからの連絡は?」
「ありまセン。そちらは」
「ない」
気になるのはそれだ。少なくとも数分前までは彼女たちもいたはずだ。中空知という非戦闘員もいるのだから心配だ。できることなら離脱して、探しに行きたいが、
「……させてくれないよな」
『魔剱』、『妖刕』、『聖銃』。
無表情だったり、険しい顔だったり、笑っていたりと三者三様だが、見た限り隙は少ない。相手の能力も解らないことが多すぎて下手に手を出しにくい。
「いやー、助かったぜお前ら。いいタイミングで来たな。他の連中はどうした?」
「逃げられました、でも結界からは抜けてないようです。祝光の魔女の術式がこちらの索敵を紛らわしてるようですね。ジャンヌ・ダルクは無力化し、非戦闘員もいましたので大した障害にはならないかと」
「……!」
いや落ち着け。
沸騰しかけた意識をなんとか繋ぎとめる。無力化ということはやられても、なんとか撤退したのだろう。逃げ切るのは無理でも、メーヤに隠れるくらいの余力はあるのだ。寧ろ合流すれば状況を変えられる。
「よし、ロン」
「はい」
「――戦略的撤退だッ!」
「はい――はい!?」
回れ右してからロンを脇に抱えて、全速力で走りだす。ついでに後方に武偵弾
「よく解らない相手だったらぶん殴るか逃げる! これが俺たちバスカービルの戦の心得、今回は逃げよう!」
「その心得は有体に言って頭おかしいですよ兄様!」
残念ながら頭おかしいというのはバスカービルに対する平均的な評価だ。
誠に遺憾である。
膨大な煙が立ち上り、ホールの中を完全に覆い隠す。
「――ふざけているのかお前」
「……ッ!」
だが、その白煙の中から『妖刕』一切迷うことなく来た。赤い左目の残光が煙幕の中で尚輝く。
「疾風裂斬」
右刀の刃が上を向き、左刃が下を向きながら放たれる刺突。さらに『妖刕』のコートの下の肉体が不自然なまでに膨張している。またもや切先に引く水蒸気。尋常ではない膂力にて背へ放たれる一閃は、
「橘花――」
ロンを手放し、緋刀の柄で二つの切先を受け止める。その刹那、刺突のエネルギーが柄に炸裂。その衝撃を利用し、全身の各部位を加速させながら衝撃を吸収。さらに身体を回転させる。百八十度身体を回転させ、『妖刕』の胸部に当て、
「絶牢――鷹捲――!」
「――!」
螺旋掌底をぶち込む。
相手の攻撃を受け止め、その衝撃を逆ベクトルの『桜花』で吸収する『橘花』。その上で吸収した衝撃を回転と共に繰り出す遠山の技『絶牢』。その二つを併用した上で放つ間宮の『鷹捲』。
三つの身体駆動術をフルに用いた扇は『妖刕』の胸に炸裂し、吹き飛ばした。
「よしロン走れ! 脱兎のごとく!」
「しかし緊張感が……!」
●
「……」
「大丈夫ですか、静刃君?」
「やられてんじゃんお前。自慢の魔眼はどーしたんだ?」
煙の晴れた後、妖刕がむくりと起き上がる。赤かったはずの左目は黒に戻っていた。
「問題ない」
服の埃を払いながら立ち上がる姿に負傷した様子はない。実際先ほどのキンジの一撃もダメージが通っていなかった。防護服『黒套』と超強化された筋線維が威力の大半を削っていたのだ。
「あれが遠山キンジか」
妖刕は――原田静刃は呟く。
その名を彼は何度も聞いてた。その武勇伝や伝説、逸話、漫画みたいな世界で尚馬鹿らしくなるようなそれらを。
だが実際に目にして、
「やっぱり大したことないだろ」
そう、評価を降す。
『魔剱』――立花・氷焔・アリスベルも。
『聖銃』――船坂慧も。
彼らは遠山キンジをその程度にしか思わなかった。
無論その認識は後に大きく塗り替えらることになるのだが。
なおアリスベル勢のスキルはわりかし改変されてます。結構改変されてます。
聖銃さんの元ネタは人型決戦兵器(
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