落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

192 / 225
第14曲「ははははははは、最高だぜ!」

 

「な、なんでお前が……!?」

 

「くすくす、えぇそうよ。そうやって驚くお前の顔が見たかったのよ」

 

 影の中から現れたゴスロリ吸血姫に驚きを禁じ得ない。

 かつて理子に特別異常過負荷言葉の併用である『りこりんシステム』によって彼女自身の影に封じられていたはずの相手だ。封印されてから随分と経ったが姿を見たことは一度もない。少なくとも俺が知る限り理子がヒルダを一時的にでも解放したのは香港における戦いだけだった。

 なのに、どうして。

 

「空港」

 

「は?」

 

「日本を立つ時のことを覚えているかしらぁ? あの子がお前の頬に口づ付けを下でしょう?」

 

「あ、あぁ」

 

 それはよく覚えている。いきなり理子がキスしてきて、すわアリアによる風穴地獄が始まるかと思ったらまさかの平和に終わったというあれだ。

 

「お前たちが乳繰り会っている間に理子の影からお前の影に渡っていたのよ。あの子から頼まれてね、お前がこういう風に間抜けをしたら助けてあげてほしいとね」

 

「理子が――」

 

 脳裏に浮かぶのは彼女の笑顔。

 胸に暖かい物が広がり、気恥ずかしくなって頭を掻く。あれは普段おちゃらけている癖にそういう所は本当に聡いのだ。頭の回転が早いというか、先を見通している。距離は離れていても、心の繋がりは無くならない。

 

「ははは、帰ってべろちゅーでもしてやろう」

 

「あぁそう好きにして頂戴。それで、お前は一体どうするつもりかしらぁ」

 

「ま、プランはある。あるが――その前に、なんで手助けしてくれるんだよ」

 

 ヒルダとの関係性は決していいものではない。

 寧ろ完全に敵対関係だ。ヒルダは俺の大好きな友達を虐めてくれたし、俺だってコイツの胸に刀ぶっ刺している。和解もしていない。それに理子自身とも打ち解けあったという話だって聞いていないのだ。

 

「契約よ」

 

 短く吸血姫は言う。

 

「お前の影に入り理子の元へ帰ってくるまでお前の手助けをすれば私を解放するという契約よ。影に入るだけで四割、戻れば七割、ね」

 

「理子が持ちかけたのか?」

 

「えぇ、そうよぉ」

 

「あいつらしい」

 

 立ち上がる。身体のこわばりは残っているが、問題はない。

 

「手錠、壊しましょうか?」

 

「ん、まぁ待て」

 

 手首をぶらぶら(・・・・)させある程度解してから右手で左手の甲を包み込む。

 一度深呼吸をして、

 

「フン!」

 

 関節を外す。左手を引き抜いてから、嵌めなおした。

 

「……それ、本当にやる阿呆って中々いないわよぉ?」

 

「うちの整体術からすれば普通だ。関節外して殴って、もう一回殴って関節嵌める一族だぞ」

 

「早死にする一族ね」

 

「基本的に良く死ぬ一族だからな」

 

 祖父さんや父さんの武勇伝には事欠かないし、兄さんだって一回死んでるし、サードも似たような物だろう。俺もまた何回死んだ目に会ってるか数えるのも馬鹿らしい。

 しかし吸血鬼に話すには笑えないギャグだ。

 

「右は外さないのかしらぁ? あとどういう計画なの」

 

「武器取り戻すまではな、結構使えるんだこれでも。まず始めは、そうだな。ジャンヌ起こそう。まだ寝てるぽいし、牢から出れるか?」

 

「えぇ。影が檻の外に出るように立って」

 

 ヒルダが一度影に沈み、牢の外の影から再び現れる。便利な術だ。俺も覚えたいが、頑張ったら何とかできないだろうか。

 彼女は牢の鍵の部分に指をあてて、スパークと共に焼き切れる。一応解放されたが、それでもまた敵陣の中だ。ゆっくりはしていられない。隣の牢に移り、ジャンヌの方の鍵も同じように焼き切ってもらった。

 数時間ぶりに見るジャンヌは壁に背を預けながら毛布に包まっている。

 

「おい、ジャンヌ。いつまで寝てるんだ、起きろ」

 

 声を掛けるがそれだけでは起きず、何度か肩を叩いたり揺すったりしたら、薄く彼女の目が開いた。

 

「……ん、なんだ……あさか? キンジ、わるいがいちに、いってパンを……」

 

「ここにパンは売ってねぇ、朝でもないしな」

 

「……ふぇ」

 

 可愛いな。

 だが時間がない。背後でヒルダが指でバチバチ電気言わせてるし。

 

「起きろ、脱獄()るぞ」

 

「――」

 

 数秒、空白。

 数秒後、白い肌が真っ赤に染まり、声にならない絶叫が上がる。

 

「……!」

 

「落ち着け。目は覚めたか? 悪いが時間がない。さっさと脱獄して皆のとこに帰るぞ」

 

「……っ……っ」

 

 般若みたいな形相、幼児みたいな泣き顔、ドッキリにあった芸人みたいな呆け顔、引きつった半笑いと百面相が続き、

 

「キン……トオヤマ。私は何か言ってなかったか?」

 

「聞いてないぞ。大丈夫か?」

 

「……あぁ」

 

 頭を何度か揺らしてからようやくジャンヌが立ち上がる。毛布の下は流石に下着姿ではなくブラウスとロングスカートに貸していた制服のジャケット。やはり俺と同じように異能封じの手錠が嵌められている。居心地が悪そうに俺を見て、視線が背後のヒルダに移り、目を見開く。

 

「ヒルダ!? 何故お前が此処に!」

 

「理子が貸してくれた。欧州限定のお助けキャラだ、気持ちは解るが今は脱獄を優先しよう」

 

「……解った」

 

 ジャンヌにも言いたいことはあるはずだが、そこは呑み込んでくれた。彼女も解っているのだ。未だ合流しただけで装備は奪われ、敵の術中なのだから。些細な諍いをしている暇はない。勿論、信頼できるかどうかは大きな問題が、

 

「お前を信じるぞ、トオヤマ」

 

「あぁ」

 

「くすくす、流石ねぇ」

 

「ヒルダ、武器庫位置が解るか? それに俺のスマホも」

 

「お前、どれだけ現代子なのかしら? そんな場合じゃないと思うんだけれど」

 

「あれは脱獄するのに必要なんだ。解らないか?」

 

「ちょっと待ちなさい」

 

 ヒルダが指先を立て目を伏せる。一瞬だけスパークが鳴り、

 

「電子機器が多すぎるわね、お前のスマートフォンだけをピンポイントで探し出すのには時間が掛かるわ」

 

「だったら城の中の人間の配置は?」

 

「それなら余裕よ」

 

「トオヤマ、武器の位置ならば私が解る。デュランダルとは繋がりがあるからな、あれもお前の刀剣も聖遺物だ。同じ場所に保管されているはずだ」 

 

「よし、行こう。二人ともナビゲートを頼むぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒルダ・シュペツェは恐ろしく有能だった。

 『紫電の吸血姫』――つまり電気使い。

 現代に於いては極めて応用力の高いスキルだ。機械類は勿論、人間の電気信号までも彼女は読み取っているのだから実に頼れるナビゲーター。近くにいる人間はかなり早い段階で察知できる上に随所に設置されている監視カメラさえ欺くことができる。これで四割程度の力というから恐ろしい。

 

『悪いけれど、直接的な戦闘力には期待しないで貰いたいわ』

 

 影の中から吸血姫は念話を飛ばしてくる。

 

『今の私では代表戦士クラスの戦闘力を発揮するのは消耗が激しいのよ。探知くらいならば訳もないけれどね。有事の際はお前が戦いなさい、私の時のようにね」

 

「言われなくても」

 

 牢から出てから十数分経ったが進行は驚くほどスムーズだ。ヒルダの力は大きい。

 

「ジャンヌ、どうだ」

 

「近いぞ、すぐだ。次の角を左に曲がればデュランダルはある」

 

『当然、見張りもいるわね。扉の脇に二人』

 

「俺が何とかする」

 

 曲がり角の前で一度、廊下を盗み見る。確かに十メートルくらい先に銃を構えた魔女が二人いた。練度もそれなりに高そうだ。手にするのはジャンヌの分の手錠だ。ヒルダが電熱で焼き切ったそれは即席のチャクラムもどき。ついでにジャケットも握っておく。

 

「――フッ!」

 

 斜め気味の前転と共に廊下に飛び出しながら、チャクラム二つを投擲する。狙いは二人の顔面だ。

 

「キャ!?」

 

 顔に突然激突した鉄の塊に二人が悲鳴を上げ、視界を潰し距離を詰める。手前に立っていた少女へとジャケットを被せ、駆け抜け様に足払い。

 

「シィッ」

 

 鋭く息を吐きつつ、手錠が嵌ったままだった腕を振りチェーンをもう一人の魔女の首に回して引っかける。思い切り引き込みながら水月に手を当てながら、両足を踏ん張れば、

 

鷹捲(サイクロン)ッ」

 

「かはっ!?」

 

 気絶した少女を押しのけるように瞬発し、

 

「――ぁう」

 

 ようやくジャケットをはぎ取った魔女の顎にフックを喰らわせた。ぐるん(・・・)と白目を向いて彼女が崩れ落ちる。

 

「失礼、レディたち。

 

『お見事ね』

 

「ま、これくらいはな。ジャンヌ、いいぞ」

 

「……お前、こういうこともできたのだな」

 

 呆れ、というよりは純粋に驚いている。そう言えばこの類の技術は彼女に見せた記憶はない。

 

「忘れてるかもしれないが俺は死ね死ね団(アサルト)だぞ。これくらいはできて当然だ」

 

 室内にはデュランダルだけではなく、俺の装備もあった。

 手早く身に着けるが、スマホだけはない。

 

「ない……あるとすれば、カツェか。あいつ横着しやがって」

 

「カツェの所に行くのかしらぁ? いいけれど、この基地の中では大魔女たちを除けばあれが一番厄介よ。下手に突けば牢獄に逆戻りね」

 

「解ってる」

 

 大概なギャグ体質ぽいが完全に出し抜かれたのだ、油断なんてできるはずもない。それに少し雑談しただけだが、あれは案外悪い奴じゃない。そして経験則的に悪い奴じゃない奴に限ってやたら手強い。

 

「行こう」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふんふんふーん」

 

 カツェは自室に寝転がりながら遠山キンジから奪ったスマートフォンを触っていた。

 機嫌がいい。 

 香港で一杯喰わされたキンジにやり返すことができた。元老院に付き出し、装備も没収した。アイツの日本刀はかの聖剣を加工したものだ、英国相手にも貸しも作れるだろう。『代表戦士』として、最大級の戦果だろう。

 何より、イヴィリタも褒めてくれた。

 

「むふふふ」

 

 軍服を脱ぎ捨てて、真っ赤な下着姿で天蓋付ベッドに倒れ込む。

 手にするのは赤いスマートフォン。キンジの装備とは別に自分が回収したのだ。日本製、それも京菱グループの特別版で超高性能という噂だ。自分用に改造すれば任務にも役立つし、プライベートでも使えるだろう。

 

「そう考えると、いい仕事だったぜ。褒めてもらって、ボーナスも出て、昇進の可能性もあって、ハイテクアイテムもゲットだ。いいこと尽くしだな」

 

 満悦の笑みを浮かべながら戦利品の電源を付ける。

 だが、

 

「……ま、そりゃそうか。プライバシー保護の時代だもんな」

 

 当然と言うべきか液晶に移るのは四桁数字のパスワードロック。言うまでもないがこれを開けないと中身は使えない。 

 壁に掛けてある時計を確認すればまだ夕方前だが今日の業務は既に終わっている。これも成果の一端なわけだが、

 

「ま、明日にするか。情報部もってけば開錠くらいできるだろ」

 

 物が物だけに時間は掛かるかもしれないが、魔女連隊だって無能ではない。

 

「……寝るか」

 

 パリから移動してきたわけだが、移動時間は長かったけれどその間キンジを見張っていたので仮眠も取っていない。明日の予定も決めてしまい、張りつめていた緊張を解けば疲れは一期に押し寄せてきた。

 

「ふわぁ……」

 

 瞼が重くなり、身体から力が抜けていきその睡魔に身を任せていく。

 

「……すぅ」

 

 そうして心地いい睡眠へと誘われて行き――ごんごん(・・・・)という鈍い音が夢の世界からカツェを一発で追い出した。

 

「ぐぬっ」

 

 変な声と共に身体が跳ねる。

 さらにもう一回ドアを叩く音。

 

「くそっ……誰だよ一体……アルベルタか? いやこの雑な叩き方はエーファかぁ? とりあえず誰でも締めてやる」

 

 悪態を吐きながらふらふらと扉に向かう。 

 

「あたしはもう今日は休みなんだよ。いいか? 眠いから寝かせてくれ……」

 

 うんざりしながら扉を開け、

 

「よう」

 

「あ?」

 

「プライバシーの重さを味わうか?」

 

 応える前に被弾した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あらぁ、殺したの?」

 

「まさか」

 

 そんなことするはずない。

 

麻痺弾(スタン)だ。武偵弾じゃなくて普通の暴徒鎮圧用だけどな。一時間くらいは普通に昏倒するはずだ」

 

 痙攣してぶっ倒れたカツェを避けて、ベッドの上からスマートフォンを回収する。どうやら無理に使おうとはしていなかったらしい。奪われた時のままだ。手早くパスワード――0923――を打ち込み、目的のアプリを起動する。

 

「……よし、思った通りだ。行こう、あとは脱出するだけだ」

 

「カツェは放置か?」

 

『関節壊すなり、手足撃ち抜いたほうがいいんではなくて?』

 

「嫌だね、趣味じゃない」

 

 影から聞こえてきた声に取り合わずに切り捨てる。こっちもまたするはずもない。確かに魔女連隊の中でも高い戦闘力を誇るカツェが今こうして無防備な姿を晒しているのだから四肢潰すなり再起不能にすればこの先戦役を有利に運べるかもしれないが、それは俺らしくない。

 自分らしくないことは――やらないのがバスカービルだ。

 あとまぁそれに。

 

「と、ぉ、や……まっ……!」

 

 感電し、倒れ伏しながら、焦点の合わない隻眼にも関わらず睨みつけてくるカツェ・グラッセ。

 俺は多分、コイツが嫌いじゃないのだ。

 

「追って来いよ、できるのならな」

 

「っ……!」

 

 我ながら珍しく兆発気味に笑みを浮かべ、隻眼を見つめ返す。

 

「遠山」

 

「おう、行こう。とりあえず一番高い所だ。ヒルダ、案内頼むぞ」

 

『いいけれど……そんな所に行ってどうするつもり?』

 

「出口は一階だぞ」

 

「解ってるて、ほらこれ見てみろよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ、ぃひ……くっ……」

 

  嗚咽を吐きながら、カツェは自室を這いつくばっていた。水という属性を持つ彼女からすれば電撃は相性が良くない。肉体的にもそれほど強靭ではないからスタンというのは実はかなり有効な一手だったのだ。

 それでも、肉体の痺れを精神でねじ伏せながら机へと向かっていた。

 身を焦がす激情は紛れもない怒り。数分前何やらよく解らない会話をしながら出ていったキンジに対して――ではなく、自分に対するものだ。

 捕まえたから気が抜けていた。悪かったのは紛れもない己なのだ。あの男を舐めていたつもりも、侮っていたつもりもなかったが、しかしそれでも考え不足だった。

 絆の勇者が、あの程度の拘束で大人しくしてるはずもないのに。

 

「け、けけ……っ」

 

 電気によって曖昧な思考もものともせず、無様に這いつくばりながらそれでも止まらずに机に。目的は卓上に設置された無線機。初期の携帯電話みたいなレトロなデザインのそれを息も絶え絶えながら掴みとる。

 呼吸を整え、意識を回復の式に向けながら設定したのは連隊長格以上の身が行える基地全域への緊急警報。

 告げた。

 

「――遠山キンジが脱獄した」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 基地内を駆け抜けていたら突然カツェの声と警報が鳴り響いた。

 

「うおバレるの早っ!」

 

『だから言ったでしょう? 再起不能にでもしておけばよかったと』

 

「うっせぇ!」

 

『くすくす。まぁ目的地も階段上がって真っ直ぐ行けばすぐよ』

 

「おっしゃ!」

 

 だったら後は簡単だ。警報が鳴り響くのは予想以上に速くてビビったが、目的地は目前で脱出の手筈も整っている。

 何も問題はない。

  

「――よっしゃ屋上!」

  

 向かっていたのは城外の高い位置。扉をけ破りながら雪に包まれた世界へ辿り着き、

 

「――あっれ」

 

 扉の周りを短機関銃を構えた魔女十人以上が完全包囲していた。

 全然大丈夫じゃなくねこれ。

 

「――」

 

 一瞬全員が硬直し、

 

「撃て!」

 

「どわああああああ!?」

 

 滅茶苦茶及び腰になりながら扉を閉めて脇に跳び退いた。

 焦って視線を動かせば既にジャンヌは身を隠しおまけに氷の花弁で盾を作っていた。

 

「早くね!?」

 

「いや、ヒルダが外に集まってるって念話飛ばしてくれたからな」

 

「ヒルダァ!」

 

『おほほ、どうせ通らなければならないのだから一緒でしょう?』

 

 そうだが、しかし心構えという奴あるのだ。

 

「てか集まるの早くね!?」

 

 今だ銃弾の雨は止まず、耳を塞ぎながら絶叫する。

 

『城外に警邏がいるのは当然でしょう? それに場内全域に響いたということはイヴィリタ・イステルにも伝わっているということよ。あの魔女でなき魔女ならばこの程度の予想も訳もなでしょうねぇ。それに監視カメラは潰してたけれど、探知魔術は誤魔化すのは難しいしわぁ』

 

「あいつか……」

 

 イヴィリタ・イステル。

 魔女でなき魔女とやらの情報は全くない。解ってるのはべらぼうな美人ってくらいだけで戦闘力や知力に関しては何も解っていないのだ。無論、軽視はしていなかったが、ヒルダにそこまで言わせるほどとは予想外すぎる。

 銃弾の豪雨は未だに止んでない。一瞬だけ途切れる瞬間はあるが、本当に一瞬でしかない。恐らく射撃と装填でローテーションを組み隙を無くしているのだろう。中々の練度だ。武偵高二年でもここまで無駄無くできる奴は少ない。扉は完全ぶっ壊れてるし、最後の盾の石壁もヤバイ。

 というか耳の鼓膜が地味にピンチ。

 真面目に困った。

 短機関銃の弾丸は全部弾丸弾きと鏡撃ちをすれば一網打尽にできるが、それをすると射手の魔女たちの腕を吹き飛ばすことになる。かつて兄さん相手はやったが普通の人間はあそこまで強靭ではない。

 今では大分在り方が変わってしまったが、そもそも俺の異能『性々働々(ヒステリアス)』は女性を傷つけることはできない。曹操とかは例外だがそれ以外には強く出れない。

 

「ジャンヌ、ヒルダ! どうにかできないか!?」

 

「あ、む……」

 

 ジャンヌの答えは淀み、

 

『できなくもないわよぉ』

 

 影の中のヒルダが当たり前のように応える。

 

『ただまぁここまで来るのに結構力使ったから連中片付けると当分私サポートできないわよぉ? お前の影の中で存在維持し続けるだけでも消費はあるしね』

 

「……それは」

 

 少し迷う。

 場内でのヒルダの活躍は尋常ではない。ヒルダがいなければ脱獄もかなり遅れていたはずだ。ここから先脱出したとしても当然追跡はあるはずでそこでもヒルダの力は絶対に使える。

 故に数瞬迷い、ジャンヌの表情には気づくことなく、

 

「いたぞ!!」

 

「――やれ!」

 

 階段から上がってきた別の魔女たちに思考をする暇はなかった。

 俺の影から、地を這うように雷撃が迸る。文字通り雷速で伸びる閃光が銃を連射していた魔女たちを一発で昏倒させ、

 

「行くぞ!!」

 

 ジャンヌの手を取り走り出す。

 

「撃て撃て撃て!」

 

 背後から銃撃が来るが、最早構っていられない。倒れている魔女たちを大股で飛び越して、すぐに城壁にぶつかり、

 

「――!」

 

 そのまま飛び越える。

 脚力任せに思い切り跳んだから最初の数秒は無重力みたいな浮遊感。今度こそ視界に白銀の世界が広がり、重力に囚われ落下を開始し、

 

 ――飛来してきた『緋影』飛行形態が俺たち二人を掻っ攫った。

 

 

 PAD『緋影』、それの飛行形態。二輪が前後に横向きにスライドしサーフボードのような形にながら宙を疾走している。スマホが必要だったのはコイツのリモートコントロールの為だ。自動追尾機能の性能はサードとの戦い後に証明済みだったから、追ってきているのは予想できていた。問題が呼び出すタイミングで、それにスマホがなければいけなかったというわけだ。

 何はともあれ――脱走成功だ。

 映画とかでよく見るが、やってみると解る。

 これすげぇ気持ちいい。

 

「ははははははは、最高だぜ!」

 

 

 




感想評価お願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。