落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
「あの、その、ありがとう、ございます」
「あぁもういいから。これ何回目だその言葉。ほら、もう痛くないか?」
「はい、キンジ様からいただいた薬のおかげで大分よくなりました」
「いやまぁ俺の仲間が作ったからな。効果はお墨付きだし……もうないから気を付けろよ」
「そんな大事なものを使わせてくれるなんて……!」
「……うん、そうだね」
日本を発つ前にエルが持たせてくれた携帯注射には治癒力上昇やら鎮痛やら興奮剤等をもたせていてくれたわけだが魔女連隊に奪われたり、戦闘中にぶっ壊れたりしたで鎮痛剤が一つだけ残っていたわけだがそれをリサに使ったのだ。それは別によかったけど、この少女。やたら腰が低い。
まぁ最初に土下座かましてくれたわけだが。
「それでだ。リサ、もう大丈夫なら話聞かせてくれよ。お前は一体どうしてたんだ?」
「……リサは、眷属では自滅紛いの特攻要因として使われてました。それで、今回も師団の代表戦士が集まっている宿屋に攻撃したのですが、相手に攻撃を受けて……」
幸薄そうな気配をさらにしょんぼりさせて、
「もう嫌になって逃げだしました……」
「……そうか。頑張ったな」
「ぁ……あ、ありがとうございます」
敵前逃亡。
そんなことを強襲科ですれば蘭豹に殺されるよりも酷い目に会わされるのでやる奴はまずいないが、この極東戦役においてそれを責める気にはならない。かつて司馬懿が語ったように後の世の勢力図を決める戦いでは戦死するものは比較的少ない。殺すよりも生かして後々取り入れる方が利益になるからだ。
だがそれでも命の保証がされてるわけでないのは俺が最も知っていることだ。
死ににくいかもしれないが――人は死ぬ。
そして死ぬことは恐ろしい。
俺だってそうだ。死ぬのは怖い。怖くないなんて思ったことは一度もない。だから、幾度となく命を遣い潰すような扱いを受けてきた彼女を責めることはできない。寧ろ、逃げるという選択ができただけ彼女には自分の意思があるのだ。
「これから、どうするんだ?」
「……師団に投降しようかと思います。キンジ様、貴方は師団の総長でしょう。リサを受け入れてくれませんか。なんでもします、から」
「ん? 今何でもするって……」
「引っ込んでろ夾竹桃。こんな時だけ出てくんな。……それでなリサ。残念だけど、それは無理だ」
「ど、どうして」
「俺らも師団から追いかけられてるからな。30分くらい前に裏切り嫌疑掛けられて今どーしようかって考え中だよ」
「そ、そんな……」
項垂れる姿には非常に申し訳ないが俺らも逃亡中なのだ。
彼女の力になるのにはちょっとばかし難しい。
「とりあえず俺らはここから離れて疑い晴らすなり、俺の仲間がどうにかしてくれるのを期待するなり、一先ず時間を置くつもりだ。……お前も来るか?」
「い、いいのですか!?」
「そりゃこんな所に放っておけるかよ」
「ぁ……あ、ありがとうございます、この恩は必ず……!」
「いいから、いいからそういうの。ほら、肩貸すから行こう。あ、その前に着替えたほうがいいな。あっち行ってるから着替えておけよ」
『ぁぁ……こんなことが、彼が、リサの勇者様……?』
なんか知らない言語で感激したように呟いていた。
「日本語しか解らんぞ俺は。土地勘もないし、お前の力も貸してくれよ」
「はい!」
「……やれやれ。とんだ凸凹パーティね」
「そこまでにしておけよ夾竹桃」
お前が一番凸凹してるから。
着替え終わったリサに背中を貸し、再び地下道を進み始める。
しかしこの少女、びっくりするほど体が柔らかい、胸もめちゃくちゃでかいし。白雪よりスタイルいいんじゃないだろうか。それに戦闘用の筋肉もないのだ。なるほど本当にまともに戦ったことはないらしい。
これはこれで役得であるが、
「……」
後ろの夾竹桃がいるせいで油断はできない。
こいつシリアスじゃねーと非常に手強い。
いや今も大概深刻な事態だが。
「傷は大丈夫か?」
「はい、薬が効いています。二、三日もあれば治るかと」
「速いな、なんかのスキルなのか?」
「というか、体質です。大抵の怪我は数日で治りますし、感染症や病気にもかかりません。勿論限界はありますけど」
「魔女じゃないのか?」
「……えぇ、術式やスキルのようなものをリサは持ちわせてないので。言葉も、ありません」
「ほー」
イ・ウー残党というのは皆が皆言葉をシャーロックから受け継いだと思っていたが、そうでもないらしい。生前にイ・ウーの生徒に仕込んでいたという話だが、なぜ彼女にはないのか。
「……アンタのことだしな」
「?」
シャーロック・ホームズの行いに意味がないとは思えない。あの男がリサにだけ言葉を与えなかったというにはそれだけの何かがあるのだろう。
じゃあそれが何かは解らないのだけど。
「……キンジ様、ここから上がりましょう」
「まだ上市街地だろ? まずくね?」
「はい、いいえ」
二つの質問に順番に応えたということに気づくのには一瞬必要だった。
「上はスハールベーク駅の真横でしょう。思うに……電車を使ってブリュッセルを出た方がいいと思います」
「その心は?」
「こういう場合は前線よりもどちらかの勢力圏に張り込み、空白地帯の方がいいと思います。眷属の南方フランスか師団の北方オランダのどちちらかですが、ブリュッセルは師団の勢力下、お二人が眷属と通じていることを疑われたのならば必然眷属の下へ行くことを疑われるでしょう」
「……続けて?」
「はい、師団の総長であるキンジ様や代表戦士である夾竹桃様、それに背反しリサが眷属に見つかった場合は大規模な戦闘になるでしょう。それは避けるべきです。ですが貴方達が内通者でないのならば、師団勢力下のオランダにいれば疑いが晴れたときにスムーズに戦線に復帰できます。そしてリサもまた投降の意思があります。何より――」
「何より?」
「リサはオランダ出身です。言語や土地勘、文化にも通じていますし、潜伏先には打ってつけかと。日本人向けの食事も用意できます」
「……」
なんだろう、すごく不思議な感じだ。
だって、
「理論的思考で作戦が練られている……!」
「あの、理論的ではなければどうやって作戦考えるのですか……?」
「ノリと勢いとテンションがバスカービルの作戦骨子でな……」
「だからアンタたちのやり方は頭おかしいから。気づきなさいほんと」
解せぬ。
だが、リサの話は理解した。
話の筋が通っているし、自分の出身についても織り交ぜている辺り賢い。頭のいい奴というと静幻とかシャーロックなわけだが、こいつらに届かないとしても俺らよりはよっぽど賢いのだろう。
「いいね、その案で行こう。日本人向けの飯っていうのが最高だ。頼むぜ」
「はい。ではまず――着替えましょうか」
「ん?」
●
「……これは最悪だ」
「ぷっ、くく……いいじゃない、最高よそれ……くすくすっ……これ見れただけで逃げ出した価値があるわ……くすくす」
「……お前の価値観は俺らに負けず劣らずおかしいからな」
「キンジ様、夾竹桃様、あまりひそひそ話をしないでください。あくまで堂々とお願いします」
「えぇそうね
「……えぇ、そうですわね。桃さん。おほほ」
「えぇ、そんな感じです。……素敵ですよ、キンジ様。才能があります」
「えぇそうね。まさかの才能ね」
うっとりしたリサに含み笑いの夾竹桃。
原因は――俺の恰好だ。
変装のためにリサの持っていた衣装を着ているわけだが、リサの衣装となれば当然女物である。そして俺がそんなものを着れば当然女装である。髪の緋色が目立つので黒のウィッグを被り、服も体のラインが解らないような女物のロングコートだ。なんか見た感じ銀河鉄道のメーテルみたい。リサ曰くペルシャ美人だとか。
嬉しくない。
「血筋ね。……ジーサードもいけるのかしら。来年の夏までに間に合うかしら」
頼むから止めてくれ。
しかし血筋というのは否定できないのだ。兄さんが女装をすればカナになるのだから、顔立ちがそこそこ似ている俺が女装にあっていてもおかしくない。
おかしくない。
おかしくないのだ。
――いややっぱ女装はおかしいと思います。
こんな不条理はぶっ壊したい。
女装乃不条理状態の俺の名前は黒いメーテルだからクロメーテルで、夾竹桃は中国読みの桃で
尚桃ちゃんはリサの衣装の中に唯一あった黒いスーツだ。サイズさえ合えば俺が着たのだが、駄目だったから彼女が着てボディガードみたいになっている。男装の麗人と言えば聞こえはいいし、事実似合っている。
リサの方もウィッグやメイクで変装していて、クロメーテル様の秘書ということだ。
凸凹パーティがさらにとんがってこんなことになるなんて考えつかなかった。いや、考え付くのも嫌だったけど。
……ダメだ、思考が同じようなことになっている。
「はぁ……」
「……素敵ですクロメーテル様……」
「こっちもこっちでいけるわね」
●
「リサには戦闘や権謀術数の適正はありません。多分、戦闘力に関しては代表戦士でも最低クラスだと思います」
「いや、喧嘩よりお前さんみたいにオツムがまともな方が偉いと思うぞ? 普通に生きてればとんでもスキルとか要らねぇしなぁ。他に得意なことはあるか?」
「……そ、その。リサは……会計が」
「……」
言われたことに首を傾げる。
走り続ける電車の中、周囲に人はいないから会話を気にすることはない。聞いていたのはリサの持つ技能の類だ。これから当分行動することになるのなら把握しておかなければならない。
が、謎の単語が出てきた。
「会計が得意……? 会計……? んん……?」
「……何に首を傾げてるのよ」
「会計ってなんだったけ……とか思って、それからよく考えたら『バスカービル』の会計ってどうしてたんだったけと思って……キリコとか平賀さんとかから色々買ってるはずなんだけど……」
尚のその問いの答えは我らが封印系妹様ちゃんが間宮と遊ぶ片手間にやっていてくれたらしい。
「イ・ウーでリサは武器弾薬燃料食料生活用品等の取引を担当していました。あとナースや薬剤師のような役目も。……本格的な医師ではないんですけどね」
「つまりはメイドなのよこその子。凄いわよ、一家に一台どころか、彼女一人でイ・ウーの生活面は回っていたといっても過言ではないのだから。私も随分と世話になったわ」
「威張るなよ、感謝しろ」
「あの、いえ。それが私の役目ですので……」
「んでもじゃあなんで主戦派なんだ? 話聞くと研鑽派の方だと思うんだが」
主戦派といえばシャーロックの後継いで俺たちが世界の覇権握ってやろうぜとかノリノリでやってる連中のことだ。そんな連中にリサのような性格は合わないはずなのだが。
「……リサをイ・ウーに連れ出したのが主戦派だったのです。だからそのまま流れでFEWでも眷属側に。それに」
「それに?」
「――リサは勇者を求めていたのです」
「……俺、じゃないよな」
「それは」
「彼女の家系は自分を守ってくれる武人を求めていたのよ」
リサが何かを言う前に桃ちゃんが繋いだ。
「アヴェ・デュ・アンクは代々女系であり、戦闘力の無いのが基本だった。そんな女たちが戦乱の世を生き抜くためには時代時代の英雄を己の勇者と見定めて、頼って生きるしかなかったのよ。行ってみれば一族レベルの妾体質ね」
「日本語!!」
「いえ……間違いではないのです。結局のところそういうことですから、便利な女を極めたのがリサたちの一族なのです。そのつもりでイ・ウーに所属しましたが主戦派には女性が多く……リサの前に、リサを守ってくれる、リサを傷つけない勇者様は現れませんでした」
悲しそうに彼女は言う。
こんなにも求めているのに、どうして私の前に現れてくれないの――?
そんな、悲劇のヒロインみたいに。
「……傷つくのは、嫌か?」
「嫌です」
断言だった。
逃避や諦観ではなく、もっと何か、より強い意志を感じさせる拒絶。
自分可愛さだけとは何かが違う鬼気迫っているほどの迫力がそこにはあった。
「リサは――傷つきたくないのです」
感想で拳士最強のくせになんで苦戦してるの?
とか言われたけれどそもそも最強ってなに?みたいな話をするとくそめんどいし、あんまあれだけど。
そもそも私が無双系好きじゃないのでそういうのが好きだと読めないですよねとか思いつつこんなとこまで読んでれば言うまでもないのかなーと思った。
てか考えよう。
常に無傷で余裕をもって敵を打倒し、周囲から賞賛される那須蒼一。
……ねぇな(
血反吐はいてみっともなくてカッコ悪くてダサくて何もできないけど、たった一つのことだけは譲らないのがうちの主人公なんです。
書いてて恥ずかしい。
何書いてるんだろう私は。
スレやってるので見に来てね(ステマ
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