落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
今年も落ち拳をお願いします!
「うーん、大分よくなったな」
「えぇ、顔色も良いですね。熱もないようですし……でも、まだ無理は禁物ですよ?」
「あぁ解ってるよ」
熱でぶっ倒れてから丸三日後。ようやく俺の身体は復調していた。熱に三日も寝込むなんてことはかなり久しぶりだったが、その分安静にした結果はあった。香港からの消耗が大分和らいだと思う。最も、そのせいで体が鈍ってることはあるが、それは追々直して行こう。
「今日は精のつくものを用意しましょうか、最近は消化にいいものとスープやお粥ばかりでしたし」
「そうだな、肉とかがっつり行きたい気分だ。力付けるにはやっぱ肉だしな肉。こう、すげー体に悪い感じでいいぞ」
「くすくす、解りました。でもちゃんとバランスも考えて作りますね」
この三日間、甲斐甲斐しく世話をしてくれたのは勿論リサだった。ただ寝てるだけじゃここまで体が回復することはなかっただろう。今までの治療といえば色金の気やエルの薬によって治癒力を向上させて無理矢理修復させていた。だからこそ戦闘中に致命傷を負っても肉体機能が損なうことはなかったわけだが今回は全く別のものだ。
治療というより――療養だ。
ただ体の損傷を治すわけじゃなく、身体そのものを癒す術を彼女は心得ていた。
「しかしそうなると……少し歩きたいなぁ」
「クロメーテルさんの出番ですか!?」
「……」
そう、問題はそれであった。
出歩く為にはクロメーテルちゃんに変身しないといけないわけで、それは非常に俺の精神を削るのである。
「安心しなさい、新しい服のバリエーションは用意してるわよ」
「引っ込んでろ」
コイツはもうほんと変わらねぇな!
人が寝込んでる間も全く心配とかした様子は無くて、よく解らない同人誌ネタを漏らしてくるばかりだったし。しかも大半のネタが間宮×遙歌だ。あいつらはシャレにならんから止めろ。
「ぐぬぅ……」
だが別に女装に関してはシャレじゃない。潜伏中なのだから変装しなければ出れないのも当然である。理論上、この女装は間違っているものではない。
ない、が。
え、やっちゃう?
俺自分から女の恰好しちゃう?
兄さんとの同類になっちゃう?
「くすくす」
「…………」
●
「モーイ、モーイ! 素晴らしいですよクロメーテル様! この衣装もよくにお似合いですっ」
「……ありがとよ」
「あらあらクロメーテル様、口調が乱れてますわよ?」
「…………おほほ、ありがとうございますですわ桃ちゃん」
非常に腹が立つ。
何が腹が立つって、女装したら結構かわいいじゃんとか思ってしまった自分だ。なんだろう、遠山一族は女装の才能もあるのだろうか。俺と兄さんがこんなんだから親父や爺さんも上手く行ったりするのだろうか。
想像したら吐き気がして来たわ。
「……なんか今日は騒がしいですますわね」
「えぇ、今日はお祭りのようですね。風邪に間に合うか心配でしたが、さすがはご主人様。きっちり合わせて来られるとは流石です」
「それは別に狙ったわけではないでござんす」
「貴女ねぇ、もうちょっと口調統一したら?」
難しいことを言うな。こちとら滅茶苦茶恥ずかしいんだが――と言いたい所だが、最早腹をくくってしまった以上、ちゃんとやらなければまた先生たちに締められかねない。
というわけで知り合いの女の真似をしてみよう。
「んっん……アンタのことが好きだからやってるんだからねっ!」
「ツンデレぽいけど普通にデレてるじゃない」
「うへへ……洗濯物を預かるよ……? 大丈夫大丈夫、汚れはちゃんと落として新品同然にするからさぁ……!」
「同然っていうかすり変える気でしょそれ」
「桃ちゃんお菓子奢ってぇ!」
「黙れ」
「……………………」
「急に無表情で黙らないでよ」
「桃ちゃん! そんな顔しないでください、この完全系妹様ちゃんが付いてますから!」
「妹じゃないでしょ貴方……というか地味に上手いというかキャラが濃すぎて誰が誰だかまるわかりね」
「おほほ」
付き合いが濃いからこれくらいはできる。
理子辺りはマジで一見しただけだと本物と見間違うレベルの変装をしてくるので悪戯が酷い。俺はなんとなく解るし、アリアなんかは超直観、レキは電波で解るもののそれ以外の皆は結構被害にあったりする。
「しかし……騒がしいな祭りでもあるのか?」
町には民族衣装を着ている女性や手作りだろう怪物の被り物の男や子供が練り歩いている。
リサも沢山の布を使ったロングスカートの同じような民族衣装を着ている。妙に胸を強調したデザインでリサが着るとすごいことになっていた。
桃ちゃんは前と変わらないダークスーツ。
「えぇ……ジェヴォーダンの獣……それを祭る為の祭りです」
「ジェヴォーダン?」
どこかで聞いた覚えがある。
首を傾げた間にも祭りは楽しげに続いていた。
化物になった男性陣とそれに襲われる女性陣という風に演技別けがされているらしい、
化物が少女を遅い食べられるかのように被り物の中に取り込まれる。だがその後にまた別の少女が怪物に近づき愛を囁くように撫でる。そうしたら怪物は食べたはずの少女を吐きだすという話だ。
つまり、怪物と愛で和解するという話らしい。
実にロマンに満ちた話しだ。
「ジェヴォーダンの獣……日本語いうとなんでしょう、秂狼、狼男……そういう風に訳されます。十八世紀に実際にオランダの人々を脅かした……怪物です。星狼等と称されることもあります」
「人狼……ウェアウルフか?」
「それの
「ふむ。確かにアイツの第二形態は狼男みたいな感じだったが」
「い、いえ違いますよ。ブラド公の第二形態と違い、星狼は流麗な金毛……なそうですよっ」
確かにあの第二形態は灰色というか黒というか綺麗とは呼べない感じだった。もっとも俺は彼ら吸血鬼の真骨頂である第三形態を目撃していない。概念レベルにまで発展できるその第三形態になる前に奴が慢心していたというのは今思えば幸運だった。多分かつての時点でそんな領域で戦えば少なくとも俺はただの足手まといだっただろう。
「しかしブラドの対極ねぇ」
怪異の王ブラド・シュペツの対極ということは。
星狼は生物の王ということだろうか。
怪しく異なる王ではなく。
生きている物の王。
そんな考えを見透かしたようにリサは言葉を続けた。
「その咆哮はあらゆる生物を統べることができたそうです。それこそ肉の身を持ち、実態を持ち、生きているのならば関係なく。……人間は例外だったそうですが」
「覇道の担い手、という奴かしら?」
「……どうだろうなぁ。ある意味そうなのか? 問答無用で制圧? 俺の知ってる覇道の担い手っていいやサードに曹操だが……ちょっと違う気がするな」
覇道とは他者を圧することではない。
自分でいうのもなんだが、覇道とは圧することではな率いること。
制圧ではなく統率だ。
無理矢理自分の意に従わせるというのは些かニュアンスが異なるだろう。
「人と獣の差ってことか」
「……どうでしょうね。流石にそこまでは解りません」
「まぁそうだな。伝説なわけだし」
いやどうだろう。その子孫とかでてもおかしくない。つーか今更本人来ても驚かねぇ。孫悟空とかとかいた訳だし。ブラドが本人だったわけだったんだからその対極が本人でも驚けない。
「…………改めて考えると俺の人生どうなってんだ」
「はっは、ワロス」
「やかましい」
最早慣れてしまった突っ込みを熟しつつ、祭りを眺める。
「リサは行かなくていいのか?」
「リサはご主人様のメイドですので。ご主人様が此処にいる以上リサの場所はここです」
「いや別に気を遣わなくてもいいぞ」
「いいえ、リサはご主人様と共にありますとも」
「……そうか」
本心で実は行きたがっていた、みたいな感じだったら無理にでも行かせようと思ったがそんな感じではなかった。つくづく扱いに困る奴だ。俺の仲間だと何も言わずに勝手に突っ込んでいるか、俺を引きずって突っ込むかだ。
「ぐへへそして女を食うのは俺の仕事だぜ」
「訳のわからんことを言うなっ!」
こいつ人のモノローグ適当に言うの嵌ってんのか。
迷惑極まりない。
「桃ちゃんは行かなくていいのか」
「アレに混ざれと? 冗談じゃないわ。貴方こそ、行ったらどうかしら? 違和感ないと思うわ」
「おほほ、それこそ冗談ではないですわ」
何が腹立たしいってそこそこ絵になるであろうと自分が思ってしまうからだ。
全くもって拙い兆候である。
「……はぁ、とりあえずあんま人気のない所歩いたりして、ついでに祭りでも眺めようか」
「解りました、私が道案内しますね」
「うむ、くるしゅうないわ」
「お前一応ボディガード枠だろ」
●
「あー……二時間くらい歩いたけど、やっぱ疲れの度合いが大きいな」
女装から部屋着に着替えて体をほぐす。やはり数日寝た切りからの運動は疲労が大きい。
それでもやはりリサのケアがよかったからだろう、悪いものではない。ちゃんと休んで、また今日のような運動を繰り返せばリハビリとしては文句ない。
「せっかくいい感じにリハビリできてるし、このままやりきりたい所だぜ」
『それはどうかしらぁ?』
その声は唐突に響いた。
部屋には誰もいないのに。
桃ちゃんは自室だし、リサは夕飯の準備をしている。
間違いなく部屋には俺なのだが、しかし声は響いた。
誰か、は考えればすぐに解る。
「……どうしたよ、最近黙ってたけど」
『趣味じゃないのよ』
影からゴスロリ姿の幼女が現れる。
ここ最近欠片も姿を見せず、声も発していなかったヒルダだ。
「お前は随分と楽しそうだったけどねぇ? 私は怪異なのよ、貴方みたいに平穏や日常なんて退屈を愛しているわけじゃないし、そもそもそんな時に慣れ合おうと思うような仲ではないでしょう? あくまで私とお前は敵対関係なのだから。利害の一致で、力を限定的に貸しているだけよ」
「そーかい。そうだったな。俺とお前は確かに仲良しこよしって感じじゃあねぇ。んで、そんな仲良しこよしできない俺に何の用だ」
「もうそろそろだと思うわ」
「……何がだ?」
「魔導の匂いがするのよ」
金髪の幼女は口端を歪めながら言う。
「それもとびっきり濃いのよ」
「誰か魔女が来てるってことか?」
「さぁ?」
「……どういうことだよ」
「くすくす」
訝しむ俺に、彼女は楽しげに笑っていた。
「魔女の気配自体は別にないのよねぇ。変な感覚だわ、お前には不干渉って言った以上、あの化物らが来ているというわけではないでしょうし、敵に回るわけでもない。ただ、魔導の気配がするの。本来あるべきものが――書き換えられていくそんな感覚」
「なんだよそれ」
「言わなかったかしら? 大魔女っていうのは世界の法則に干渉して、書き換える権能を持っている。それぞれ司る概念があるとは聞いてたでしょ?」
「それ聞いた時から思ってたけどくっそチートだよな」
「その法則を流れ出す側が何を言っているのかしら」
まぁ、とヒルダはまた笑い、
「もうすぐ終わる平穏を楽しんでおきなさい」
「そりゃどうも。……そいやジェヴォーダンとかの祭り言ったんだけど、お前は知ってるか?」
「……」
「……ヒルダ?」
「さぁ、どうだったかしらね」
それだけ言い残して、再びヒルダは影に沈んでいった。
後に残るのは妙な静けさだけだ。
「……はぁ」
着替えを終わらせて、リサが用意してくれるであろう夕食に向かう。
「絶対なんか知ってるよなぁ」
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