落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
カイザーは魔剱へと引き金を引き続ける。
「くっ……!」
それに対し顔を歪めなら魔剱が振るうのはフラフープみたいな円環状の変わった形の剣だ。刀身自体に術式が刻まれているらしく、魔剱固有の術式はそこからは放たれる。その技術はリバディー・メイソンの魔術部門や教会のエクソシストですら完全に解析しきれない未知の技術だ。固有の術式だけでなく、通常使用の汎用技能ですら魔剱や聖銃たちの技術は計り知れない。
それ故に、術式が主流である欧州では彼らには劣勢を強いられてきた。
まぁだったら、
「銃を使わなければいいだけの話だ」
「モーレツ、ガチですね……!」
そもカイザーを初めとしたリバディー・メイソンは魔術師でも戦士でもない。
諜報員だ。
なので真剣勝負とかに興味はないし、弱点は当然突く。付かないほうが悪い。
そして魔剱の場合対術式戦闘を除けば、
「所詮、子供だな」
「これでもそこそこに修羅場は……!」
「そこそこでは足りんな」
環剣という特殊な武器ではあるが、一通り扱えている。フラフープのように回転させ、そこの回転すらも術式軌道の鍵にすらしているが故に発生する魔力弾はシームレスであり、同時にそれにもまた異能霧散効果は付与されている。
だが――あくまで一通り。
アマチュアならともかく、代表戦士に名を連ねるには足りない。
見た目は中学生だが、技術も似たような物。
さらに言えば今のように瓦礫が散乱し、一体が水たまりになった足場の悪い状況も対応しきれていない。
「ふん――」
それでも一瞬で勝負を決められず、攻めあぐねているのはやはり魔剱の技術が未知であることが大きい。魔剱の技能が術式である場合下手を打てば一気に嵌められる可能性があるから。技術自体は拙いとしても、魔剱がその術式で多くの魔術師やエクソシストを圧倒しているのは確かなのだから。
故に膠着しかけ、
「――凶叉!」
「ぬッ……!」
この状況はそれを許さない。
飛び込みながら双刃を振るうのは顔色が悪く、脂汗を流した妖刕だ。夾竹桃の毒が完全には抜けきっていないのだろう。それでも動けないわけではないらしい。というよりも、
「……無粋なコートだ」
「行くぞ……!」
だがそれ以上の問題がある。そも例え妖刕が異常なまで膂力の持ち主であろうとも、それだけならば欧州の魔術師たちが圧倒されるわけがないのだから。
飛び出してきた妖刕にカイザーは躊躇わず引き金を引く。通常の鉛玉ではなく、特殊加工し弾速と威力を高めた特別製だ。武偵弾ほどの埒外の威力は無いにしても、通常弾より殺傷力が高い。それを一息に六発。妖刕の腹部目がけて連射する。
「――見えてるぞ」
それを妖刕は残らず回避する。総ての弾丸の軌道を把握しているかのように動き、隙間を縫うように異常強化された身体能力で弾幕を突っ切ってくる。後から追加で叩き込む弾幕も同じであり、それらの弾丸の隙間を縫うように手首のスナップで投擲した刃すらも、
「無駄だ」
打ち落とす。
「チッ……!」
接近を赦したが故に、背から長剣を引き抜き叩き付ける――前に妖刕がカイザーの斬撃の直前で停止。
「傾巍十字!」
技後硬直と同時に、双刀がカイザーの首を挟み込むようにX字で叩き込まれる。
カイザーの判断は即座だった。長剣から手を離し、即座に背後へと飛び退く。同時に袖から滑り落としたのは攻撃用の魔術符だ。魔力を通せば標的を自動追尾して射出されるように術式が刻まれている。
射出した。
両袖から八条の光が妖刕へと飛び出し、
「――カナビス!」
彼の背後から飛び出した光弾が術符の光を解体する。
「……!」
それらが、問題だった。
近接戦闘に於いて未来予知のように相手の動きを読んでくる妖刕。
魔術戦闘に於いて一切残らずこちらの術式を解体してくる魔剱。
術式を使えば魔剱に潰され、だから近接戦闘を行えば妖刕に阻まれる。
馬鹿らしくなる程に単純だがそれ故に穴がない。彼らどちらか単体であれば、そこまでの脅威ではないがしかし二人が組むとどうしようもない。おまけに妖刕の方には異能解析技能すらもあるらしい。せめてもの救いは妖刕は平均して三分程度の戦闘しか行えないということであるが、そのあたり魔女連隊の魔女たちが上手く彼らを運用させていた。
「行くぞ、魔剱」
「えぇ、妖刕」
「……どいつもこいつも餓鬼ばかりが」
●
「AMEN……!」
「はっはー!」
聖銃の光弾が飛び交い、燐光を纏う聖剣が振るわれる。
連続する射撃音と斬撃音が飛び交い、しかし押されているのは、
「このっ……!」
「おいおいどうしたぁ? 神様のお祈りが足りないんじゃねぇのかぁ!」
メーヤの大剣が光弾を断ち切る度に、剣の光は減衰しダメージが彼女に蓄積していく。
それどころか光弾の威力は一発毎に増していき、故にメーヤの身体に傷は増えていく。
「異端者が……!」
「あぁ、そうだよ俺は所謂異端だ。それで? その異端にボロ負けしてるお前は何だ?」
笑みと共に立ち回るその様からは戦闘中であるにも関わらず、それに真剣に取り組む意思は感じられない。酔っぱらっているかのように体の軸はブレ続け、口端は緩み続け締まりはない。動くたびに全身のシルバーアクセサリーが
銃を握る手にすら力は碌に入っておらず、時折落としそうでいるほど。
「その様が、他ならぬ主への冒涜です……!」
「毎日毎日祈ってれば救われるって? 阿呆か、人間ならまともに行動しろよ。神様ぶっ殺すくらいな」
「ふざけるな!」
一括と共にメーヤが大剣を振るう。それは力任せだというにも関わらず、幸運強化により最適な斬線を描いて振るわれる。迫真の声と共に振るわれるが、
「無駄だよ」
「――!」
聖銃の魔弾が根こそぎ吹き飛ばす。
幸運強化も刀身に纏わされた光すらも何もかも、メーヤの信仰を嘲笑うかのように。
「お前じゃ、お前らじゃ
「……ッ、この異端者がッ!」
「あぁはいはい聞き飽きたそういうの」
激昂するメーヤだがしかし船坂は欠片も取り合わない。
ケラケラと笑い、目を細めるだけだ。
「――つまんねぇんだよなぁ」
●
「わははははは!」
腹から声を出して笑いながら――戦う。
拳を、刃を、銃弾を、術式を、異能を。己の持つ力と技術をフルに用いながら俺は厄水の魔女とぶつかり合う。
「どりゃぁ!」
カツェが振るうのは先端に釘のついた青い鎖だ。術式では基本中の基本らしい。拘束能力は勿論物理的な破壊やら精神攻撃の類も付与できるなんて話を聞いたがしかし俺からすれば何でも一緒だ。拳銃の引き金を引き、色金の弾丸が青鎖を粉砕する。
それによりカツェの攻撃手段を奪った――わけではない。
【我が鉄鎖が砕けたとしても、それは潰えたことに非ず! 其は隕鉄の剣にして、鉄の鏃なり! 故その鋭刃を以て怨敵を打ち砕かん!】
「――!」
粉砕したはずの青い鎖の欠片、それが極小大量の刃となって俺へと迫る。緋々の気による異能破壊は対象を文字通り粉砕する。だからそれを見越して鎖を振るったのだろう。狙いは違うことなく、百近い鎖刃が俺の視界も死角も残らず埋め尽くしている。
「
二挺拳銃を翼のように広げながら体を回す。一発毎に打ち落としていたのは話にならない。だから銃弾弾きを連続する連環撃ち。しかしそれだけでは同時に迫る鎖刃を総て打ち落とすことは不可能だ。俺にそこまでの射撃技術は無い。
故に、別のスキルを用いればいい。
「――
色金で形成した弾丸、拳銃弾サイズのそれをさらに小さく細かく散らす。一つ一つは小さな石ころ程度で威力としては体に当てた所で軽傷にしかならない。
だが、飛来する刃の軌道を打ち落とし、軌道を逸らすには十分だ。
やり遂げた。
「かっー! 頭おかしいんじゃねぇかお前!? なんだ今のどうやった?」
「普通に、軌道計算して、弾丸当てに行って、それをさらに、弾かせただけだぞ?」
「それ人類の所業じゃねーから!」
「馬鹿め! この位兄さんも金三もできる! 遠山家三兄弟ができるというのならこれはもう普遍的に可能という証明だな!」
「いやつまり人類には不可能ってことだろ」
解せぬ。
結構癖になるんだがこの感じ。
首を傾げながら、動き続ける。弾丸のリロードは入らない。
意識を込めればそれで十分だから。色金の気を再装填しながら、前に出る。向かう先は口端を歪める魔女であり、
「おらよっ」
「っと!」
投げつけられたのは小さな幾つかの小瓶だ。ルーブルの時も見た時は爆発する酸だった。或はあの時はそうだったが今は別の効果かもしれない。何が来るかが解らない――ならば効果が出る前に潰せばいいだけの話であり、それを緋々の気は可能とする。
銃身に色金の気を纏わせて打撃し、そこに込められた異能そのものを破壊した。
【集え、我を取り巻く水の妖精――】
その間にカツェは詠唱を続ける。元より小瓶はただの時間稼ぎだ。何をしてくるか解らないから、何か起きる前に打撃するしかないとと行動させるだけの時間を生み、その間に次の攻撃の準備をするつもりなのだ。
【汝らは形なきもの、無限の姿を持つ幽玄の踊り子!】
「させるかぁ!」
彼我の距離は二歩程度。逆を言えばそれだけ必要だ。どうにも俺は縮地系の技能が苦手で、これが蒼一ならばそもそも最初の時点即座にカツェの目前に出現できるだおるがあれこそが人類の例外なので置いておく。
銃があるので打てばいいだけの話だ。
だから弾丸を射出し――そのままカツェに命中し吹き飛んだ。
「……はぁ!? 何普通に受けてんの!?」
「当たっても死なないからなぁとはいえこれ超痛ぇ訴えるぞ!」
「お前犯罪者俺武偵つまり俺勝利確定!」
が、意図は理解できた。確かに俺の弾丸では人は死なない。どれだけ致命傷になるものを受けたとしても、俺の攻撃が原因で死ぬことはない。そういう風に色金が調整してくれる。つまり、逆に言えば激痛や体へのダメージを無視すれば受けられなくもないということで、物理的威力が高い緋々の気を無防備に受ければカツェのように体の小さい女だったら結構な距離吹き飛ぶだろう。
そして、
【今この場こそが舞踏の場! 舞い踊る誉を此処に! なればこそ演舞を害する者に鉄槌を下ろせ!】
詠唱が完成する。
「っ、周囲の水が――!?」
最初にカツェが俺たちにぶちまけて周囲を水たまりに変えていたが、それが今再び頭上に巨大な水球となって形成された。
「お前は糞器用で点をいくら用意してもアホ拳銃スキルでどうとでもするわけだが――巨大な面ならどうだ?」
「カ――」
「落ちろ」
カツェの腕の振りおろしと共に落ちてきた。
カツェの言葉は確かに正しい。銃弾やら矢やら狙撃弾やらならいくらでも弾くなり逸らすなりできるが――こういうただ巨大な水の塊を独力で吹き飛ばすことは俺にはできない。
ついでに言うならば
ただの水だから大丈夫というわけではない。
重力に加えて詠唱から考えるにそれ自体が結構な速度と質量を持っている。
振ってくる巨大な水の塊を見上げながら思う。
「――お前俺大好きだろ」
「寝ても覚めてもお前のことを考えてだなぁ……」
呑まれた。
●
「キ、キンジ様!?」
視界の中、キンジがいた場所に巨大な水球が落下するのをリサは見た。家一つ分くらいの水量が彼に叩き付けられ、あまりの衝撃に大きな水柱が生まれるほど。落下の余波により地面が揺れ、悲惨した飛沫が雨となって降り注ぐがそんなことに構っていられなかった。
「っ……!」
「ちょ、止めなさい! 何をする気!」
「でもキンジ様が!」
「貴女が行っても何もできないでしょうが!」
「それは……でも……!」
確かにそうだ、何より自分は絶対に傷ついてはならない。それだけは絶対にダメだ。
けど、それでも――
「解ってねぇなぁリサよぉ!」
「!」
焦燥に駆られるリサにカツェが嘲笑うように吠えた。
いや、嘲笑うというより、楽しそうにだろうか。水煙と雨に覆われながらも、彼女はキンジのいた場所から目を逸らすことなく、
「この程度でこいつ、絆の勇者様がどうにかなるわけねぇだろ。――なぁ、戦友?」
「――ったく、ほんとお前は楽しいなぁ戦友」
「!」
視界が晴れて――そうして遠山キンジがそこにはいた。
髪をかき上げるその姿はずぶ濡れになっているが、目立った外傷はない。あれだけの勢いがあれば全身骨折なりしていてもおかしくはないのに。
「武偵弾か?」
「あぁそうだよ。俺のスキルじゃ無理でも俺の装備ならできなくもねぇ。もうこれ数少ないんだけど……あっ、これが狙いだったか」
「骨の数本とか行けばいいって感じだったけど、そっちもあったのは確かだぜ」
武偵弾。つまり、それで水球を撃ち抜いた――なるほどあれは弾丸一つ分でグレネード並の威力を発揮する。出現した大きな水柱は落下の衝撃だけじゃなく武偵弾が水球をぶち抜いたものでもあったのだ。
「あれこれ考えすぎだぞ」
「考えねーのが悪い」
「ははは」
「けけっ」
理解が――追いつかない。
カツェはキンジの弾丸を受けているし、キンジだって水球にしても完全に無傷ではないだろう。
なのに、二人は笑っている。心から、楽しそうに。敵同士にも関わらず、魂で通じ合っているように。
「――っ」
胸の中に、訳の解らない感情が湧き上がって、
「そういう感情”い”らないよね?」
●
「――え?」
「リサ!?」
突如として発生した歪な気配に視線を向ければ、
「いらないものは捨てちゃえばいいんだよ、だよ?」
口端を大きく歪める化物がそこにはいた。
フリルやレースの多い紺色のゴシックロリータ姿の少女。見覚えがある、見れば忘れるわけがない。外見だけがただの少女にも関わらず、にじみ出る化外の気配は拭えない。
手にした無骨な鉈をリサに袈裟に叩き込み、
「『拒絶の魔女』、リューンレーナ・クリュセラート――」
鮮血に染めた無垢な笑顔と共に俺へと告げた。
「元老院議長『永劫の魔女』ベアトリーチェ・メルクリウス・カスティリオーニの決定により――遠山キンジ卿を拘束するよ、よ」
スレとの同時は難C!
バスカービル面子も出演している模様。