落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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第5曲「――甘いのぅ」

 ヒルダの転移術によって作り出された一対一の決闘。

 それは戦役において正道であるが、それ以上にこの展開に持って行ったのは切実な思惑もある。

 『魔剱』と『妖刕』、『聖銃』。

 欧州の戦役で傭兵でありながら代表戦士となり、戦いに加わっている。そしてその戦闘では彼ら三人は恐ろしいほどの猛威を振るっていた。数十年、数百年と連綿と術式(コード)の研鑽を重ねてきた魔女たちに対して十代半ばの子供に過ぎない彼らがほぼ一方的に戦闘を重ねていた。

 それは単に魔女たちが弱くて、『魔剱』たちが強すぎるという話でもない。

 条件付け。

 能力Aを発動する際に必要な条件X。

 術式においてはこの方程式が原則であり、条件Xが複雑であれば複雑であるほどに能力Aは協力になっていく。ただし、それにはもう一段階上がある。条件Xが自ら整えるだけでなく――相手側もまたその条件を犯した場合。己だけではなく相対者もまた能力発動に協力しているが故に必然能力Aは強力になっていく。

 協力による強力――協力強制。

 つまりは相手を自分の土俵に乗せる技術だ。

 ここで恐るべきは結果強化される能力AならぬA´だ。術者本人の力だけでなく、相対者の力まで使っているのだ。本来対立しているはずの相手の力も借りているのだから飛躍的に異能強度が上がるのは当然のことであり、同時に自らを打倒しようとする相手の能力に力を貸すのだから自分の敗北が発生するのはごく当然のことだ。

 相手を術中に嵌め、相手が有利に進め、相手の力量も借りて。

 相手と繰り出す合体技で相手を倒す――それが術式(コード)の深奥、協力強制。

 無論どんな魔女でも当然のように使えるわけではない。単に相手の行動を起点として条件を作ることはできるがしかしそれは協力強制としては成立しない。術式における最高技法は並の魔女に扱えるものではない。代表戦士であるカツェ・グラッセやパトラ・遠山ですら尚至れない最高峰(ハイエンド)

 魔女では足りない――化物たる大魔女の領域まで外れなければ、或は御伽噺の英雄や勇者の領域まで高まらなければならないのだ。

 協力強制――魔女の宴(Walpurgisnacht)――勇士の真(Volsunga saga)

 そして魔剱たち三人の傭兵はそれが使える。本来であれば彼らにはそこまでの実力はない。全くもって足りない。

 けれど彼らの背後のある大妖怪は違った。

 欧州に至る寸前に戦友を失った彼らに対して細工を施した。数百年生きる大化生であり、存在強度そのものは弱まっているとしても術式への造形を深い故に本来できるはずのない反則も使えたのだ。その上条件Xさえもかなり自由度を広げ、適応範囲を広げている。

 だから彼らは強かった。

 特に魔剱と妖刕は互いの能力が噛み合っているから、コンビを組ませると手に負えない。

 欧州の師団の代表戦士たちですら軒並み歯が立たず、猛威を振るっていたのはそういう種があった。

 故に彼らを打倒する条件は二つ。

 そもそも協力強制を発動させない。

 『魔剱』と『妖刕』は別個に戦う。

 それはキンジとリサにより果たされた。

 協力強制は嵌ればどうしようもない。

 ならば嵌らなければ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

荷電粒子砲(メビウス)――!』

 

 竜の巣内の通路、進行方向より先にスパークと共に出現した女に対して問答無用で異能解体の砲撃をぶち込んだ。『魔剱』立花・氷焔・アリスベルの夢にして真。大化生により魂を改竄されながらも顕象させた彼女だけの誓い。欧州の戦線において多くの師団の魔女や術式使いたちを一方的に打ち倒した未知の魔術。

 魔女たちが何十、何百年も連綿と積み重ねてきた誇り高き魔導を無意味と断じるかのように解体し、分解する異能殺し。単純に能力を解体するだけでもない。あらゆる武装装備防護も強制的に剥ぎ取る武装解除、一度受ければしばらくは異能を用いることすらできない。

 環剣から放たれた閃光は違うことなくパトラへと突き刺さり、

 

【悪銭身に付かず――そんな物を持った憶えはないから問題ないがの】

 

 しかし、パトラはその姿に何一つ変わなかった。

 

「ッ――言葉(スタイル)!」

 

 自身の信仰する異能が何の効果を見せなかったことに歯噛みしつつ、けれどその原因は予測が付いていた。

 言葉(スタイル)

 それはこの時代(・・・・)の魔女たちにとってアリスベルの術式が未知であるように、アリスベルにとってソレもまた未知であった。

 協力強制の雛型となった術式ですら効果のない異能があるなんてアリスベルは思いもよらなかった。

 

「言葉――『金言遣い』」

 

 シャーロック・ホームズより与えられたパトラの言葉。

 金を扱い、金を尊ぶ彼女のそれは『金』という言葉に関する金言――即ち、格言、諺、慣用句を実現するというものだった。

 時は金なり――金を消費すればその分自分の時間を加速できる。

 金の切れ目は縁の切れ目――相手に与えた金を捨てさせればそれが互いの干渉は消滅する。

 悪銭身につかず――自分が正当な手段で手にいれば装備なら絶対に手放すことはない。

 

「残念じゃが、お主の異能は妾には効かんよ。ま、妾も自分の術式使えないわけじゃがな」

 

「だったらー!」

 

 余裕気味に苦笑するパトラへとアリスベルは駆け出す。『砂礫の魔女』パトラについては『颶風の魔女』セーラから聞いている――聞きだすのに大量のブロッコリーを買わされた――。砂金を操り、世界有数の魔女。性格に難在りながらもその実力は決して低くない。イ・ウー崩壊時では『拳士最強』に為す術もなく打ち倒されたとの噂であるが、あんな伝説の存在を前にすればそうならないほうが在り得ないとアリスベルは思う。 

 それを差し引いても彼女は魔女であり、砂礫使いだ。

 近接格闘では原則的に使い魔を用いるほどに、白兵能力は高くない。

 それがセーラから得た情報だった。

 だから接近戦だ。

 アリスベル自身の剣の技量は代表戦士としてはかなり低い。一流の戦士相手では為す術もない程度のものだ。けれど環剣という武器はその独特の形状故に、相手が対応するのは難しいものだ。

 聞いている程度の力量であれば、押し切れると判断した。

 

「ハァーーッッ!」

 

 だから薄い笑みを浮かべたパトラへとフラフープを操るかのように叩き込み、

 

「――甘いのぅ」

 

「――え?」

 

 振り回した髪(・・・・・)に環剣が弾かれた。

 髪。

 そう、髪だ。パトラの漆のように光沢のある美しい髪。

 それに、環剣がぶつかり――そして押し負けたのだ。

 言うまでもなく環剣という武器は鉄の塊であり、文字通りに円環上の刃。フラフープを操る様に用いる、というよりもまさしく刃のフラフープだ。重量的に見れば通常の刀剣類よりも重く、そう簡単には弾き飛ばせるものではあい。その上円環形状により遠心力が乗せやすい。アリスベルの非力さでも一定以上の威力を発揮できるものであり、回転運動を重ねることで術式詠唱も可能とする。

 なのに、髪だ。

 肩の辺りまでしかないセミロングの前髪ぱっつん。

 そんな程度しかない髪に環剣が押し負けるなんて理解が及ばず――髪から滑り落ちる刃を目撃する。

 それは一枚一枚は細く、小さい刃。黒髪の中に編み込まれた微細な刃片。髪の合間から落下し、十数枚の鋼は一瞬で合一。三日月状の刀剣が形成され、さらに次いで現れた数本の棒と合体。

 完成したのは鎌だった。

 少し小ぶりでパトラらしくない、装飾の少ない黒い鎌。

 

「――『サソリの尾(スコルピオ)』」

 

 振るわれる。

 ヒュン(・・・)という小気味のいい音が切り裂く。

 

「ッ――!」

 

 咄嗟にアリスベルが後退するが、

 

「遅いの」

 

 滑り込むように三日月の刃は環剣の内側へ潜り込む。

 斬り裂いた。

 

「きゃぁッッーー!」

 

 身に着けているどこかの学校の制服は防刃素材で出来ていたが、それも抜いて鎌の先端の刃がアリスベルを引き裂いた。

 

「いよっと」

 

 そのままパトラは指の動きで鎌を回し、環剣を掬い上げながら没収する。体勢が崩れたアリスベルには足払いを掛けて転がし、鳩尾当たりに足を乗せて踏みつぶし、

 

「――ほれ、降伏せい」

 

 環剣を肩で担ぎ、鎌をアリスベルの頸筋に押し当てた。

 

「ど、どうして……貴女がこんなっ……!」

 

「あぁん? 何をほざいておるんじゃ小娘が。大方セーラから妾が近接苦手と言う話を聞いて突っ込んできたんじゃろうが――阿呆か」

 

 確かにパトラの近接格闘能力は高くない。

 けれどそれは代表戦士としては、という前置きが入るものだし、同時に代表戦士レベルを切っているわけでもない。

 何より、

 

「妾は遠山パトラ――遠山金一の妻じゃぞ。貴様のような子娘に後れを取るわけがあるか!」

 

 近接戦闘が弱点であるということは自覚していた。だから欠点を補った。愛する人は世界最高レベルの実力者――女装すればという条件があるが――なのだから、彼から直接教わった。基本的に何をしているのか解らない夫であるも、彼女は絶対的に信じている。彼から貰った武器と彼から貰った武威を誇るかのように振るうのだ。

 それは純粋な武威であり、アリスベルの協力強制には含まれない。

 故に真っ当に遠山パトラは立花・氷焔・アリスベルを打倒する。

 

「どうじゃ? お主は、お主の恋人を信じてるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

【鈍そうな顔ね、いかにも量産型ラノベ主人公みたいに長めの前髪で顔もコートで隠して中二病ってか高二病かしらね。それで顔隠して周りの女の子の行為にも気づかない振りしてる難聴なのかしら?】

 

「ごほっ……!」

 

 『妖刕』原田静刃は夾竹桃の言葉に大量の血を零しながら、膝を付く。

 体が、動かない。痛みはないが痺れと脱力が全身を犯して肉体の自由を奪っている。『妖刕』の最大の特徴はその恐るべき白兵能力の高さだ。魔術的な素養はないが、しかしこと近接戦においてならば欧州師団の代表戦士カイザーを圧倒しているほどだ。

 あらゆる武術も武威も何もかも彼の前では透けて見える。

 剣にて切り結べば原則的に彼に勝てる者は限られる。そして現在欧州師団にはそれだけの力量の持ち主は存在せず、

 

【黒いアンタが這いつくばるとまるっきり虫ね。うん、我がらいい表現よ。そして虫は虫らしくそこで這いつくばっていなさいな】

 

 戦わずに相手を倒すことができる夾竹桃こそが妖刕を砕く毒に他ならない。

 まともに戦えばまず勝てない。だからまともに戦わない。

 そもそも夾竹桃は過負荷であり、勝利とは無縁の存在だ。

 勝ちを狙っても――どうせ勝てない。

 凶悪極まりない能力(マイナス)を用いてもそれは一緒だ。

 

【だから私は、アンタに毒を吐くだけよ】

 

 言葉毒舌遣い。

 毒舌を吐けば吐くほどその毒は相手を蝕み、犯すもの。おまけに付け食わえるのならばそれで相手が激昂したり不快な気分になればなるほど効果は増す。

 そして夾竹桃は煽りは得意だ。

 へらへら笑って、毒を吐いて、嘲笑うのは苦手じゃない。

 

「ぐっ……ぅっ……貴、様……!」

 

【どうしてアンタもそれ言うのかしらね。それ言う相手はどっかの馬鹿だけで十分なのよ。簡単にうと――二番煎じよ、つまらない】

 

「がはぁっ!」

 

 血の塊を吐く。

 内蔵の一部が毒で潰された。

 戦闘開始――ではなく夾竹桃が口を開いてから互いに一歩も動いていない。

 出現と同時に夾竹桃の毒舌は静刃を襲い、彼は膝を付いた。肉体のリミッターを解除するコートも毒に蝕まれた身体では負担が大きすぎて強化を施せない。

 本来ならば妖刕は夾竹桃が出現した時点で、即座に可能な限りの強化を施し彼女を斬り伏せるべきだった。

 だけど、できなかった――しなかった。

 静刃の魔眼が、何度見ても理解しきれない緋色を映していたから。

 だから反応は遅れて、何もかもが手遅れだ。

 煙管を吹かした夾竹桃は決して妖刕から意識を背けない。近接戦闘に持ち込めば大きい脅威であることには変わらない。

 戦闘能力のない夾竹桃が白兵能力が高すぎる妖刕を押さえる。

 視界を犯し、味覚を犯し、聴覚を犯し、触覚を犯し、嗅覚を犯し――魂すら犯し、毒し、爛れさせる。

 そうして夾竹桃は『妖刕』原田静刃を無力化するのだ。

 

【くすくす――相手が悪かったわね?】




まぁレベルと年期と経験が違う。
どこかの落ちこぼれはもうちょっと。

最近落ちてる更新速度は活動報告にて。

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