落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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第13拳「生き恥さらしてるんですから」

「ーーーー!」

 

 同時に俺たちは飛び出した。俺のスピードは瑠璃神モードであるから音速は容易く越えているはずなのに、遙歌の方が速い。いつかのカジノのように俺の頭へと手を伸ばし、地面に叩きつけようとする。

 

 だが、それは一度受けた動きだ。

 ならば、俺には効かない。

 

「蒼の一撃、第十三番」

 

 超高速で動く遙歌と目が合う。目を合わせ、遙歌の動きの流れに乗り、合わせる。

 

 

「----『明鏡止蒼』ーーーー!」

 

 

「なっーー!」

 

 

 合わせて----己の流れに乗せる! 相手の動きに合わせてから自分の動きに乗せるカウンター! 伸びてきた遙歌の手をすり抜けるように俺が手を伸ばし、遙歌の頭を掴む。

 

「らあっ!」

 

 叩きつける! 傾いた床が崩壊した。

 

「このっ」

 

「ちっ!」

 

 追撃はせずに大きく飛び退いた。刹那、崩壊していた床も俺がソレまでいた空間が鋭い音と共に切り裂かれる。

 

 『糸々泪々(ストリングリング)』----!

 

 極細の極糸が空間を、俺を引き裂こうと迫る。

 それでも、

 

「効かねぇ、よっ!」

 

 全て紙一重で回避する。瑠璃神モードのパッシブスキルの一つ、見切り回避だ。 

 

「よく避けますねぇっ!」

 

「当然!」

 

「なら----」

 

 遙歌が立ち上がり、両手を高く掲げる。ヒュンヒュンヒュンヒュンという音が空気を斬りながら鳴る。それに脳内の警鐘が最大規模で鳴り、

 

「『糸々泪々(ストリングリング)』----」

 

 俺は思いっきり後退した。遙歌は思いっきり両腕を広げた。

 

「----『糸死鬼想衣』ッ!!」

 

 瞬間、

 

 

「ッッーー!」

 

 

 客船の前半分が細切れになった!

 

「本気かよっ!」

 

 足場が崩れるどころの話ではない。そんなレベルじゃなあない。

 

「くっ!」

 

 跳ねる。跳躍し、人間大くらいになった船の破片を足場にして駆け上がろうとするが砂のせいで踏ん切りが効かない。それでも。

 

「兄さん人間やめてませんか!?」 

 

「お前に言われたくねえ!」

 

 跳ねる、跳ぶ、走る、駆ける。雨霰と降り注いでくる破片の軌道をすべて先読みし、最低限の動きで避けながら、駆け上がる。てか、これキンジたち大丈夫か? 思いつつも、気にしてる暇はない。

 

 駆け上がりきり、一番上の破片の下部に着地。限界まで膝を沈め、力を貯める。尚且つ、両腕をクロスさせ、

 

「蒼の一撃、第十一番『疾風蒼雷』----!」

 

 もはや流星となって飛び出した!

 飛び出した衝撃で足場の破片が消し飛ぶほどの勢い。流星となった俺は進路上の破片を吹き飛ばしながらも一直線へと遙歌へ!

 

「ぐーー!」

 

 それ遙歌は真正面から受け止める。やっぱりこいつ、スキル云々よりも素の身体能力が飛び抜けている。全身の気を肉体に余すことなく浸透させた瑠璃神モードと同等かそれ以上だ。

 

「う、ふふふふ! どうですか兄さん!? その程度じゃ、駄目ですよ? もっと強くしてもらわないと!」

 

「うっせ! これでも本気だよっ!」

 

「もっと出してくれないと----お爺さんたちみたいに壊しますよ!」

 

 腹に遙歌のつま先がモロにめり込んだ。

 血の固まりを吐きながら真上にぶっ飛んだ。

 

「それ、は……!」

 

 

 

「ええ、覚えてますよね!? 七年前私は私たちの祖父も祖母も叔父も叔母も! 一族朗等根絶やしにしましたっ! ----こんな風に!」

 

 

 

 追撃の動きはとても攻撃とは思えないものだった。小さい子供が癇癪を起こして握りしめた拳を振り回すだけの動き。でも遙歌の力でやればそれは必殺となりうる。 両肩に遙歌の握り拳がめりこんだ。

 

「ぐ、あっ!」

 

 そのまま、海面へと落ちかけ、

 

「うおおおおっっ!」

 

 走法、宙弾き! 右足で空間を蹴り、逆の脚が蒼く輝く! 

 

「蒼の一撃、第十番ッ! 『豪快奔蒼』ォ!」

 

 全力全開の回し蹴り!それを遙歌の脇腹へとぶち込む!

 

「う、アッァァ!?」

 

 吹き飛ばされた遙歌は未だに残っている客船の半分へとぶっ飛び十数メートルスライドして、ようやく止まった。

 

「う、うふ、うふふふふふ! まだ! まだ、ですよっ! これくらいじゃあ、私は死にませんよっ! 殺してくださいよ! 私を拒絶すればいいでしょうっ、七年前のあの時のように!」

 

「………ッ!」

 

 その言葉に全身が凍ったかのような感覚に陥った。

 

 そう。俺はあの日遙歌を拒絶した。爺や婆に痛い目合わされた次の日の朝。いつもより、遅れて起きた俺は言いようのない違和感に襲われて爺たちの部屋に行った。普段なら寝過ごそうものなら、嫌味とビンタの一つでも受けていたから。

 そして----爺たちの部屋は血の海だった。

 爺も婆も叔父も叔母も身体のどこかが砕けたり、陥没したり。もぎ取られていた。その中心に遙歌はいたのだ。自分のしたことを理解できていなかったらしい。

 

『ねぇ、兄さん。安心してね? これで、兄さんをいじめる人たちはいませんから』

 

 そう言って小さな手を差し出してきて。その手を、俺は取ることができなかった。逃げた。一目散に逃げ出した。親族を殺して、残った兄に否定されたのだ。きっと遙歌は傷ついただろう。

 たとてどれだけ怯えていてもそれを押し隠して、俺は彼女を抱きしめるべきだったのだ。そうすれば、また他の道があっただろう。でもその時はもう遅くて、那須家は炎に包まれていた。

 

「兄さんに拒絶された以上、私に生きる意味なんてないっ! 兄さんに殺してもらうために今日まで生き恥さらしてるんですからーー殺してくださいよ!」

 

 遙歌が甲板を思い切り踏みしめる。震脚といえる程の力はない。それでも、変わりの変化はあった。

 

「んなっ!」

 

 さきほどまでピラミッドを形成した砂が巻き上がり、形を作る。三メートル程の人形の鎧武者だ。

 

「砂はピラミッド一つ分ですから簡単には壊せませんよ!」

 

 でも、それはこれくらい壊して見ろという遙歌の思いなのだろう。なら、それくらいなら答えてやれる。鎧武者の懐へ飛び込む。武器を持っているわけではないがこの大きさはそれだけで驚異だ。それでも敗因になるほどではない。

 

「蒼の一撃、第七番----『翠蒼縛鎖』ァ!」

 

 鎧武者の首や肩、肘、手首、腰、膝、足首。全身の関節部分に手刀を多叩き込む!本来なら関節を破壊して相手の動きを止める技だ。しかしこいつには関節とかは関係ないだろうから、下半身を強めに叩き込み、バランスを崩させて転ばせる。

 

 転んだ鎧武者を通り過ぎながら、加速していき右の拳を振りかぶる。

 そして疾走の勢いを余すことなく使い、

 

「蒼の一撃、第一番、『乾坤一蒼』!!」

 

 思い切り突き出す!

 ただの突きだが、単純故に非常に強力な奥義。

 

「うふふふふふ!」

 

 それに対して遙歌も正拳を射出することで相対する。

 

 二つの拳が正面から激突し、

 

「……………!!」

 

 甲板が放射線状に砕かれる。すぐに拳を引き戻し、逆の拳をたたきこむ。それに対して遙歌も再び拳を打ち出した。

 

 

 

「おおおぉぉぉぉっっっ!!」

 

「うふふふふふふふふふ!!」

 

 

 

 

 

 兄妹喧嘩は、未だに終わらない。

 

 

 

 

 

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