落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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第2拳「少しだけ元気わけてください」

 

 

 イ・ウーの艦内で俺たちがまず目にしたのはこのイ・ウー、否、伊・Uの成り立ちだ。キンジが言うには、第二次大戦のおりに日本やドイツなどの枢軸国を主とした国で創られた超人開発組織。

 つまり、特別(スペシャル)を、異常(アブノーマル)を、過負荷(マイナス)を、そして多分言葉(スタイル)を作りだしていたのだろう。六十年も前からそんなことをしていたのだ。今も昔も大して変わらないか。戦後も潜水艦という特性を生かし、世界に紛れ、各地の英雄たちの末裔を取り込んできたのだ。

 アルセーヌ・リュパンの子孫である峰理子のように。

 ジャンヌ・ダルクの子孫であるジャンヌ・ダルクのように。

 ドラキュラ伯爵本人であるブラトのように。

 那須与一の子孫である那須遙歌のように。

 そして、今現在、長である教授(プロフェシオン)自身もシャーロック・ホームズ本人なのだ。

 

 途中で見たやたら豪華な標本やら美術品やらなんかどうでもよくなる。

 だって、そんな程度の、六十年以上も前の亡霊が。

 今を生きる俺たちに立ちふさがっているのだから。

 過去が、現実を、犯しているのだから。

 

 そんなの認めるわけにはいかない。 

 

 俺たちは今を生きていて。

 俺たちは前を向いていて。

 俺たちは先へと進むんだ。

 

 だから、そんな過去のびっくり人間集団みたいなのに俺たちの陽だまりを失わせる訳にはいかない。

 ようやく遙歌と仲直りしたのだ。キンジだって金一に再開できた。

 だから、ちゃんと。

 俺とレキと遙歌と。キンジと神崎と金一で。

 俺たちの家に、俺たちの居場所に、俺たちの日常に、帰るんだ。

 

 だから俺もキンジも艦内をひたすら進む。進むにつれて分る。レキと近づいているのが。半年前からだが、なんとなくのレベルとはいえ彼女の居場所がわかるようになった。あくまで感覚であり勘であるがそれによれば近い。

 キンジも同じことを感じているのだろう。隣から伝わる気配が激しく、強まっていく。俺とは対極に。

 俺は静かに、キンジは派手に。

 俺は道理を認めないために、キンジは不条理を破壊するために。

 

 

 

 

 

 

「っ!」

 

 教会。カトリック様式の聖堂だ。そんなものがここにはあった。大理石の床には見渡す限りのラテン語がびっしりと彫り込まれてあり、椅子はない。壁側や側廊には生花を生けた伯磁器の壺が飾られている。 

 まさしく、聖域という場所だ。普段ならば頭の中で荘厳なBGMでも流れただろう。

 だが今はそれどころではなかった。

 

 聖堂に足を踏み入れた瞬間――銃声。

 

 俺とキンジの足元に一発。普通の拳銃よりも少し長い銃声はライフルのものであり、俺には聞きなれたものだ。

 つまりそれは、

 

「レ、キ……」

 

 硝煙をあげたドラグノフ。透き通るような翡翠の髪と琥珀の瞳。抱きしめれば壊れそうな細身の体。その身に包むのは記憶の内ではボーイの男装だったが、あれは遙歌に胸を貫かれて血まみれになってたろうから棄てたのだろう、黒緑の軍服だ。何時だったか歴史の時間で見た第二次大戦中のドイツのSS軍服だ。軍帽を右目を隠すように被っていた。

 その隣には、

 

「アリアっ……!」

 

 こちらへと銃口を向けていたレキに対し、武偵高の制服のままで奥のステンドグラスへと膝をついている神崎だ。

 まるでなにかに懺悔しているかのように。

 俺たちの気配を察したからか、あるいはキンジの声が聞こえたからだろうかわからないが、神崎が振り向く。

 

「キンジ……」

 

 僅かに驚くように目を見開きながらキンジの名を呼ぶ。そして、レキに一度視線を移し、レキが軽く頷く。

 それでなにかを決めたようだった。

 

「…………帰って」

 

 静かに、しかし確かに呟いた。その言葉に歩みかけていたキンジの足が止まる。眉がひそまる。

 レキは表情を変えず、だから俺もなにも言わなかった。

 

「なに? お前、何言って……」

 

「帰ってキンジ、今ならきっとまだ逃げられるわ」

 

「な、に……?」

 

「あたしはここに残るわ。これから……ここで、曾おじいさまと暮らすの」

 

 キンジの動きが停止した。俺もレキもなにも言わないから聖堂の中で響くのは神崎の声だけだった。

 

「あんたには、分らないでしょうね。今のあたしの気持ちなんか……」

 

 俯きぎみながら神崎の言葉は続く。

 聞くに堪えない、語るに絶えない神崎・H・アリアの物語。

 

「あたし、あんたに……ホームズ家でのこと全然話してなかったもんね。あのねキンジ、貴族には……一族が果たすべき役割を正しく話すことが求められるものなの。そうでなければ、存在する事が許されない。まるでいないように扱われる――」

 

 どこかで聞いたことのある話しだ。思わず舌打ちする。

 

「あたしは卓越した推理力を誇るホームズ家で、たった一人、その能力をもってなかった。だから欠陥品って呼ばれて――馬鹿にされて、ママ以外のみんなから無視されてきたのよ。あんたもなんとなく勘付いたたんでしょう? あたしは……あたしは、ホームズ家にはいないものとして扱われてきたのよ! 子供の頃から!」

 

 日本だろがイギリスだろうが、落ちこぼれに対する扱いは変わらない。

 ああ、本当に胸糞が悪い。

 

「それでもあたしはずっと、曾おじいさまの存在を心の支えにしてきたの。世間では名探偵という一面だけが持ち上げられてるけど、彼は、武偵の始祖でもあるわ。だから曾おじい様の半分でも名誉を得ようと思って--武偵になった」

 

 背後のキリスト像に触れるくらいに後退する。制服の胸ポケットになにか大事なものでもあるのか大切そうに押さえて。

 

「あたしにとって曾お爺さまは神様みたいな人よ。信仰の対象といっても構わないわ。その彼が、まだ生きていて……あたしの前に現れてくれた。その気持ちが分る? その曾おじい様があたしを認めてくれた! ホームズ一族のできそこないって呼ばれたあたしを、後継者とまで呼んでくれた! あんたに……あたしの、この気持ちが分る? ――分るわけないわ!」

 

 分る。その気持ちはきっと誰よりも、俺が分る。俺も同じだ。

 落ちこぼれてと言われて。

 できそこないと言われて。

 いらないって。必要ないって。

 そうやって必要されない気持ちが、俺には痛いほど分る。

 

「ママのことももう解決する! 曾おじいさまはイ・ウーを下さるとおっしゃった! そうすればママは助かる! 私の手で罪を晴らすことが出来るのよ! わかる!? もういいのよ、曾おじい様は倒せない、もうこれで、いい。あんたの力はもういらない!!」

 

 泣きそうなになりながら、神崎は叫ぶ。

 

「帰りなさい! あんたに居場所はここじゃないわ!」

 

 目じりになみだを浮かべ、胸を押さえながら叫ぶその姿に被るのは――半年前の俺だ。

 半年前、戦う意味を持っていなかった俺に。生きる理由を探していた俺に。

 宙ぶらりんのままだった俺の姿に、似ている。

 

 キンジは硬直していた。まるで数百年も停止していた火山のように。

 そのまま、静かに。嵐の前の静けさを以って、アリアに告げた。

 

 

「――だからどうした」

 

 

「……っ!」

 

 神崎が息を呑み、俺とレキは口元を歪めた。 

 

 ああ、そうだ兄弟。

 教えてやれ。

 救ってやれ。

 

「お前の気持ちは確かに分らない、ああ、そうだな。お前の気持ちはわからない。きっと俺には想像もつかない痛みがあったんだろうな。苦痛が、失敗が、後悔が、悔恨が、だれよりもがんばったのにできなくて、だれよりも努力したのに届かなくて、認めてほしかったのに認めてくれなくて。辛くて、苦しくて、切なくて、どれだけお前はないてんだろうな。やっぱり俺には理解できない――でもな」

 

 火山が目覚める。嵐が吹きすさぶ。なりを潜めていた激しさが巻き起こる。

 

 

「――お前には、俺がいるだろう!」

 

 

 そうだ、それだよ。俺たちが望むものは。

 誰にも必要とされなかったからこそ、誰か一人に認めてほしい。

 たった一人でいいから一緒にいてほしいんだ。  

 

「俺が認めてやるよ! お前はいらなくなんかない! 俺にはお前が必要だ! いいかお前、人のこと勝手に奴隷とか言っておいて勝手に棄てるんじゃねえよ! ふざけんな!」

 

 叫ぶ、咆える、猛る。遠山キンジがかつてなく熱くなる。

 

「勝手にいなくなるなよ! シャーロックに勝てない? 人のことを勝手に手前の価値感で決めるな! あんな前時代の糞爺に負けるかよ!」

 

「まあ、そういうことだよな」

 

 前に出る。いい加減そろそろ介入する。キンジが溜まってたから譲ったがいい加減俺も限界だ。

 

「知ってるだけの人外だかなんだか知らんけど、悪平等(ノットイコール)? んなもん一度倒してる。だからなぁ、おいレキ。そこらへん気にしてるならさ、とっと帰ってこいよ。なんかいい空気吸ってカッコいい軍服着てるけどよ。どうなんだよ、お前」

 

「…………別にそこらへんは気にしていませんよ、私は」

 

 久しぶりに聞くレキの声。顔を真っ赤にした神崎の横でレキは片目を隠したままで、

 

「ただですね、今回の一件、男同士の友情炸裂じゃないですか。なんですかあれは、はっきり言って不愉快です」

 

「……えー」

 

 また久しぶりにあったら凄いこと言ってくれた。沸騰していたキンジも、ガス抜きされたように呆ける。

 

「男同士でこう、ホモホモしくも俺はお前のことわかってるぜ、みたいな空気醸し出して、背中合わせだか肩並べたりして。なんですか、なんなんですか、あれは。ねえ、蒼一さん。あなたが誰のものなのか忘れたわけではないでしょう?」

 

「……」

 

 つまりあれか? 妬いてんのかよ。我が嫁ながらめんどくさい。

 

「あとは、そうですね。アリアさんをこんなところに曾おじいさんと二人暮らしさせるのはどうかと思いまして。まぁ……端的に言って、友情ですよ。付き合おうと思ったんですよ。だから、蒼一さんもこっちに来てください。案外こっちのほうが蜜月かもしれませんよ?」

 

「……ああ、そうかよ」

 

 思わず髪をくしゃくしゃかく。でもきっと女の友情っていうのが本音なのだろう。さすがに照れたのか、軍帽で両目を隠した。

 

「で、答えは? 我が従僕よ」

 

「断るよ、我が主。そんな願いは聞くわけにはいかないな」

 

「なぜですか?」

 

「俺は、お前を取り返して、お前と遙歌とキンジと金一とで家に帰るって決めてるんだよ。そんな簡単なことができないなんて道理は認めない」

 

「そうですか」

 

 俺の明確な反抗に対し、

 

「それでこそ蒼一さんです」

 

 確かに笑っていた。俺も思わず苦笑する。

 

「んで? どうするんだよ。神崎とレキはここにいたい。俺とキンジは連れて帰りたい。まぁ綺麗に割れちまったけどよ」

 

 俺とレキ、キンジと神崎。二組の主従は相反しあい、向かいあう。互いの意見は分かれた。

 ならば、やることは一つしかない。

 

「奪い取る……!」

 

「だな」

 

「そんなこと、できるわけないでしょ……!」  

 

「ええ、私たちに勝てるとでも? 勘違いしてもらっては困ります。いつの時代でも、体を張るのも、強いのも女なんですよ」

 

「そうかよ。だけどな、男には譲れない矜持ってもんがあるんだよ。相手が強くて、自分たちの方が弱くても、負けられない」

 

「させないわよ! やめときなさいよ、あんたたちが怪我するだけよ……!」

 

「うるせぇ見縊るなよ! 男が女に負けるか……!」

 

 俺とレキは静かに。キンジと神崎は激しく。

 互いの視線を交える。そして、ドラグノフ、双剣双銃、一剣一銃、両拳を構え、

 

「瞳は照準、指は引き金、意思を撃鉄――心を弾丸に」

 

「風穴開けてやる!」

 

「風穴開くのはどっちだろうなぁっ!」

 

「落ちこぼれの、男の矜持教えてやるよ!」

 

 

 

 

 

 

 聖堂を中央で区切るように、俺とレキは右側に、キンジと神崎は左に跳ぶ。自分の女の問題は自分で片づけるのが筋ってもんだろう。それはキンジも、そして神崎もレキも同じことを思っていたのだろう。意図せずして完全に分れた。

 

「――『魔弾姫君(スナイプリンセス)』」

 

 レキの呟きと共に引き金が引かれ、ライフルから弾丸は吐き出される。絶対半径以内なら確実に命中するというレキの異常(アブノーマル)、『魔弾姫君(スナイプリンセス)』。つまりここではそれに対して回避は不可能だ。

 だから避けない。

 だから狙うのは回避ではなく迎撃だ。

 魔弾は射線から見て、俺の右肩と左膝だ。肩はともかく、膝に当たるのは拙い。機動力は落ちるし、発動に震脚が必要な蒼の一撃が撃てなくなる。

 基本的にバズーカ直撃しても無傷な自信はあるが、レキの魔弾は例外だ。俺の異能無効はレキと共にある道理を認めないという俺の渇望を元にしているから、レキ本人を否定する事が出来ない。だから、レキの魔弾に関しては相応の対処が必要だ。

 まあ、言ってもやる事は単純だ。

 右肩ねらいの弾丸は当たる前に右手で掴んで、後ろに放る。レキの異常だと変に跳弾したりすることがあるから握りつぶすことも忘れない。左膝への弾丸は、右脚で跳躍してから、踏みつける。思い切り踏みつけたから、弾丸が大理石の埋没する。

 

 今現在、彼我の距離は十メートル少しだ。詰めるのには数秒かかる。

 

「数秒あれば何発撃てると思いますか?」

 

 マズルフラッシュ。言葉の間にも銃弾が放たれる。確かレキのライフルの装弾数は十だったはず。さっきは二発だったから今は八だ。だが、手が霞むような速度でリロードし、さらには跳弾なんかしてくるから気を抜けない。狙われたのは膝や肘、肩などの動きの支点になる部分。当たったら行動不能になる箇所だ。

 

「けど、当たらない」

 

 弾道を予測し、射線を先読みし、全て紙一重で回避する。瑠璃神モードでなくてもこのくらいはできる。

 

「うおおおおお!」

 

「このっ!」

 

 少し離れた隣でキンジが突進しているが、どういうわけか避けずに突っ込んでいる。大丈夫かアイツ。そんなキンジに見かねたのか、神崎も突っ込んっだ。

 相対的に一瞬で聖堂の中央にて激突し、その頃には俺もレキへと辿りついていた。

 

 聖堂の中央でキンジと神崎、奥で俺とレキによる近接拳銃戦だ。

 

 レキに右手を掴みに行く。まさか殴るわけにはいかない。傷つけずに確保しなければならない。

 反抗しているとはいえ、俺の主で俺の女だ。怪我させるなんてもってのほかだが――

 

 

「『魔弾姫君(スナイプリンセス)』――応用編」

 

 

 手にしていたドラグノフ。それにいつの間にか取り付けられていた銃剣がバトンのように手の中で回転し、

 

「んなっ!」

 

 目を掠める。とっさに身を引いていなければ両目が潰れていた。僅かに距離が開き、

 

「シッ――!」

 

「くっ――!」

 

 喉、胸の中央、心臓への連続三連突き。間違いなく急所だ。

 冷静沈着に。冷たく、静かに、鋭く。 

 俺を狙う。

 

「いやいやいやいや! がちじゃねえか!」

 

「がちです。だから言ったでしょう、ホモ祭りしていてうっとうしいです。行動不能にしてつきっきりで看病して全うな道に戻してあげますよ」

 

「元々外れた覚えもねぇよっ!」

 

 叫び返しながらも、右目に刺さりかけた銃剣を払う。続けてその払った手の手首に刃が迫り、手首を返して、指で弾く。

 がち過ぎて軽く引く。

 結構強めに弾いたが、その勢いのまま銃床が俺の顎へと跳ね上がる。それもなんとか顎をそらして回避。

 だが、再び、バトンのように回転し、銃剣と銃床が交互に迫る。 

 いやはや、近接戦闘でも滅法強いな俺の嫁。

 誇らしい。

 

「……なに笑ってるんですか?」

 

「いや、俺の嫁は今日も可愛くて強くて誇らしいなと」

 

「そんな当たり前の事実言っても照れませんし嬉しくないですし恥ずかしくないですし手元が狂ったりしませんですからねええはい」

 

「あ、速度落ちたぞ」

 

 刺突の速度が明らかに落ちた。それを右手の人指し指と中指で挟んで止める。

 二指真剣白羽取り。

 その上で二本の指に力を入れ、折る。

 

「っ……!」

 

 銃剣を折り、同時に一歩踏み出す。距離が詰まり、目と鼻の先まで迫り、

 

「このっ」

 

「おいっ」

 

 レキが抵抗したから、なるべく傷つけたくない俺としてはあんまり力入れてなかったから、変に体勢が崩れる。

 そして、そのまま倒れて、

 

「…………むう」

 

「…………なんだよ」

 

 俺がレキを押し倒す体勢になった。俺が上でレキが下。レキの両手はとりあえず押さえておく。『魔弾姫君(スナイプリンセス)』を指で発動されたら敵わない。

 とりあえず、こんな所でこんな体勢になってしまったのはさすがにどうかと思うので、一瞬キンジと神崎をチラ見。

 

 なんか抱き合ってるから放っておく。

 

「んで、どうしたよレキ」

 

「やっぱり近接戦では敵いませんねぇ」

 

「当り前だろ」

 

 まさか負けるわけにはいかない。女相手だし。

 

「でも、ま。俺の勝ちでいいよな。ここまできたら俺の勝ちだろ。向こうも終わったらしいし、さっさと糞爺倒して帰ろうぜ」

 

「……案外、キンジさんがアリアさんに懐柔されたのかもしれませんよ?」

 

「ねぇよ」

 

 即答する。当然だ、アイツが負けるわけがない。金一から意思を受け継いで、その上でキンジがキンジ自身の意思でここにきて。自分の女を取り戻しに来たのだ。

 負けるわけが無い。

 

「……むう」

 

 即答した俺に眉を寄せて唸る。

 

「だからなんだよ、言っておくけど、道は外れてないからな?」

 

「だとしても、不愉快です」

 

 ばっさり言うレキに思わず苦笑する。

 

「あのなぁ、レキ。俺は自分が誰のものなのか忘れてんかいないぜ? 俺は、お前のものだ。お前の刀で、盾で、男だ。一秒たりとも忘れちゃあいない。つかさ、お前こそ忘れてるかもしれないけどよ」

 

「…………?」

 

 首傾げるレキまじ可愛い。

 そんなこと考えるのも久しぶりだな、とか感慨に更けつつ、

 

 

 

「俺はお前のこと愛してるんだぜ? お前と一緒にこれからずっと生きていきたいし、お前と一緒に死にたい。この世界の、宇宙の、地球の誰よりもお前を愛している。こんなとこまで追っかけて、七年ぶりに再開した妹との埋め合わせするのよりもお前を優先するくらいお前が好きなんだ」

 

 

 

 やっぱり、コイツが。俺にとって一番大切なんだ。

 俺の惚れた女なんだ。 

 

「俺と一緒に家に帰ろうぜ。お前の帰る場所は俺の帰る場所なんだ」

 

 レキは俺の言葉に一瞬呆け、視線を逸らすように首を背ける。

 ぶるぶると体を震わせ、

 

「……ヤバ過ぎです、超絶カッコいいです」

 

「おーい」

 

「私が男だったら、そのあまりのカッコよさのあまり心中してますね」

 

「絶望!」

 

「女でよかったです。貴方に恋できてますから」

 

 言って、レキは力を手から力を抜く。

 

「ええ、分りましたよ蒼一さん。一緒に帰りましょう。私の帰る場所は貴方の帰る場所です。……でも」

 

「なんだよ」

 

「私、寂しかったんですよ。貴方と離れ離れになって。半年前からこんなに離れたことありませんでしたよね」

 

 まあ、確かに。半年前から離れたのは授業とか夜のギリギリ寝るくらい。最近はほんとに四六時中一緒にいた。

 

「だから、凄く寂しかったんですよ」

 

「俺だってそうだよ」

 

「だから、ですね」

 

 力が抜かれていたはずの手が俺の手からすり抜ける。すり抜けて、俺の首に絡まり、ぐいっと引き寄せらた。

 すでに近かったのに本当に鼻先くっつくくらいの距離で、

 

「少しだけ元気わけてください」

 

 なにか答える前に、レキの唇が押しつけられた。

 

「ん……ちゅう、んあ……そう、いちさん」

 

 なんか舌入って来た。なんかすごい甘い声で名前呼ばれた。

 数秒して離れたが、距離は対して変わらない。

 というか、

 

「ん……蒼一さんの匂い……何日ぶりでしょうか……」

 

 大体一日ぶりだろ、と突っ込んでも意味なさそうだ。なんか目トリップして匂い嗅いでるし。

 というか、血の匂いしかないだろう。

 

「なんですか、蒼一さん。誰よりも愛している惚れた女の子にキスされてるんですから狼になったらどうですか?」

 

「時と場所を考えろよ。つーか、そこにキンジと神崎いるだろ」

 

「私は、見られても構いませんよ。むしろどんと来いです」

 

 俺の嫁が変態だった件、大丈夫かコイツ。まぁ向こうは向こうで急がしそうだけどさ。

 

「もう少し……元気くださいよ。…………それとも、嫌ですか」

 

「…………嫌な訳、ないだろうが」

 

 応え、半ば諦めながら、それでも、内心嬉しく思いながらも、レキの唇に自分の唇を重ね、

 

「おかえり、ハニー」

 

「ただいまです、ダーリン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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