落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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第4拳「僕のスキルの数は--一億にまで届く」

「シッーーーー!」

 

 跳躍。その場で一切の予備動作もなく、俺は跳んだ。跳んだ先はシャーロックの頭上のICBM側面。そこをさらに足場として蹴る。そしてそこから、踵を斧刀に見立てた前方三回転踵落としーーーー!

 開戦の一撃としては強力すぎると言ってもいいが、

 

「----『現在不進行(ノーゴーアヘッド)

 

 シャーロックへと叩き込む直前に動きが止まった。空中でワイヤーか何かで宙釣りにされたかのように、空気を俺の回りだけ固められたかのように止められ、シャーロックが腹立つ笑みを浮かべながらステッキを俺に向け、

 

「む」

 

「うおおおおお!!」

 

 ベレッタを連射しながらキンジが突っ込んできた。シャーロックは一瞬、それに眉をひそめるがすぐにステッキを振る事で弾丸を弾く。それと同時に俺は体の自由を取り戻していた。床に着地すると、

 

「蒼一! 合わせろ!」

 

 後ろに跳び退きながら、ベレッタの弾倉を変えながら叫んできた。それの意味を悟り、

 

「おう!」

 

 シャーロックとキンジの中間程度まで俺も跳んだ。

 そして、

 

「シャーロック!」

 

 名前を叫び、引き金を引く。打ち出されたのは黒い弾丸。遠山金一がキンジに託した武偵弾だ。

 

「----!」

 

 発砲の瞬間にシャーロックが流石に顔色を変えた。ステッキは構えたままで、逆の空いた手は脱力する。

 『不可視の銃弾(インヴィジビレ)』だ。

 それと『銃弾逸らし(ビリヤード)』と併用することで武偵弾を逸らすつもりなのであろう。そしてそれはシャーロックならば可能だろう。普通の弾丸でも絶妙なポイントでキンジの武偵弾を逸らすだろう。

 だからこそ、俺がいる。

 シャーロックが発砲の瞬間に動いたように----俺もまた、動いていた。

 右腕を大きく後ろに振りかぶり、左手を前に。振りかぶった右手は軽く広げて両足は大きく広めたまま。

 嵐を巻き起こす動の構え。

 

「蒼の一撃、第六番」

 

 呟いた瞬間に、真横を通り過ぎる。それと同時に全身の筋肉を爆発させながら右手を打ち出す。周囲の大気をまとめて引き連れながら----武偵弾の尻へとぶちまけた。

 

「『天蒼行空』!」

 

「なに……!」

 

 それはシャーロックの『不可視の弾丸』よりも早かった。

 当然だ、もはやその技は見きっている。甲板上での冪乗弾幕戦において、俺が空中で目撃した『不可視の弾丸』は百近い。

 それだけ見れば、いい加減見切れる。もとよりそういうのは得意だ。

 だから、シャーロックの『不可視の弾丸』を見きった上で、それよりも早くキンジの武偵弾を加速させる。

 基本亜音速の弾丸が、『天蒼行空』の風により後押しされたことで超加速を獲得し、

 

「ぬっ……!」

 

 最早迎撃は間に合わず、とっさにステッキを弾道に重ねることで防御したが、

 

 

「----------!」

 

 

 紅蓮の炎華を咲かせ、室内を照らした!

 あまりの熱量に思わず顔を隠す。背後で神崎やレキが小さい悲鳴を上げる。だが、そんなことに構ってる余裕はない。

 確かに武偵弾は強力だった。いつだったか強襲科(アサルト)で見学した対戦車擲弾みたいな威力だった。

 だがしかし。

 だがしかし、言ってみればその程度なのだ。

 前『拳士最強』である握拳裂と喧嘩友達だったとかいうシャーロックがその程度で沈むはずが無いのだ。

 

 そしてその確信の通り、爆煙の中から形容しがたい悪寒が全身を駆け巡る。

 その中からは今まで以上の存在感があり、これまで以上の危機感が感じる。だがなるほど、憶えのある感覚だ。

 金一の『性々働々』の派性系である『騎士戒性(エンドナイト)』。それと同じだ。

 事実、

 

「----『騎士戒性(エンドナイト)』」

 

 そう爆煙から現れたシャーロックは言った。同時に、

 

 

「----『網掛け斬(クロスソードパズル)』」

 

 

「ッッーーーー!」

 

「なっーーーー!」

 

 瞬間、俺とキンジその眼前に斬撃が走った。それもただの斬撃ではなく、網掛けの、格子状の斬撃だ。何の前触れもなく、目の前の数センチにそれは発生し、

 

「ぐっ、うぅ!」

 

 クロスさせた両腕でなんとか顔は隠すがその他のダメージは免れなかった。乾きかけていた血だったが、またも着流しが血に濡れる。キンジもそれは同じだ。

 

「くくく、いいね二人とも。まさか武偵弾を張り手の風圧で加速させるなんて思いもしなかったよ。おもしろいよ。お礼に一つ言っておこう。遙歌くんは千以上のスキルを『業見取《アイキャッチコンタクト》』で見取っていたが、僕も同じように多重能力保有者だ。そして、僕のスキルの数は------一億にまで届く。……さすがに一京とはいかないがね」

 

 苦笑交じりにシャーロックは笑う。

 

「さぁて、どれだけ使わせてくれるかね? ああ、安心したまえ。宴会用のかくし芸みたいな強度の低いスキルは使わない。選びぬいたものを使わせてもらうよ」

 

 ひび割れたステッキを地面に振り下ろす。

 中から出てきたのは眩く輝く、そりの浅い刀だ。使い込まれて直刀に近いそれは所謂スクラマ・サカスという古剣だろう。見た感じ、スキルで創られたものではないが、見るからに名刀だ。

 その刀をシャーロックが抜き、上着を脱ぎ捨て、上半身裸になったのと同時に地面が振動した。シャーロックの筋肉質な古傷だらけの身体も同じように振動していた。

 見れば、シャーロックの背後----巨大な柱のようなICBM、その下部ロケット噴射口から白煙が噴き出し始めている。

 見た感じ、今すぐという感じではないが、不味いだろ。

 だが、背後ではキンジが思い切り笑っている。あいつ、どうにもさっきから好戦的というからしくもなく燃えている。

 まぁ、わからなくもないけど。

 俺だって、幽かな興奮と笑みは抑えきれない。

 

「まぁその昔アイツと英国で初めて出逢った時に暴れていろいろあって女王陛下から借り受けた宝剣だ。アイツは武器は使わなかったから僕のものでね。銘は聞かないほうがいい。この剣に刃向かったとあっては後々、君たちの一族が誹りをうけるおそれがある……まぁ、そんなことを気にするような君たちではないだろうがね」

 

「つか俺の一族、俺と遙歌以外死んじまってるしな」

 

「それに名前なんて興味ねえよ。どうせエクスカリバーとラグナロクだとか、そういうのだろう」

 

 んな、アホな。いくらなんでも単純すぎる。

 だがシャーロックは意外そうに眉をあげ、どうして分かったんだい? とでも言うように、

 

「くくく。すごい推理力だ。君は名探偵の素質がある。僕が保障しよう」

 

「……あんたも適当な男だな。実は」

 

「そーいや、俺の師匠の知り合いがマトモなわけがなかった」

 

 あの人自体頭おかしかったし。

 こうして会話している内にもICBMの下部の炎は明るさを増していく。

 

「もう、それほど時間がない。ひとまず一分で終わらせよう」

 

 足元に流れる白煙を踏み越えながら、シャーロックが歩いてくる。

 

「上等」

 

「こっちだってそっちもそのつもりだ」 

 

 言きり俺は走りだす。最初と同じように予備動作は無しだ。流れ出す血は全身で力むことで一時的に止血させた。背後でキンジが走りながら弾がなくなったベレッタを棄てて、バタフライナイフに持ち替える。

 そのキンジを背後に隠すように疾走して拳を撃ち込む。

 

「フッーー!」

 

「オオッ!」

 

 拳と刀が激突し、甲高い音が室内に響く。衝撃波が周囲の煙を吹き飛ばし、逆の拳を握りしめ、次の一撃を用意しシャーロックへと射出し、

 

「----『三つ巴投げ(トライアングルアングル)

 

「----!」

 

 瞬間、俺たちの位置が入れ替わった! 

 拳を射出した俺は先ほどまでシャーロックがいた位置に、拳を撃弾かれた姿勢で。

 背後でナイフを構えていたキンジは先ほどまで俺がいた位置に、ナイフを射出しようとする姿勢で。

 刀を弾かれたシャーロックは先ほどまでキンジがいた位置に、刀を構えた姿勢で。

 俺たち三人の位置が入れ替わる!

 

「そうっ……!」

 

 先ほどの俺と同じようにナイフを突きこんだ姿勢、それはとっさには止められず、

 

「ぐっ……!」

 

 俺の脇腹へと指し込まれた! とっさに身を捻り、キンジもできる限り逸らそうとしたのか致命傷ではない。

 

「蒼一っ!」

 

「蒼一さんっ!」

 

 キンジや神崎、レキの叫びが聞こえる。

 おいおい、見縊んなよ。これくらい平気だっていうの。それをアピールするためにも笑おうとし、

 

「キンジ、後ろだっ!」

 

「っ!」

 

「遅いね」

 

 俺の声に反応し、とっさに背後へとナイフを掲げるがシャーロックの言う通り遅かった。ギリギリスクラマ・サカスに刃を合わせたが、それだけだ。防御しきれず、ナイフごと押し込まれながら右肩ごと切り裂かれ、俺も巻き込んでぶっ飛ぶ。

 というか、

 

「熱っ! 熱っ! 熱いし痛い! とっととどけそして向こう行け!」

 

「うっせぇ!」

 

 ICBMの炎の真下に転がり込んだから、熱いし痛い。一目もはばからず、格好も気にせずに転がって退避した。服が燃えてないのが軽く奇跡だ。

 

「熱かったかね? ではお詫びこれを」

 

 シャーロックの愉快そうな声。同時に周囲の気温が一気に下がった。吐く息が白くなり、血で濡れた着流しが所々凍っていく。

 

「----『氷煩い(アイ・スクリーム)

 

 頭上に馬鹿デカイ氷の塊が出現した。それも、ただ出現しただけではなくて、俺たちへと落ちてくる。

 

「それは拙いなぁ」

 

「言ってる場合か! 合わせろ蒼一!」

 

 大体十メートルくらいの巨大な氷塊だ。こんなものに回避したら背後のICBMにどんな影響が出るかわかったものじゃない。

 だから、破壊する。

 俺は右腕を、キンジは左腕を引き絞り、落ちてきた瞬間に、

 

「うおおおお!」

 

 右拳と左拳を同時に叩き込む! 

 静かに研ぎ澄まされた拳と派手に燃え上がるような拳。二つの拳は氷塊に直撃し、

 

「!!」

 

 馬鹿デカイ音を立てて微塵に砕けた。心の中で小さく喝采をあげるが、すぐにシャーロックの姿を探した。即席のダイヤモンドダストで視界は滅法悪い。ともかくキンジと背中を合わせ警戒する。下手動くよりも固まって防御だ。

 どうせ、すぐ来るだろう。

 

「----『剣山嵐(エッジクライミング)』 

 

 来た。

 足元に、だ。

 俺たちを取り囲むように床に小さな亀裂が入り、そこから飛び出してきたのは大量の剣だ。大きさは様々だが、一様に鋭い両刃剣だった。完全に周囲を囲まれていたから逃げ場は一つ。

 上だ。

 跳んだ。

 二、三メートルは跳躍し、空中で互いを突き飛ばして剣山から逃れ出る。

 キンジとの距離は空いたが、ダイヤモンドダストによる目隠しはすで消えていた。その上で床に転がり落ち、姿勢を立て直しながらも周囲を見れば、

 

「く、シャーロック!」

 

「スキル使ってるだけとは思わないでほしい」

 

「キンジ!」

 

 スクラマ・サカスとナイフでシャーロックとキンジがつばぜり合いをしていた。火花を散らしているが明らかにキンジのほうが劣勢だ。そこそこ肩の傷が響いてきてるのだろう、あれは援護しないとまずそうだ。

 思い足を踏み出し、

 

「----『火雷針(サンダーハード)』 『雨水鉄砲(ウォーターガン)』」

 

 同時に発動したのは二つのスキルだった。キンジとの鍔競り合いで生じた火花が大きくなり、雷となってキンジに落ち、シャーロックの背後に突然出現した小さな水球からあまりにも早すぎる水の弾丸が射出され、俺の身体中を撃ち抜いた!

 

「があああああ!?」

 

「なあ……っ!」

 

 水弾に撃ち抜かれた箇所に一つに足の甲があり、無様にも転がった。最早痛みがどうこう言わないが、踏み出しかけた足の甲を撃ち抜かれては行動に支障がでる。

 キンジは落雷による感電により、一瞬だが完全に体から力が抜けた。それは確かに一瞬であり次の瞬間には気合いで持ち直した。だが、その一瞬を見逃すシャーロックではなかった。

 

「フッ!」

 

「ガッァ!」

 

 開いていた逆の腕で、キンジへと拳を叩き込む。確か、シャーロック・ホームズはボクシングの達人だったらしいが、それは嘘ではないようで見事なまでのストレートをキンジの鳩尾へとぶち込んだ。かなりの威力で背後の壁に叩きつけられ、血の塊を吐いた。

 そこでなんとか俺が立ち上がる。以前激痛はあるがやはり気にしていられない。なんとか意識を逸らそうと、今度こそと走り出すが、

 

「----『勝って甲の角を折る(アフターウィニング)』」

 

 そんな言葉と共に放たれた刺突。追撃の一閃。当然といえば当然のソレに思わず背筋が凍る。

 直感で。あくまでも根拠のない勘だが、明確に感じた。

 あれは、避けられない。 

 回避とかが出来るものではない、そういうスキルだろう。狙いはキンジの左胸だ

 心臓狙い、絶対不可避の追撃ーーーー!

 それは俺だけでなく、後ろの神崎も感じて、

 

「キンジィーーッ!」

 

「----っ、あああああああ!!」

 

 その悲痛な声を受け、キンジが咆える。そして、ガスンッ! という大きな音が響き、防弾防刃使用の着流し『桜傾奇』が切り裂かれ----

 

「な、に……」

 

 それだけで、キンジはギリギリ避けていた。確かに『桜傾奇』は紙きれのように切り裂かれていたが、刃自体は背後の壁に深く突き刺さっている。とっさに体を動かして左の脇に通したのだ。

 さすがのシャーロックも目を丸くしている。

 元より、フェンシングの達人でもあり、さらには瀕死状態による全能力超強化の『騎士戒性(エンドナイト)』と不可避追撃の『勝って甲の角を折る(アフターウィニング)』によって補正されたシャーロックの刺突を回避したのだ。

 

「う、おおおお!」

 

 驚き、動きの止まったシャーロックにキンジがナイフを突き出す。

 

「っ!」

 

 だがそれはシャーロックによる二指真剣白羽取りによって止められた。

 だが、

 

「だから、忘れるなよ!」

 

 真後ろにまで迫っていた俺が拳を叩き込む。この配置だとキンジも巻き込むだろうが、構わない。

 確実に決まるタイミングだったが、

 

「----『怪盗覧目(ドロップウィンク)』」

 

「!?」

 

 その呟きを聞いた瞬間に、自分が今どこでなにをしているのかがわからなくなった。

 五感は生きている。目は見えるし、音は聞こえるし、痛みもある。口の中の血の味は相変わらずしているし、血の味も同じだ。

 だが、それだけ。五感はあるのに自分という存在の自覚が消えた。

 つまり、固有感覚の消失。動くに動けない。

 ヤバい!、と思わず心の中で叫んだ。こんなのモロに的だ。

 だが、以外にも一瞬でそれは解け、

 

 

 

  ----おお 我が子よ 恐れることはない!

 

 

 

 固有感覚を取り戻したのと同時に室内に流れる『魔笛』の旋律が変わる。

 独唱曲(アリア)

 超絶技巧と呼ばれる顫動音を贅沢に使った、華麗なソプラノ・パートだ。そしてそれと同時に、いつの間にか距離を開けていたシャーロックがキンジの緋色のサバイバルナイフを右手の中で遊ばせ、逆の左にはスクラマ・サカスを持ち、

 

「先に謝っておく。すまないね」

 

「----?」

 

 何故かいきなり謝って、

 

「----『魔弾姫君(スナイプリンセス)

 

 右の手で緋のサバイバルナイフが神崎へ、左の手のスクラマ・サカスをレキへと投擲したーーーーー!

 

「なぁっーーーー!」

 

 魔弾の姫君、レキの異常(アブノーマル)、『魔弾姫君(スナイププリンセス)』。

 絶対半径内の対象に必ず命中するというスキルであり、それは銃火器だけでなく、刺突や通常の投擲にも作用する。

 故に。その刃の飛翔は止めることは出来ない。

 超高速でそれはそれぞれ神崎とレキへと飛び、

 

 

 

 

「--------」

 

 

 

 二つの鮮血が、宙を舞った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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