落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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吐糖注意報発令!


第2拳「超絶幸せだぜ?」

 恐るべき女子力を発揮してくれたレキだったが、見かねた店員さんがちゃんとした服を見繕ってくれた。白のノースリーブのワンピースをメインに下着やら靴まで用意してくれて結構な金額になったが実に眼福だった。それに喫茶店のほうでの謎の動物寄せスキルを発揮して、猫集めのイベントで優勝してくれたのでそこそこの値段で買うことができた。まぁそれでもかなり手痛い出費だったがそこは男の甲斐性である。

 新しい服に着替え制服は紙袋で運ぶ、勿論俺持ちで。

 そうして街を歩きながら話すことは、

 

「張遼、ですか。そんな方が」

 

「あぁ。ココに、それにあともう二人いるらしいな。今頃京都観光らしいから、今すぐに危険てわけじゃないだろうけど、どこかで襲撃してくるらしいぜ」

 

「……せっかくの修学旅行を」

 

 まったくもって同感だ。キンジのほうに行ってみればいいと思うがあいつはあいつでココに目をつけられているようなのでご愁傷様だ。

 とりあえずキンジたちに電話。

 

『はい、もしもし蒼一?』

 

 なぜかアリアが出た。

 

「なんでお前が出てるんだよ」

 

『キンジは今試乗中なのよ。だから携帯は私が預かってたの』

 

「試乗中……? なんだウェディングカーでも乗ってんのか、てめぇで空き缶カラカラ鳴らすっていうのもあるんだなぁ」

 

『そ、そそ、そ、そんなわけないでしょ!』

 

 耳が痛い。どうせ顔を真っ赤にして叫んでいるのだろうが生憎携帯で通信しているから少し耳から外せばうるさくない。

 レキに変わる? とジェスチャーしたが拒否られたので仕方なく自分に耳に当てる。

 

「んで? お前さんたちはお袋さんの裁判関係で残ったんじゃなかったか?」

 

『それはもう終わってるわよ。今は呉。武藤と理子もいるわ』

 

 呉、というと広島か。

 

「なんだってそんなとこに」

 

『……教えない』

 

「おい」

 

 この女。最近キンジにはやたら素直なくせにそれ以外は変わっていない。お前影でこっそり白雪と模擬戦とかいってこっちが引くくらいのレベルでつぶし合いしてるって知ってるんだぞ。

 

『説明しにくいのよ。多分夜か明日の朝くらいまでにはそっちに行くだろうからその時に話すわ。私だけじゃ説明しきれないし』

 

「そーかい、んじゃあいいや。それよかこっちの説明は聞いてくれ」

 

 張遼に関する話をざっくりと話す。

 

『……修学旅行中って言ったのね?』

 

「ああ」

 

『そう。まだ初日……あと二日ね。いえ、三日目は自由で帰ってもよかったわね。どうするつもり?』

 

「愚問だぜ」

 

 ものすごい長い溜息が聞こえた。となりでレキも呆れたような半目で見てくる。なんだ一体。こういう時どうするかなんて言うまでもないだろう。

 

『どうせ真っ向から迎え撃つ、でしょう? 聞かなくてもわかるわ。どうせキンジもそうするだろうし』

 

 電話越しで苦笑するようにアリアは言う。

 

『今日の夜にはそっちに行くわ。ココたちが来たら連絡よこしなさい』

 

 電話が切れた。しまう前に時計を確認する。昼過ぎでまだ予約していた旅館に行くのは早い。なので、

 

「……回ってない寺とか行くか」

 

「えぇ」

 

「わふ」

 

 

 

 

 

 

 この修学旅行は泊まる場所さえも自分たちで決めなければならない。武偵憲章に自立しろみたいなことが書いてあるから、その精神に従っているのだ。だから各自バラバラに取っていて、俺たちは京都の東北、比叡山近くの民宿を予約しておいた。

 正直久しぶりの二人きりなのであまり邪魔されたくないと思って選んだ場所だが、曹操たちの襲撃がいつあるか解らないのだからこういった周囲に建物がないというのはありがたい。

 あと現実的な問題としてペットオーケーなのが数が少なかったし。

 あたり一連森だらけに囲まれたレトロな感じの民宿『はちのこ』。何気に俺好み。というか京都の街自体が結構好きだ。無性に和風っぽいのが好きなのである。レキも嫌いではない。

 

「おいでやすぅ」

 

 足を踏み入れて迎えてくれたのは結構若い女将さんだった。しかし本物の京都弁。たまにテレビやゲームで見たり聞いたりするが、直に聞くのはいつ振りだろうか。修行時代に京都へ来たこともあるが正直記憶は薄い。

 

「ネットで予約しておいた那須です」

 

「はいはい、那須さん……んーっとそちらのはカノジョさん?」

 

「妻です」

 

 即答だった。

 

「あらあら……ええどすなぁ。そういうことならせっかくやで他の客もおらんさかいに、ええお部屋を使ってくださいなぁ。ええどすなー沙織当てられてしまいますわぁー、うふふ」

 

 えらいくねくねと動く女将さんだったが、気づいたら旅館で一番いい部屋に泊まることになっていた。なんというか周囲にハートマークを振り乱しながらくねくねし続ける女将さんに案内された部屋は言葉通りにいい部屋だった。

 『西陣の間』と名付けられたそこはその名の通り西陣織の反物が壁から垂れ下がっていたり、やたら高価そうな壺やらが置いてある。

 びっくりするくらいいい部屋だ。あとでキンジに自慢してやろう。

 そしてそんな部屋に案内されて、

 

「……むぅ」

 

「レキ?」

 

 なにやらレキは不機嫌そうだった。

 

「どうした? なにか不満でもあんのか、すっげぇいい部屋だけど……」

 

「あります」

 

 これまた即答。

 彼女はわずかにむくれたように、しかしレキとしてはほぼ最上級の不機嫌の無表情でそっぽを向いて、

 

「せっかく蒼一さんとの初めての旅行だったのに。いつ来るかも解らない襲撃を警戒しなければならないなんて非常に不満です」

 

 なんてことを言う。

 

「……」

 

「……」

 

 沈黙が下りる。思わず黙ってしまって、レキが拗ねたのだ。

 そう、彼女は拗ねてる。

 なぜか。 

 襲撃の可能性があるから初めての旅行が台無しになったから。

 なぜなら。

 それほど彼女は今回の旅行を楽しみにしていたということで――

 

「っ」

 

 思わず赤面する。アリアでもあるまいと思いながらも顔に集まる。よく見ればそっぽを向いた彼女の横顔もほんのり赤い。レキもレキで自分が発した言葉に照れがあるのだろう。

 いやもう恥ずかしい。

 最近完全電波属性だったくせにこれは不意打ちだ。

 改めて思う。

 

「……あぁもう可愛いなぁ」

 

 全くいい女だ。普段電波で頭おかしいのに大事なところでは絶対にはずさない殺し文句を放ってくる。いつだったか俺が普通に殺し文句を放ってくると言ってお互い様だとか思ったがやっぱりそうだ。レキもレキでどうしようもないくらいの殺し文句を言ってくる。

 困ったことに、それらは全部俺の心に突き刺さる。

 

「なぁ、レキ」

 

「……なんでしょうか」

 

「えい」

 

 後ろから抱きしめる。ワンピースと制服のシャツ越しに伝わる熱は普段よりも高いのだろうか。

 どうだろう。

 俺自身も熱を持っているので判断に困る。

 

「……それくらいじゃ誤魔化されませんよ」

 

「誤魔化さねぇよ」

 

 苦笑して、

 

「俺は別に、連中が何時襲ってくるか解んねぇっていうのじゃあそれほど不満にならないぁ」

 

 レキの身体が小さく跳ねて、

 

「――だって俺はお前と一緒にいるだけで、超絶幸せだぜ?」

 

 力が抜けていった。

 

「解ってるだろ、俺の生きる意味も戦う理由もお前なんだ。だから俺はレキと一緒にいられればそれでいい。そりゃあ初めての遠出が台無しなのは俺も業腹だけど……それでもレキがいるってだけでそんなの気にならねぇさ」

 

 正直色々言いたいことあるけど、男がうだうだ言うのはみっともないのでしない。

 それに今言ったことは本当だ。嘘偽りない。彼女の温もりを感じていられるというそれだけで俺は十分なんだから。

 

「まぁ最近レキに構わずに馬鹿やってること多かったし、遙歌のこととかいろいろあったからあんま二人きりでいれなかったけど。だからこそ……今こうしてるだけでも俺はすげー幸せだぜ」

 

「……もう」

 

 レキが小さく息を吐く。やれやれというような嘆息で、

 

「相変わらず反則ですね蒼一さんは」

 

 完全に脱力してこちらに体重を預けてくる。コテン、と傾いたレキの横顔がすぐ隣に。

 

「ここで拗ね続けていたら、凄い嫌な女じゃないですか私」

 

「いやぁ、拗ね続けてたら拗ね続けてもそれはそれで可愛いいぜ」

 

「それはどうも」

 

 互いに笑って、

 

「では、来るべき戦に向けて盛大にいちゃいちゃしますかダーリン」

 

「喜んでハニー」

 

 

 

 

 

 運ばれてきた夕食は絶品だった。いわゆる京料理というのなのだろうが驚いた。これで値段は予約しておいた時と変わっていないのだから素直にありがたい。結構健啖家なレキはものすごいスピードで箸を動かしていた。

 その後に入った風呂に関しては――諸事情の為に省かせてもらう。 

 まとも描写していては大変なことになるので割愛。

 うん、別に、特に、何も、なかったのだ。

 ともあれ――夜だ。

 夜と言えば寝る時間だ。 

 何も言っていないのに布団が一枚で枕が並んでいたのはまぁいい。一緒に寝るくらいなら今更。

 

「……」

 

「……」

 

 会話は特にない。ぼんやりと窓を開けてテレビを見ているがその音くらい。レキの無口っぷりは今に始まったことではなく――最近はアレだが――、俺自身もずっと喋るのが好きというわけでもない。

 だから部屋には沈黙があって、でもそれは悪い物じゃなかった。

 ただ体を寄せ合って、体温や呼吸の音を聞いているだけで、それだけで俺たちはよかったのだ。別にそれ以上のことをしたくないなんてのは嘘になるし正直したいけれど、それでも今はこれでいいかなと思う。

 ただ隣にいるだけでいい、なんて今時少女漫画やライトノベルですら見ないような考えだけど俺はそう思えるのだ。

 

 そしてゆっくりと時は流れ――

 

 

 

 

 

 

「リア充撲滅するネ」

 

「王よそんな俗語はおやめ下さい。あと、その頭の悪そうな日本語も」

 

「様式美ネ文遠――さて妙才(・・)、あの腹立つバカップルに一矢くれてやるね」

 

「御意、我が王よ」

 

 




京都編、結構改変します

エクストラは三回戦入りましたー

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