落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
張遼こと霞は自分はこの大陸でも、武威においてはかなり上位の武将であると思っている。
それは単なる思い込みではなくて、この官軍において正面から自分と張り合えるだけの戦闘能力を持つのは華雄だけしかおらず、手数や速さに於いては自らが上回っているという自負がある。
そしてそれはこの大陸でも同じだ。
群雄割拠、大陸各地で有力な武将が台頭していく中では当然極まった武を誇る将は生まれてくる。最近の義勇軍の関羽。曹操のところの夏候惇。南の呉の孫策。他にも趙子龍や呉の宿将黄蓋と言った強者たち。
そういった武人と戦えば一方的な勝利ができるとは言えないが、それでもいい勝負ができる自身はある。その程度には自らの武威に誇りを持っていた。
だがしかし――、
「っおおおおお!」
「わははははは!」
自称百姓などと名乗る那須という男とその妻という呂布には手も足も出なかった。
「ハァッ!」
偃月刀を振るう。絵の近くを短く持ち素早く、斬撃の数を重ねるように振るう。刃に乗せられる威力は下がるがそれは速度と体の動きでカバーして威力を高める。殺傷力という面に関して文句なしで、並の兵ならば一瞬でバラバラになっていた。
数にして八の斬撃を放ち、
「おっとと」
二刀の手刀にて全てが捌かれる。手刀だ。なんの武器も防具もない掛け値なしの素手でしかない。にもかかわらず放った斬撃は全てその掛け値なしの手刀で対処されてしまう。
柄を長く持ち直し、威力を高めたものも今度は足刀にて迎撃される。
「……んがぁー! やめや、やめ! うちの負けでええ!」
「お、そうかい。おつかれさん」
気の抜けた声を聴きながら中庭の大地に倒れる。動きを止めたことによって戦闘中には感じていなかった疲労や身体中の痛みが戻ってくる。羽織にさらし、袴という極めて軽装には細かい切り傷や青あざがある。どれもが那須の攻撃を喰らった物。ふと視線をずらせば、
「ぬぐ……」
自分と同じように大地に突っ伏した華雄。いつも無駄に元気な彼女が精根尽き果ててぶっ倒れている。
「おつかれー恋」
「……うん、おつかれ」
そして件の百姓夫婦は涼しい顔で手の平を打ち合わせていた。見る限り呂布は無傷で自分は那須に掠った斬撃を入れることすらできなかった。
なんというか、理不尽。
霞と那須や呂布が出会って二週間を程経っていた。あの時は不覚にも月を誘拐されて、下手人のほとんどは即ひっ捕らえたが月を捕まえた主犯だけは都の外に取り逃がし、二日も掛けて追いかけた先の森の外で追いついてこの二人と遭遇した。
一見して強い武人だと気づいたので、是非と漢帝国の士官を依頼したのだが
『官軍に入らんか!?』
『え、無理』
即答で断られた。
それでもこの乱世に腕の立つ武人というのは必要不可欠なので一週間近く粘り続けて七日に三日という間隔で限定士官ということに相成った。
なんだそのお手軽武将は。
二週間前も那須が呂布のお菓子を間違えて食べたとかそんな理由で喧嘩していたらしい。正直味方としてどうなのかとも思うが、強いことには変わりない。別に人格に問題があるわけでもないし、裏切りとかの心配はないと思ってもいいだろう。
たぶん。
だといいなぁ。
出会って二週間の間柄なのだからまだ解らない。まだ互いに真名を預け合っているわけではないのだから。
真名。
この世界では最も重視される文字通りに人々の本来の名前だ。これはすなわち魂であり、それを預けるということは自分のすべてを預けるということに等しいのだ。極々近しい存在。霞で言えば自らの主君である董卓こと月、軍師のカ駆。華雄に関しては色々事情があって真名を交換できないらしいが、それと同等には信じている。
そういう意味ではこの二人のことを信じきれないというかもしれないが、
「ホラ、張遼。水」
「……おおきに」
屈託なく笑い、竹筒を手渡してくる姿を見れば考えすぎかなとも思う。そういう面倒なことは詠に任せればいいし。大体自分は武将だから小難しいことは軍師に任せればいいのだ、などと今現在執務室で職務中の彼女が聞けば激怒しそうなことを言う。
「よし解決っと」
「なにがだ?」
「なんでもないでぇ」
「そうかい」
「
「お」
「……ん」
中庭の外から声があった。幼子特有の高い声で間隔の短い足音で現れたのは赤い髪の褐色の女の子。五歳にもなっていないであろう幼い子だ。
その子はヨタヨタ、というかわいらしい効果音を出しながら近づいてきて、那須の足元に抱き付いた。
「おぉ、どうした
「ん、ごはん」
「おぉ、そうかそうか。そうだなぁ、ようしどっか食いに行くかぁ」
「……恋もお腹減った」
「だな。おーい張遼、華雄。お前らも一緒に行かねーか?」
「あ、うん。行くわ。ほら華雄起きぃ」
「ぬ。ぬ……誰だあの幼女は」
「何言ってんだよ、うちの娘だよ」
●
霞の目の前で呂布の膝に座ってまんじゅうを口いっぱいに頬張っている幼女はこの二人の娘らしい。
なにやらものすごーく、非常に、これ以上ないってくらいに突っ込みたい気がするのだが、別に驚くことでもないだろう。十五か十六にもなれば成人扱いなのは普通だし、自称百姓であるのだからそれくらいの頃に結婚して子供を産んでいるのは珍しいことでもない。自分は武将となって武芸に明け暮れているが、同年代の同性が家庭を持っているという話はよく聞く。
しかし――どうしてこうも自分の突っ込み属性が疼くのだろう。
「ほら、愛。うまいか?」
「ん」
「そりゃあよかった。しっかしこの麻婆豆腐は美味いなぁ辛いし辛いし辛いし!」
「……それは、蒼一くらいしか食べない。愛に食べさせたら、だめ」
三人の姿は実に違和感がない。愛という幼女が今年で三歳というには言葉使いもはっきりしているが、まぁ珍しいことでもない。常に飄々としている那須がやたらにニヤけていたり、無表情な呂布の口端が自分にも解るほど緩んでいたり、幼い子供が母の上で口の周りを汚しながらも懸命にご飯を食べるというのは微笑ましいことこの上ない。
隣の猪も珍しく穏やかに微笑んでいるし。
まぁ深く考えると危険な気がするのでやめておく。具体的には脳内に緑髪の少女が変な姿勢で決めながら飛び蹴りをしているような光景が見えたり見えなかったりするが今は置いておく。
なにやら脳内警戒音が大変なことになっているので、
「それにして二人とも強いなぁ。ウチも華雄も手も足も出ぇへん。興味本位で聞くけど、二人が戦ったらどっちが強いん?」
「ほう、それは興味あるな」
あれだけ無双していた二人だ。一人の武人として気になることを聞いてみれば、
「ふっ。俺だ」
「……」
と那須がどやぁという顔で応え、呂布がわずか眉を潜めた。
「三、四年前だったかなー? 愛が生まれるちょい前というかその直後に妊娠してるの知ったんだけど、結婚する時な、どっちが嫁入りするか婿入りするかで盛大に戦ってよぉ。三日三晩ぶっ続けで、森とか川とか堤防とか決壊して地形変えてまでさ。それで、勝ったのが俺ってわけ。めでたく恋は俺の嫁になって、愛が生まれたってわけさ」
「……恋が勝ちたかったのに」
「いやぁ男の子としては負けらないからなぁ」
「ふぅん」
男の子。このご時世では珍しい価値観だ。今の世では一兵卒は男が多いにしても上位の武将や軍師、王というのは女性のほうが圧倒的に多い。女尊男卑というほどではないにしろ、女性の方が歴史の表舞台に立っているのは言うまでもないだろう。
「あーそれな。俺はそれ苦言を呈したい。寧ろそのためにこのお手軽武将になったと言っても過言ではないな」
「過言でないんか。あとお手軽武将とかやめい」
「どうにも玉無しばっかなんだよなぁ、今の野郎共は。いや、頑張っているのもいるけどな? この前みたいなあっさり盗賊になる奴もいるし、地方で腐っているのは大体親父だし。あれだよ、女の影で荒事解説しているやつとか死んでいいわマジで」
「まぁ確かにそんな男はアカンなぁ」
「だろ? だから、アンタらとこ加われば少しは骨のあるやついるんじゃないかなーと思ったんだよ」
なるほど。
この自称百姓たちがなぜ客将として加わってくれたのは疑問だったがそういうことがあったのか。確かに自分も女として、後ろでちょろちょろしているだけの男は願い下げだ。そういう意味ではこの男と相対するようなのにいい男がいるかもしれない。
「おとーさん、けんかはめっ」
「ですよねー! 大丈夫だぞぉ、お父さん喧嘩なんてしねぇから。ちょーっと肉体言語で語り合うだけだから! 愛もそのうち覚えろよ? お前将来絶対お母さんに似て超絶美少女になるんだから這い寄る糞塵はなるべく俺が滅尽滅相するけど自分でも自分の身を護れるようにならなきゃな!」
「……気がはやい」
……大丈夫だろうか。ホントに。いやほんとに。
脳裏で緑髪の少女が飛び蹴りの後にグッと拳を握ったらなんか爆発した気がしたけど。
拳裂戦の分岐で絶命して暦鏡で恋姫世界に転生。両親とはすぐに死に別れて、恋と一緒に成長。恋しちゃったり、恋されちゃったり、前世との葛藤とかいろいろあって多分本編三十話相当に匹敵するだけの大恋愛の先に(できちゃった)結婚という。
ちなみにこの世界線の一刀は当然魔改造。
番外編意味あんのかコラァとか言われると困るのですが、一応本編やエクストラ編のインフレ強化フラグだったり。
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