〜Elysion〜 作:楽園
日曜日の夕陽の射し込む部屋は、静かで、言いようのない切ない気持ちになる。私は何も考えずにただひたすらに窓のから見える外の景色を眺めていた。ソファに座る私の膝の上には、頭を乗せてスヤスヤと寝息をたてている彼の姿があった。
その寝顔は、とてもきれいで。
その寝顔は、とても愛おしくて。
その寝顔は、とても優しくて。
その寝顔は、とても辛かった。
愛しい彼の頬にそっと触れてみる。
「好き」
ずっと想っていた気持ち。ずっと想い続けてきた気持ち。
そんな言葉を投げ掛けても、彼は起きる気配がない。
「好きだよ」
起きない彼の寝顔を見ては、ふと思う。
このまま目覚めることなく、ずっとずぅっと私の側にいればいいのにと。そして、そんな事は叶うはずないんだってことは自分だって分かっているのに、求めちゃうのはやっぱりまだ彼の事が好き証拠だった。
「好き……」
「じゃあ、どうして彩は泣いてるんだ?」
そう言って彼は起き上がった。まさか起きてるとは思っていなくて思わず私は驚いてしまった。
「……起きてたの?」
聞けば、彼は困ったように笑う。その笑顔ですらたまらなく愛おしくてたまらなく苦しかった。
「起きたんだよ、顔に水が落ちてきたから」
「……ごめんなさい」
ただ、彼に謝ることしかできなくて……そんな私の姿を見て彼は再度、静かに言葉を紡ぐ。
「どうして泣いてるの?」
そう落ち着いた声で問い掛けてくる彼に、やっぱり涙はとまらなくて、とめられなくて。そんな私を見つめる彼の手が、そっと私の頬に伸びてくる。
「やめてよ……」
そんな私の言葉に彼は少しだけ驚いたようにして、それから優しく目を細めて微笑む。そして、そのまま彼の手は私の頬に触れた。
「……泣かしてるのは、俺か」
温かい彼の掌の体温に混じる、冷たいもの。私はそれがいつも嫌だった。
どうしようもなく泣きたくなった。今までずっと私は努力で手に入れてきた。それしか取り柄がないから。それでも、努力しても手に入れる事ができなかった。だから私は諦めた。無様でも何でもいいから、彼の側にいたかった。
《それでもいいから》
と手を伸ばしたのは、私。一番は私の親友で……千聖ちゃんでいいからと。二番目でもいいからと言ったのは、私。
《やめて……》
と耐えきれず手を振り払ったのも、私。自分から求めておいて拒絶したのも、私。
「……もう、おわりにしようか」
そんな彼の言葉に、私は静かに頷いた。これで良かったんだ。
これ以上この関係を続けてしまえば、私が私でいられなくなる。大好きな彼も親友の千聖ちゃんも苦しめる事にもなる。あなたと私が一緒にいる事であなたが苦しい思いをするのなら、いっそのこと私がいなくなればいいんだ。
「さよなら……」
握った彼の左手の薬指には、嫌に輝いて見える綺麗な指輪がある。傷だらけになってまで進んだ棘の道の先にあったのは、ほんの刹那の幸せと耐えることのできない傷みだった。